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戦法の伝授

「っしゃあ! ロン・ピーズリー! 悪いな諸葛誕! 夕飯のおかず一品貰いぃ!」


「十倍にして返してやりますぞ!」


「あっ、殿路殿。それポンしますので、私に下さい」


「諸将よ、最終局面で悪いのだが……ツモった」


「ぎゃああぁー!? 朱桓めぇー!? 俺のおかずがぁー!!」


 俺と諸葛誕と丁奉と朱桓は、怜華の帰りを待つ間に麻雀を興じていた。

最初こそ俺や丁奉が優勢だったものの、散々潤ったところで朱桓の本領が発揮され、後半は彼のあがりによって大量に奪われた。


「…………何してんのみんな」


「夕飯のおかずを賭けていた。それより怜華軍師殿、我等四人はお腹が減りましてございます。今日のご飯は何でございましょう」


「焼き餃子と炒飯だけど、まだ私のターン終了してないからご飯じゃないよ」


 そこへ帰って来た怜華の冷めた眼差しと塩対応。


「そんな殺生な……よりによっておかずが餃子の時に奪われるとは……!」


「まぁまぁ、餅でも食べて元気を出されよ!」


「ありがとう諸葛誕。俺はこれで明日へと羽ばたくよ……!」


 何と、諸葛誕は自らの食べ物とする筈の餅を俺にくれたのだ。

おかずを奪った相手に対する慈悲。これぞ諸葛誕。これぞ弱き者に寄り添う漢。

彼の優しさは自らを二の次とするものであり、幼少期にはこんな逸話がある。

それは諸葛誕がまだ若りし頃、大先輩トキ(四兄弟の次男にして病さえなければ最強の噂を持つ男ではない方の人。尤も両者ともに優れた人物である事は確か)が時の魏国君主を乗せる大型船を建造し、彼と共に試運転していた時の事。

強風にあおられて船が転覆し、諸葛誕もトキも川で溺れてしまった。

そんな中でも諸葛誕は自らを二の次にして、トキを先に救ってやってくれと言ったのだ。

結果、諸葛誕は辛くも岸に流れ着いて一命をとりとめたが、トキに至っては帰らぬ人となってしまった。


上記の事から、諸葛誕は心の底から他人を大事にする人物だったのではないだろうか。

ソウソウの孫のソウエイは、諸葛誕の名声は絵に描いた餅だとして彼を失脚させたが、嘘偽りの人柄によって得られる名声こそ高が知れているだろう。

抑々にして自身が溺死の危機に瀕している際に、他者を気遣う演技をして名声を高めようなんて考えが浮かぶだろうか。普通なら自分を助けてほしいと言う筈だ。

仮に過去の出来事を基にして諸葛誕が名声を集め、それを見抜いたソウエイが画餅と称したとしても、諸葛誕が優しい人物だった事に変わりはないだろと思うんだ。


余談だがこのゲームにトキは出演しておらず、代わりに彼の孫に当たり、呉を平定した晋帝国の大都督・ドヨさんが登場している。


「……所で軍師殿、リョウトウ殿とはよく話されたのか?」


 俺と諸葛誕と丁奉の餃子を獲得した朱桓が怜華に問う。

対する怜華は小さく首肯して返し、残る行動力の消費について語る。


「結構面白い話が聞けたよ。流石リョウトウ殿って感じの話。まぁ、いま話してもどうしようもない内容だから、改めて軍議の時に提案するね。……それより秋渓、あんたとも深く話しておきたいんだけど……」


「なんふぁ? もちはやらんひょ?」


「あんたの口に含まれた餅は要らんわ。……私が聞きたいのは放浪軍随一の武力を有する秋渓が、戦争の時にどの戦法を多用するのかって事。因みにリョウトウ殿は乱撃だった」


 乱撃とは1ターンの間に複数回攻撃できる戦法。

1回のダメージは通常攻撃の0.8倍とやや劣るものの、Lvを上げる程に強烈な攻撃へと変貌していく戦法。その真髄を発揮するのはLv4以降だ。


「無論、乱撃だ。俺の乱撃はLv5だから平野に於ける成功率は85%で、連続攻撃も4回できる」


 頂いた餅を食べ終えた俺に続き、諸葛誕も申告する。


「私も乱撃です。Lv4ですので、成功率は75%かつ連続攻撃は3回になります」


 諸葛誕の次には、素敵な髭を擦る丁奉が続く。


「私も乱撃Lv4ですな。一応、放射もLv4ではありますが……5000名の兵士しか指揮できない放浪軍では、弓部隊の攻撃は火力不足が否めませんから……大半の戦では白兵部隊を率いる事になり、使用する戦法も直接攻撃系となるでしょう」


 敵部隊に与えるダメージは武将の武力と戦法の威力に加え、指揮兵数も影響する。

1万人の弓兵による一斉射撃と、5000人による一斉射撃では威力がまるで違うのだ。前者はそこそこの火力を反撃ダメージ(自分が攻撃した際に相手から返されるダメージ)なしに与える事が可能だが、後者に至っては余程の武力値がない限り大した威力が期待できず、防御力の低い弓兵を敢えて選択する利点に欠ける。


「最後に、乱撃と奇襲だ。どちらともLv4だが、奇襲は発動までに多くの時間を要し、そうそう連発できるものではない。故に、多用するのは諸将と同じ乱撃となろう」


 奇襲を得意とするのが朱桓らしかったが、それでも乱撃だと言う。


「はっはっは! 見事に乱撃者ばかりが揃ったな!」


 俺がそう言うと残る三人も一様に頷き、みんなして乱撃を極めようとしている事が十二分に知れた。……今度、乱撃同好会でも発足してみようかな。


『殿路秋渓殿、姫崎怜華殿に戦法を伝授しますか?』


「おっ!? 戦法伝授か! 怜華は運が良いな!」


 そんな時に出現したこの表示。怜華はとても運が良いな。

何と言っても親密武将と会話する際に低確率で発生する戦法伝授イベントを、行動力を消費した俺との会話の第一回目で起こしたのだから。町内福引き大会で二十年連続、一等賞の黒毛和牛5頭を引き当てたという噂話も頷ける。


 俺は『はい』を選択し、次は怜華に選択権が移譲される。


「猛攻、乱撃、攻城の3つを選べるのね……なら一番オーソドックスな猛攻を……」


「怜華……乱撃はどうだ? これを機にお前も乱撃極道を歩むべきだと思うzo!」


 これを機に怜華にも乱撃の道を歩ませんとして、俺達は猛烈に押し売りする。


「でも消費戦法Pが30と手頃で、成功した時の威力も1.8倍と強いし猛攻が……」


「怜華殿、乱撃は素晴らしいですぞ。乱世すら美しく見える様になります」


 俺が怜華の正面に迫るなら、丁奉は彼女の右に迫る。

先の麻雀第一局目で親だっただけに、素敵な勧誘の仕方と言えた。


「やっぱり正否関わらず、反撃ダメージの少ない猛攻が……」


「乱撃です軍師殿! フンフンッ! 乱撃です! フンフンッ! フンフンのフンッ!」


 尚も屈しない怜華に対し、仁の者・諸葛誕が動く。

彼は怜華の左から迫り、右肩を露にして荒乱れとも言える桜吹雪を披露した。

心に刻まれる名演技。さしもの怜華もこれで陥落よ。


「……いや、あの……私武力が低いので、反撃ダメージも考慮して戦える様な戦法じゃないと……っていうか、みんなして何で迫ってくるの? ……ねぇ朱桓殿、貴方は……」


「すまぬが、乱撃同盟の絆に背く真似はできぬ。軍師殿、乱撃を選ばれよ」


(もうやだぁー!? 何この状況、新手の宗教勧誘じゃんかーー!!)


 鋼の精神で乱撃道を拒む怜華であったが、俺を含む三者の攻撃には流石に後じさり、背後に立っていた(然り気無く退路を絶った)朱桓にぶつかりかけた。


「さぁ怜華よ! 乱撃を選ぶのだ! 俺達の思いを受け入れよ!」


 四方を取り囲み孤立無援と化した怜華姫に、俺は降伏という名の恭順を要求し――


「やっ! ちょっ……ち……ちか……近いわぁっ!!」


「ノストゥラダァームスゥーー!?」


 無理強いをした結果、大きく突き飛ばされた。


『姫崎怜華は猛攻を習得しました』


「…………あっ……やった。猛攻になった」


 その最中、怜華の手が無意識にも猛攻を選択し、晴れて彼女は直接系戦法を体得した。


「ちっ!」


「ちっ! って言ったなあんたら!? 今晩飯抜きにすんぞ!!」


「それだけは勘弁してくださいっ!!」


 難を逃れた怜華に対し、俺と丁奉と諸葛誕が同時に舌打ち。

それを聞き逃さなかった怜華は、俺達を兵糧攻めの危うきに陥れる策を公表する。

死活問題なんで、まじでそれだけは勘弁してください。


 結局、怜華は残りの行動力を消費して覚えたてホヤホヤの猛攻を訓練。Lv1かつ経験値も0なので上手くいかなかった様ではあるが、猛攻の経験値を6(100でLvアップ)手に入れた後、このターンを終了した。


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