■第7話「接触」
真実は、必ずどこかに痕跡を残す。
どれだけ巧妙に隠しても。
どれだけ精密に設計しても。
完全に消すことはできない。
だから。
追う側に必要なのは、特別な力ではない。
ただ。
諦めないことだけだ。
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如月玲は、画面に映るログをじっと見つめていた。
拡散の波。
アカウント同士の関係性。
微妙にずれたタイミング。
それらを、何度も何度もなぞる。
「ここだな」
小さく呟く。
一つのポイント。
わずかな歪み。
そこから、さらに深く潜る。
通常の解析では届かない層。
だが。
「見えてるよ」
指が止まる。
画面の一部に、明らかに“人の手”が入っている痕跡。
完全ではない。
だが、消しきれていない。
「やっと見つけた」
口元がわずかに上がる。
「あなたたち」
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同じ頃。
雨宮澪は、ふと動きを止めた。
「……あれ?」
画面を見直す。
いつも通りの拡散。
いつも通りの流れ。
だが。
「覗かれてる」
直感だった。
誰かが、こちらの動きを追っている。
しかも、かなり近い。
「へえ」
楽しそうに笑う。
「来たね」
キーボードを叩く。
いくつかのルートを切り替える。
フェイクを混ぜる。
ノイズを増やす。
「どこまでついてこれる?」
⸻
レギオン本部。
如月は、さらに深く解析を進めていた。
「動いた」
小さく言う。
さっきまで見えていたルートが、急に変わる。
痕跡が薄くなる。
だが。
「逆にわかりやすい」
完全に消えていない。
むしろ、意図的に“隠した”痕跡が残っている。
「こっちだね」
新しいルートを辿る。
そして。
ついに。
「……いた」
画面に、一つの接点が浮かび上がる。
完全な正体ではない。
だが。
確実に。
“誰か”がいる。
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鷹宮龍斗は、その報告を受けていた。
「位置は?」
「まだ特定までは」
如月が答える。
「でも、かなり近いです」
「そうか」
短く頷く。
ついに、尻尾を掴みかけている。
「氷室」
「はい」
「この動き、どう見る」
「組織的です」
即答だった。
「単独ではない。複数人で役割分担している」
「規模は?」
「少なくとも三人以上」
堂島が口を挟む。
「やっと出てきたな」
「まだ“出てきてはいない”」
氷室が冷静に訂正する。
「見えたのは、あくまで一部です」
鷹宮は目を閉じ、考える。
ここで焦れば、逃げられる。
だが。
慎重すぎても、機会を失う。
「……追う」
静かに言う。
「ここが分岐点だ」
⸻
一方。
神代昴は、静かにモニターを見ていた。
如月の動き。
澪の対応。
全てが、リアルタイムで把握されている。
「接触したか」
小さく呟く。
想定より、少し早い。
だが。
「問題ない」
むしろ。
「ここからが本番だ」
画面を切り替える。
別のルート。
別の仕込み。
「見せてやる」
誰にともなく、そう言った。
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黒鉄蓮は、東雲と対面していた。
「進捗はどうだ」
東雲が問う。
「順調です」
淡々と答える。
三人の候補者。
それぞれが結果を出し始めている。
表面上は。
「いい傾向だ」
東雲は頷く。
だが、その目は笑っていない。
「ただ」
ゆっくりと続ける。
「少し、騒がしくなってきたな」
その一言で、蓮は理解する。
気づいている。
完全ではないが。
確実に。
「外部の動き、ですか」
「そうだ」
東雲は立ち上がる。
「面白い」
窓の外を見ながら言う。
「どこまで関わってくるか」
その声には、わずかな興奮が混じっていた。
⸻
白鷺悠真は、静かに状況を整理していた。
「来たね」
小さく呟く。
レギオンの接近。
想定内。
だが。
「少し早い」
それも事実。
「どうする?」
自分に問いかける。
そして。
「まあ、いいか」
微笑む。
「それも含めて、物語だから」
⸻
時任紗那は、画面を見つめていた。
複数のルートが、大きく変動している。
成功率が揺れる。
分岐が増える。
「……来た」
静かに言う。
ここが。
最初の分岐点。
「第一の裏返し」
その言葉を、淡々と入力する。
⸻
接触は、成立した。
追う側と、仕掛ける側。
その距離は、確実に縮まっている。
だが。
まだ。
決定的ではない。
だからこそ。
この瞬間が。
最も危険で。
最も面白い。




