旅立ちⅡ
「広くなくていいから3カ月借りれる土地ないですかね?」
ガイラさんから冒険者を学ぶことを決めた俺は、一度狩人組合を出て宿を取ることにした。
しかし、村での快適な生活に慣れてしまった身体は、高い宿程度では休まりそうになく。部屋を取った後、すぐに狩人組合に戻ってガイラさんに相談することになった。
「その宿、この街では最高クラスなんだがな……。いっぺんお前の村を見に行ってみたくなったよ」
呆れた表情でガイラさんは俺を見る。
最高クラスの宿借りたけど居心地悪いから家作るスペースないか? なんて言われたのだから呆れで済んでいるガイラさんはなかなかに出来た人間だ。
「土地はあるだろうが、管理してる事務所はもう閉まる頃だから今日は無理だぞ?」
街規模にもなると土地の管理などは街長の手を離れていて、街に事務所を構える領主様直属の役人が土地の売り買い、不動産事業みたいなことをしている。どの事務所も例外なく、領主様に直接雇われたという高いプライドから客を見下し、決められた事しか出来ないので融通が利かず、日暮れ前には事務所を閉める、うちの村の役所よりよっぽどお役所仕事という言葉が似合うところだ。
「じゃあ、今日のところは宿で過ごすことにして明日土地探します」
「んー、どれくらいの土地が必要なんだ?」
「三カ月住む小屋を建てるだけなので広くなくていいです、|ここ(狩人組合)の馬繋場の半分もあれば」
「それくらいだったら俺んちの庭にスペースがあるな。家で相談しなきゃねぇだろうから結局明日になるがどうする?」
「本当ですか? ならご家族が大丈夫でしたら是非」
俺がそう言うとガイラさんは笑って頷いた後、「明日、朝の鐘が鳴った後でここに来い」と言ってから「さっさと身体に合わねぇ街一番の高級宿に帰れ」と笑いながら俺を追い出した。
街規模にもなると時間を知らせる為に鐘を鳴らす鐘突き人がいて、日が東にある山の頂きの上に昇った頃。日が空に一番高く上がる頃。西の森に橙の日の半分が隠れた頃。と1日に三回鐘を鳴らす。 村では日の出イコール朝だったので初めてこの事を聞いた時、「街では朝ゆとりがあるんだなぁ」と関心したものだ。
俺はガイラさんに追い出されてから真っ直ぐ宿に戻り、寝苦しい一夜を過ごしたのだった。
◇ ◇ ◇
翌朝、鐘の音で目を覚ました俺は、すぐに準備を整えて宿を出て行く。朝食の代金も払っていたのだがメニューが麦粥と聞いて食べることなく宿を出ること決めた。どんな味付けされてもあれは好きになれない。
足早に狩人組合に向かうと組合の中は昨日の閑散としていた雰囲気が嘘のように賑やかだった。
受付は来る人来る人に番号の書かれた木の板を渡しているのが見えた。これは相当時間がかかりそうだ。
ゲンナリしながら俺が受付に並ぼうとすると職員用の扉から計ったようにガイラさんが現れた。
「オズワルド、遅かったな」
「おはようございます、ガイラさん」
「庭の話だが、ウチのやつの許可がおりたぜ」
「本当ですか」
ガイラさんは今日忙しいらしく、家の場所を口頭で俺に伝えると「あとはウチのやつに言ってあるから」と言って扉の奥へ帰って行った。
俺は言われた順路を頭の中で復唱しながら、街の中をキョロキョロして歩く。ガイラさんの家族に挨拶して、借りれる場所を確認したら必要なものを買いに行かなければいけないので店を探しながら歩いているのだ。傍からみたら完全な田舎者だが実際田舎者なので他人の目はこの際無視する。
民家の区画に入ってからは、よそ見もせずにガイラさんの家を目指したので到着したのはすぐだった。周囲の民家に比べて大きな家、その家を囲う柵は家から少し距離があり広い庭がそれだけで想像できるほどだ。所長やってるくらいだからそこそこ広いと思ってきたが、予想を少しばかり上回る広さだ。
やばい、軽い気持ちで来たけど緊張してきた。手ぶらで来るんじゃなかったなぁ、今からでも何か買いに戻るか。せめてガイラさん本人がいてくれれば緊張もなく入れたのに。
俺は菓子折りを買って出直そうと踵を返した。すると、背後から声がかかる。
「オズワルドさん、迷わず来れたのですね。そんなところにいないで入ってきてください」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこには昨日魔法で若た返っ受付にいた女性が立っていた。
「昨日はきちんと挨拶してませんでしたね。改めてガイラの妻、ココットです」
「マジで?」
「マジです」
◇ ◇ ◇
ココットさんと簡単な挨拶を済ませた俺は、借りれるという庭のスペースに案内された。
スペースは1Kくらいの小屋を作るには十分広く、「本当にここでいいの?」と心配するココットさんに「お借りします」と強く頭を下げた。
元々は畑だったらしいのだが、畑仕事をしていたガイラさんの父親が4年前に腰を痛めてそれ以降放っておかれたスペースだそうで、畑がなくなってから誰も近づくこともなかったからどんなものが建っても邪魔になることはないそうだ。
家にはココットさんとガイラさん、ガイラさんの父親の他にガイラさんとココットさんの13歳の息子と10歳の娘が住んでいるらしい。今夜は夕食に招いてくれるという話なのでその時に挨拶することになるだろう。ちなみに、娘はもう一人いるらしいが3年前に成人してから夢を追いかけて出て行ったとか。
案内してくれたココットさんがまだ後ろでこちらを見ているが、俺は気にすることなく地面に手を当てた。家づくりは慣れたものだったが、細かい手直しを他の人に任せていたのでいつもより細かいところまでイメージして魔法を発動すると、ゆっくりと大地がせり上がり形を変え赤レンガの壁の小さな小屋をつくり出した。
「やはりすごいですね、オズワルドさんの恩恵の力は……」
振り返るとココットさんが目を丸くして驚いている。
「本当に万能ってわけでもないんですけどね」
今回の家を建てるのにもレンガを生み出す為に材料になる石灰や鉄などを地下の広い範囲から引っ張り出してきてそれを魔法で加工して作った。
無からなにかを生み出すことは出来ない。時間に関与することは出来ない。空間に関与することは出来ない。命を作ることができない。これが俺が現在わかっている魔法の制限だ。
家を建てた後、木材と木綿などの材料を大量に買ってきた俺は、まずベットを作った。
ベットは昨日泊まった高級宿のものと比べものにならないほどフカフカのもの。やはりこれくらいでないと安眠できない。
その後でトイレと風呂を作る。トイレは地下水道とまではいかないが水で流れて、その先に巨大な空洞を作りそこにたまる様に作った。ここのトイレからしかたまることはないのだがつい癖で村単位で使っても50年は満タンにならないだろう空洞を作ってしまった。
風呂はさすがに湯船を作るスペースはなかったので村の公衆浴場と同じように、魔法で引っ張ってきた温泉が筒から出続けるシャワールームのような感じに作った。うまい具合に穴の調整ができずシャワーというより打たせ湯のようになったがまぁいいだろう。
しばらく集中して、細かな修正や、部屋の飾りつけなどをしていると外から大きな声が聞こえてきた。
「こんな立派な小屋1日で作ったのかよ……。おい! オズワルド! 晩飯に呼びに来たぞ!」
ガイラさんの声だ。
魔法で明るくして作業していたので気が付かなかったが、窓から外を見るとすでに日が落ちていた。
俺は大きな声で「すぐに行く」と返事をしてから急いで身だしなみを整えてガイラさん達の家へと向かって行った。




