待たせたな!
陳留 酒屋
「いや……テイホウ……! おま、おまっ……ふ……ふふふ……! おはんっ! 天狗やないかい!?」
陳留に戻った俺と甘寧は、怜華と丁奉が説得に成功して連れてきた弟のテイホウを見て、同時に吹いた。笑ってゴメンテイホウ。ゴメン朱桓、唾飛ばしちゃって。
でも笑わずにはいられなかった。何たって目の前にいる三国志の武将が、日本昔話に登場しても可笑しくはない、寧ろ登場しただろと言っても過言ではない程のマジ天狗だったから。
「…………ホントごめんなさい。初対面で笑ってしまいました」
「いや、お気遣いなく。下手に気を遣われるより笑われた方がまだマシっすから」
冷静を取り戻し、無礼が過ぎるリアクションを見せた事を謝れば、もの凄い野太い声で返事が戻ってくる。天狗ってこんな声なんだと、純粋に思った。
「……えっと、それと結構遅くなってごめん。色々とゴタゴタしてて、待ってくれるって話に甘えてしまって……。それで……何で天狗なん?」
「そのテングと言う存在が未だに分かりませんが、軍師殿から聞けば東の海を越えた先にある倭国の神獣の様なものだと……」
「うん。まぁそんな感じ。まさか絵本でしか見たことのない存在が、こんなにもそっくりな外見で目の前に現れるとは思わなかったけど……何で天狗なん?」
「さぁ? 朝起きて飯店に行こうとしたらこんな成りになってまして……仕方なく宿屋に込もってたら兄の方が先に勧誘されて今に至る訳っす」
成る程、俺と怜華が盧江の飯店で武将スカウトに当たった時、兄が居て弟のテイホウが居ないのは何故かと思ったが、そういう事情があった訳か。
「前々から自分、鼻が長いなぁーとは思ってました。でもこれは……どう思います? もう、これ以上ないってぐらい人外じゃないすか?」
「おっ……おぅ。先に言われてまったけどまぁ……人外や。これ以上ないって言うか、そんなんテイホウしか居らんっていうぐらいに超越しとるな」
(……関西弁使うなんて……秋渓が目に見えて動揺してる証じゃん。流石の秋渓でも本物そっくり……本物の天狗はビビるよね。私も丁奉殿と一緒だったけど驚いたもん)
確かにテイホウは赤ら顔と天狗っ鼻が特徴的な顔グラフィックだった気もするけどやね、もうこんなん絶対に嫌がらせの領域やん。絶対にあの許劭もどきの遊びやんけ。
「それと、これ聞いてください。自分先月、ソンケン軍の勧誘受けたんすよ」
「おっ……おぅ、ありがとう。断ってくれたんだよな」
「いや、それが会った瞬間に向こうから断ってきまして……「アカン、こいつ天狗やん。武将ちゃうやんけ」って言われて一方的に振られましたわ」
「ブフッ!? ちょ、ちょい! 誰なんそれ!? めっちゃ失礼やんけ!」
「ショカツキン殿です」
「驢馬が何言ってんだよ! 驢馬がよーーっ!!」
ショカツキンとは、栄えある諸葛一族の一人にして、リュウビ軍の軍師を務めるショカツリョウの実兄。「才略は弟に及ばずとも、徳行は最純なり」と評されていた。
彼は孫呉に仕えていたが、弟のショカツリョウがリュウビ軍の重鎮である為に、周囲の者から裏切るのではないかと危惧されていた。それでもソンケンは彼を厚く信頼し続け、「ショカツリョウがリュウビを裏切らないように、ショカツキンも私を裏切らない。それは私がショカツキンを裏切らないからだ」的な事を言ったとか。
そんなショカツキンは……驢馬に似た顔立ちをしていたそうだ。
「驢馬が天狗と言って推挙を止めるなど笑止! 何が徳行は最純なりだ驢馬鹿め! …………兎に角、これから宜しく頼むよ天g……ごめん。宜しく丁封」
「もうテングでいいっすよ。軍師殿に聞けば、テングも偵察とか得意だって言いますし」
「こら怜華。マジもんの天狗だとかって思っても口にしない」
「……あんただって散々言ってるでしょうが」
そう言われてしまえばぐうの音も出ない。
だが、丁封は広域偵察のスキルを持っており、このスキルは都市を調べる際に、目標となる都市に隣接する所まで調べる事が可能という優れもの。上手く目標都市を定めれば、丁封一人の偵察だけで6箇所も知る事ができる。
失礼を承知で言えば、天狗の外見に恥じぬ優良スキルと言えた。
当然、その修得方法はかなり厳しい。
最も一般的かつ弊害のない方法は、知力と政治の値がともに50以上の状態で、娘さんを結婚相手に紹介する程にまで仲良くなった「よいぞよいぞ先生」に何度となく話しかけ、低確率で発生するイベントによって教えて貰う事。
高能力武将で普通にプレイしながら通っていると、結構な確率で娘さん紹介の方が先に来るのだが……よいぞよいぞ先生それでよいんかい。
因みによいぞよいぞ先生とは、ショカツリョウのお師匠様である司馬徽さんだ。
「スキル修得の為に先生を何十年もストーカーしたっけなぁ」
「まぁ良くあるよね。実質的に有効な修得方法ってそれぐらいだし」
「40万人規模となった放浪軍を率いて先生の行き先々をストーカーしたっけ」
「まぁ良くあ……いやねぇーよ!! それだけは良くはねぇーよ! あんたどんだけ暇人だったのよ! それじゃまるで先生の行く先が放浪軍の進路じゃん! 色んな意味で怖いわ!」
「気ままに各地を旅する先生を慕って、40万人のファンが大陸中をついて回るんだぜ? 中々にハイカラで、珍な旅だと思わねぇか?」
「普通に怖すぎるわ。……それで、先生ちゃんと教えてくれたの?」
「よいぞよいぞ! よいぞよいぞ! よいぞよいぞ……よいぞ、よいぞ…………酔い蔵ゥー! って言って酒びたりになっちゃってさ。結局最期まで教えてもらえなかったな……」
「……それは完全にあんたが悪い。酒でストレス解消してたら体壊して死んだんじゃん」
「ハイカラだろ?」
「アル中で死ぬハイカラなんていないわよ馬鹿」
今日の怜華は中々に辛辣なツッコミだった。
ともかく、俺達は丁封という武将を新たな仲間を加え、怜華も盧江で440人の賊兵を討伐し、金3と兵糧5を手に入れてきた。
丁封(字:不明)
呉の武将。丁奉の弟。
263年、魏の大軍が蜀に侵攻した際、諸葛亮の息子である諸葛瞻が彭和を使者として呉に救援を求め、丁奉が五万の兵を引き連れて出陣した。丁封は同僚の孫異と共に兄の副将を務め、先陣として救援に向かったが間に合わず、兵を引いて呉に戻った。蜀滅亡より数年後、兄に先んじて没した。
ゲーム内では212年に孫権軍の武将として盧江に登場。以降は兄と行動を共にし、殆どのシナリオを通して丁奉と同じ都市に配置されていますが、唯一違う年があります。それは上記に書いた列伝の263年蜀滅亡シナリオです。
丁封が孫異と共に先陣を務めたという歴史通り、盧江で主力軍を指揮する兄に対して、彼は西隣の江夏にまで進んで蜀を目指したスタートを切っています。何と細かい設定……脱帽です。
因みに孫異は江夏大守となっています。これはまぁ、呉の皇族という身分ですから彼が上役に配された事と、末期の呉は領土の割に武将数が少ないので半ば自動的に大守の座に……という事でしょう。
能力値としては、失礼ながら劣化版丁奉と言うべきでしょうか。この手の兄弟武将は弟の方が余程有名でない限り、兄の劣化版となる事が多いですね。
ただ彼等兄弟の場合は、丁奉がしっかりとした有名武将なので仕方ないのかもしれませんが……




