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冒険者 Ⅰ

「――でね、その時見つけた秘宝をこの秘宝はここにあったほうが美しいって言って獲らずに帰っちゃったのよ。でもそれが評価されてギルディラ=パナドリアは伝説のトレジャーハンターって呼ばれるようになったの」


 背中からエーリナの楽し気な声が聞こえている。おそらく俺に話しかけているのだろうが相手をしている気力はない。今の飛行魔法では荷物の重量を無くすことが出来ないのでバックとエーリナをずっと背負っている形になっているからだ。エーリナを別で飛ばせることも考えたがあんなにペラペラ恩恵のことを話す人になんでもできる万能な恩恵なんて言えるわけがない、空飛ぶ恩恵と勘違いしていてもらった方がいいだろう。

 しかし改良したばかりなのにもう新たな改善点が出てくるとは飛行魔法とは奥が深い。忘れないうちに改良しないとな。


「ちょっと聞いてるの?」

「はい、聞いてます」

「それでね、神秘の森のダンジョンにはね――」


 あー、早く陸地見えないかなー



◇ ◇ ◇



 大陸が見え、港町を見つけ、地上に降り立つことが出来たのはすでに日の落ちた後だった。

 港町とは港があったのでそう呼んだだけで、1つの都市と言っても差し支えがないほどに栄えているのが石造りの大きな建物が建ち並ぶ様子から窺える。


「ほら、着いたぞ。起きろ」


 いつのまにかしゃべり疲れて背中で寝息を立ててるエーリナに声をかけるが全く起きる様子が見えない。

 早く宿を取って休みたいのに。


 ……仕方ない。



◆ ◆ ◆



 魚を焼いたいい匂いで目を覚ます。

 目を擦りながらベットから降りるといつものように――


「ばあや、ご飯ちょうだい」


 そう言えばいつもばあやが準備しているご飯を用意して運んでくれる。


「いいとこのお嬢様だったのか?」



◆ ◆ ◆



「いいとこのお嬢様だったのか?」


 寝惚けてばあやとやらにご飯を要求するエーリナを見て、自然に声に出してしまった。

 すると、俺の声で目を覚ましたエーリナは声にならないほど驚いた様子で俺を指差しながら部屋をキョロキョロと見回す。


「ここここここどどどどどどどどど」

「え? あぁここは宿の部屋だよ」

「なななななななな」

「貴女が寝ちゃって起こしても起きなかったし、荷物もないなら金もないんだろうと思って連れてきたんですが」

「べ、べべひとととととと」

「部屋に空きがなくて1人部屋しか取れなかったですよ」


 なんとなく予想して答えてみたが合ってたんだろうか? エーリナは再び言葉を失ってその場に固まった。


「とりあえず飯食いませんか? 適当に魚とか海老とか貝の串焼き買ってきたんですけど」


 かける言葉が見当たらなかったので、とりあえず夕飯を勧めるとかわいい音でお腹を鳴らしたエーリナがコクリと頷いて俺の正面に座った。

 串焼きを種類ごとに並べて説明しようとするとエーリナは赤い顔で俺を睨んでくる。


「あ、貴方私に変な事してないでしょうね!?」


 自意識過剰なのだろうか。確かに容姿は可愛いと思うし、最初下着姿を見たときはムラッ……間違えた、ドキッとしたりもした。しかし、自分勝手でわがままな雰囲気を垣間見たその時から俺の中の苦手リストに名を刻まれ、出来ればあまり関わり合いになりたくない。宿に連れてきたのも、そのまま捨てていくのは少し気が引けたからで。もしあの時起きていれば少しの金を渡してさっさと別れてしまおうと思っていた。


「そんなことしませんよ。そんなことより冷めない内に食べちゃいません?」

「そ、そ、そうね、そうよね」


 さすがに俺に失礼だと感じたのだろうか。聞こえないくらい小さく「ごめんなさい」と言った後で魚の串焼きを掴むと豪快に齧り付いた。


「んーんーーんーー」

「もしかしてですけど、魚食べるの初めてですか?」

「んーんーんーんーー」

「あぁ骨取ってもらってからしか食べたことなかったんですね。落ち着いてゆっくり噛めば骨まで食べれる種類の魚なので吐き出さずにしっかり噛んで少しずつ飲み込んで」


 これは一緒に行動したら胃が痛くなるパターンのやつだ。明日になったら早いとこ別れるようにしないと。


 俺は涙目になりながら魚を咀嚼するエーリナを見てそう決意した。



◇ ◇ ◇



「酷い目に遭ったわ」


 食事を終えてエーリナは真っ先にそう口にした。ちなみに魚を飲み込んでからは剥いてある海老や身だけ刺された貝の串焼きだけを食べて、魚には全く手が出なくなっていた。


「でも美味かったですね。帝国は海の幸が美味いって話は聞いてたけど屋台の串焼きでこんなに美味いなんて」


 おそらく鮮度の違いだろう。ならば漁船に秘密があるのかな。などと元村長の勘働かせているとエーリナがモジモジしながらこちらを見ているのに気づく。


「この宿、トイレは部屋の外に共同のが――」

「違うわよ。あの、私、今日海泳いだから身体がベタベタしてて、すぐにでも拭きたいの。だから……」

「後ろを向いて目を閉じて耳をふさげばいいですか?」

「そうだけどそうじゃなくてあの、あの、……お湯と布が欲しいからお金貸して! ください」


 あぁ。と納得した俺は、「じゃあ受付に言って代金も支払ってくるよ、あと1時間くらい外に出てくる」とエーリナに言って部屋から出た。


 受付で、お湯と体を拭く布を頼んでから俺は宿の外に出た。

 遠目に先ほど買った串焼きの屋台が並んでいた場所を見ると、酒を出している屋台以外はすでに閉店したようだった。あまり酒は好きではないので、屋台での時間潰しは出来そうにない。

 となるとどこで時間を潰したものか……。夜釣りの見学も考え海の方へ向かってみたが、夜は海の魔物が水面に上がってくるので夜間の釣りはしないようにと看板が立てられていた。酒場での情報収集には興味もあるしロマンも感じるがやはり酒は好きではない。

 途方に暮れてながらフラフラと明かりのつく店の並びを歩いていると背後から声をかけられた。


「ねぇお兄さん。暇ならアタシの店でいいことしない?」


 その野太い声にビクリとして俺は足を止めてしまった。本当ならばすぐにでも走って逃げなければならない状況だ。


「あら可愛い。アタシの声にドキッとして止まっちゃったのかしら」


 背後から足音が近づいてくる。今からでも遅くはない、振り返らずに走らないと。しかし、足が思ったように動かない、背後から迫りくるソレが1歩1歩近づくにつれて重圧が俺にのしかかって動きを鈍らせる。

 このままじゃやばい。魑魅魍魎の巣に引きずり込まれ、なにもかもを吸われてしまう。

 ふと、背後からの足音が止む。それは終焉の知らせだ。その証拠に既に背後からはおぞましいほどの重圧を感じる。

 振り返ればそこにいるのだろう。(ことわり)真理(しんり)も超え、性別の壁さえも踏み壊してしまう獣が……。


「こんなところに立ってないで、さぁアタシの店に行きましょう」


 ズボンを引っ張られる。肩に手を置くとかではない。ソレは真っ先に下半身を狙ってきたのだ。

 もう穏便に逃れることはできない。謝ろう、誠心誠意謝って有り金を渡せば助かるはずだ。

 俺はその第一歩として振り返る、という行動に移る。錆びたブリキの人形のようにギギギと音を立てて反転しようとする俺の身体。


 そしてゆっくりと振り返るとそこには誰もいなかった。俺はいつの間にか額に浮かんでいた汗を服の袖でぬぐい取る。なぜ、見逃されたのか、今はそんなことどうでもいい。ただ生き残れたことに感謝しよう。


「さぁ早く行きましょう」


 突如、眼下から先ほどの野太い声が響いてくる。気がつけばまたズボンを引っ張られている、しかも今度は前をだ。

 俺は逃げ道はないのだと悟って、視線を下に落とした。その先には――


「あら、可愛い顔。アタシのタイプだわぁ」

「いや、見た目だけなら俺も嫌いじゃないけど」


 ピンクのドレスを着た美少女がその声を発していた。いやよく見れば喉ぼとけは発達している、つまり……。


「オカマはオカマでも、男の娘かよ!」


 俺の叫びが通りに響き渡った。


 しかし、俺はこの時気付いてなかった。相手は男の娘は男の娘でも、オカマだということに。

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