表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/31

凛として咲く獣-20

『オーナー』から銃を突き付けられたままの寅之助が連行されたのは、いつも彼が戦っているダンスホールであった。

日拳のガイや、剣術の金串と戦った事を思い出す。

いつもは人垣がリングを形成しているが、客の入っていない時間に見ると、こうも広いのかと寅之助は妙な関心をした。


「おい、お前。このガキをぶん殴れ」


銃を突きつけたまま『オーナー』は従業員の一人に命じた。

その従業員は遠慮がちに寅之助へと近づく。


「へへ、悪いな寅之助」


「へぇ?こんなカスの言う事を聞くのかい?」


「俺たちはギャングだ。親が白を黒と言えばそれは黒になるのさ


すると寅之助は僅かに口角を上げ、皮肉った笑みを浮かべた。


「そんな理由で自分の意思を捨てるのかい。だったら俺たちも遠慮する必要はなさそうだ」


「俺たち?」


従業員、いやギャングは首を傾けるが、寅之助に銃を突きつけたオーナーが再び口を開く。


「早くやれぇぇぇぇ!ガシィィィィ!ガシィィィ!」


金切り声にギャングは肩をすくめる。

そして振りかぶると、全力で寅之助を打ち据えた。

広いホールに、肉が肉を叩く音が響いた。


「が、ああああ?」


そして寅之助を殴ったギャングが、拳を押さえてうずくまっていた。

彼は寅之助の頬を狙い、殴った。

寅之助には200kgを超える咬合力と、頭でブリッジしながら140kgを超えるベンチを差す首の力がある。

その二つの力が、ギャングのパンチを完全に跳ね返していた。

打たれた寅之助は、何事もなく平然としていた。


「ああああああ!もう良い!役立たず!役立たず!どいつもこいつも役立たず!」


オーナーは狂ったように甲高い声を上げ、銃を持った腕をヒステリックに振り回した。

そんなオーナーを気に留める事もなく、寅之助は天井に気を払っていた。天井のダクトの中身と目が合う。もう、いいだろう。


「いやぁ……凄いよな」


唐突に、寅之助は独り言ちた。

その声に冷静を取り戻した『オーナー』は、銃を構えなおす。


「俺が仕事を辞めると言ったら、ここまで拗れると想像つくか?俺はピンとこなかったよ」


「いまさら後悔して命乞いか?ダサいな!ダッサいな!」


『オーナー』は嬉しそうに言葉を繰り返した。

彼の年齢は40を超えているはずだが、その様子はまるで思春期の子供のようだった。


「未来が読めちゃうってどういう気分なんだろうな?楽しいのか、それともつまらんのかな?」


「はぁ?」


「紹介しよう。俺のDr.マンハッタンだ」


そういうと寅之助は目をつぶった。

それとほぼ同時であった。


かたん。ころん、ころころ……


寅之助の頭上のエアダクトが開き、そこから小さなアルミ缶のような物が数個、投げ込まれた。

突然の出来事に、その場にいた人間は意味が分からず、全員が固まった。


「は?」


次の瞬間だった。

『アルミ缶のようなもの』は破裂し、強烈な閃光を周囲一帯に放った。


「うわああああ!?」


『オーナー』も従業員たちも、目を覆い、体を丸める中、ただ一人だけ寅之助は動いた。


「おおおっ……らぁっ!」


こん身の力を込めた、寅之助のバックハンドブローが『オーナー』の銃を持った右腕を砕いた。

銃はその手を離れて宙を舞い、そして乾いた音を立てて落ちると、床を滑る。


「うぎゃあああ!?痛い、痛いっ!」


『オーナー』が喚き声を上げると同時に、エアダクトから降りて来た人影があった。

全身を真っ黒なプロテクターで覆い、顔をARゴーグルで隠した女であった。

もちろん武蔵野 巴その人である。


「誰がDr.マンハッタンよ」


「褒めたつもりだけどな」


「無知無能の全能者じゃない。嫌ね」


喋りながら、巴はスタン警棒を取り出した。

病院で使用した際よりも長く、重く、頑丈に、そしてバッテリを大型化した改良型だ。


「誰だ!?もう一人いるぞ!?」


ギャングの一人が、薄目を開けながら叫んだ。

だが彼がそれ以上、言葉を発する事は無かった。


「はあああっ!」


大上段に構えたスタン警棒が彼に振り下ろされた。

長く、重くなった警棒の一撃に、ギャングはいとも簡単に膝から崩れ落ちた。


「おっと。お見事」


寅之助はそれを見て感嘆する。

巴に格闘技の経験はないはずだが、中々のセンスがあると、その動きを見て思った。


「こっ、殺せ!殺せ!ガシィイイイイイイ!」


オーナーは砕かれた手を押さえながら、金切声を上げた。

ギャングたちはチカチカする目をこすりながら、当て推量で巴と寅之助のいる方角へと銃を打ち込んだ。


「あっぶね!?」


寅之助は巴の体をひょいと抱え、そのままバー・カウンターの裏へと滑り込んだ。

細身とはいえ、40kgは超える巴の肉体を、彼は軽々と持ち上げて見せる。


「あ、ありがと」


「軽いもん持っただけさ。それよりも閃光弾の効果が切れるの、聞いてたより早くねぇか!?」


「さっきは貴方が近くにいたもの。目を閉じていたとはいえ、マグネシウムの反応量を減らすのは当然でしょう」


二人がそう話す間にも、次々とビームが撃ち込まれていく。

頑丈なバー・カウンターがビームを阻んでくれてはいるが、貫通するのも時間の問題だ。


「じゃあ、ちゃんとキツい閃光弾も用意してんだろ?投げてくれよ、俺が同時に突っ込むから」


「あら。『素手の美学』って、私に武器を使わせる分にはいいのかしら?」


「ぬっ……いや、そういう事じゃなくてだな……」


寅之助が顔を紅潮させたのを見て、巴はゴーグルの下で可笑しそうに笑った。

この獣のこうした反応が可愛くて、彼女はついからかいたくなってしまう。


「冗談よ。それより、ちょっと試してみたいものも作ったの」


そういうと、やはり閃光弾と同じような缶をリュックサックから取り出した。

安全ピンを引き抜くと、バー・カウンターの裏から、ギャングたちへとめがけて放り投げる。


「また閃光弾だ!目を隠せ!」


それを見たギャングたちは口々に叫んだ。

だがその缶が破裂すると、真っ白な閃光ではなく、黒い煙が周囲へと広がった。


「なんだ?スモーク?」


だがその黒い煙は、周囲を薄い霧のように漂うだけで、姿を隠すほどの濃度は無かった。

寅之助たちが隠れたバー・カウンターの姿ははっきりと見えている。


「ははっ!不良品のスモークをつかまされたのか!……最近、そんなような話がどっかであったような」


鋼鉄の義手を付けたギャングが、一人、疑問符を浮かべていた。


「バカやらかしたなぁ寅之助ともう一人の奴!」


ギャングたちは銃のバッテリを再装填すると、再びカウンターへと狙いを定める。

ここ『アトロシタス』のカウンターは万一の銃撃戦に備え頑丈に作られているが、それでもこれだけのビームを打ち込まれては無事ではいられないはずだ。


「じゃあな寅之助。お前は面白い奴だったよ」


ギャングの一人がそういうと、引き金を引いた。

すると、周囲が急に明るくなった。


「!?」


だがそれだけだ。何も起こらない。

そう、何も起こってはいないのだ。

バー・カウンターは依然として無事なままだ。


「な、なんだ?」


「知るか!撃て撃て!」


ギャングたちは次々と引き金を引く。だがやはり、引き金を引かれるたびに黒い霧が激しく発光し、カウンターは無事なままだ。


「な、なんだぁ?」


「どう?面白いでしょう」


カウンターの向こう側の寅之助もまた、間抜けな声を上げた。

ギャングも寅之助も困惑する中、巴一人が無表情のまま確信を得ていた。


チンダル現象。


朝もやの中、太陽光が美しく帯を引く現象を見た事があるだろう。

あれはコロイド粒子が飛散している気体中に、光が照射されると、光が散乱・拡散して帯状に光が可視化されているものだ。

つまりコロイド粒子を空気中へとまき散らす事で、ビームの威力を拡散させ威力を減衰させることが出来る。

そしてコロイドの性質を持つ物質は、牛乳や墨汁など、いくらでも身の回りに存在する。

病院で銃を手に入れた巴は、その性質を基に、この霧を作り上げたのだ。


「軍用の耐ビームミストと同じ仕組みだそうよ。こんなに簡単に作れるとは思わなかったけれど」


「つまり連中はしばらく銃が使えねぇと。本当にすげえなお前はよ!」


寅之助はカウンターから飛び出すと、最も手近にいたギャングへと襲い掛かる。


「く、来るなぁ!!」


ギャングは体面もなく悲鳴を上げ、銃を向ける。

しかしどれだけ引き金を引こうとビームは拡散し、寅之助の皮膚を軽く焼くだけだ。

精々がタバコを押し付けられた程度の痛み。

かつてはその痛みに恐怖し、絶望し、屈していた。

だが今は、鍛えられた心と体、そして背中を守る友がいる!


「しゃあっ!」


銃を持った腕と、スーツの襟を躊躇なくつかむ。

そして相手を引くと同時に、寅之助は前へ出た。

戦争経験のある高名な格闘家が『戦場に於いて最も威力を発揮した』そう証言したこの技は──


跳ね腰。


ギャングの体が枯れ葉のように跳ね上げられ、そして背中から落ちた。

後頭部から落とす事も出来たが、あえてそうしない。

それが寅之助の美学だからだ。


「ひ……」


その動きを遠巻きに見ていたギャングたちには、その動きがまるで、獰猛な虎に咥えられ、地面へと叩きつけられたように見えた。

頼りの銃は突然に役に立たなくなり、そして目の前には人食いの虎。

ギャングの半数は、もはや完全に戦意を失っていた。


「こん……クソガキがぁ!」


だが残りの半分はそうではない。銃を捨て、ナイフへと持ち変えると寅之助へと躍りかかった。


「そうこなくっちゃ」


寅之助の口角が吊り上がった。そして同時に、彼の背後で甲高い駆動音が上がった。


「あん?」


次の瞬間、直径2センチ程度の何かが、彼の横顔を高速で通り過ぎた。

するとギャングの一人が、小さな叫び声をあげて倒れた。

振り返ると、巴が銃のような物を構えていた。


「おいおい、ついに鉄砲まで作ったのかよお前」


「いいえ。これはただのオモチャ。ラジコン用のブラシレスモーターとタイヤで、ワッシャを射出しているだけ。ただまぁ……」


巴は次々にトリガーを引いた。

ある者は眉間に当たり昏倒し、ある者はナイフを持つ手のワッシャが突き刺さる。


「スイカかカボチャくらいなら、めり込む威力があるだけ」


巴は冷たく言い放ち、寅之助は熱く吠える。


「お前ら全員、明日からメシはもう上の口から食えねぇぞ!最後に食ったもん良く覚えとけよ!」


寅之助は躊躇なく、ナイフで武装したギャングたちへと躍りかかった。

専門の訓練を受けたものならばいざ知らず、ただ暴力慣れしているだけのギャングのナイフなど、寅之助には無意味だった。

触れるを幸いに投げ、関節を外し、そして高速でワッシャが飛翔する。


「お、俺もう止める。やってられっかこんなもん」


「あっ!お前!」


ギャングの一人が銃をしまい、背を向けたのを別のギャングが咎める。

だが逃げようとしたギャングは反論した。


「割にあってねぇだろ、あんなクソみたいな『オーナー』の為に痛い目にあえるか!それに寅之助には昔、助けてもらった恩もある」


咎めたギャングは、ちらりとカウンター・バーの方向を見た。

そこには、人食い虎が楽し気に暴れまわっている姿が見えた。


「……逃げるか」


咎めたギャングだけではない。周囲の数人が頷くと、背を向けて逃げ出した。

その時だった。

巴の『オモチャ』とよく似た、しかしはるかに重厚な駆動音がダンスホールに響いた。

そして次の瞬間、逃げ出そうとしていたギャングたちは、その姿を真っ赤なミンチに変えた。


「!?」


残った最後のギャングを倒した寅之助は、突然の出来事に動きを止めた。

巴もまた、バー・カウンターから出てくると、寅之助の隣に並ぶ。

そして二人は、重く、巨大な『何か』が、こちらへと近づいてくるのを感じていた。


ずしん。

ずしん。

ずしん。


足音を響かせて現れたのは、旧式の軍用パワードスーツであった。

全高およそ2メートル50センチ。重量は300kgにも達する現代の鎧。

『磁壊獣戦争』でも使用された、対・宇宙怪獣を見越した汎用軍事兵器。

『オーナー』の部屋に飾られていたものであった。


『殺してやる!お前ら絶対に殺してやるからな!ガシィィィ!ガシィィィ!』


外部スピーカーがハウリングを起こしながら、甲高い声が響いた。

パワードスーツを装着している、オーナーの声であった。

その右腕のマウントされたガトリング・ガンが、白い煙を上げていた。

逃げようとしたギャングたちを一瞬してミンチにしてのけたのは、これだろう。


「巴……お前ならさ、この状況も予想してたよな?」


「してたら来てない……」


凛とした獣が二頭、顔を引きつらせていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
銃が実弾ではなくビーム銃ならこの防ぎ方が出てくるはず パワードスーツが飾られてるならいつか戦うはず 予想がカチリとはまる心地よさがあります、なんかゲームのボス戦みたいで盛り上がってきたな!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ