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「ゆうな、ゆうな!大丈夫?」
母親の声にゆうなは意識を浮上させ、重い瞼を持ち上げる。
自分がどうして寝ているのか、ここが何処だかわからない。
「あれ、お母さん?」
「ゆうな、良かった!急に倒れたときいてびっくりしたのよ。」
心配をしている母親の顔がすぐに飛び込んできた。
「ああ、うん。ごめん、変な夢を見たみたいで頭が重い・・・。」
大丈夫だと身体を起こし、母親が差し出してくれた水をとりあえず一気に飲み干した。
「・・・変な夢って?」
恐る恐るといったふうに母親が聞いてくる。
「笑わないでよ。
お母さんが一夫多妻制の王様のお嫁さんになるとか、その王妃がとんでもない美女で私を娘だとか、私が王女だとか、学校の王子が私の兄になるのだとか、夢にしてはすごくリアルだったな〜。」
「そうなんだ。でも、それって楽しそうじゃない?」
「楽しそうって、お母さん。あり得ないよ。」
特に学校の王子が義理の兄になるだなんて、笑い話どころかファンクラブの人たちに殺されてしまいかねない。
はははと、乾いた笑いをしていると母親がおずおずと言い出した。
「・・・でも、実は夢じゃなかったり。」
「はい?」
「え〜っと、だからね。その夢は夢じゃなくて現実。」
そう母親が言ったとたん、母親が土下座しかねない勢いでごめんなさいと頭を下げた。
「その、本当は先にちゃんと説明しようと思ったのよ。でも、賛成してくれるゆうなを見てるとだんだんと言い出せなくなっちゃって・・・。」
本当にごめんなさい、と殊勝に謝る母親にゆうなは呆気にとられる。
「えっと、夢じゃない・・・?」
「うん、ちなみにナーヤもケリーアもリィヤ君も後ろにいるわよ。」
そう言われて恐る恐る後ろを振り向くと、何処かの雑誌の王室特集などに載っていそうな美男美女の家族がいた。
そして、今までの記憶が怒濤のように蘇った。
驚きすぎて声が出ないとはまさにこのことを言うのだろう。
身動き一つゆうなは出来なかった。
「・・・ユウナはこの結婚には反対なのね。せっかく娘が出来たと思って嬉しかったのに。」
先ほどまで女王様然としていた第一王妃ことナーヤが目に涙を浮かべ、夫である国王の胸に弱々しく頭を寄せる。
「ナーヤ」と優しく妻を抱き寄せ、ケリーアは哀しそうにゆうなを見つめる。
その目は責めているわけではなく、仕方がないと諦観を表していたが、そんな二人を見るとゆうなの胸が痛んだ。
「ごめんなさい。まさかゆうながここまで嫌がるだなんて思ってもいなかったわ。
ナーヤ、ケリーア、それにリィヤ君も。今までよくしてくれてありがとう。
せっかく新しい家族になれると思っていたのだけど、今回の話はなかったことにー」
そういって、母親が哀しそうに顔を伏せる。
「えっ、待って!? ちょっと待って!!」
何だか、自分一人が悪者で罪悪感が半端ない。
「だって、ゆうなはこの結婚に反対なんでしょう?」
だったら仕方がないと、母親が目に涙をためてゆうなを見つめる。
「いや、反対というか、あり得ないというか、考えられないというか・・・。」
自分の気持ちがうまく表現できない。
一番近いのがあり得ないのでなかったことにして欲しい、だった。
「ワァァァァァ、ユウナに嫌われたわっ!!気絶するほど、私たちのことが嫌いなんだわ!!」
ゆうなの言葉にナーヤがますます涙を流し、夫の胸にすがりつく。
「いえ、そういったわけではなく、あの・・嫌いではありません!」
自分が泣かしてしまった大人の女性に何て声をかければいいのかわからず、おろおろとゆうなはナーヤの言葉を否定した。
それにナーヤは最初からゆうなを好きだと全身で表現してくれたのだ。そんな人を間違っても嫌いだとはゆうな言えなかった。
「・・・じゃあ、好き?」
ピタリとナーヤの涙が止まり、ゆうなをじっと見つめる。
今まで見たことがないような美女に上目遣いでこんな風に見られれば、自分にその気がなくても思わず顔が赤くなる。
「・・・いえ、あの、その。」
では、自分も好きかどうかはまた違った話で、とっさに何も答えられなかった。
だけど、じっと見つめてくるナーヤの瞳に勝てず、最終的にゆうなは押し負けた。
「・・・はい、好きです。」
「じゃあ、ゆうな。お母さん結婚しても良い?」
すかさず、母親がゆうなに詰め寄る。
「えっと、お母さんはそれで良いの?その、王様だよ、別に奥さんいるんだよ!?」
あれ?普通って夫一人に妻が何人もいれば、修羅場というものではなかったかと、自分の知識を改めて確認する。どう考えてもこの場の大人たちはおかしい気がする。
「うん、いいの。お母さん、ケリーアとナーヤが大好きだもの。」
みんなと家族になりたいと言い出した母親のその顔は本当に幸せそうで、もう一夫多妻制とか世間一般的な価値観とかどうでも良いかと思えてきた。
「・・・お母さんが幸せなら、それで良いよ。」
「ダメよ。ゆうなも幸せじゃないと。お母さん、ゆうなが幸せでないと幸せになれないわ。」
それが前提条件だと、母親がゆうなに伝える。
自分が幸せか?それはまだゆうなには早すぎる質問だった。
だけど、不幸ではないはずだと思った。こんなに思ってくれる母親がいるのだから。
そう伝えようとした瞬間、ナーヤが二人を抱きしめた。
「大丈夫よ!あなたたち母娘は私が責任を持って幸せにするわっ!!」
「ナーヤ、それは私のセリフなのだが・・・。」
先ほどまで妻を慰めていたはずのケリーアが、少しだけ寂しそうに呟いた。
「きゃー!ナーヤってば素敵っ!愛している!もう抱いて!!」
ナーヤのセリフに、母親がまるでアイドルを追いかけるファンのように顔を赤くして声を上げる。
「うふ、いつでも良いわよ。」
そういって、さらに強く抱きしめるナーヤ。
はっきりいって、二人の間に挟まれてるゆうなはとても苦しかった。
「君たちの仲が良いのはとても嬉しいのだが・・・。サヤカ、君の夫は僕だと思い出してくれると嬉しいな。」
「あら、もちろん。ケリーアのことも愛しているわ。」
「それは良かった。僕も愛しているよ、奥さん。」
そういって、ナーヤの腕からするりと抜けてケリーアと抱擁をする。
そんな母親はちゃんと愛しい男性に抱かれる女性の顔をしていた。
「あれ?なにこの大円団、っというかナーヤ王妃先ほどまで泣いてませんでした!?」
まだ、ぎゅーと熱い抱擁を交わしてくるナーヤに先ほどの涙は何だったのかと、ゆうなが問いただす。
ナーヤはパッと腕を放して「え〜っと」と両手の指をくっつけてソワソワしだした。
「嘘泣きは母上の得意技だよ。いつでも泣けると豪語しているからね。」
いつの間にか王子であるリィヤが側にきて、先ほどの答えをくれた。
「でも、ユウナに嫌われたと思ったら本当に悲しかったのは事実よ。嘘じゃないわよ。ちょ〜っといつもより大袈裟に泣いただけじゃない。」
拗ねたように唇を尖らして、そっぽを向くこの女性を可愛いと思ってしまったらもう負けなのだろう。先ほどから負けてばっかりだが。
「・・・う、嘘泣き?」
「嘘じゃなわいよ。」
「嘘泣きですよね、母上。」
よく似た美形親子が言い合いをしているが、もうどうでも良かった。
今、ゆうなが思うのはただ一つ。
早く、家に帰って寝たいということだけだった。
もちろん、寝て起きたとしてもこれらのことを現実として受け入れられるかは不明だったが・・・。
翌週の月曜日
疲れが取れない顔つきで、ゆうなは大学に来ていた。
「おはよう、ゆうな!ってあんた酷い顔よ。寝てないの?」
「ああ、うん。ちょっと金曜からいろいろとあって、あまり寝てないかな。」
「大丈夫? 金曜からって、確か新しく家族になる人たちとの食事会だったんでしょ?上手くいかなかったの?」
「・・・上手くいったかと言われると、これ以上もないほど相手方にしたら上手くいったんだと思う。私なんか、手のひらで転がされて・・・、もうもうー」
思い出すだけで、涙がでてくる。あの後もいろいろと大変だった。
「・・・手のひらで転がされたって、変な人たちだったの?もしかして、変なことされた・・・とか?良かったら力になるよ。」
友人が真剣な顔で聞いてくる。
「あ〜っと、違うの!変わった?普通じゃない?いや、違う!上手く言葉が出てこないんだけど、悪い人たちではないの、ただものすごく私には刺激が強い人たちでー」
間違った方向へ全力で勘違いをしている友人に訂正を入れようとするが、上手い言葉が見つからない。
まだ不安そうな顔をしている友人に、とりあえずは大丈夫だと伝える。
「大丈夫!!その土日は向こうの家族と一緒に買い物したり、遊んだりして疲れただけだから。」
「そう? 上手くいったのなら良かったね。」
ようやく誤解は解けたとホッと一安心すると、友人が何かに気づいたように一歩近づいてきた。
「あれ、ゆうな。香水つけてる?それとも、シャンプー変えた?なんか良い香りがするね。」
「そそそ、そう?」
軽く動揺する。
ゆうなは香水を使っていないが、さっきまで隣にいた人がつけていたのを知っていた。
同じ車の中で肌が触れ合うほど近くにいたのだ、香りが移るだろうほど近くに。
「うん。どこのメーカー?」
「えっと、ごめん。わからない。多分、さっき電車で隣にいた人の匂いでもついたんじゃないかな?」
説明するのが難しく、とっさに嘘をついた。
「そう? もしかして、彼氏でも出来たの?」
ニヤリと友人が面白そうに笑う。
「まさか、絶対に違うっ!」
「そんな全力で否定しなくても、ちょっと思っただじゃない。」
友人がとんでもないセリフを言うものだから、思わず大声で否定してしまう。
あの人と恋人など考えられない。ただでさえ、今と自分の関係が信じられないのに。
考えただけでバクバクなる心臓に手をあてていると、別方向からキャーという女の子の声が聞こえはじめた。
「あっ、今日は朝から王子発見〜。ラッキー!」
そこには、朝同じホテルで朝食をとり、ここまで同じ車で登校してきた義兄がいた。
「あっ、ほら、ゆうな。また手を振ってくれてるよ。」
ちらりと見ると、満面の笑顔でこちらに手を振るリィヤ王子がいた。
「あれ〜、今日は長いね。まだ時間に余裕あるからかなぁ。」
まだ、手をふる義兄にゆうなは意を決して小さく手を振り返した。
そして隣にいる友人に気づかれないよう小さく合図をする。
ものすごく恥ずかしく、思わず赤くなる顔を鞄で隠した。
すると、向こうは満足したのかクスリと笑って校舎に入っていった。
「あれ?珍しいね、ゆうなが手を振り返すなんて。
とうとうゆうなも王子のファンになった?って、あんた顔が真っ赤よ。どうしたの!?」
王子に笑われ、友人に指摘された顔をますます真っ赤にして、ゆうなはその場で鞄を抱えて座り込んだ。
「恥ずか死にたい。」
車の中で、ゆうなはリィヤ王子と一つ約束をした。
学校内では兄妹ということは内緒にして欲しいと伝えると、リィヤは一つの条件を提示した。
それは、リィヤが手を振ったら必ず返して欲しい、そしてある合図をして欲しいということだった。
それを守ってくれたら、当分の間は学校内では話しかけないし、義理の妹というのも内緒にしてくれるということだった。
当分の間という言葉に不安を覚えたが、ナーヤと同じ迫力のある綺麗な顔で迫られればゆうなに勝ち目はなかった。
合図、それは手を振り返した後に、手を親指と人指し指、小指は立てたままで中指と薬指は折り曲げた形にすること。
右手を言われた形にして見せるとリィヤはものすごく嬉しそうに「OK」と言ってくれた。
車を降りた後で、携帯で調べるとその手の形は英語の手話で【愛している】のサインだった。
意味を理解した瞬間、顔を真っ赤にして「義兄が理解できない」と、ゆうなは呟いた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
続きがありそうな終わり方で終わって申し訳ありません。
頭の中では少しだけ続きがあります。上手くまとめることが出来たら更新したいなと思っています。
とりあえずは、私の中では区切りが良いため、この話で完結としたいです。
2016.7.18 少しだけ話を修正しました。
ストーリー展開に変更はないです。




