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はじまり Ⅴ

 ある日の夕暮れ時、隣村からの使者が駆け込んできた。

 隣領の村が貧困に耐えかねて、村人達が山賊になりこの近くの村を襲ったらしい。

 すでに領主様には使いが出ていてすぐにでも討伐隊が組織されるだろうが気を付けるようにとのことだった。


「わざわざありがとう、このまま村に帰るのか? それとも騒ぎが収まるまでこの村にいるか?」


 そう聞くと、隣村からの使者は村には家族がいるので帰ると言うので、俺が一人で送ることにした。

 理由はこれを口実に村を出てその盗賊を探すためだ。盗賊になった理由が本当にその通りならば是非我が村に勧誘したい。

 しかし、こんな頑丈そうな外壁に囲まれた村を襲うのはなりたての盗賊では無理だろう、きっとうちの村には来ない。


 使者を隣村まで送った俺は使者が「盗賊が出るので今夜は泊まって行ってください」というのを断って村を出ると、魔法を使い盗賊を探す。

 人が密集している場所で、集落のない場所。

 反応があったのは森の中だった。すでに夜、こんな時間に大勢で森の中にいるんだ、間違いないだろう。そして、都合がいいことに集団の一部がここに向かって移動しているのを察知できた。

 俺はそこまで魔法で空を飛んでこちらに向かってくる集団のところへと向かった。

 

 しばらく飛んでいると、松明の明かりがいくつも見えてきた。盗賊達だ。

 俺はその先頭の男の前にゆっくり降りていく。先頭の男は周囲を警戒していて空から降りてくる俺に全く気が付かなかった。


「止まれ」

「ヒッ、なんだあんたいつの間に現れた」


 荒事に慣れてないような印象のする男は俺を見るなり、大きく後ろに下がった。


「おい、なんだ!」

「なにがあった!?」

「と、突然人が現れたんだ」

「何だとぉ?」


 盗賊達が会話を終えると強面でガタイのいい男が俺の前まで歩いてきた、おそらくリーダーなんだろう。


「てめぇなにもんだ!?」

「俺はこの先にある村の村長をやっているものだ」


 俺は自分の村の方角を指差した。


「あの壁に囲まれたおかしな村か!」


 おかしな村と呼ばれて少し腹が立ったがここは我慢して話を続けることにした。


「その通りだ」

「こりゃあツイてるぜ。この先の村を襲おうと思ってたがどう見ても貧乏な村だったからな。てめぇを人質にしてあのおかしな村に行った方がいいもんにありつけそうだ」

「まぁまぁ落ち着いてくれ。一つ提案しにきたのだが、お前ら貧乏で村を捨ててきたやつらなんだろう? 俺の村に住むつもりはないか? 人手が足りなくてな、お前ら全員に森の奥に残っているやつらを足してもまだ足りないくらいだ。当面の面倒もみてやる、どうだ?」

「確かに俺達は貧しくて村を捨てて逃げてきた。だがな! 人を襲って働かずに食っている今の性分が合ってるんだよ。おい、こいつを殺さない程度に痛めつけて縛っておけ」


 リーダーの男がそう言うと俺を取り囲むように数人の男達が動き出す。

 俺はその男達を見回してから。 


「そうか……残念だ」


 そう告げて、俺を取り囲む男達を含むその場にいる全員の盗賊を魔法で空に浮かばせた。


「な、なんだこれはっ!?」

「ヒッ、ととと、飛んでる」


 驚きの声をあげてどんどん高くへと飛んでいく盗賊達を追いかける様に俺も空を飛び、リーダーの男に告げる。


「全員この高さから落ちてもらう。まぁ落ちたところで下は森だ、木に引っかかって生き残るやつが少しはいるかもしれないがな」


 そう言って雲と並ぶ高さで盗賊達の上昇を止めた。


「ば、馬鹿言うな! この高さで生き残れるわけねぇだろうが」

「そうか? まぁどの道、痛みはないさ。落ちてる途中で気絶できるらしいからな」

「待て、待ちやがれ!」

「心配しなくても森の奥に残ってるやつらの場所もすぐに同じ場所に送ってやるよ。同じ方法でな」


 俺がそう言うとリーダー含むまだ気を失ってない盗賊達は更に慌てふためく。


「森に残ってる連中だけは助けてくれ!」

「なぜだ」

「あそこにいるのは俺達が盗賊で食料を調達していること知らない女子供と年寄りしかいない。狩りをしてそれを売った対価で食料や衣類を買ってきてると信じてるやつらなんだ」

「ではなぜ俺の村への移民を断った」

「仲間には勢いあまって人を殺してしまったやつもいる。移民できたとしてもそいつらは処罰されてしまう。そいつらを見捨ててまで移民しようとは思わねぇ」

「……なるほど」

「だから頼む、森に残ったやつらだけは助けてくれ。俺達が死んだあとなら村に連れて行ってもらってもかまわねぇ。俺達は魔物にやられたことにしてくれるとありがてぇ」

「お前はリーダー失格だな。最初にすべて話せば俺にはそれをなんとかする手段があった。それにも拘わらず自分が負けるとわかるその時までそれを話せなかったのはお前が盗賊としてやっていけると驕っていたからだ」

「返す言葉ねぇ……」

「人を殺したのはどいつだ?」

「……」

「なんとかする手段があると言ったはずだ、答えろ」

「そいつらだ」


 俯きながらリーダーの男は数人の男を指差した。


「わかった。とりあえず下に降りるぞ」


 俺は空に浮かべた盗賊達をゆっくりと地上に降ろして、自分も地上に降りた。

 気絶している者もすべて魔法で起こしてから俺は話始める。


「コイツら以外もだれか、森に残ってるやつに受け入れてくれる村があったと知らせに行け。夜の移動は危険だから明日迎えに来ると」


 俺が指示すると一番最初に俺を見つけた先頭を歩いていた男が数名連れてきた道を走って戻っていった。

 次に俺は人を殺したという5人に視線を向けた。5人の血の気は完全に引いている。


「確認する。人を殺したのはわざか?」


 俺の質問に怯えながらも5人は口を揃えて「わざとじゃない」と答える。

 女を襲うことと人を殺すことだけはしない、奪うのも食料と少しの衣類に限定してすべてを奪ったりはしないと決めごとがあったらしい。

 殺してしまった理由は仲間が囚われそうになり助けようとして思わず力が入ったとのことだった。が――


「2人嘘をついている」


 俺が2人の男を指差した。


「俺には話しているのが嘘か本当かわかる。お前らを空に飛ばすより簡単なことさ」


 俺がそう言うと指差された男2人はぷるぷると震え出す。

 リーダーの男も驚きながら2人に問いかけた。


「お前らどういうことだ?」

「す、すまねぇ。調子のっちまったんだ。獲物持って無抵抗な人を追いかけてるうちに調子にのっちまって殺したんだ」

「お、俺は、俺達が大変な思いをしてる時に普通に生活しているやつらが許せなかった、だから」

「どっちも救いようがないな。他の奴らはなんとかしてやるがこいつら2人は無理だ、助けようという気すら起きない」


 2人の話を聞いて唖然とするリーダーの男。


「言っておくけど。こいつら2人が人を殺した責任はお前にもある。そうだろ? 人を殺すチャンスを与えたのはお前なんだから」

「……」


 俺はこの二人をどうするのかリーダーの男に任せて、残りの3人の方を向きを変えた。


「お前たちも理由どうあれ人を殺してしまった罪がある、これはとても重い罪だ。しかしお前たちにはあの二人と違って救いようがある」


 ごくりと唾を飲み込み、自分の処遇を待つ3人に俺は続けた。


「お前たちには村の外で生活してもらう。と言ってもひどい扱いはしない。猟区である森への入り口に小屋を建ててそこで生活してもらう、仕事は主に森の様子の観察と村の狩人の支援。毎日交代で決められた道を日に3度巡回する仕事、そしてその間に狩人が休憩にきたらもてなし、狩人が人手が足りないと言えば手伝う。10日に1度は別々にではあるが休暇として村への滞在を許す」


 欲しかったのは森の見張り、しかし入口とはいえ森に隣接する場所に住むのは危険と隣り合わせだ。最悪、小屋そのものが魔物に襲われるかもしれない。まぁ小屋に関しては俺が頑丈に作るけど。

 3人のうちの一人が恐る恐る手をあげて問いかけてきた。


「あ、あの、家族は村に住まわせてもらえるんですかね?」

「当たり前だろ? なんで人を殺したお前の罪をお前の家族もかぶらないといけないんだ?」


 俺がそう答えると3人は顔色を取り戻し、深々と頭を下げた。


 しばらくするとリーダーの男がこっちに戻ってきた。そして俺に頭を下げる。


「受け入れを感謝する。あの二人は俺がこの手で殺してきた」

「上に立つ者の責任か」

「あぁ……俺もこれで人殺しだ。処遇はあんたに任せる」

「そうか、ならあの3人と同じで森の入り口に住んで貰おう。詳しい話は3人に聞け」

「わかった……。それと、あんた――」

「オズワルドだ」

「オズワルドさん――」

「気持ちわりぃから呼び捨てにしてくれ」

「あ? あぁわかった。オズワルドのその不思議な力はどんなことでも出来るのか」

「ん? まぁ大体はそうだな」


 そう答えるとリーダーの男は土下座を始める。

 急に土下座をされて俺が驚いているとリーダーの男が大きな声で懇願してきた。


「頼む、村の仲間を救ってくれ。元々俺達が村を出た理由は村で病が流行したことで領主に支援を打ち切られたからなんだ」


 リーダーの男の話を簡単にすると、感染はしない風土病のようなものがこの男の村には昔からあった。しかし突然その病が流行し、村人の大半がその病に侵された。

 その病は、程度によっては死に至ることもあるという。村を捨てて出てから既に病で5人の子供が死んだそうだ。


「流行した原因が不明。いやそもそも病の原因すら不明なのか。普通の治療院や薬師ではお手上げだろうな」

「あぁ、移民したくても病気を理由に移民も断られ続けて……」

「まぁだからと言って盗賊はないけどな」

「返す言葉もない」

「よし行くぞ、案内しろ」


 俺がそう言うと、リーダーの男は呆けた表情をする。


「行くってどこに?」

「お前らの仲間の場所だよ。今の話流れなら治しにいくに決まってるだろう?」

「治せるのか!?」

「俺は魔法使いだからな」


 魔法使いという言葉が理解できなかったリーダーの男は首を傾げたが、俺に希望を見出せたようですぐに来た道を戻り始めると「こちらです」と何度も振り返りながら俺を急かすように先導するのだった。



 ◇◇◇



 リーダーの男ことカシンの案内で俺は森の奥にある拓けた場所まで歩いてきた。

 この開けた場所で火を絶やさなければ、この辺りの魔物ならほとんど襲ってくることはないだろう。

 そんなことを考えながら大きなテントのようなものの中へと案内されるがままに入った。


 中では具合悪そうに汗を流して横になっている人達がぎゅうぎゅう詰めになっていた。

 人数まではわからないがパッと見た感じ苦しそうにしているのは子供が多いようだ。


 治療に当たっていたカシン達の村の元治療師から話を聞くと。この病の症状は発熱、頭痛、腹痛。ここにいる程度の軽い人達は我慢できるくらいの症状らしい。「症状の重い人はどこに」と聞くとみんな死んだと言われた。


「ではこの中で一番症状の重い人を教えてくれないか? その人を治してみてからペースを考えたい」


 怪我の治療は何度もやったが病気の治療は数える程度だし人数が人数だ。1人当たりの消費魔力が知りたい。

 魔力はあれからインフレレベルに増えたので基準となる魔法を決めてその1発を1と表示するように変えた。そんな俺の今の魔力値は最大3590、現在2308だ。大人数を空に飛ばして、上空でしばらく会話してたのでかなり減っている。


「待ってください、治せるんですか? 原因もわかっていない病気ですよ?」


 俺の言葉に元治療師が驚く、まぁ無理はないだろう。

 しかし俺の場合、原因なんて関係ない。人が魔法を受けて体内のどこにも異常がなくなり元気になるイメージ、それだけでいいのだから。


「大丈夫です、それより早く教えてくれませんか?」


 俺の言葉に戸惑いながらも頷いた元治療師は、すぐ近くで寝ている小さな女の子の側に座って背中をささえ身体を起こした。


「この子です」


 寝ているようだが、顔は赤く、息も荒い。俺はその子の額に手を当てる。掌に人の体温とは思えないほどの熱を感じた、逆に女の子は俺の手が冷たくて気持ちいいのか寝ながらではあるが少しだけ表情が和らいだ気がする。

 俺はそのままの体勢で目を閉じ、治療のイメージを開始する。10秒、いや20秒くらいだろうか、彼女の寝顔が苦しみから解放された。消費した魔力量は10。思ったより減らなかった、これなら全員すぐに治せる。

 俺が女の子の額から手を離すと元治療師は信じられないものをみたという驚愕の表情をしていた。すぐさま女の子の額に手を当てたり、胸に耳を当てたりして、更に驚く。


「そんな、本当に治ってる」


 元治療師のその声にテントの隅で邪魔しないように立っていたカシンが俺に対して涙ながらに深々と頭をさげた。


「入口の方から治していくから治った大人はここから出て行ってくれ、奥まで歩いて行けない。治した子供はそのまま寝かせておいてほしい」


 そう言って俺は出入り口に近い場所にいるものから順に治して、テントのスペースを広げていった。

 半分くらい治療が終わる頃テントの中はすごく広々として見える、一体どれくらい治療したのだろうか……。そんなことを考え一息だけついた俺はその後も治療を続けていった。

 全員の治療終わる頃、時間はきっと日付は翌日のものになっていただろう。村には出てくるときに親父には遅くなる、もしかしたら朝に帰るかもと伝えていたので心配はしていないだろう。


「ようやく終わったな」


 満足気にそう言う俺の横では元治療師とカシン、そして子供の親などが泣きながら何度も何度も深く頭をさげて礼を言っている。

 疲れたのでそれを止めさせる気力もなく、片手をあげてその礼に答えるだけしていた。


 その日は俺もその場で野宿をした。飛んでで帰ってもよかったのだが、どうせ迎えにまたこなきゃいけなかったので面倒になったのだ。

 朝起きたら病気が治っていた子供達は大騒ぎと、日の光でマジマジとみた俺の顔がまだ子供だったことでの大人達は驚きの声をあげて今日は朝から騒がしかった。


 この場所からウチの村までは直線距離なら遠くはないが、足場の悪い山道で魔物もでる。

 なので大きく迂回して移動することになったのだが。大人数なので何度も休憩を取り、休憩のたびに人数確認しないと誰かしらいなくなっている。

 朝から普通に歩いても昼前につくはずの距離の村に、俺達がついたのは夕暮れ時だった。


 すぐに役所から人を呼び、人数の多い家族を優先して空き家に、一人身は集合住居に、親のいない子どもは教会へと案内されていった。

 各家族の代表にはその場に残ってもらい詳しい家族構成を教えてもらいそれをメモしていく。そして今日中に公衆浴場を利用することと今日のところは食堂に食事を用意して貰える様に手配するので役所の人間に従うようにと告げてその場で解散した。


 色々あったが無事村人を増やすことに成功した。俺は家族構成をメモしたもの眺めながら、誰にどの仕事を振ろうかとニヤニヤしながら自宅に帰った。

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