どの世界にも志を同じくする者はいる、それが同志
突然だがこの殿路秋渓、実はナースやメイドよりも巫女が好きなのです。
注射は痛いし血を抜かれるのは嫌だし抑々血を見ると血の気が引いてしまう。メイドもあのキャピキャピ感が苦手だし、何だかぼったくられそうで怖い。
でも巫女は清らかにして優しく美しく綺麗で丁寧で落ち着いていて、それでいて面白くて真面目で神聖な存在だと思い、好きを通り越して一種の羨望さえ抱いてしまう。
そんな俺が黒髪美少女かつ良い女代表の怜華と知り合えば、当然ながら巫女のコスプレを要求したくなっても不思議ではない筈だ。
だから俺は少し前に巫女コスプレを要求したのだが、怜華には体よく断られてしまい、以降は自身の欲求を強制するは男にあらずと思って諦めていた。
「殿路殿! あの御方です! 言わずと知れた服職人のコヨウ殿です!」
そんな俺の心を掴む存在にして同志が、この呉には居た。
都市の商業値が低すぎて行商人が居ない事をいいことに、市場を堂々と不法占拠して、自作の女の子用衣装を晴れやかな笑顔で販売する男の中の男・コヨウだ!!
「…………彼って呉の宰相じゃなかったっけ? 何であんな事してるのよ……」
「なぁ怜華、そんな事どうでもいいとは思わないか? ……それよりも凌統、ありがとう。俺は今、天地神明に感謝しても足りない程の望外の喜びを得た。
――さぁ怜華! 一緒にコヨウを登用しに行こう! 怜華の力が必要なんだ!!」
「いやいや見聞で発見したら頭領であっても面会登用できるから行っといで。私はここで待っててあげるから存分に話しておいでさぁ行っといで」
俺は怜華に懇願するも、彼女はうんと言わない。行動力を消費しない同行者扱いであろうがなかろうが、彼女は頑として見守る姿勢を貫くつもりの様だ。
それもその筈か。何せコヨウが広げている数百近い自作衣装の七割が巫女服なのだから。
流石にあれだけ堂々と飾られた所へ行こうと誘われたら、知力が100ある怜華だろうがなかろうが、試着を要求される事は想像に易く、断りもするだろうな。
だが、ここで下がれば男の名折れ。何としても怜華にあれを着させるのみ。
前言と矛盾した事を言っているが、俺の熱望はそれを関係ないと思う程に呼び戻されてしまったのだ!
「こんな話を知らないか怜華! 大陸では今、倭の国の巫女に感銘を覚えた親善大使の口伝によって巫女ブームが逆輸入されていると! あれを着れば怜華の名声が跳ね上がるばかりか、能力値だってオール100になれるんだ! というよりぶっちゃけ俺の為に着てくださいお願いしやす!!」
(ひらきなおったぁーー。前半それっぽいこと言ってるようで結局ひらきなおったぁーー)
もうこの際だから俺は言う。俺の為に着てくださいと。
だが無念、数秒だけ唖然とした怜華は冷静を取り戻した後に改めて拒否してしまう。
「……くっ……! 俺は……何て無力なんだ。本当に似合う事実を伝えて尚、説得できないなんて……! これでは営業はおろか、コヨウの気持ちを推し測る事さえできない……! あぁ、俺ではきっとコヨウを登用する事は叶わないのだろうな……」
「えっ!? ちょっ、そんなに落ち込まないでってば! 秋渓ならあん……巫女服なんて着た私の姿見なくてもコヨウを説得できるって!」
やはり諦めるしかないのか。彼女の様子から俺は膝をついて項垂れ、そんな俺を怜華はいつもの様に励ましてくれる。
「まぁまぁ殿路殿。先ずはコヨウ殿を説得して仲間になさられよ。彼を仲間にしてから怜華殿にお願いすれば良いのです」
「!?」
「ちょっ!? 諸葛誕殿、余計なこと言わないで! それだと私、結局お願いされるじゃんか!」
励ましを兼ねた諸葛誕の一声は的を射ていた。
俺は目を見開いて気付かされ、すっと立ち上がるや今度は諸葛誕に礼を言う。
「諸葛誕、本当にありがとう。俺は……本当に良い仲間に恵まれて……本当に幸せ者だ!」
「何を今更! 我等は志を同じくする放浪軍の同志! これしきの事は当然ですぞ! ……そして見られよ殿路殿! コヨウ殿の堂々とした勇姿、あの笑顔! 彼は本物の幸せを知る、我等と志を同じくする者の一人! さぁ行かれよ殿路殿! 彼を説得して仲間に加え…………私はあのチャイナ服を怜華殿に着てもらいたいっ!!」
(うぅーわこいつもかよーー!?)
諸葛誕が放った次の一声、指差した先の衣装、どれも的を射たものだった。
可憐なカモシカ足を美点の一つとする怜華にチャイナドレスが似合わない筈はなく、凌親子もその意見に激しく同意して肩をぶつけ合う。甘寧の兄貴も笑いながら首肯した。
「いよっし!! 早速行ってくるぜぇー!!」
俺の士気は一変して最高潮になり、ズドドドド! と爆走音を立ててコヨウに迫った。
「コヨウ殿っ! 俺の名前は殿路秋渓! 単刀直入に申し上げる! 俺が率いる放浪軍の仲間となり、貴殿の美しい衣装を満開の花々の様に咲かせてくれ!!」
「おやおや何とも嬉しい申し出。されど……私が仕立てた服は御婦人方にどれも不人気の様でして、軍隊の中で着てくださる方がおるとは――」
「心配無用なりコヨウ殿! あれなるは我等が軍師・姫崎怜華! 彼女が喜んで着てくれる!!」
「私の主張ガン無視か!? 勝手に決めんなっ!」
軍隊に自分の市場はない。そう思って申し出を断ったコヨウを説得する為だ、許せ怜華。
「おやおやこれは可憐な御嬢さん。……ふむふむ……成る程成る程……」
「えっ……な、何? もしかして私……品定めされてる?」
「はっは! みてぇだなぁっ!」
俺が両手で怜華を示すと、コヨウは彼女の全身をまじまじと見詰めて独りで納得。
対する怜華は自分に向けられる視線に若干の嫌気を感じたのか、隣に立つ甘寧に問い掛けて彼からの同意を得ようとする。
まぁ、甘寧の兄貴は気味悪く思うよりも、好奇の感情を抱いている様だった。
暫く見定めたコヨウは二つの木箱を持って怜華に近寄り、彼女の前にそれらを置いた後、先ずは片方の箱を開けて中に収納していた衣服を取り出す。
「御嬢さん、こんな感じの服が好みではありませんか?」
徐に広げて見せたその服は、何と現実世界で怜華が愛着していた桃色のパーカーに限りなく近い花柄の一品だった。
「えっ嘘!? 何で分かったの! じゃあさ、じゃあさ! 私に似合う下って何!?」
自分の趣向を理解された時、怜華は目に見えてはしゃぐ。
顔に花を咲かせ、警戒心を排除して、先程まで不審がっていたコヨウへ急接近する。
俺と怜華が初めて会話して意気投合した時も、今みたいな曇りなき可憐さだったな。
「下にはこれがお似合いかと」
もう一つの木箱を開けて中から取り出した物は黄色のホットパンツ。
もう完璧に、怜華の趣味を言い当てていた。
(これが服職人コヨウの実力か! 俺の様に無駄に言葉を並べる事はせず、ただ己の心眼を以て相手の好みを察して端的かつ的確に攻める! 呉の二代目丞相たるは伊達ではない!)
孫呉の筆頭文官にして最長老であるチョウショウを差し置き、ソンケンから丞相(君主を除けば実質No.1の高官)の位に任命された実力は正に本物だろう。
「秋渓、私が間違ってた。コヨウ殿を是非同志にしたい!」
あの怜華もコヨウを認めた。対するコヨウも職人冥利に尽きる相手を得た。
「顧雍殿! どうか宜しく頼む! 俺達の放浪軍に加わり、貴殿が仕立てた服で皆の士気を高めさせてくれ!!」
「しかと、承りました。誠心誠意、一助一助を紡いで見せましょう」
『顧雍は殿路秋渓の配下となりました』
顧雍(字:元歎)
呉国の二代目丞相。呉が誇る四つの名家の一つ、顧家の出。
有名政治家・蔡邕に師事した際、彼は顧雍の持つ非凡な才能に気付き、将来大物となること予言したという。
20歳の若さで県の要職に就き、彼を見込んだ孫権は自分に代わって太守を任せた事もあった。
非常に寡黙で酒も滅多に飲まなかったが、ノミニケーションを奥義とする孫権との仲は良好であり、深く信頼されていた。
ゲーム内では198年の呉の都市に、未発見の状態で登場。
武力52 知力82 政治89 魅力70 武将ランキング58位の実力者……何気に朱桓よりも上です。
職人の知恵(衣装製作)、商人魂(市場不法占拠)、弁舌(怜華の逆説得)と、持ち得る全てのスキルを遺憾なく発揮してくれた今作最初のスキルマスター。
孫権の軍師としてはネタ的な意味でも張昭が有名ですが、剛直すぎてピーチクパーチク煩い彼だけでは、呉の政権は不安定だったと思われます。
言わば、小煩い頑固ジジイと無口な下戸オヤジが二枚看板を張る事で、丁度つり合いがとれるのでは? だからこそ孫権も、顧雍を二代目丞相に任命したのでは? ……と、あくまでも感情面による個人の推測ですが、私はそう思います。




