第3話 「差し押さえ、王都にて」
「では銀行員」
「はい」
「貸し剥がしを実行せよ」
「物騒な言い方やめてください。“正常化”です」
翌朝。
王都の空は、やけに青かった。
(あー……絶対荒れるな、これ)
「支店長!」
「誰が支店長だ」
「いやなんか雰囲気が」
「やめろその呼び方」
声をかけてきたのは、昨日の若い兵士。
名前はレオ。
真面目だが、ちょっとだけバカだ。
「本日の任務は!」
「任務じゃない。回収だ」
「回収!」
「テンション上げるな怖いから」
桜木は手元の紙を見る。
「本日の対象は……グランベル公爵家」
レオ、固まる。
「えっ」
「どうした」
「いきなりラスボスですか?」
「中ボスです」
「無理です!」
「やるんだよ」
■ 公爵邸前
ドン。
ドン。
ドン。
「なんだこのノック」
「重厚感です」
門番が出てくる。
「何用だ!」
「差し押さえです」
「帰れ!」
バタン。
「早いな」
「早いですね」
「もう一回」
ドン。
「だから帰れと言っているだろう!」
「開けてください」
「開けん!」
「じゃあ壊します」
「は!?」
桜木、レオを見る。
「いける?」
「えっ」
「門」
「いや無理ですって!」
「だよな」
(うん、無理だ)
「どうするんですか」
「正面突破は非効率だ」
「なんかそれっぽいこと言ってる」
桜木は周囲を見回す。
「裏口あるだろ」
「ありますね」
「行こう」
「いいんですかそれ」
「だいたい裏から入る」
(銀行でもそうだった)
裏口にまわったらあっさり開いている。
「セキュリティどうなってんだ」
「貴族ですから」
「意味が分からん」
中に入る。
豪華。
無駄に広い。
そして――
「使用人、多くない?」
「多いですね」
「これ人件費やばいな……」
桜木、メモを取る。
「そこから!?」
「コスト削減の基本は人件費だ」
「夢がない!」
そこへ。
「何をしておる!」
グランベル公爵、登場。
「不法侵入だぞ!」
「違います、債権回収です」
「同じだ!」
「では、昨日の続きです」
桜木、紙を広げる。
「資産一覧、出してください」
「出さん!」
「ではこちらで調べます」
「やめろ!」
桜木、周囲を見る。
「この壺、高そうですね」
「それは先王から賜った――」
「差し押さえ」
「やめろ!」
「この絵画」
「名画だぞ!」
「差し押さえ」
「やめろ!」
「このカーペット」
「それも高い!」
「差し押さえ」
「やめろぉ!」
レオ、小声。
「全部いくんですか……?」
「基本だ」
「容赦ないですね」
「仕事だからな」
公爵、顔を真っ赤にする。
「ふざけるな! ワシは公爵だぞ!」
「不良債務者です。」
「ぐっ……!」
「で、返済計画は?」
「……」
「ないですよね」
「……」
「じゃあ現物回収です」
公爵、震える。
「……衛兵!」
ザッ。
武装した兵士が現れる。
「排除しろ!」
「物理的にきたな」
「逃げます!?」
レオが叫ぶ。
「いや」
桜木、すっと一歩前に出る。
「女王陛下の命令です」
静かに言う。
兵士たち、止まる。
「……」
「この国を守るための措置です」
さらに一歩。
「それでもやります?」
沈黙。
兵士たち、ゆっくりと武器を下ろす。
「くっ……!」
公爵が歯ぎしりする。
「覚えておれ……!」
(あー……)
(言うと思った)
「はい、よく言われます」
荷車に積まれる壺と絵画。
「なんか……勝ちました?」
レオが言う。
「勝ってない」
「え?」
「恨み買っただけだ」
「ですよね!」
(でもまあ)
桜木は空を見上げる。
(これで少しはマシになる)
その夜。
暗い路地。
「……あの男か」
「らしいな」
「消すか?」
「いや」
「もう少し泳がせろ」
翌日。
「支店長!」
「だからやめろその呼び方」
「王都で噂になってます!」
「なんて?」
一拍。
「取り立ての勇者」
「やめてくれ」




