冒険者 Ⅴ
「もうすぐ野営地に着くわよ」
7日分という重い荷物を、魔法で重量を軽くしたこともあって俺達は、夕方に着く予定だった野営地に昼過ぎくらいに到着しそうになっていた。
「ここの野営地はダンジョンの近くってこともあってね、他のパーティーと一緒になることが多いのよ。だから気を付けてね?」
「他の冒険者とも仲良くしろってことよね?」
「違うわ。冒険者ギルドを創設した英雄レジャー=ローウンって知ってるかしら」
「もちろんよ! レジャーローウンの冒険記は注釈本や解説本も含めて全部読んだわ!」
「あらエーリナちゃんは勉強熱心ね。なら英雄の人となりはなんとなくわかると思うんだけど。彼の決めた冒険者ギルドの心得にはね? 冒険者同士で争うことを禁止する内容はまったくないのよ。曰く奪い奪われるのは世の常、この世には卑怯なんてものは存在しない、冒険者もそうあるべきだ。だからね? 例えばダンジョン内で手に入れた素材や宝を、他の誰かが殺して奪ったとしても奪われた方が注意していなかっただけ。それが冒険者なのよ」
「どんな手を使ってもという強欲こそが冒険者の力になる……」
「有名な言葉ね。別にみんながみんな殺伐としているわけではないわ、でも一度依頼に出た後は他の冒険者にも気をつけなきゃいけないの。それは同じパーティーだったとしてもね、それだけは絶対に覚えておいてね?」
会話を聞いていただけの俺の背中にも冷たいものが流れる。
自覚に欠けていたのかも知れない。この世界は前世の世界のように優しくはないのだ。
俺の表情は自然と険しいものになる。
「なに? オズワルド怖気づいたの? プププ、そんなこと登録する前からわかってたことなのに」
俺の様子に気付いたエーリナが煽りを入れてくる。
俺はそのことにイラッとしながらも、エーリナは俺よりも覚悟があって冒険者になったことに気付かされ何故だか悔しいような恥ずかしいようなそんな気持ちになった。
◇ ◇ ◇
到着した野営地には既に誰かがいる様子で、いくつかのテントが立てられていた。
「あのテントは……。ドゴスちゃんがいるのね」
どうやらメリルンの知り合いが来ているようだ。
メリルンは自分の荷物を俺達に任せて、知り合いのテントへと向かって行った。
しばらくして、メリルンが4人ほど冒険者を連れて戻ってきた。
その6人の内、メリルンの隣を歩く隻腕の強面の男が俺達を見てメリルンに話しかける。
「この二人がメリルンさんの連れですかい?」
「えぇそうよ。二人とも新人さんでね、腕には自信があるみたいだからアタシが連れてきたのよ」
「そうですかい。メリルンさんがそう言うなら俺も止めはしませんが……」
そう言って隻腕の男は頭を掻くと、俺達の顔を確認するように見てくる。
「坊主に嬢ちゃん、ここは野営地ではあるが完全安全な場所じゃねぇ、メリルンさんの言うことしっかり聞くようにな」
「は、はい……」
「わかりました……」
その迫力に俺達は震える声で返事をすることしかできなかった。
「ドゴスちゃん。アナタ顔が怖いんだから少し気を付けてあげなきゃ可哀想でしょ?」
「すいやせん生まれつきなもんで……。悪かったな坊主に嬢ちゃん」
ドゴスは俺達に謝った後で、自分も新人からの依頼で護衛兼依頼の代理受注で来たと話しながら新人らしい3人の冒険者を俺達に紹介してくれた。
男3人の新人パーティーはよく代理受注でモンスター狩りをしているらしく。先輩というよりは少し偉そうな態度で俺達に接してきた。
ドゴスを含む4人は挨拶が終わると自分達のテントの方へと戻っていく。
それを見送ってからメリルンは真剣な顔で聞いてきた。
「どうする? アタシ達もここで野営の準備を始める?」
「俺は反対だな。ドゴスさんは信用できるかも知れないけど、あいつらは信用できない。特にエーリナを見る視線が」
「そう? 私はここでもいいと思うけど。イヤらしい視線で見られたのは確かだけど、ここでなんとか出来るとも思わないし」
「そうね。普通の場合ならエーリナの意見をアタシも推すわね」
「ってことはメリルンはオズワルドと同じ意見なの? また歩いて違う野営地にいくとか嫌なんだけど」
その場に座り込むエーリナを笑いながら見たメリルンは、その表情を微笑に変えながら俺の方に向きなおす。
「オズワルドちゃんは、もちろん考えがあって言ったんでしょ?」
微かに獲物を見るような目をするメリルンに俺は頷いて見せる。
「ここまで拓けてなくてもいいからそれなりに広い場所、この辺りにないかな?」
「心当たりは数か所あるわね」
「じゃあその中で一番近い場所に行こう」
俺は、まだ座り込んでいるエーリナを無理やり引っ張りながらメリルンの案内する場所へと移動した。
そして俺はメリルンにエーリナを任せてから、野営の作業を開始する。
まずは普通にテントを張る、そしてテントの下に大きな穴を作って、その先に空洞を造る。
天井が崩れないようにしっかりと造った空洞に、今度はいくつかの壁を作って区切っていき、 出来上がったのは地下居住区。部屋は4部屋、3部屋が寝室で1部屋が食事やミーティングなどに使えるようなフリースペース。ドアはないが壁で区切られてるだけども十分だろう、と自分に言い聞かせ、最後に石でテーブルと椅子を作って完成ということにした。
完成して2人を呼びにテントを出ると、2人は先ほどのパーティーの男2人と話しをしていた。
俺が呼ぶと、メリルンが男2人を追い返して、俺の方へと歩いてくる。
「アレは?」
振り返りながら去っていく男2人を指差して俺が聞くと、メリルンがウンザリという表情をする。
表向きには心配するようなことを言って野営地に連れ戻そうとしてきたらしいがその顔は欲望にまみれていて。何度言っても食い下がってきて相手するのも疲れたそうだ。
「さすがに私もあそこに戻ろうとは思わなくなったわ」
「全くよ、アタシも罪な女よね」
「……」
ツッコんじゃいけない、それが生き残る術だ。
気を取り直して完成した地下居住区に2人を招き入れると、メリルンは「まぁ」と嬉しそうな顔になり、エーリナは目を丸くして驚いていた。
「……なによこれ」
「俺の恩恵の力だな」
「うそ、空飛ぶ恩恵でしょ?」
「あら、空も飛べるのね。すごいじゃないの、今度アタシもお空に連れてってー」
まだ口をパクパクとしてなにか言いたげにしているエーリナを無視して俺は説明を続ける。
「一応、テントに俺達以外が近寄れないようにはしておいたんだけど完璧ってわけじゃない。だから見張りは予定してた順番で」
「わかったわ。確認しておくけど最初がエーリナちゃんで次がアタシ。最後がオズワルドちゃんの順番ね」
確認を終えた後、俺とメリルンはまだ硬直しているエーリナを無視してそれぞれ自分の部屋を選び荷物を解き準備を始めた。明日、モンスターと戦う、その準備を。




