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はじまり Ⅱ

「それじゃあ、行ってくるからね」


 ケリィが俺に心配そうな表情を向けてそう告げると馬車に乗り込む。

 未知の恩恵を与えられた俺以外の5人が街へ向かう馬車だ。


「離ればなれになるのは辛いけど、俺待ってるから。それに帰ってきたらきっと驚くと思うから楽しみにしてて」


 あれからずっと笑顔を浮かべている俺のことを真っ直ぐに見れない様子の5人は、窓から手を振ることもせずそのまま馬車に揺られていった。

 馬車が見えなくなるまで見送った俺は、そのまま真っ直ぐに家へ帰った。


「ただいま」


 家に帰ると両親が驚いた顔で俺の顔を見る。


「オズ、お前街行きはどうした?」

「あぁ俺、未知の恩恵だったから行けなかったわ」


 親父の問いかけに笑顔でそう話す俺を見て、母さんは泣き崩れ、親父は強く俺を抱き締めた。


「大丈夫だ、この村にはお前を馬鹿にするような奴はいない。絶対守ってやるからな」

「親父、痛いよ。大丈夫、大丈夫。それより俺の話を聞いてよ。母さんも泣かないで」


 俺は無理やり親父を振りほどいて、二人が落ち着くのを待った。

 母さんはまだ目に涙が浮かぶようだが、このままだとかなり時間がかかりそうだったので俺は話し始めた。


「実は俺が与えられたのは魔法の恩恵っていうんだけど」

「マホー、聞いたことないな。神父様が未知とおっしゃるんだから俺達にわかるはずもないが」


 真剣な顔でそう言う親父とそれを聞いてまた泣き出しそうになる母さん。

 だから俺はすぐに続けた。


「実は俺は魔法を知ってるんだ。おかげでちゃんと恩恵の使い方は俺の頭の中に刻まれたよ」

「なんだって!?」


 親父は驚きの声をあげた。神父様ですら知らないようなことを自分の息子が知っていたのだ、その驚きは当然の物だろう。


「でも、これを自由に使える様になるまでには時間がかかるんだ」


 魔法には魔力が必要、ゲームのような話だがそういうものらしい。そして魔法を使えば使うほど魔力は増え出来ることも広がる。

 しかし今の俺の魔力は少なすぎる。魔法を使って徐々に増やしていくしかないのだ。

 なので俺は思い付きではあったが魔法の訓練の為に親父にお願いすることにした。


「親父、うちの借りてる土地に畑にならない荒地あるだろ? あそこ貸してくれないか?」

「あんな場所でなにする気だよ」

「魔法の練習だよ。闇雲にやるよりなんかに貢献した方がいいだろう? それから同じように借りてる土地に使えない荒地がある家の人にも声かけておいてほしいんだ」

「お前なにを……。いや、わかった。俺の方から声をかけておいてやる」

「ありがとう親父。しばらくいなくなるはずだったのに余計な面倒までかけて」

「気にするな。未知の恩恵与えられて追い詰められて帰ってくるよりマシだ」


 すると、ようやく理解できたらしい母さんが俺を抱き締めた。


「オズ? 誰もあなたが未知の恩恵だったからって攻める人はいないわ。だからあなたも急いで結果を出そうとしないでね」

「わかってるよ母さん。俺は焦ってなんかいない」

「ふふ、そうね。今のオズ、なんだか昔のオズみたいね。あの頃みたいにキラキラした顔してるもの」


 15歳にもなって――いや55歳にもなってか――母親に撫でられて嬉しい気持ちになった自分を恥ずかしがりながら、俺は母さんの腕からすり抜けて自分の部屋に戻った。



 ◇◇◇



 一人の部屋で、ついに俺は魔法を使う。

 魔法は想像すればそれに見合った魔力を消費して発動できる。詠唱や魔法陣みたいなものが必要ないことに少しガッカリしつつ俺は最初の魔法をイメージする。

 右手をなにかを指差すようにして、それを上に向ける。

 何度も「俺の指はロウソクだ、そしてその指先には小さな火が灯っている」と小声でつぶやきながら目を閉じて火の灯るロウソクをイメージし続ける。

 普段の自分では考えられないほど集中してイメージを続けていると、指先から熱を感じ始めた。ゆっくり目を開けると人差し指の先、ほんの少し離れた位置に小さな火が浮かんでいる。

 魔法が発動した。成功だ。

 俺はそのまま周囲を燃やさないように少しづつ火力を上げていく。更に指からどんどん離れた位置に飛ばしたりそれを戻したりとその火を動かすイメージをする。成功の喜びで集中は削がれてしまったが発動してしまえば操作するのはそれほど難しくなかった。

 動かし始めてから1分くらいした頃だろうか、火は突然消えてしまった。何度出そうとしても火は出てこない。魔力切れだ。

 魔力が切れても疲労がたまったり、体調が悪くなるといったことはないようだ。しかし残りの魔力の量が感覚では全くわからないのは問題がある。

 魔法はイメージ次第でんなことでも出来る。次に魔力が回復したら自分の魔力残量がわかるようになる魔法をやってみることにしよう。

 俺がそんなことを考えていると、扉を叩く音がした。母さんが昼ごはんに呼びに来てくれたみたいだ。

 俺は色々考えるのを辞めることして部屋を勢いよく飛び出した。



 ◇◇◇



 昼食後、一度部屋に戻った俺はもう一度火を出す魔法を使ってみた。火は最初の時より簡単に出すことができたことに少し驚きながらも、魔力が回復していることの確認も出来たので俺はその火をすぐに消した。

 そして次の魔法をイメージする。自分の魔力を数値化したものが見える様になる魔法だ。

 結局考えるのを辞めることが出来なかった俺は昼食を食べながらこの魔法のイメージを作っていた。

 数値化するとして、なにを基準に1とするか悩んだが、今の自分の最大魔力を10とすることにした。

 自分の視界に半透明なウインドウのように表示されるイメージ。自分の魔力量の最大値と現在の値を表示して、今の俺の最大値を10と定義する。

 

 実際に見たことがないものをイメージするというのは思ったより難しいことだったようで、発動するまで1時間以上がかかった。前世のゲームのイメージがなかったらもっと時間がかかったことだろう。

 ようやく発動した魔法を見ると最大10現在6と表示されている。イメージしている間にかなり回復していたようだ。

 この魔法自体は燃費がいいようでずっと発動してみているがなかなか現在の部分が5にならない。更に発動したら止める魔法を発動するまで発動し続けるイメージで作っているので、止める魔法を使うか魔力が切れるまで自動で使い続けられる。

 つまり他の魔法をイメージして使うことができるのだ。

 俺は魔力を見えている状態で火の魔法を使ってみた、指先に火が灯ると視界にある半透明なウインドウの現在の部分が5になる。そしてそのままの火を維持していると1分ほどで魔力が4になった。

 次は火力を上げて、その次は火移動させてみて。魔力が1になるまで減る量を見ながらいろいろ火を操ってみた。

 魔力が1になって火を消す。昼前に魔法を使った時より長い時間魔法を使えた、これは頭に刻まれた魔法の使い方に同じ魔法を使用していると最適化されていくとあったのでその影響だろう。

 ふとウインドウの最大の部分を見ると15となっていた。思っていた以上に魔力の上がりは早いようだ。


 魔力も少なくなった俺は魔力の表示を消して次の検証の為に太陽の位置を見た。

 この貧乏な村には時計がない。いやこの世界そもそも時計はないのかもしれないが……、とにかく時間を正確に計る手段はない。

 そこで俺は太陽の位置で大まかな時間を計り、魔力の回復速度を調べようと思ったのだ。

 太陽の位置で計れる時間はがんばっても1時間刻みだが全く分からないよりましだ。

 俺は太陽の位置をみて大体1時間立った頃に魔力を表示する魔法を使った。表示は最大15現在8。

 大体1時間で魔力が7くらい回復するのか、それとも50%くらい回復するということなのか。

 俺は回復した分を再び1まで消費した。最大値は22。そこから1時間待って再度魔力を表示すると現在12。

 どうやら魔力の回復は最大魔力量に対して割合で回復するみたいだ、これは嬉しい結果だった。


 気が付くともう日が傾いている。1日部屋の中で何かに没頭したことなんてすごく久々だった。

 なんだか充実した1日を過ごせた俺は夕食を食べ、魔力を空になるまで消費するとすぐに眠りについた。明日から使う魔法を想像しながら。



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