はじまり Ⅳ
モームの改造と牧場作りから3カ月たった。
俺は村に新たにできた役所の中にある村長室で椅子に座っている。
先月、税の徴収にきた領主様の使いがこの村の変わりように驚き、前村長から何があったのか聞いたところ、未知の恩恵を使いこなす若者がやったと正直に答えたそうだ。
それから数日で領主様から前村長宛に手紙が届いた。内容はいつになるかわからないが時間が出来たら直々に視察に行くということ、そして「短期間でそれだけ村を豊かにできる人間がなぜ上の立場にないのか、すぐにでも村長を変わるべきであろう」という一文が書かれていた。
代々村長の家系にあった前村長は領主様の指示をすぐに受け入れられず、村人達と話し合って決めると手紙を運んできた使者に告げた。
すると使者はその場に自分も立ち会うと宣言してきた。なんでも使者は領主様の腹心の部下の一人だったらしい。
使者を交えた村の大人達の話し合いには当事者でもあるので俺も参加した。ただ始まる前に前村長に「余計なことを言わず黙って話を聞いるだけでいい」というようなことをやんわりと諭すように言われたので黙ってその場にいるだけだった。
話し合いが始まると村長は最近の村で起こった出来事を聞きたいと明らかに本筋と違う話をしようとしたが、大人達は口を揃えて「俺のおかげで暮らしが豊かになった」と話し始めた。
そんな中でケリィの父親が冗談で言った一言が場を一層盛り上がらせることになる。
「許可欲しい許可欲しいって村長いつもオズ坊に捕まってたよなぁ。あれみて俺、オズ坊が村長だったら今より早く村の開発が進んじまって街にでもなるんじゃねぇかって思ったぜ」
「ははは、そりゃあいいな。オズワルドが村長か、はははは」
「よっオズワルド村長、あっはっはっは」
酒が入っていないとは思えないほど盛り上がっている。そしてそんな騒がしい場で3人だけが静かだった、俺と冷静な表情で何かを考える使者と顔を青くしている村長だ。
しばらく笑い声が止まなかったが、突然使者が立ち上がると場が静まり返る。
「実は今日ここに集まっていただいたのは、領主様が村を大きく変革させ豊かにしたその少年に即刻村長にするべきである、とおっしゃったので皆さんにそれを話し合って頂く為でした」
「えっ?」
驚きの声は至る所からあがった。話していた冗談が実は本当の話だったのだ、驚きもするだろう。
しばらく大人達はみんなザワザワとしていた。そんな中、鍛冶職人のゴルマが立ち上がる。
「俺は賛成だ。村長には世話になったが村の発展を考えると話は別だ。オズワルドは賢い。それに歳に不釣り合いなほど落ち着いていて現実が見えている。まぁやってることは現実離れしてるがな……。俺は一緒に仕事してコイツになら任せられると思った」
ゴルマがそう言うとケリィの父親も立ち上がる。
「猟に出れなくなった手負いの狩人達に仕事をくれたのは他でもないオズ坊だ。俺も賛成しよう」
すると「俺も賛成」という声が大きくなり、俺と俺の親父、使者、前村長以外全員が立ち上がった。
一度全員が落ち着くのを待って使者が俺の方を向く。
「どうかな? 君にやれるかい?」
「こんなに言ってもらってるんだから引き受けます。でも条件が一つ」
「条件?」
「俺、村から出たことないし世間どころか世界を知らないと思うんですよ。だから今街で勉強してる俺と同い年のやつらが帰ってきたら俺、街に勉強に行こうと思ってるんです」
これはずっと考えていたことだ。ケリィにはもう半年待って貰うことになるけどきっと彼女なら聞き入れてくれるだろう。
「ほぅ……。君は勉強熱心なんだね」
「知りたがりの子供なだけです。えっと、だから俺が街に行ってる間の村長をディンに任せたいんだ」
「ディンっていうのは村長の息子だね? どうして彼に?」
「あいつは村長になるための勉強をいつもしていました。俺は開発とかの思い付きなら自信はあるんですけど正直内政とかはからっきしなので。それに折角俺みたいな若造に任せて貰えたんだから今の村長に頼るよりもディンに任せたいんです」
「……わかりました。領主様にはそのように伝えておきます」
そう言ってその場を使者が出て行ったことで話し合いが終わり、俺は村長になった。
村長になってからはやりたい放題している。まずはゴルマと大工のコート、ロート兄弟と協力して村の家々を木の家から石造りの家に作り替えていった。
俺が魔法で大雑把に作った家を3人に仕上げてもらう、という感じなので1日5軒というハイペースで家は作り替えられていった。
次にトイレだ。今まで汚物は肥溜めに捨て発酵させ肥料にしてきたが、今ではモーム改の牛糞があるので臭い思いをして人糞を集めておく必要はない。
なので下水道を作った。処理装置などはないので流れた先はどこか遠く海に流れていくシステムになっている。各家に水を入れるのは手動だが一応水洗トイレを導入した、肥溜めに捨てに行かなくていいから評判がいい。
次に作ったのは公衆浴場だった。村から遠くに見える火山付近にある温泉を引っ張ってきている。常に新しいお湯が流れてくるので24時間誰でも入れる。
男湯と女湯を作り、全身洗える液状石鹸もちゃんと備えている。
液状石鹸は作り方がわからなかったが、植物性100%というワードを思い出し、モームの時のように植物を改造して液状石鹸を分泌する植物を作った。
魔法は本当に便利だ。
建物だけではない。モーム改の加工体制も整ってきた。
メスは乳牛にするので加工されるのはオスだけだ。肉は食肉加工、革は衣服や道具に使う。
モーム改は妊娠から出産まで3カ月、1回の出産で2~3匹の子供を産み、年中発情期だ。子供の成長速度は現在観察中だがかなり早いペースで身体が大きくなってきている。
モーム改のメスすべてが最初の出産を終えたところで、現在の数がオス6匹、メス9匹、子供21匹。
不安的中、増えすぎだ。加工に回す人手が足りない。
今月に入ってから拠点を持たず移動しながら狩りをする狩人のパーティーが村の猟区で狩りをする許可を取りに俺のところに挨拶にきた。
その際に試作していたモーム改の革を使った外套を試験的使ってほしいと頼んで渡したところ、その評価は思った以上に高かった。
なので革の加工にも力を入れていきたいと思っているのだが、飼育員だけでいっぱいいっぱいになってしまっている。
他にもやりたいことはあるが人が足りなすぎるので先送りになっている。
どこかに集団移民の団体でもいないかな……。




