第2話 「担保が“血筋”って何ですか」
「では銀行員」
「はい」
「この国の財政を立て直せ」
「いやだから無理――」
「やれ」
「はい」
(圧が強い)
というわけで。
桜木悠一、45歳。
異世界で**国家再建プロジェクト責任者(無給)**に就任した。
「まず現状把握からです」
「うむ」
「貸付一覧、全部出してください」
「あるぞ」
側近が持ってきたのは――
羊皮紙の束(厚さ30センチ)
「紙が重い」
「重みが信用だ」
「違います」
机にドサッと置く。
(いやマジでこの紙質どうにかならんのか……)
「えーと……借入先は……」
めくる。
「グランベル公爵家」 「アストリア侯爵家」 「ルーデル伯爵家」
「貴族しかいないんですか?」
「主要な借り手はな」
「……で、返済状況は?」
「滞っている」
「どれくらい?」
「ほぼ全てだ」
「全滅かぁ……」
桜木は額を押さえた。
(銀行で言うと“貸出先が全部ゾンビ”状態だな)
「担保は?」
「担保?」
「返せなかったときに回収するものです」
側近が胸を張る。
「血筋でございます」
「…帰ります」
「待て」
「いや無理ですよそれ!」
「由緒ある家柄だぞ!」
「それ現金化できます!?」
「できん!」
「じゃあ担保じゃないです!」
女王が少し考える。
「……名誉では足りぬか」
「名誉で金回収できたら銀行いりません!」
そのとき。
「失礼する!」
ドカドカと足音。
豪華なマントを翻し、いかにも“俺は偉い”という顔の男が入ってきた。
「陛下! この者が噂の“勇者”か!」
「勇者じゃないです」
「ほう、謙虚だな!」
「違います」
「ワシはグランベル公爵!」
「あ〜不良債権者の!」
「誰がだ!」
即ツッコミが返ってきた。
(いい反応だな)
「で、何の用だ」
「借金の話です」
「借金などない!」
「あります」
「ない!」
「帳簿にあります」
「それは記録の問題だ!」
「いや現実の問題です」
公爵、鼻で笑う。
「ワシの家はこの国に多大なる貢献をしてきた!」
「はい」
「ゆえに多少の融資など当然!」
「はい」
「返済義務は軽減されるべきだ!」
「ダメです」
「なぜだ!」
「それやると潰れるんで」
「金貸しじゃないだろう!」
「国家が債権者です」
女王が小さくうなずく。
「……確かに」
「陛下!?」
桜木は淡々と続ける。
「いいですか、公爵」
「なんだ」
「返さない人に貸し続けるとどうなると思います?」
「知らん」
「破綻します」
「……」
「今がそれです」
場がしんと静まる。
だが、公爵はすぐに立ち直った。
「ならば新たに借りればよい!」
「出たな自転車操業」
「なんだそれは」
「倒れるまでこぎ続けるやつです」
「失礼な! 我が家は倒れん!」
「もう倒れてます」
「倒れてない!」
「財務的には倒れてます」
「精神的には立っている!」
「それ担保になりません!」
周囲の兵士がクスクス笑い始める。
「……とにかく!」
公爵が声を張る。
「ワシは返さん! 以上だ!」
桜木、即答。
「じゃあ貸し剥がしです」
「は?」
「貸し剥がし」
「なにそれ怖い」
「貸したものを回収するだけです」
「無理だ!」
「やります」
「ワシは公爵だぞ!」
「関係ないです」
「権力がある!」
「債務が山のように国にあります」
「ぐぬぬ……!」
女王が静かに口を開く。
「……やれ」
「陛下!?」
「このままでは国が滅ぶ」
公爵、固まる。
桜木は、にっこり笑った。
「ということで」
「まずは資産の洗い出しからですね」
「資産?」
「土地、屋敷、宝飾品」
「それはワシのものだ!」
「担保です」
「違う!」
「今決まりました」
「決めるな!」
(あー……)
(この感じ、懐かしいな)
(支店長時代、“返せない社長”とよくやったやつだ)
桜木はペンを走らせる。
「あと、返済計画」
「気合でなんとかする」
「却下」
「じゃあ根性で」
「却下」
「誠意で」
「それ全部同じ精神論です。精神論では借りたものを返せません!」
その日。
ルミナス王国に、新しい言葉が生まれた。
「貸し剥がし」
そして貴族たちは初めて知る。
「借金は返さないといけない」
という、当たり前の事実を。




