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鄴ショッピング 前編


282年6月 個人ターン最後の月。


 上党攻めの陣容を決めた俺と怜華は、次の戦に備えて鄴の市場で買い物をしていた。


「…………うむ! 実に壮観であーる!!」


 大陸有数の大都市・鄴は、エンショウや曹操を始め、後の王朝でも時の都として機能した重要拠点。その影響力は、大陸全土に伝わると評しても過言ではないだろう。


 通常プレイで華北(黄河以北)および中原(主に黄河中流域)を征する際にも、二大地域の中心部に位置する鄴を抑えるかどうかで、全体の難易度が変わるほどの要所であり、かの都市は戦略的視野から見ても非常に汎用性が高いのだ。


・鄴自体は華北の南部に位置する為、エンショウ軍なら最前線の鉄壁都市として、曹操軍なら華北攻略の為の足場として必要不可欠。

・エンショウや曹操に関係しないプレイでも、鄴を後回しにして攻めやすい周辺都市を先に占拠していくと、無駄に前線が広がるだけでなく、生産力・徴兵可能人口・人材に優れた鄴の回復力によって反撃を許す可能性がある。急がば回れ的な状況もあるかもしれないが、鉄壁の要所だからこそ先に落とせ……というのが俺の考えである。


 上記の理由から、エンショウ軍を鄴から追い出せたのは本当に良い戦果だった。

これで華北平定は嘘のように簡単になる筈だ。後悔はしていない。していないが……


「…………うむ! 実に壮観であーる!!」


「大事な事なので二回言いました」とは、よくあるやつだ。よくあるだけに察してほしい。


「見よ! あの巨大な宮殿を! 大都市を象徴する三階立ての高層マンションとは正にあれ!! 黄金に輝く黄土色の屋根は、皇帝たるを天に示す五行の中心!! 首里城の様な赤で塗られた円柱こそ美の極みと言うもの!! アプローチに設けられた階段は中央最大幅の三列構造と来たもんだ!! これぞ大都市! あれぞ鄴城!! 紫禁城にすら勝る完全王者の城郭なり!!」


「やけに熱の入った解説お疲れ様。あとは宮殿に支配者がいれば様になったのにね」


「痛いところを突くなよこの水属性めぇーー。…………でもまぁ、そうなんだよなぁ。自分達で追い出したんだが……宮殿だけ立派なんて寂しいでやんす」


 高校の建設工学部にして、「重力に逆らいし棟梁」の異名を持つ俺は、久々の大宮殿に興奮していた。興奮して、数秒後には怜華の横槍で急激に冷めた。この水属性ちゃんめ。


「だって信じられるか? あれだけの規模の宮殿に、武将はおろか衛兵の一人も居ないんだぜ? そりゃもちろん、俺らが追い出したからだけど」


「盛大に空き巣ってるよね、あれ。普通だったら破壊とか略奪されるんだけど、凄く綺麗に残ってるのが不思議すぎ。……っていうか、城壁破壊して金や兵糧を根刮ぎ略奪したの私達だから、もうこれ以上空き巣する物が残ってないのも事実なんだけどね」


「ほんとひでぇ話だぜ。通常プレイだったら真っ先に人事異動して戦後復興から転戦侵攻していく為の場所が……人も物も無いなんてな。自分で攻め落としといて何だが、大都市の空白地状態とかあり得んわ」


「普通の放浪軍プレイでも、正規勢力から奪いとった瞬間に旗揚げするよね。だって本拠地としてはこの上ない豊かさなんだもん。隣接都市が多すぎて多方面攻撃に曝されるのが、玉に瑕だけど」


 放浪軍が正規勢力の都市を攻め落とした際、身分が『同志』のプレイヤー武将は『頭領』に旗揚げを進言できる。進言しなければ今度は『頭領』のプレイヤー武将に旗揚げをするかしないかの選択肢が出る。


うちの場合は、先ず怜華に『旗揚げを進言しますか?』といった選択肢が表示される。

そして怜華が『いいえ』を選択して、続く俺も『旗揚げしない』を選択するのが、論功行賞の後に毎回行われる鉄板作業なのだ。


「あぁぁーー! 通常プレイのように人材を割り振って発展させていきてぇ!! 優秀な人材ならうちに余る程おりやすぜ、天空の男神!!」


 新旧の作品を通しても、自由度の高さが好評なこのゲーム。

内政パートに於いても様々なイベントが発生するだけに、正規勢力プレイの衝動に駆られた俺は天空の男神へ向けて大声で叫んだ。


男神1「呼んだ?」

男神2「ムッキムッキムッキムッキ!! フゥゥーーン!!」


「間に合ってます大丈夫。この男には私がいますから」


 雲の切れ間からマッスルムキムキの男神×2がひょこっと顔を覗かせた。可愛い。

にも関わらず、怜華は即座にお構い無くと言い返す。この水属性ちゃんめ。一度で良いから腹直筋上部の熱き抱擁に顔を埋めてみなされ、飛ぶから。


「……まぁいい。ところで怜華。今回は何を買うつもりだ?」


 鄴に限らず、有名都市の市場はアイテムの品揃えが良い。


 前回アイテム購入を行ったのは俺(300金の不足を怜華に立て替えてもらった事は黒歴史)で、小沛の市場にて知力系アイテムの「書経(ショキョウ)」を購入した。

アイテム購入は都市に商人が常駐する状態で、かつ販売可能なアイテムの在庫がある際、市場で『購入』コマンドが選択できるという仕組みだ。因みに行動力を20消費する。



 余談だが、地方によってアイテムの種類も大きく変わる。


・華北は武力系・知力系・政治系のバランスがよく、宝物系も豊富。


・中原はアイテムの質が良く、イベント発生に関連する特殊アイテムから、貴重なスキルを会得できるアイテム等、一際高価な物を扱っている都市が多い。


・リュウヒョウによって中央に引けを取らない文化大国となった荊州なんかは、知力系アイテムばかりが目立つ。ショカツリョウの師匠である “よいぞよいぞ先生” の初期配置も荊州だ。


・西涼、西平、天水といった西北の辺境は、遊牧騎馬民族が多いという歴史上、撤退成功率100%となる軍馬系アイテムが殆どを占める。あとはちょっとした武器アイテム。


・孫呉の本拠地である揚州一帯も華北と似たようなもので、能力up系のアイテムがバランスよく売られている。中でも「水軍指揮」を無条件で習得し、知力も5upする「孫子の兵法書」はマジで買い。


※軍事系スキルは習得が難しいです。特定の地域で特定の兵法Lvが4以上かつ、類似の兵法を訓練中に習得する。訓練自体も行動力を50消費する為、そう連発できるコマンドではありません。

例1「槍兵指揮」の場合

青州か兗州(エンシュウ)(場所的に中原の辺り)で「猛攻」「乱撃」「槍衾」「撹乱」「奇襲」のいずれかを訓練した時に習得(運が良ければ)。ただし「猛攻」「乱撃」「撹乱」「奇襲」のいずれかのLvが4以上。

例2「水軍指揮」の場合

揚州か荊南(荊州南部)で「水禍」を訓練した時に習得(運が良ければ)。


…………尚、呉軍またはリュウヒョウ軍以外の勢力で、「水禍」を会得している武将は殆どいない為、まず訓練すらできない事の方が多い。

呉系またはリュウヒョウ軍以外の相性値で設定されているプレイヤー武将は、都市コマンドの「会話」で数少ない会得武将との親密を上げ、「水禍」を伝授してもらおう。


つまり魏国創建時に活躍する夏侯惇や曹仁が「水軍指揮」を習得するなんて夢のまた夢であり、それこそ旧リュウヒョウ軍のヴァイキング文聘(ブンペイ)に師事でもしない限り無理。あとは文官のくせに武芸の会話が弾む謎仕様のクソ華歆とかが「水禍」を会得している。



 閑話休題。俺の問いに、怜華はうんうんと頷いて返す。


「そうだね。今回は私自身の強化をしたいかな。今、私の所持金は3,000近くあります。この殆どが、賊から巻き上げた金です。へへへ!」


「おぉ! やっぱり良いとこ獲りを繰り返すと結構貯まるな! へへへっ!」


「賊にとどめを刺すのは儲かりまんなー、へへへ! いつもありがとうよ、秋渓の旦那」


「良いってことよ、怜華のお嬢。へへへっ!」


 都市の屯所で『討伐』コマンドを実行すると、出没している賊を討伐できるのはご存知の筈。

※討伐できる賊兵の数は、実行武将の武力値に依存する。

そこで賊にとどめを刺した武将は、賊が蓄えていた金の殆どを戦利品として獲得できるのだが、俺の後に行動する怜華は壊滅寸前の賊に出くわす回数が多く、とどめを刺す機会も多かった。


 これは必然的な結果でもあるし、俺が狙ってそうさせたのもある。

頭領の俺は、放浪軍の拠点である酒家に戻って『出金』コマンドを行えば、行動力を10消費して放浪軍の資金を自分の財布に加える事ができる。

つまり、使用頻度が極端に少ない放浪軍の財布は俺の財布も同じであり、放浪軍によって滅ぼされる予定にある正規勢力および支配都市は、ただの金のなる木に他ならない。


「幾つかの都市を攻め落とした結果、放浪軍の保有する金は28,763と潤沢なほど。ならば簡単に大金を用意できる俺より、軍師として必要に応じた出費がありそうな怜華に沢山の金を得る機会を与えるのは当然だ」


「……なら、その気遣いに応えなきゃね。ちょっと待ってて」


 言うや否や、怜華は商店の中へと足を踏み入れた。


 彼女の買い物を、俺は腹筋しながら待つことにした。

何せレディの買い物は長い。男が粗方見終わって女を忘れて帰り、家に帰った後で女を忘れた事を思い出して店に戻っても、まだ買い物をしていた……という話だってある。


「腹筋フンフン(ノ`△´)ノ!! 腹筋フンフン(ノ`△´)ノ!! 時々醤油を垂らして腹筋フンフン(ノ`△´)ノ!! 塩も良かれど味噌がヨロシ!! 腹筋フンフン(ノ`△´)ノ!!」


 古来より、買い物には戦士の筋肉が必須とされる。まぁ荷物持ちだ。感動的だな。


 俺は出番が来るその時を、上半身裸の調味料戦士として待ちわびた。

買い物中のレディを忘れない方法として、まず帰らない事が第一。ならば帰らない様に筋トレをするのが第一。つまり第一は筋トレであり帰らない事は第……一だった気がするがよく解らなくなってきた。哲学は専門外なのだ。


 兎に角、俺は待った。秒に数十回の腹筋を嗜み、筋肉の唸りが更なる筋肉となる時まで。


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