余談.ヒースとレイナ
「来たよレイナ!」
「いらねえ…!!!!」
レティの帰宅に合わせてメディウィル公爵家に訪れた私達を迎えたのは、レイナの嫌そうな声だった。
いやまあヒースの第一声が悪いんだろうけどこれ。
体調が良くない時は、全てを一旦置いて寝ろ。という過去の忠告に従って寝ていたらしいレイナは、寝台の上で体を起こしたと思ったらそのまま前につっぷした。
なかなか体調が悪いらしい。体を起こしていられないのは久々に見たかも知れない。
シンプルな内装と調度品が揃うレイナの部屋は、換気がしやすいようにモノをあまり置かないようになっている。そこを風の精霊が楽しそうに飛び回る事で換気されるようになっている。研究所でも換気が必要な部屋は同じようなコンセプトで作られているそうだ。
「何でアレに連絡するんだ……」
「そうは申されましても、アレは一応坊ちゃまの主治医ですので」
レイナも侍従もアレって言っちゃってるけど、しょうがないとは思う。
レイナを病から助け、現在でも体調管理を適切に行える主治医である事には間違いがないが、いかんせんヒースは研究馬鹿が過ぎて…思いやりがないとかではなくて、デリカシーが壊滅している。
体力のない状態では、顔を見ただけでげんなりしても仕方がないだろう。
「久々にかなり体調が悪いようだけど、熱は? 咳とか鼻水は? どこに出かけて何に障った??」
「ぐいぐいくるな! いつも言っているが、私はお前専用の病種畑じゃないんだぞ!」
病種畑とは、研究所で病の種を増やし、特定するために整えられた特殊な器具の事を言う。
動きの鈍いレイナの右腕を捕らえて、病の精霊に色々指示を出してるヒースは目をきらきらさせてとても楽しそうだ。
ヒースは好奇心が旺盛で、今その好奇心の大半が病気や体調不良をもたらすものに向いているというだけの話なのだが、その顔は不謹慎だからやめなさいと言っても通じた事はない。
「そんなの当然だよ! レイナは病種畑なんかじゃない!」
「ヒース…」
ようやくわかってくれた……のか? くらいの顔をしているレイナに、私とレティは苦笑する。
普段のレイナだったらそんな言葉でほだされはしない。
これは、熱がなくても思考が鈍ってるかも知れないね…とレティと目線を交わしたタイミングでヒースがぶっこんだ。
「レイナは病種を植えなきゃいけない畑なんかじゃない…新しい病種を自分で取りに行く……言うなれば、そう! 自律型病種網!」
「かえれ!!!!!!」
ヒースの診察が終わる頃、レイナが精魂尽きていたのは言うまでもない。
レイナも元気な時にはもうちょっと落ち着いてるし、ヒースもレイナ相手でなければここまで全開にはならないので…なんかもうレイナには頑張って完全健康体になってもらうしかない…ごめん、誰も止められないんだ、この状態のヒースを…。
「まあでも、一般的に知られてる伝染病とかにはもう罹らないくらい健康…と言うか改造が済んでるはずなのに」
「なぜか、珍しい病を拾ってきちゃうので…全ての病に耐性を持つくらいにならないと、難しいのかもね…」
まだ何事か言い合っている二人をよそに、遠くを見る私とレティなのであった。
今回のレイナは病気ではなく、体内の抗病機能が何かに過剰反応したと言う事らしい。原因の物質に対する反応を抑える事で症状は消えたが、これがレイナだけに起きる事ではなさそうだ、と研究所に持ち込み、新たな研究課題として認められたとの事だ。
これから先も色々あるだろうけど、頑張るヒースを応援して(時には押し止めて)これから先も二人で生きて行くのが私の目標としておきたい。




