おまけ
3話の会食時の話となります。
「さあ、少し遅くなったがみんなで食べよう。」
あの騒動の後、部屋を移動し当初の予定通りの食事会となった。
通された部屋は夜景が一望出来る部屋だった。
入ってすぐの席にゆうなと母親は座り、反対側にはケリーア、ナーヤ、リィヤの順番で座っていく。
先ほどとは打って変わって和やかに食事が続くなか、何か質問はないかと話を振られ、当初から気になっていたことをゆうなは尋ねた。
「あの、私の身分というか、立場はどうなるのでしょうか? 最初に、その王女・・・と言われた気がするのですが、とてもじゃないですが私には出来ません。 」
ゆうなの頭のなかでは、天皇陛下やその皇室の方々がしている慰問だ祭祀などのTVの光景が浮かび上がっていた。
「そうよね、心配よね。ごめんなさい、ちゃんと説明していなかったわね。
ユウナは自由よ。どちらを選択しても問題ないわ。 」
代表してナーヤが優しく答えた。
「それはどういうことですか?」
「何と説明したら一番わかりやすいかしら。
私がいま第一王妃でこの人が国王そしてリィヤは王子という身分だけど、それと同時に職業でもあるのよ。私たちの国ではね。そして、職業選択の自由も私たちの国では認められているわ。 」
「?」
「簡単にいうと、確かにユウナは第一王女という身分にはなるけれど、職業として王女を選択しなくても良いということよ。 」
「それって言いんですか!?」
予想外の答えに、思わず大きな声がでてしまった。
「ええ、もちろん。ただし王女の職業を選択しない場合は国から予算はつかないし、王族として国政に参加する権利もなくなるわ。アルタニアの国民の一人としての権利はあるけれどね。まぁ、その前に20歳を超えないと政治参加の権利は発生しないのだけれども。 」
予算という言葉に冷や汗がでてくる。
そんな怖いお金は要らないとばかりに首を振る。
「ついでに言うと、第二王子のオルガは王子の職業には付かないで、別の職業に就いているわよ。」
「・・・そうなんですか。」
王子のうち一人が、別の職業についていると知ってホッとする。
「もちろん、王女の職業に就くことも可能よ。
その場合は、世間一般に顔を出すことになるし、アルタニアの王族として色々なことを外交を含めて勉強してもらうことになるわ。その代わり、国からは予算はつくからまぁちょっと多めのお給料がもらえる、といったところかしら。
とりあえず大学を卒業するまでは今の生活を保障するし、ゆっくり考えなさい。強制はしないわ。」
そういって、ナーヤは優雅にお肉を切り取り口に運ぶ。
込み入った話をしているはずなのに、完璧なテーブルマナーだった。
「あの、お母さんの立場はどうなるのでしょうか?」
「サヤカも同じよ。
第三王妃という身分ではあるけれど、職業はいままで通り通訳の仕事をやりたいと聞いているし、その分のお給料はいままで通り出すわ。
王族関係者には紹介して今回の結婚のことは伝えるけれど、顔出しはNGと伝えるつもりよ。
国民には、第三王妃を迎えることと第一王女が出来ることが新聞で紹介されるぐらいかしら。貴女が未成年ということもあるし、TVも写真も出自も何もかも出さないようにするわ。」
スラスラともう決まっている決定事項を話しているようだった。
「あの、私が言うのもどうかと思うのですが、本当にそれで良いんですか?」
日本の価値観が抜けないのか、皇室の結婚などはマスコミなどがこぞって追いかけるイメージがある。
特に一夫多妻制の王室に日本人が嫁ぐとなるとどちらの国にしても大騒ぎするのでは、という考えが抜けないでいた。
「構わないわよ。既に私という絶世の美女の王妃がいるし、王子が二人もいるものね。私が言うのもなんだけど、二人とも顔は良いもの。それで国民は満足しているわ。」
婉然と微笑む様はまさに女王様だった。
「母上に任せておけば大丈夫だよ。そういった込み入った話を裏から手を回して、仕切るのも得意だからね。」
褒めているのかよくわからない表現で大丈夫と笑うリィヤがいた。
とりあえず、ナーヤに任せておけば、マスコミなどに追い掛け回されることはないと一安心する。
将来は母親と同じ英語を使った職を選びたいと思っていたが、突然新しい選択肢が増えてしまった。
その職業に身震いをする。どう考えても分不相応すぎる。
それにと、王子としての職業を選択した目の前にいる第三王子を見る。
ゆうなが見ていることに気づくとにっこりと微笑まれた。
まさに王子様スマイルである。
眩しすぎて、すぐに目を逸らした。
自分がどうやっても、こんな優雅に綺麗に微笑むことが出来ないのは自分が一番よく知っていた。
ため息をつきたくなるなか、目の前の美味しいはずの料理に口をつける。
緊張しすぎて味がしない。
そして、視線を感じる。
リィヤだった。
いまだ自分を見つめ続けるリィヤ王子の視線は緩むことはなく、無言の圧力ではないがその笑顔にゆうなは早々に屈服した。
「・・・リィヤ王子は、辛くないんですか?その王子としての職業が。」
とりあえず、何か会話をしなければ始まらないと、先ほどの職業についての続きを聞くことにした。
「リィヤかリィヤ兄様と呼んで欲しいな。
特に辛いと思ったことはないかな。この両親に育てられたせいか、人前に出るのは嫌いではないし、良いこともたくさんあるしね。」
ようやくゆうなが話しかけてくれたことが嬉しく、リィヤは嬉々として答えた。
「良いことって?」
「例えば、君に知ってもらえていたことかな。」
リィヤの言葉に口に含んでいる中身を吹きそうになり、慌ててナプキンを口に当てた。
「えっと・・・どういう意味でしょうか?」
口の中のものを全て飲み込んでから、ゆうなは恐る恐る真意を問いただした。
「大学内で、私は有名だろう?
確かに、どこに行くのも女性に囲まれて大変なのは否定はしないけど、気になる子に見つめてもらえるのは嬉しいな。」
じっとゆうなを見つめながら微笑みかけてくるリィヤに、再度顔を逸らした。
先ほどとは違う意味で。
今まで見ていたのがばれてる!?でも見つめていない人のほうが希少だというか滅多にいなかったはずだ、とゆうなは思いを巡らす。
「いや、それは、えっと・・・。」
しどろもどろになりながら、どうやってこの場を切り抜けようか考えていると、横からナーヤが助け舟を出してくれた。
「男が拗ねても可愛くないわよ、リィヤ。」
『拗ねる』という言葉は王子様然としているリィヤに当てはまらない。
その言葉にゆうなは内心なんのことだと思う。
「何のことでしょう、母上?」
リィヤを見ると先ほどと変わらない笑顔のまま、ナーヤに何のことだかわかりません、と問い返した。
「貴方はまっすぐなようでいて、複雑な性格をしているのは母親の私がよく知っているわ。
どうせ、ユウナが貴方の『王子』という職業にしか興味を示さなかったことに拗ねているんでしょう?
もう一つ言うと、リィヤはずっと前からユウナのことを知っていたのに、ユウナは貴方にちっとも興味を持たないどころか避けている、それが気に入らないんでしょう?
だけど、そんなことでユウナを苛めても嫌われるだけよ。」
「・・そんなつもりでは。
いえ、すみません。無意識に気にしていたのかもしれませんね。
何せ、ユウナはこちらを見てもすぐに目線を外して何処かに消えていくものですから。 」
リィヤが悲しげにため息を吐いた。
「あら、そうなの?」と、母親が目だけでゆうなに問いかけてくる。
「それは、だって王子は別世界の人間で・・・。」
いろんな方向から責めれ、思わずゆうなの本音がもれる。
「私はここにいるよ。別の世界でなく、君の兄としてね。」
だから自分を見て欲しいと、切実に訴えてくるリィヤ。
何か言わなければいけないとは思う。
だけど、思えば思うほど言葉が出てこなかった。
「それとも、ユウナはリィヤの顔が嫌い?」
二人の様子をじっとみていたナーヤがまさかという顔をして聞いてきた。
「な、そんなことないです!リィヤ王子の顔は大好きですからっ!」
いろんな言葉を頭の中で探していたゆうなは、ナーヤの言葉に反射で答えた。
心のままの正直な言葉を。
「「「「・・・。」」」」
これでは、自分がリィヤの顔しか好きではないということになる。
「いえ、そういうわけではなく・・・」
顔を赤くして、顔だけではないことを伝えようとするがやはり良い言葉が見つからない。
そんなゆうなの様子に、少し間を置いた後、ゆうな以外の全員が声をあげて笑い出した。
警護の人たちまでもが、声をあげていないけれど唇を噛みしめて笑っている。
そして、笑いすぎてでてきた涙を拭ってナーヤがフォローを入れた。
「良かったわね。嫌われているわけではないようよ、リィヤ。私に似た美形に産んであげたことを感謝なさい。
それに、仕方がないでしょう。貴方と違ってユウナは今日まで何も知らなかったのだから。そんなことに、拗ねるなんてまだまだよ。」
そういってナーヤは軽くリィヤを窘めると、ゆうなに軽く笑いかける。
「ごめんなさいね、ユウナ。リィヤは本当に貴女に会えるのをずっと前から楽しみにしていたの。」
「あの、それってリィヤ王子はずっと前から私のことを知っていたということですか?」
さっきからどうも気になっていた。
ゆうなは今日初めて彼らのことを知ったのだが、向こうではそうではないようだった。
「もちろんよ。ねぇリィヤ。」
「・・・ユウナのことは、サヤカさんがアルタニアに来た時から知っているよ。
よく写真を見せてもらったし、サヤカさんがアルタニアにいる時ユウナは毎日メールをしていただろう。知ってる?日本語の勉強のために、何度か私が返信をしたんだよ。」
「お母さん!?」
聞いていないとばかりに、隣にいる母親を問いただす。
「だって、日本語の良い勉強になるからって、リィヤ君がやりたいって言うんだもの。」
年下の美形にお願いされたら、お母さん断れないと正直に白状した。
「・・・ちなみに、どんな内容を?」
母親のメールアドレスから来ていたため、全くもって気づかなかった。
それに、母親がアルタニアに行った時からだったら少なくても3年は経っている。
その中のどれかがリィヤが作ったメールだというが、どんな内容か気になった。
「最近送ったのはこれだったかな?
『可愛いユウナ、元気にしている?
アルタニアは今暑い夏を迎えていますが、近くに大きな湖があり風が吹くととても涼しいです。
いつかユウナにもこの綺麗な自然溢れる景色を見せたいと思います。』
君の返事は、『いつか私もアルタニアに行きたい』だったよね。
いつでも来てくれたら良い。もう君の国でもあるのだから。」
もちろん、ゆうなはそのメールの内容を覚えていた。
一緒に写真が添付されていたからだ。
珍しいなと思いながらも、部屋から撮ったであろう緑に囲まれた綺麗な蒼い湖の写真はゆうなのお気に入りの写真でもあった。
リィヤの綺麗な蒼い瞳は、その時の写真の湖の蒼と同じ色だった。
ゆうなは少しだけリィヤを身近に感じた。
「いきなり出会ってすぐに家族になれる人もいれば、そうじゃない人もいるわ。あなたたちに足りないのはお互いを知り合う時間でしょう。
リィヤ、せっかく日本に留学して同じ大学に通っているのだからユウナに日本のこといろいろと教えて貰いなさい。」
ナーヤの言葉はすんなりとゆうなに心に溶けていった。
確かに自分に足りないのは時間なのかもしれない。
まずは、この美形の兄に慣れなくてはいけない・・・。
「そうですね。
ユウナ、良かったら、週に1度か2度時間をとって、お互いのことを知りあいましょう。」
「はい。」
リィヤの言葉に、ゆうなは素直に返事を返すことができた。
「決まりね。じゃあ、ユウナは明日明後日は私たちと遊んでね。」
「はい?」
何故、そこで「じゃあ」になるのかがわからない。
ユウナがナーヤを見ると、にっこり微笑まれた。
「だって、私たちは月曜にはアルタニアに帰るんだもの。私たちに残された時間は少ないわ。
もちろん、お風呂に入るのも寝るのも一緒よ。あっ、安心してね。ケリーはいれないから。」
「おいおい、それはヒドイじゃないか。お風呂は諦めるが、せめて一緒に寝る権利は僕にもあるだろう?」
その権利だけは譲れない、と今まで黙って微笑んでいたケリーアが自分の主張を通す。
「もう、仕方がないわね。じゃあ少し狭くなるけど寝る時は三人で寝ましょう。」
お互いの妥協点を見出し、それなら良いと笑顔で見つめ合う夫婦。
だけど、ここに全く妥協も納得もしていない当事者がいた。
「おおお、お母さんっ!?」
どんどんと進む怖い話に口を挟むことが出来ずにいたゆうなは、この場で唯一自分の味方であるはずの母親に助けを求める。
「あら、良いわね。お母さんこの土日休日出勤しないといけなかったらちょうど良かったわ。
二人とも今日からゆうなをよろしくね。」
お母さんに売られた!?とゆうなは顔を青ざめさせる。
『私の幸せを第一に考えてくれるんじゃなかったの?』と泣きそうになりながら目で訴えると、母から『何事も経験よ』という全てを悟ったような落ち着いた笑みが返ってきた。
「もちろん、任せて!プランはもう決めているの。まず、明日はエステと買い物よ〜!!
明後日は、観光ね!築地と浅草に行って、その後はカラオケをしてプリクラも撮りたいと思っていたのよ〜。あー、もう時間があれば京都にも行きたかったのに!!二日じゃ全然足りないわ。」
楽しそうに明日からの日程を指折りあげていくナーヤを止める人は、誰もいなかった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
最初、こういった食事会の会話を含めての話にする予定だったのですが、着地点が見えなくなってしまったため、カットした部分です。
せっかく考えた設定を出せないのは少し寂しいなと思ったことと、今回思った以上にブックマークや評価、感想をいただけたので、嬉しくて「おまけ」として投稿させていただきました。




