燃ゆる洛陽
カシン軍の本拠地にして、大陸有数の大都市・洛陽は、呆気なく陥落した。
捕虜となった武将のうち、程昱、 皇甫嵩、 鄒靖、 鄧忠、 張虎は登用に応じ、新たな仲間となった。
余裕で勝利した俺達は、カシン軍最後の拠点・宛を攻略する前に、一時の休息に入る。
「殿路秋渓と……」
「諸葛靚の!」
「「ウルトラマジカルクッキングーー!! イェェーーイ!!」」
「……わーい。怜華うれちいなぁー。ぱちぱちぱちぱちー」
そして今日は、日頃の感謝を込めて、怜華に手料理を振る舞うぞ。
スキル《農民の思い》を習得する、食料調達係の諸葛靚も助手を務めてくれる。
……だがちょっと待ってくれ。何やら当の怜華が楽しくなさそうだ。丁奉、ちょっと自慢の筋肉を見せてやってくれ。
「そうじゃないよ。あのね秋渓。労ってくれる気持ちは嬉しいんだけど、あんた料理できないでしょ。卵焼きすら作れないんだから無理しなくていいよ。それにいきなりイェェーーイって言われても、こっちにも心の準備が…………丁奉殿はどこまで脱ぐつもり? それ以上脱いだらただの変態だからね?」
「大丈夫だ怜華。心配するな。大船に乗った気持ちで泥舟に乗り換えろ」
「ダメじゃん。それダメじゃん。途中まで良かったけど結果ダメじゃん」
どうやら俺の壊滅的な料理センスを心配しているようだ。
だが不安だからといってやらない様では、いつまで経っても上達しない。
ここは洛陽攻めが順調に完了し、仲間達にも余裕がある今、彼等の協力を得て成長すべきなのだ。別の言い方をすれば、怜華にはその為の実験体になってもらおう。
「えぇーい、素直になれないツンデレちゃんめ! そんな子にはこうだ!!」
俺の声に応え、劉岱軍メンバーの四人(劉岱、袁遺、王忠、橋瑁)が降臨し、怜華の四方を取り囲むように着陸する。ナイス降臨。
「うわっ! 懐かしい面子! ……って何!? 何か泣いてるんだけど!?」
「なかなか出番に恵まれないらしくてな。今日こうしてお越し頂いたからには、積もる愚痴でも聞いてやってくれ」
「……あぁ、なるほど。うん、わかったわかった。だから泣くな」
女子高生らしからぬ男前な台詞だ。感動的だな。
さて、それはそうとして。俺は早速調理に取り掛かろう。まずは手の洗浄だ。
「梨汁ブシャー!!」
手から謎の汁を滴らせた俺は、その液体でセルフ洗浄を行う。エコ極まりないな。
「ちょっ!? 待った待った!! その汁はなに!? まさかそれで手を洗ったつもりじゃないよね!?」
「フッ、梨汁……ブシャー」ಠ◡ಠニヤリ
「ポーズ決めても汚いのは汚いの。ちゃんと水で洗って……ってまだ出でるし。いったい何なの、そのブシャーಠ◡ಠ(ニヤリ)は」
「殿路秋渓由来の天然水だぜ。ミネラル豊富のちょっぴり塩味だぜ」
「はいはい汗ね。脱水症状に気をつけてよ」
怜華の言う通り、体内の水分が無くなるのは確かに痛い。俺は彼女の忠告に従って、普通の水による手洗い消毒に努めた。
「さてと、それでは何を作るかだが……やっぱり筋肉つくのが良いよな。ここはプロテイン100%のハンバーグを……」
「待てぇーい! そこのトンデモ支配人! なに私の体を改造しようとしてんだ! 食べないからね! つなぎにプロテイン使うならまだしも、プロテイン100%のハンバーグなんてただのプロテインだからね! バカな真似しようとしてないで諸葛靚殿の指示に従いなさい知力5の頭領バカヤロー!」
「……めっちゃ散々に言われとる。地味に傷つくわ」
軍師とは小言が多いものだ。「諫言耳に痛し。自分由来の水も体に悪し」とも言う。
それに従う君主は大事を成し、従わない君主は敗北を喫する。一国の君主が自分由来の水で手洗いするかどうかは知らないが、ようはそういう事である。
でも怜華の体を改造って表現も、アブノーマルなエロスがあって何か良いな。
ともかく、俺は他の料理を考案せざるを得なくなった。
「……そういえば以前、母さんが言ってたな。昨今は効率的かつ簡単な料理が望まれてる。忙しい人でも手軽に作れて、ササッと栄養補給できるものが流行ってる……と。
――それなら俺達も、パッとやってピッて感じに調理してみようぜ」
「パッとやってピッ……どんな感じに?」
「まぁ見てな。……これぞ殿路流奥義! 流れ作業出来てからのお楽しみ!」
俺は目を瞑ったまま両手を繰り出し、目の前に広がる食材の中から二つを無造作に掴んだ。左手は粗塩を、右手は味噌を握っていた。
そして選別(?)された二つの食材もとい調味料を鉄鍋にぶちこみ、大陸名物の炎の芸術でカラッと炒める。大火力を使う時点で簡単な調理かと聞かれれば、そうでもないように感じるが、この際それはどうでも良いのだ。
「出来たぞ! 塩の味噌炒めだ! 味噌の塩炒めでもいい! さぁ怜華、たーんとお食べ!」
「フフフフフフ、シネ」
「ちんすこうぅっ!?」
爽やかな笑顔が怖い!? おかーちゃん助けて!!
余談だが、ジブリ映画「紅○豚」に登場する空賊・マンマユート団の “マンマユート” とは、イタリア語で「ママ、助けて」という意味だそう。感動的だな。
「……ねぇ、秋渓。あんた労う気ある?」
「あい。もう一度だけチャンスをくだされ」
「よしわかった。存分にやりたまえ」
「有難き幸せ」
流れ作業出来てからのお楽しみ宜しく、流れるような応答で再チャンスを得る事に成功。
今度こそ本気の本気で、怜華を満足させる料理を作らなければならない。
「…………という訳でして、どうしよう諸葛靚。このままだと放浪軍頭領としての股関……沽券に関わる。最悪の場合、謀反起こされてこの軍乗っ取られそう」
「一度乗っ取られた気もしますから二度目もあるでしょうね。そして二度あることは三度ある。ドンマイです頭領」
「いやん涙がでちゃう! 胸筋から塩の涙が! ドバァー! ザバァー! っと」
「凄まじい量の汗! 惚れ惚れします! 私と父上も、鍛錬の際にはそれぐらい出せるように精進せねば! フンフンのフンッ!!」
「だから脱水症状になるからやめなさーい。……って聞いてないね。怜華ストップ聞いてないね。ダメだこりゃ」
俺と諸葛靚は筋トレをしながら真剣に考える。滾る肉体! 輝く汗! 体を鍛えるとは良い事だな! ハハッ!! …………さて、俺は何を考えていたのだろうか。
「……汗といえば……暑い日は食欲不振に陥りがちです。少し辛くて精力がつく食べ物はどうでしょう?」
「それだァァーー!! 食欲が出れば体も動く! 体が動けば筋トレに励む! 筋トレをすれば立派な筋肉がコンニチワとコンバンワ!! 正に怜華にピッタリな料理だな!」
(おいおい私がムキムキマッチョになること前提かよー。何処に腹筋バキバキの女子高生がいるってんだよー。もうツッコム気力も無くなってきたー)
「という訳でレッツゴー! 頑張れ頑張れ諸葛靚! 頑張れ頑張れ諸葛靚! ハイッ!!」
「……もう面倒になって他人に作らせてるよ。でもまぁ秋渓のトンデモ料理よりマシか。諸葛靚殿、頑張れー。ファイトー」
現実世界の応援団で「必勝隊長」の異名を持つ俺が声援を送れば、炎の芸術など朝飯前。
調理を進める諸葛靚に絶妙なタイミングで火力を提供し、ついでに洛陽も燃やす。
「おのれ董卓ゥゥ!! 漢十二代の歴史が燃えるゥゥーー!! 住み慣れた家が燃えるゥゥーー!!」
まぁ、俺が起こした炎なんか戦火に比べればとろ火なんで、これで洛陽が燃えるなんて事はなく、単に横○三国志の名シーンを真似ただけ。
だが、反カシン連合の侵攻に続き、放浪軍の侵攻によって陥落した洛陽の内政値が、著しく下がっているのは事実。
そして後漢皇帝が居ながら、その存在を守る勢力がいないというのも、事実。
皇帝はこれから、空白地と化した洛陽で何をするのだろうか。Youtubeでも見て余暇を過ごすんだろうか、それとも自分がYoutuberとなって動画配信でもするんだろうか。「焼け野原となった洛陽でボッチ皇帝がスペシャルクッキングしてみた。董卓でもいいから誰か来て」みたいに。
俺は諸葛靚が作った麻婆豆腐を頬張りながら、そんな事を考えた。
「まぁ、どうでも良いわなっ! ハハッ!!」
俺達はただ、全勢力を滅ぼしていくだけだ。
皇帝がボッチになろうとも、Youtuberになろうとも、知った事ではない。
「寧ろVTuberかもよ。ショタっ子皇帝・劉協みたいなネームで」
「一部の紳士に受けそうだな、それ。なったなったで洛陽に人が集まって内政値回復するから、結果オーライかもしれん」
兎にも角にも、洛陽は陥落した。これが紛うことなき事実。
次はカシン軍最後の拠点・宛を攻略するのみだ。
次回の「ウホッ! 良い男だらけでワロス!」は――
『ブルゥアァァァ!! 牛乳だと思ってイッキ飲みしたら、青汁だったァァ!! 俺の三年間分の記憶を返せェェーーイ!!』と『カシン精肉店倒産』の二本でお送りしまーす。ಠ◡ಠニヤリ




