冒険者 Ⅱ
「私の店って……まぁ確かに店だけどさ」
「うふふ。いいでしょ? さぁいいことしましょう。サービスするわよ」
外見美少女にオカマ特有の声を持つ男の娘に連れられてたどり着いたのは、黒い布で覆われた小さな部屋だった。部屋は中心に小さな机とそれを挟んで対面で座る様に設置された椅子、そして机の上には水晶が置かれていた。
そこはまるで――
「まるで占いの店って思った? ぴんぽーん。正解者にはぁーアタシの熱いチューを」
「遠慮しときます」
キス顔に少しだけドキッとしてしまった自分が怖い。しかし本当にカワイイ顔をして、メイクも自分の顔をよく知っていてより可愛らしく見えるようになっている。それにオカマ特有のアレがない。
「どうしたの? アタシの顔じろじろ見ちゃって? やっぱりチューしてほしかったの?」
「いや、あれがないなぁって。俺のイメージするそう言う声の人には絶対にある。カビというか青のりというか」
「アオヒゲのこと? あるわけないじゃないのよ! あんなの生やしてるのは三流よ! 本当にかわいく綺麗により女性らしく見せたかったら抜くのよ! 1本1本、例え口の周りが血まみれになろうとも!」
なんだか知らないけど熱が入った意見を貰ってしまった。話題を振ったのは俺だけど愛想笑いでしか返せない。少し強引に話題を変える必要があるな。
「それでいいこと? ってのは占いのこと?」
「そうよー。あなた暇そうにしていたし、それに……まぁいいわ。お代は貰わないからなんでも聞いて頂戴? その代わり答えのでないこともあるの、その時はお代はいらないわ」
そう言って男の娘は椅子に座り、対面の椅子に座る様に俺に促した。
促されるまま座ったはいいが、さて何を占ってもらおうか。大半のことは魔法で知ることが出来てしまうそれでは占いを楽しめない。となると俺の魔法が関与できない時間、未来に関する質問なんていうのはどうだろうか。俺がこの先知りたいこと……。
「実は俺、ダンジョンに潜って見たくて冒険者になるためにこの大陸にきたばかりなんだけど」
「あら、そうなの? そういう人って結構いるけどお兄さんひょろっとしてるからそんな風に見えなかったわ。でも安心して、熱い胸板がなくてもアタシは大丈夫だから」
「……話続けても?」
「あらごめんなさい、続きをどーぞ」
「最初に挑むダンジョンはどこがいいのか。俺はここを出たらどこに向かえばいいのかってとこかな」
俺がそう言うと男の娘は「わかったわ」と一言言うと水晶に手をかざす。
そして数秒目を閉じてから、「でたわ」と目を見開いて言った。
目を閉じたら水晶見えないじゃん、というツッコミを言いそうになったが男の娘が真剣な表情をしているのでスルーすることにした。
「ここから北東にいった場所にレーゲル森のダンジョンというところがあるわ。貴方が最初に挑むダンジョンはそこよ」
「なんで? とか聞いてもいい?」
「えぇ、そこに行くとあなたの抱えた物がより早く消化できるわ。逆に首都に向かっても抱えた物を降ろすことができない」
抱えた物。それだけではなんのことなのかさっぱりわからなかった。しかし、首都に向かっても抱えた物を降ろすことができない、この言葉があるとそれがガイラさんから預かった封筒であることがわかる。
「ちなみにレーゲル森のダンジョンはソロで冒険者ランク6、3人パーティー以上なら全員が冒険者ランク4以上なら入れるわ」
封筒のことを当てられた手前、この占いは信じたほうがいいだろう。つまり俺は最初にそのダンジョンに入る為にランクを上げなくてはならないということだ。
パーティーが見つかれば早く済むのだけど……。
そう思った時、頭にエーリナの顔が浮かんできたが、俺は首を左右振ってその想像を霧散させた。
「正直、暇つぶしで着いてきたんだけど。思ってたより実入りのいい話を聞くことが出来たよ」
「あらそう? それはよかったわ」
俺は満足気に笑みを浮かべている男の娘の笑顔に、少しのトキメキと大きな寒気を感じながら硬貨袋を取り出す。すると、男の娘はそれを手で制した。
「お代はそっちじゃないわ」
その顔は獲物を目の前にした魔物の表情によく似ていた。
「そっちじゃないって……どういう?」
背中にうすら寒いものを感じる。そして、ようやく気が付くことが出来た。
なぜ、占い師が客引きのようなことをしてまで俺をここに連れてきたのか。つまり――
「俺の身体が目当てだったのか!?」
俺が自分の身体を守るようなポーズでそう言うと、男の娘はおっさんの笑い声をあげた。
「それもいいんだけどねぇ。アタシは今もっと違うものが欲しいのよ」
「違うもの?」
「アタシの占い、おかしいと思わなかった? こんな水晶なんて用意しておいて目を閉じて念じるのよ?」
「それは思ったけど」
「うふふ、やっぱり見てたんだ。そういう子は好きよぉ。でね? アタシの占いは実は占いじゃないのよ」
「占いじゃない?」
「そう。恩恵、アタシの恩恵は解の恩恵。アタリの中でもレア中のレアな恩恵よ」
解の恩恵。疑問に対しての答えを導き出すことが出来る恩恵。しかしその有用さから権力者などにすぐに囲い込まれる為に存在すらあまり知られていない恩恵。
「この恩恵には制限があってね? 同じ人のことを1度しか見ることができないのよ。自分も含めてね? アタシがなんの答えを求めたかわかるかしら?」
俺は首を左右に振った。すると男の娘は指を唇にあてて微笑んでから――
「アタシが本物の女になるための方法。そして貴方のことを知ったのよ。その恩恵、なんでもできるんでしょ?」
その目は完全に獲物を見る魔物の目だった。
声をかけられた時と同じくらいの重圧を感じる。この人は本気なんだ。
男の娘はゆっくりと立ち上がり、そして俺の前に立つと――
「お願いします。なんでもします。アタシを女にしてください」
土下座に似たポーズで俺に懇願してきた。
◇ ◇ ◇
脚に絡みつき、仕舞には靴を舐めようとする男の娘を轢き剥がして、俺は魔法の恩恵の事を話した。細かいことまで話したわけではないが、望むことの答えは対価として教える義理があった。
「つまり出来るけどその為には準備が必要ってことよね」
「性転換なんて考えもしなかったからね。今の僕にはできないよ、それにイメージするにしてもその……俺、女の人の身体ってわかんないから」
「あら、うぶなのね。うふふ、アタシが教えてあげようか?」
「お前、男だろうが!」
「なんだと小僧!」
「す、すみませんでした」
そんなやり取りが続いて、最終的には魔法が完成したら必ず女にすると約束することで今日のところは解放してもらえた。
◇ ◇ ◇
宿に戻り部屋の扉をノックするが反応はない。それもそうだ、1時間のつもりが随分と時間を浪費してしまったのだ、エーリナももう寝ているのだろう。
扉を開くと、ベットですやすやと眠るエーリナが見えた。元からベットを譲るつもりだったからそれはよしとする。
問題は、窓辺に干された見覚えのある下着と外套。これはエーリナが唯一身につけていたものだ。つまり、掛布団と呼ぶには頼りない厚手の布の下は――
苦手リストに名を刻んだはずの相手にドキドキしてんじゃねぇよ俺。
俺は鋼の精神力で自制を効かせて、バックから予備の外套を取り出すと頭からそれを被ってギュッと目を閉じた。




