旅立ちⅣ
「お前が来てるってのは聞いてなかったんだが」
「そう言わねぇで下さいよ。フーさんが現場の話に詳しい人についてきてほしいってことだったので」
翌朝、朝の鐘が鳴ってから1時間くらいたった頃。フーに会う為に街にある一番の高級宿へ向かった俺は、宿の前に立っているカシンを見つけた。
なんでもフーに頼まれて護衛も兼任して街に来たのだが、高級宿に気後れしたカシンは別の安宿に部屋を取り、今フーが出てくるのを待っているところだったらしい。
「俺が森に建てた小屋のほうがよほど高級な作りのはずだが?」
「宿ってなると客の雰囲気もあるじゃねぇですか」
なるほど。と一応納得し、俺が出てからの村の様子を「最近どうよ?」くらいの軽い感じでカシンに聞いて見ることにした。
カシンは基本的には森の小屋に住んで猟区の調査や狩人の世話をしているので、村の中の話はあまり詳しくはない。それはわかっているのだが、他に共通の話題もなかったので間を持たせるためにはその話題しかなかった。
「俺、ほとんど森の小屋にいるんで村の様子はちょっとわかねぇです」
話題終わらせてんじゃねぇよ。
「やっぱりカシンさんって会話下手だよね」
「あぁ馬車の中とか大変だっただろう」
いつの間にか会話に入ってきたフーに自然にそう返すと、フーは頬を膨らませて見せる。驚かしたつもりだったのか。
◇ ◇ ◇
宿の前にいつまでもいてもしょうがないので、俺は膨れたフーとカシンを喫茶店のような場所に誘った。
奢ると言ったところ、カシンは遠慮がちにお茶だけを頼み、フーは笑みを浮かべてこの店で一番高い甘味を頼んだ。俺はカシンと同じくお茶だけ頼むことにした。
「まずは久しぶりだな二人とも」
「オズちゃん久しぶり」
「お久しぶりです村長」
「今の俺は村長じゃないんだけど……」
そして俺はまずフー含む4人の友人達のこと聞いた。ディンは村長代理として色んな人にサポートされながら頑張っているらしい。
コムは恩恵を活かして薪割りの仕事についたそうだ。最初、木を切り出す仕事を任せたところ勢いに任せて猟区の木々を切り倒し、魔物が猟区から逃げてしまいそうになったのでディンが慌てて止めに行ったらしい。
ケリィは風の恩恵を活かし、役所に新たなスペースを作って働いているそうだ。望めば巫女様みたいな扱いも出来たのだが本人が嫌がり、ディンのアイディアで予報士という役職を得て一週間の天気の予報をわかり易くイラストで書き出したり、森の小屋まで行って森の風の匂いからより多く魔物のいる方向などを割り出して狩人に伝えたりしているらしい。
そしてフーは実体験から魔物の恐ろしさを知り、狩人のサポートがしたいと強く希望した為に、猟関係の部署に配属され、狩人が猟に出る度に森の小屋に通って食事などを作っているらしい。
「フーさんの料理がめちゃくちゃ美味いんでフーさんが用事で来れない日に俺なんかが作ると狩人の皆さんから苦情を受けるんですよ」
まぁフーは料理の恩恵を与えられてるから当然といえば当然だな。
次にこの1ヵ月の村の様子を聞いた。概ね俺のいた頃と変わらないようだ。ただモーム改の肉や革の国内での需要がどんどん上がっているのに対して、人手不足で生産を増やすことが出来ずに頭を悩ませているらしい。ディンは領内外の貧しい村に「口減らしをするならウチの村にくれ!」というような募集を出す計画を立てているそうだ。
「さすがディンだな。俺は誰かさんみたいな早まった行動したやつらを拾ってくるしか出来なかったけど、そんな手でくるとはな」
考えなかったわけではないが、その募集をすれば村規模に抑えることが出来なくなる。俺は気持ち的に村を街にしてしまうという一線を超えることが出来なかったのだが、ディンはそれをすぐにでも超える覚悟があるようだ。やっぱりあいつはすごい。
俺がそう考えながら頷いているその隣で、カシンが俯いている。早まった行動についての責からはきっと一生逃れられないだろう。
◇ ◇ ◇
「オズちゃんって本当は村を出たんだよね?」
暗くなったカシンの為に明るい話題に切り替えてひとしきり笑い話などをした後で、フーが突然そんなことを言ってくる。その言葉にカシンも目を丸くした。
「わかってたんでしょ?ケーちゃんとディンちゃんのこと」
図星を突かれたこともあって次の言葉が見つからない俺にフーが続ける。
「二人の事好きだから気を使って、でも見ていられないからオズちゃんは逃げてきたんだよね?」
胸に刺さる言葉を並べるフー。その顔は優しく、でも悲しい表情だった。
「カシンさん達みたいな新しく村に来た人達以外はみんな気付いてるよ」
「そっか……二人は大丈夫なのか?」
俺が勝手に村を飛び出しただけで、二人にはなんの責任もない。もし二人が俺を追い出したと村で責められる様なことがあれば俺は――
「それは大丈夫だよ。オズちゃんちのおばさんのおかげだけどね」
「母さんの?」
「ディンちゃんにケーちゃんを取られたから泣いて家出したって誰よりも先に言いふらしたの。そしたら村の人達も笑って、アイツはヘタレだからなぁ旅して鍛えてくるといいさって」
「え? それじゃあまるで俺、失恋で家出したただの笑いもんじゃん?」
「そうだよ。ちなみにディンちゃんとケーちゃんは村のみんなからすっごい祝福されてて、むしろ地味に結婚したことの方を責められて村でおっきい結婚式挙げたよ」
「祭りみてぇに騒いで楽しかったな」
「じゃあもうただただ俺がかっこ悪いだけじゃん! ってかカシンはほとんど森の小屋にいて村のことわかんねぇんじゃなかったのかよ!」
フーは大声でツッコミの声を上げる俺を落ち着かせると、実際には二人をよく思わなかった人達もいたのだが、母さんが真っ先に笑い話にすることで実の親がこう言っているのに自分達が二人を責めるのも馬鹿なことだと母さんに便乗。その便乗は勢いを増してその結果村を挙げての大々的な結婚式が行われたという話をしてくれた。
「で、オズちゃんが帰ってこないってみんな知ってるんだよ」
「そうなのか……」
「うん。でもディンちゃんは何があっても自分はオズちゃんの代わりだから村長代理って名乗るのを辞めないんだって」
「あいつ……」
色々な意味で堅い奴だ。俺の親友は……
「だから街になっても都市になってもオズちゃんが戻ってきたらすぐに変わってやるって意気込んでるよ」
「よし、帰れない理由が増えたな」
◇ ◇ ◇
「じゃあねオズちゃん」
「村長、またいつか」
「二人も元気で」
気付けば夕暮れ時、楽しい時間はあっという間に終わるものだ。
話が終わる頃にはディンとケリィの事もなんだかどうでもよくなって村に戻ってもいいかな、なんて思えたりもした。
しかし、せっかく村出が公認になったのだから俺の今後の予定は変わらない。それどころか公認なんだ憂いなく出発できるってものだ。
もし帰ってガイラにそろそろ帝国に行きたいと言ったらどんな反応をするだろうか?冒険者ギルドに推薦状を書いてくれるだろうか?
いや、約束の三カ月まで俺はここにいよう。ガッツとキリと過ごす時間ももう少し楽しみたい。
俺は、色々なことを考えながらこの一カ月取れることのなかったモヤモヤがなくなり軽くなった足取りでガイラさんの家の庭にある、今の俺が帰るべき場所へと帰って行った。




