旅立ちⅠ
村を出る以上なにをするにしても身分証が必要になる。一番手っ取り早い入手方法は狩人組合に登録してしまうことだ。
今、俺は街へ向かって全力で飛び続けている。村を出て30分も立っていないがもう街が見えてきている。
俺は街からほんの少し離れた位置で地上に降りてから歩いて街の門を通った。
門で入場の手続きをしたときに門番に狩人組合に登録にきたことを話すと丁寧に組合の建物への地図を書いてくれたので、俺は迷うことなく狩人組合の建物につくことができた。
建物の中は狩人というイメージとは少し遠い感じで、清潔感のある雰囲気だったこと驚いた。時間が中途半端なこともあってか受付に一人女性がいるだけで他には誰もいない。
「すみません、登録をお願いしたいのですが」
「ご登録ですね。どちらの御出身でしょうか?」
村の名前を答えると、受付の女性は1枚の紙を机の上に置いた。
「こちらに名前など記入して頂きたいんですが、代筆は必要ですか?」
「字は書けるので大丈夫です」
項目は名前、現在の歳、出身、恩恵と少なかったのですぐに書き終えて受付の女性に提出した。
「出来ました」
「はい、お預かりしますね。えーと……すみません、こちらの恩恵なんですが」
「あっはい、未知の恩恵です。でも俺使えるんで大丈夫です」
「は、はぁ……。かしこまりました。では少々お待ちください」
困惑した表情で受付の女性が記入した用紙をもってどこかへ向かう。しばらくすると受付の女性は厳つい男を連れて戻ってきた。
「お前が未知の恩恵を使えるってやつか?」
「そうですが。失礼ですがどちら様でしょうか?」
「俺はここの責任者のガイラだ」
「そうでしたか。初めましてオズワルドと申します」
それなりに丁寧に対応すると責任者を名乗る厳つい男は少し気が抜けたようになる。
「なんだたまに来る頭のおかしなやつかと思ったら嫌に丁寧なやつだな」
「これでも今日までは村の長ですから、狩人組合と仲違いなんてしたくありませんのでね」
そう答えるとガイラはどこか納得したような表情で頷いて見せた。
「なるほど。お前が噂の村長か。あんたんとこの外套は俺も使ってる」
「それはありがとうございます」
「そんな話をするためにきたんじゃねぇんだがな……。まぁいいや、あんたの噂は聞いてるが噂が現実離れしすぎててどこまでが本当かわかんねぇ。わりぃが俺にその恩恵の力ってやつを見せてくれねぇか?」
「それは構いませんけど、何をすればよいんでしょうか?」
「何が出来るんだ?」
「無理なこともそれなりにありますが、なんでもできると思いますよ?」
「ほぉ? 例えば、そうだな……こいつを若返らせるとかはどうだ?」
ガイラはそういうと先ほどから困惑しながらもこの場にいた受付の女性の背中を軽く叩いた。
受付の女性は三十台半ばくらいって感じの見た目だ、目に見えて若返らせるとなれば18歳くらいの容姿が妥当だろうか。俺は「失礼」と言って女性の肩に触れて魔法を発動させる。
「マジか……」
ガイラはそう言いながら何度も目を擦って確認している。一瞬の間に女性は17歳くらいへと姿を変えていたのだ。
女性本人も驚きながら身体のあちこちをペタペタと触り確認している。
「これでいいですかね? 戻しますよ?」
そう言って若返った女性に手を伸ばそうとすると――
「いえ、それには及びません。こちらがオズワルド様の狩人証明書になります。私の上司が御手を煩わせてしまい申し訳ありませんでした、その罰として私はこのままでいようと思うのですが効果に時間制限などあるのでしょうか?」
女性はその手を避けて早口でそう言って、俺にハガキほどの大きさの紙を押し付けるように渡してくる。
その態度に驚きながらも女性が目で威圧してくるので俺は質問に答えた。
「えっと……そこからまた成長し直す感じになりますね。ただ寿命が若返った分延びるわけじゃないのでそれだけ注意して頂ければ」
「わかりました。では私はこれで」
そう言うと若返った女性は軽い足取りで外に向かって歩き出し、一度振り返って――
「所長の所為でこうなってしまったので私は早退します、所長受付お願いしますね」
「あの不便なら戻しますが――」
「いえ、オズワルド様にご迷惑はおかけしません。それでは失礼します」
そう言って外へと出て行った。
身分証も手に入ったので俺もここにもう用が無い。固まったままのガイラを放置してこのまま組合を出て行こうかとも思ったが、一応声をかけておくことにする。
「あのー」
「ハッ! ……す、すまねぇ、簡単にあんなことしちまうもんだから驚いちまった」
自分の頬を両手で叩いてから顔を左右に振る仕草をしてからガイラは真剣な顔で話しかけてくる。
「狩人証明書は受け取ったみたいだな。知ってると思うが登録した内容は狩人組合の外にも広まっていく、お偉方への情報開示は義務だからな」
「構いませんよ。すでに領主様には話がいってますし」
「そうか、で? 明日からでいいのか?」
「なにがですか?」
ガイラの質問に対して俺は心当たりが全くなく首を傾げた。
「狩人教育を受けるんじゃないのか?」
「あぁ、俺は受けなくて大丈夫です」
「まぁ必要ないか、あの村の若村長は現実離れした能力以外にも頭脳明晰で有名だからな」
そんな風に噂になっていたことに驚いたが、表情には驚きよりも照れが強くでた。
そんな俺を見ながらガイラは話を続ける。
「じゃあもう村に帰るのか?」
「……実は」
俺はザックリとであるが村から出たこと、もう帰るつもりもないこと、帝国に向かってダンジョンに入ってみようと思ってることをガイラに話した。
「つまり家出ならぬ村出した村長さんは、冒険者を目指して帝国へ向かうのか」
「冒険者?」
聞きなれない言葉を聞き返すとガイラはやや得意げに話し始めた。
「冒険者ってのはダンジョンを入るやつらのことさ。狩人組合みたいなもんで冒険者ギルドって言ってな? 狩人は食う為生きるために魔物を狩る者だとしたら、冒険者ってのは夢や浪漫を追ってモンスターと戦う者ってとこだ」
ガイラの話はどんどん熱を上げていった。冒険者のランクの話、魔物とモンスターの違い、英雄的な冒険者の話、ダンジョンの話。厳ついなりのオッサンがまるで子供のように目を輝かせて話続ける。
「おっと、すまねぇ話すぎた」
「いえ、いい話を聞かせてもらいました。憧れてたんですね」
「ところでダンジョンを目指すんだったな」
「えぇそのつもりです」
「ならここで下積みしていかねぇか?」
「はい?」
「狩人ほど本格的な教材は用意できねぇが俺が冒険者教育としてやる。狩人組合と冒険者ギルドは兄弟みたいなもんでな、支所とはいっても責任者の俺の推薦があれば3級くらいから冒険者が始められるぜ?」
俺は先ほどガイラの話に出てきた冒険者のランクの話を思い出していた。冒険者は通常の場合、登録すると1級から始まり功績を立てるとごとに2級、3級と上がっていくものらしく。ダンジョンの難易度によってランク制限されていて、簡単なダンジョンに入るにも最低3級まで上げる必要があると言うことだ。
「強制するつもりはねぇがしばらくはこの街にいたほうがいいだろ?」
俺としてはすぐにでも帝国に行きたかった。しかしガイラの話を聞きながら冷静になって考えてみると、準備はしてきたとはいえもし村に何かあった場合に、誰かが俺を訪ねて街に来ることもあるだろう。せっかくあそこまで発展したのに俺が離れた途端に破綻していくなんてことあってはならない。
「3カ月」
「ん?」
「俺がこの街に滞在する期間です。その間に冒険者の教育、お願いできますか?」
ガイラは笑って俺に手を差し出してくる。
「若村長さんは賢いから3カ月もいらないかも知れないな」
「オズワルドです。所長さん」
「ガイラだ」
俺達はがっちりと握手を交わした。




