第19話
最初のメッセージはディクソンであった。
>どうやら私の父は政府からの要請でクローンを作ったようだ。途中で資金援助が政府から謎の企業に代わるが、これは政府のフロント企業だろう。
それに対し、ハンセインが返信する。
>フロント企業は私が調べてみよう。友人に政府と敵対する日本人の組織のトップがいる。
次のメッセージはそこから3日後、シレトからである。
>結果として200人のクローンが作られたようだ。
それから2日後であった。
カルヴァとミロスがカルヴァの店で話し合っていた。
「ねえ、このメールなんだけど」
ミロスが携帯端末をカルヴァに見せる。
差出人はディック・ハロルド・ビーチ。
あて先はハーランド・ジュロン。
「俺の親父だ」
メールの内容は1人のクローンの取引であった。
ディクソンから作られたクローンの1人をハーランド・ジュロンに譲渡する旨が書かれていた。
カルヴァはそれを見ると、父親に電話する。
電話の待機音がループするたび、カルヴァの心臓音が大きくなる。
父親が電話に応じたのは15秒後であった。
「親父、俺だカルヴァだ」
「ああ、どうしたいきなり」
「ディック・ハロルド・ビーチという男に覚えあるか?」
5秒ほど沈黙する。
「親父!」
ゆっくりとした口調で父親は話し始める。
「あれは、今から18年前のことだ」
「突然何を?」
「政府はクローン技術に金を出していた。何しろ人口が激減したんだ。仕方ない」
カルヴァはただ黙っているしかなかった。
「ディックとは昔からの友人だった。そして優秀な研究員だった。クローンを研究していた」
「そんな・・・」
「彼から1人のクローンをくれるという話になった。何しろ私の妻は子どもを産むことができなかったからだ」
「嘘だ・・・」
「もらった子供は10歳くらいだった。はじめは困惑したが、良く育ってくれた。私は嬉しいよ」
「じゃあ、牧場を走り回っていた記憶は・・・」
「牧場?うちはライ麦畑とトウモロコシしかやってないぞ」
カルヴァは電話を切った。
カウンターに顔を伏せる。
「じゃあ俺は、俺は、ディクソンなのか、あの殺人鬼と」
ミロスがカルヴァを抱擁する。
「大丈夫どんな過去だろうと、遺伝子がどうであろうと、あなたはあなたよ」
「じゃあ、俺は、俺の10歳までの記憶は?お母さんのあの笑顔は?あのスープの味は?お父さんのあの説教は?全部作られた記憶なのか」
「世界5分前仮説というものがあるの。すべては5分前に作られたという仮説。それだとしても今のあなたは実在する。大丈夫よ。私はそれでも愛してる」
「すまない、しばらく一人にさせてくれ」
カルヴァはそう言うと、寝室へ去っていった。




