■第6話「誤差」
どれだけ精密に組まれた計画でも。
必ず、誤差は生まれる。
それは人間である限り避けられない。
感情、判断、偶然。
すべてが、計算から外れる要素になる。
だからこそ。
問題は“誤差があるかどうか”ではない。
それを、どう扱うかだ。
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テストは始まっていた。
三人の候補者に同時に与えられた条件。
限られた資金。
限られた時間。
そして、結果を出すこと。
それぞれが、独自の方法で動き出す。
ある者は現場に出て人を集め。
ある者はデータを分析し、戦略を組み。
ある者は周囲の協力を取り付ける。
誰もが必死だった。
そして。
その様子は、外部にも徐々に拡散されていく。
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雨宮澪は、画面を見ながら軽く首を傾げた。
「……ちょっと早いな」
グラフの伸び方。
想定よりもわずかに急だ。
通常なら誤差の範囲。
だが。
「これ、誰かが押してる」
自然発生ではない。
外部からの“後押し”。
澪はすぐにログを遡る。
複数のアカウント。
拡散の起点。
そこに、わずかな違和感があった。
「へえ」
口元が歪む。
「やるじゃん」
完全に隠しきれていない。
だが、素人ではない。
「誰だろ」
楽しそうに呟く。
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同じ頃。
如月玲は、同じデータを見ていた。
「見つけた」
小さく言う。
わずかなズレ。
不自然な拡散の波。
それは偶然ではなく、明確な意図を持って動いている。
「やっぱりいる」
背もたれに寄りかかる。
「しかも、複数」
単独ではない。
チームで動いている。
「面白いじゃん」
目が細くなる。
「どこまで隠せるか、勝負しようか」
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レギオンの会議室。
鷹宮龍斗は、資料を静かに見ていた。
「状況は?」
短く問う。
氷室が即座に答える。
「候補者三名、いずれも異常な成長曲線を示しています」
「異常、か」
「はい。統計的に見て、自然発生とは考えにくい」
数値が示している。
明確な違和感。
「だが」
氷室は続ける。
「違法性は確認されていません」
堂島が苛立つ。
「またそれかよ」
「事実だ」
冷静な声。
鷹宮は黙って考える。
違法ではない。
だが、不自然。
この状態は、最も厄介だ。
「……裏がある」
静かに言う。
「確証はないが、間違いない」
神崎が口を開く。
「候補者の心理状態も、少し気になります」
「どういう意味だ」
「全員、似たような反応をしているんです」
資料を指でなぞる。
「不安を抱えつつも、それを“チャンス”として受け入れている」
「普通じゃないのか?」
堂島が言う。
「普通です」
神崎は頷く。
「でも、揃いすぎている」
鷹宮の視線が鋭くなる。
「誘導されている可能性は?」
「高いと思います」
即答だった。
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一方。
白鷺悠真は、三人目の候補者と対面していた。
今回の相手は、冷静で理論的なタイプ。
感情で動く人間ではない。
「正直に言ってください」
男が言う。
「このテスト、何か裏がありますよね」
悠真は少しだけ微笑む。
「どうしてそう思います?」
「条件が良すぎる」
即答。
「リスクとリターンが釣り合っていない」
いい観察だ。
だが。
「それは、あなたが優秀だから気づけたことです」
悠真は静かに言う。
否定しない。
むしろ肯定する。
だが、その方向を少しだけ変える。
「普通の人間なら、疑問すら持たない」
男の表情がわずかに変わる。
「あなたは違う」
視線を合わせる。
「だからこそ、選ばれている」
沈黙。
数秒。
そして。
「……なるほど」
男は小さく頷いた。
納得した顔。
疑念は消えていない。
だが、それ以上に。
“選ばれている側”という認識が強くなった。
それでいい。
それで十分だ。
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黒鉄蓮は、現場を見ていた。
三人の動き。
それぞれの進行状況。
そして。
わずかなズレ。
「……早いな」
小さく呟く。
東雲の判断が、想定より速い。
チェックも、介入も。
全てが一段階早い。
これは。
ただの偶然ではない。
「読んでるか」
可能性が頭をよぎる。
だが。
それでも。
「問題ない」
すぐに切り替える。
計画は、一つではない。
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神代昴は、静かに全体を見ていた。
ズレは確認している。
外部からの干渉。
ターゲットの反応速度。
すべて。
「いい」
小さく言う。
「想定内だ」
むしろ。
「少し早まっただけ」
その程度の違い。
「なら」
次の手を考える。
修正ではない。
前倒し。
「進める」
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時任紗那は、データを見つめていた。
複数のルートが、再計算されている。
成功率。
失敗率。
分岐。
「……来てる」
小さく呟く。
レギオンの動き。
確実に、近づいている。
「でも」
画面を切り替える。
「まだ届かない」
わずかに。
本当にわずかに。
足りていない。
⸻
誤差は、確かに存在していた。
だが。
それはまだ。
致命的なものではない。
誰もが。
まだ、制御できる範囲だと思っている。
だからこそ。
気づいていない。
その誤差が。
すでに“広がり始めている”ことに。




