ep.13 梅雨の憂鬱
季節も早いもので新学期が始まってからもう2ヶ月が経った。世間ではジューンブライドや梅雨などと言われるシーズンだがこのジメッとした空気が嫌いな俺はエアコンの除湿マックスで家に閉じこもっている。
そして今日は莉音さんの友達がうちに遊びに来るらしい。詩音さんは朝から気合を入れてケーキを焼いている。紅茶にケーキ、、、要所要所でお嬢様が出ている詩音さんだが、一体篠崎家はどんな家庭環境で育ってきたのやら。
「お兄ちゃん本当に出かけるのー?」
ケーキの焼き加減を見ながらひょこっとリビングに顔を覗かせている詩音さん。
「もう中間試験も近いしね。詩音さんも分からないところがあれば聞いてね」
ちなみに俺はこう見えて1年の頃から学年一位の座を誰にも譲ったことがない。勉強に関しては特に好きな訳ではないのだが授業をしっかり受ければ軽い復習だけで事足りるので困らないのだ。
「オニイチャンヤサシイネ、、、アリガトウ、、、」
そしてどうやら彼女は勉強が苦手らしい。以前在籍していた学校では調理専攻だったそうだ。
一方莉音さんは仕事で登校できなかった分の補講を受けに行っている。話だと補講は午前で終わるらしいのでその後合流してうちに向かってくるというスケジュールだと聞いている。
そうして各々自由に休日の午前を過ごしたのだった。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
時刻は午後13時を回ろうとしている。今日は久しぶりにイツキ、心音と3人で中間試験対策の勉強会をすることになっている。場所はよく3人で集まる喫茶店だ。
少し早く着いた俺は2人が来るのを待つ間に読書に専念することにした。最近は推理モノにどっぷりハマってしまってくだらない事にすらも何か裏があるのではないかと疑いを持ってしまう。影響されやすい性格の困るところだが、それが楽しいからこそ推理モノは面白いのだ。
そうして読書に耽っていると向かいの席に見知った2人が座ってきた。
「休日の昼下がり、喫茶店でブラックコーヒーと小説を嗜む高校生なんて洒落込んでるなぁ渚!!」
「遅くなってごめんねー!!結構待った?」
2人は口々に言うと鞄から勉強道具を取り出し始めた。
「全然、俺もいまさっき来たところだよ。それよりイツキ、それ何?」
俺と心音はイツキが手に持っているものを凝視する。何かの雑誌だろうか、表紙にデカデカと"夏"の文字が描かれている。
「よくぞ聞いてくれた!!お前ら、後1ヶ月で何が始まるか分かってるよな?!」
すると心音が首を傾げながら考える素振りをみせて答えた。
「あー!分かった!期末テストでしょ?」
そして俺も乗っかる。
「イツキ、お前が勉強なんて、、、成長したんだな、、、」
「やめろお前ら!!ただでさえ目の前の試験から逃避したいのに!!」
キーキーと騒ぐイツキに俺と心音は可笑しくなってつい吹き出してしまった。
「夏休みだよ、な・つ・や・す・み!!!海に川に花火にイベント盛りだくさんだろうが!!」
こういう所は小学生の頃から何も変わらない。この2人と一緒にいるとなんだかあの頃に戻ったような気分になって楽しい。
長い人生で考えてみれば中学時代の3年間なんて一瞬だろう。でもその一瞬ほど替が効かなく将来惜しくなるような時間はないのだと以前読んだ本に書いてあった。俺の中のその一瞬にこの2人は出てこない。でも今からでも遅くはないはずだ。また幼馴染とこの青春をやり直す、中学時代の3年分も含めて6年分の思い出を作るのだと俺は密かに決心したのだった。
「それも楽しみだけどアンタ、学年末試験散々だったって聞いたわよ?」
「よし、イツキ。この夏休みを目一杯遊びまくる為にはまず"勉強"して"赤点を回避" しなくちゃな?」
妙に圧のある俺と心音の笑顔に震え上がるイツキなのであった。
こうして俺たちは数時間勉強した後、駅前で解散した。どうやらこの後イツキはバスケ部の連中と隣町の市民体育館で試合前の調整をするらしい。
心音と2人になるのはあの告白以来だ。やけに緊張している俺とは逆に心音はまるで気にしていないようないつも通りの雰囲気を纏っていた。先に口を開いたのは俺だった。
「心音は最近どうだ? 生徒会、随分忙しそうだけど」
「そうね、うちって夏休みの後に体育祭と文化祭があるでしょ?だからそれの準備を今からもう始めてるの」
心音は水ヶ崎学園の生徒会に所属している。どうやら中学時代から生徒会として活動しているらしい。しっかり者というイメージからしっくり来るものはあるがまさか引っ込み思案だった心音がここまでになっているとは正直予想外だった。
「そういえばさ、なんで生徒会に入ったんだ? 昔は人見知りだったのにさ」
すると心音は少し困った顔をしてまたすぐに笑顔に戻った。
「渚がいなくなってから私がもっとしっかりしなきゃって、思ったの。イツキはあんな感じだし」
クスッと笑う心音の表情は少し寂しいような、それでいて照れているような感じがした。俺が地元を離れるとき、2人は別れを惜しんでくれた。心配だってかけただろう。それだけに俺は胸が締め付けられるような感覚がした。
「ごめん、俺がもっと2人を安心させられたらよかったのにな」
心音は慌てたような仕草で否定する。
「あ、いや、ごめん!別に渚は何も悪くないの!!! 戻ってきてくれて私もイツキも本当に嬉しかったし2人とも大号泣だったんだからね?!」
両手をバタバタさせている心音は耳まで赤くしている。こういうところ、昔から可愛いんだよな、なんて今の俺が思ったら最低だろう。これ以上は雰囲気が寂しげになりそうだし一旦別の話をしようと考えたとき、心音が別の話題にチェンジして話し始めた。
「そ、そういえば最近久しぶりに妹が帰ってきたの!!」
「あ、そういえば心音も妹がいるんだったな。確か子役だったっけ? 会った記憶がないような、、、」
「そうそう!!昔は仕事が忙しくて遊べなかったからね。最近は事務所の寮に住んでるから久しぶりだったの!!」
妹の話をする時の心音はいつにも増して楽しそうな表情になる。このコロコロ変わる表情も昔と変わらなくて安心するのだ。
「それでね!今月からその妹が水高の芸能科に編入してきたの!! まだ寮に住んでいるけどたまにうちに遊びにくるって言ってたから楽しみなんだ〜」
水高の芸能科?そして名前は結城?最近どこかで聞いたような気がする。彼女もその日は姉に会う用事があるといっていた。まさか、、、ね、、? その俺の予想はこの後すぐに現実になるのであった。




