ブギャァァ!! 名のある店員が大量離反!? 精肉店倒産の危機ブギャァ
宛。カシン軍最後の拠点にして、カシン精肉店最後の支店。
どっちの意味でも通じるのが三国志の良い所とは、かの大軍師イヤンナ・ミダガデチャウの臨終時に於ける名台詞だ。
普通に「えん」と入力して文字変換をかけても、「苑」や「怨」ばかり出て本当に必要な「宛」が出てこないのはよくある問題であり、宛名の「あて」で変換をかければすぐに出る。
同じようなものでは、「年々」とかで使われる「々」も、年々と打ってから年を消すより、「どう」と打って変換をかければ簡単に出てくる。
今更そんな事を言わなくても半世紀前には既に知ってたって? いやん涙がでちゃう。
兎も角、宛が最後の拠点となったカシン軍を攻める前に、稀代の策略家である司馬懿が一計を案じたらしい。
「『………………という訳である。己の栄転を、よくよく考えるように。カシン軍参謀 司馬孚ゑ 司馬仲達より』
――ふぅ、まぁこんな感じでよいか。意味は伝わるであろう。……皆も出来たか?」
司馬懿主導のもと、主に彼の一派が手紙を書いていた。
司馬懿は弟のシバフに、司馬師は甥に当たるシバエンに、司馬昭はコヨエモンのお師匠様に当たるサイヨウ先生に、賈逵は同じく司馬一派の仲間であるジュンキョクに、ファーアング夏侯淵は司馬昭の軍師・カジュウに。
そして司馬懿の抜擢で参加させられた元エンショウ軍参謀の沮授が、「九品官人法」で有名なチングンにお手紙を書く。
お手紙の内容は当然、こっちに寝返れよベイベーである。
「……忠誠77のサイヨウ。義理値の低い忠誠80のジュンキョク。司馬懿の眼鏡に適った沮授から手紙を貰うチングン、忠誠83はなんとか登用できそうだが……忠誠93のシバエンと90のカジュウはさすがに厳しいんじゃねぇか? ……いや、いけるか? でもなー、俺との相性は離れてる筈だしなー」
「ご心配は無用です頭領・殿路。エンもカジュウも、マスクデータの義理が低く野望が高い。二人には忠誠値なんてなんのその。利のある方にコンコロコロリンと寝返るでショウ」
「お父様、昭。それに頭領・殿路も見てください。コンコロコロリン、コンコロコロリン」
司馬師・司馬昭の機械人形姉妹が、床の上でコロコロと転がっている。
非常に微笑ましい光景であるのだが、それを見た司馬懿が「着ているメイド服が汚れるから止めい止めい」と止めさせる……残念だ。その代わり、甥である司馬望には文字通り火中の栗を拾わせる……鬼だ。
「アヒィーー!! アヒィアヒィ!? 凄惨な甥苛めでアヒィ! 父上が来たら言いつけて――アヒャァァァァーーー!? 栗・爆・発!!」
司馬望の父親は、司馬懿が直接手紙を書いているシバフだ。
司馬懿は目の前に広がる司馬望の鬱陶しさに辟易し、手紙の最後に「アヒアヒ煩い」の一文を書き加えた。それで当のシバフに、意味が通じるのかどうかは分からないが、取り敢えず彼の好きなようにさせてみよう。
「よし、それじゃ手紙を送るとしよう。丁封……と全端は偵察でいないから、ここは彼に任せよう。いけっ張郃儁乂! 君に決めた!」
「ドーモコンニチハ。張郃儁乂です。死ねぇぇぇーーー!!」
司馬一派の先陣を司る猛将こと張郃儁乂。彼に手紙を預ければ、道中なんの心配もないだろう。渡し方もきっと熱烈的な筈だ。
「さて、それでは待っている間、カシン軍の残り武将を確認してみよう。ラム、よーく俺を見るんだぞ。……フン! フウゥゥゥーーン!!」
「メェ~、メェェ〜~!!」
鍛え上げた筋肉を露にした俺は、ラムの目の前でその美学を説いた。
どこからともなく咲いた薔薇が咲いた途端に恥じらう筋肉を前に、ラムは満足して情報画面を提示。花も恥じらう筋肉に、人も動物も関係なく魅了される事は万国共通。大陸でも倭の国でもグンマー帝国でも、それは変わらない。
俺と司馬懿はカシン軍の勢力情報を開き、そこから武将一覧に切り替えた。
「……ふむ……まだ結構いるな。オウイン、トウショウ、フクカン、シソンズイ、バジツテイ、ヨウヒョウなど文官多数。おわっ!? シバユウがいるぞ! 忠誠79。彼は! 彼は登用しないのか!?」
「んー、あぁー。……だめじゃ。あやつは野望0ゆえ、忠誠が低くても利に釣られん。おそらく我が一派の誰が説得しても、今いる所から動こうとせん。引き籠りじゃからな」
「そうか……そりゃ残念だ。えーと、他にはロショク、シュシュン、チョウリョウ、リゲン。まっ、軍の先頭には彼等が現れるだろうな」
「問題は誰が総大将として軍を指揮するか。最後の決戦となれば君主直々に出てくるだろうが、カシンはあの通り能無しじゃ。恐れをなしてロショクあたりを大将にされるとさすがに厄介よ」
そればかりはAIの匙加減だ。予想はつかない。
仮にロショクが総大将、チョウリョウが参謀としよう。この逆であってもいいが、総大将は名声の高さが一番影響する為に、二人が主役の場合は間違いなくロショクが総大将だろう。
名声と能力値の高いロショクと、多彩な軍事スキルと戦法を習得するチョウリョウ。
この二人に全軍を指揮されると、敵に援軍がないとは言え少々キツイ。だから俺としては、カシンが総大将になってバカな采配をしてくれると楽できるのだ。
「こればかりは戦を始めない限りは分からない……か。取り敢えず此方も、戦慣れした腕利きを出すしかないな」
「んむ、まぁロショクに指揮を取られたとしても、お主等の方が地力は上じゃ。そうそう悩む事もあるまい。……それよりもほれ、師と昭が紅茶と焼菓子を運んで参ったぞ。あれを楽しんで英気を養えぃ」
「おぅ、ありがたく頂こう」
優れた連携で対応できる仲間達を選ぶしかない。それが一番わかりやすい対策だ。
俺と司馬懿は一転して、優雅なティータイムと洒落込んだ。
メイド姿の機械人形姉妹が用意した紅茶と菓子は格別に旨い。なんとも上品で、なんとも西洋貴族的な、なんとも言い難い至福の一時だった。
諸葛亮は過労が原因で死期を早め、司馬懿はゆとりをもって行動した事で長生きした。なんて話をどこかの記事で読んだ気がするが、今この瞬間を味わう俺には、正にその通りだと思えた。何事もゆとりをもって行動したいところだな。
「ドーモタダイマ帰りました。張郃儁乂です。皆様の返事をお持ちしました」
それに紛れて帰還した張郃の手に、六通の返書と一枚のチラシがあった。
俺と司馬懿はまず、返書の方から確認する。
「ふむ……ふむ……ふぅーむふむ! 上々上々!! 司馬懿の登用策、見事に当たったり! 司馬孚、司馬炎、蔡邕、荀勗、陳羣、賈充がこちらの登用に応じたぞ!」
「まずは満足か。……さて、張郃。そのチラシはなんじゃ? 何やら血が付いておるのだが……もしやお主、早くも始めよったのか?」
「ドーゾ、カシンからの挑戦状です。憤慨の余り鶏肉を捌いたままの手で書いたらしく、その血が付いてます」
「ほぉぅ、それは短気じゃのう。いかんいかん、短気は損気にて。
――どれどれ、カシンは何と言ってきた………………フッ。殿路よ、この戦勝ったぞ。読んでみよ、面白い事が書いてある」
「どれどれぇ……『プギー、プギウギ!! ブゥギャァァーー!!』…………読めねぇな。……あ、続きあるわ。『代筆トウショウ。よくもうちの優秀な事務員を引き抜いてくれたな! 鬼に勝る汝の所業、許すまじ!! 次の一戦ではこのカシン直々に成敗してくれる!!』マジかよやったぜ!! これで勝ったも同然だヒャッハーー!!」
天は我に味方せり。まさかカシンの方から出陣すると言ってくるとは。
司馬懿の言、真にその通り。短気は損気だな。
「よぅし、司馬望! 諸将を呼んでくれ! 戦だぁぁぁ!!」
「ははっ! ご指名いただきありがたく! 私のカイゼル髭が唸りまする! 見事、この戦の一番手柄をあげてみせましょう!!」
「いや、君の出番はないよ」
「いや、子初の出番はないぞ」
「アヒィィィィーーーー!!?」
司馬望の絶望声が陣営内に響き渡り、それを呼び声として諸将が集合した。




