第56話 天帝の種
俺が一歩踏み出すと、娘たちが縋り付いてきた。
「お父様、危険ですわ」
「パパっ」
「お父さん」
「父上」
「お父しゃん……」
娘たちは心配そうな顔で俺を真っ直ぐに見つめる。
だが、俺はやらねばならない。何度もちょっかいを掛けてくる七魔大公に、二度と関わるなとわからせるために。
この面倒事を片付けるには、俺が強さを示し、敵を退けねばならないんだ。
弱さを見せたら付け入られる。
優しさと弱さは違う。
大切なものを守るのなら、時には力を証明しなきゃならないんだ。
「お父さんが敵をぶっ飛ばしてくるからな」
安心させようとしたが、娘たちは心配そうな顔を見せる。
「大丈夫だ。良い子で待ってるんだぞ」
父親は娘を守るものだ。娘の幸せを願うものだ。家族を害しようとするヤツは、たとえ誰だろうと容赦はしない。
俺は誓ったんだ。前世では手に入らなかった家族を、この世界で大切にするのだと。
娘たちに、前世の俺のような惨めな思いはさせないのだと。
そう言ってはみたものの、七魔大公サレオスは尋常じゃない強さだ。
俺はヤツのステータスを確認する。
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サレオス Lv120
種族:魔族
職業:七魔大公
スキル
剛腕剛力
肉体強化
業魔闘気
魔刃砲
ダメージ反転
飛行
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やはり俺よりも強い。
ゲームではパーティープレイで倒すボス敵だ。ソロで倒せるのなんて、ごく一部のトップオブトップゲーマーくらいだろう。
だが、負けるわけにはいかない。娘たちのためにも、今後のスローライフのためにも。
ギュッ!
娘たちが俺の手を握ると、何かが俺の中に流れ込んできた。
『聖女の加護を獲得! 攻撃が対魔族特効になります!』
『魔王権限の一部委譲! 魔族に対し、絶対優位性を持ちます!』
『大賢者の叡智を獲得! 攻撃が魔力エンチャントされ120%アップされます!』
『獣王の刻印を獲得! 肉体強度が大幅アップしました!』
『創造主の光明を獲得! 物質解析により、攻撃にクリティカルが乗ります!』
なっ! 何が起きた!?
俺に加護が付与されたのか? 愛娘たちから加護を貰うなんてな。こりゃ絶対に負けられないぞ。
「待たせたな、サレオス! 俺とお前、どっちが強いか決めようじゃねえか!」
俺がそう言い放つと、サレオスは喜びを表すかのように笑みを浮かべた。
「グハハハッ! いくら人族最強といえ、この我に一騎打ちを挑むとはな。恐れ知らずな男よ」
「うるせえ! 俺が勝ったら二度と人族に手を出すんじゃねえぞ!」
「よかろう、戦士に二言は無い」
サレオスは大剣を地面に刺すと、肩を回しながら前に出る。
「ハンデのつもりか?」
「グハハッ、拳の方が性に合ってるのだ。レインよ、我の剛腕で貴様を打ち砕いてやる」
サレオスが拳闘スタイルで構える。
周囲の空気が張り詰めた。ビリビリと磁場を形成するように。
凄まじい闘気だ。弱いモンスターならば、近寄っただけで消滅しそうなくらいの。
「さすが武闘派魔族か」
この迫力、『テイルズ オブ ドラゴニア』のボス出現演出を彷彿とさせるぜ。
ビカッ! ズバ――――――ン!
サレオスの体が光ったかと思えば、凄まじい勢いで剛腕が唸った。
神速の一撃だ。
ズドンッ!
ビリビリビリビリビリ!
俺はヤツの拳を、専用武器『天啓の剣』で受け止めた。
モグミが鍛えたレジェンダリー武器だから凌げたのあって、通常武器なら簡単に破壊されていたはずだ。
「くらえ、お返しだ!」
ズバッ!
デカいボディに渾身の一撃を叩き込む。
やたら高い防御力で、少ししかダメージが通らない。
スバッ! ズドドドドッ!
ズバババババババッ!
あれからどれだけ経っただろう。
凄まじい連撃。その一撃一撃が確実に生命力を削る。
サレオスの重い一撃を凌ぎ、着実にカウンターを返す。
俺は待っていた。決定的な瞬間を。
「ガハハッ! 敵ながらあっぱれよ! 人族でありながら凄まじい闘志。鍛え抜かれた肉体。圧倒的なパワー。だがしかし、それもここまでだ!」
サレオスが言い放った。
これはゲームの時と同じだ。
一定まで生命力を減らすと起きる確定演出。
「ゆくぞ、我が究極のスキル、ダメージ反転!」
きた! この瞬間を待っていた!
ヤツは一定まで生命力を減らすと、減った分の生命力を反転させ、攻撃力に上乗せできるんだ!
だが……。
「くらえっ!」
俺は天啓の剣を投げた。
それは一直線にサレオスのツノに向かって飛ぶ。
ガキンッ!
「グアアッ!」
やった。命中した。
ゲームと同じだ。サレオスが『ダメージ反転』を使う瞬間にヤツのツノを攻撃すると、ノックバックが起き、一定時間の行動不能が生じる!
「これを待っていたんだぁああああああ!」
ズドンッ! ズドドドドドドドドドド!
俺はありったけの力で拳を叩き込む。
「俺は種馬スキルのレイン! 種にウルトラレアレベルの力を宿す男だ! 溜めれば溜めるほど強くなる! 美人でエッロいヴィクトリアに迫られ続けて、それでも我慢し溜めまくった俺の力をくらえ!」
ズバババババババババババババ!
俺の拳がサレオスの超防御を突き破る。
溜まりまくった俺の種がレベル以上の力を発揮して。
そしてその攻撃は、娘たちの加護まで乗っている。
肉体強度が大幅アップし、魔族に絶対優位性、魔力エンチャント、対魔族特効、クリティカル確定だ!
「くらえサレオス! これが俺の力だ! 暴力は全てを解決するんだよ! こんちくしょぉおおおお!」
「グッハァアアアアアアアアアア!」
「うきゃあぁああああああぁん♡ レイン殿すてきぃいい♡♡♡」
とどめに超強力なストレートをぶち込んでやった。
サレオスは巨体が崩れ落ち、地面に大の字に寝転ぶ。
そして何故かアドラメレクが絶頂した。
「どうだ、サレオス。俺の勝ちだな」
地面に倒れているサレオスに声をかけると、ヤツは毒気の抜けたような顔で俺を見た。
「ふっ、清々しいほどに突き抜けた男よ。人族でありながら七魔大公を凌ぐ暴力性とはな」
サレオスからは、完全に敵対心が消えている。
「じゃあ軍を退いてもらえるんだよな」
「無論だ。我に二言は無い」
「そうよ! 子種よ♡」
良かった。無事に解決したようだ。
「これで一件落着だな」
「くっ、ラプラスの言ったとうりであったな。レイン・スタッド、恐ろしい男よ」
「そうよ! レイン殿、今すぐ夜伽よ♡」
全て解決だ。
一部の女魔族のを除いて。
「レイン殿♡ ドスケベセッ○スよ♡」
「アドラメレク、ちょっと黙っててくれ」
こいつは何をしに来たんだ?
本当によく分からない魔族だぜ。
アドラメレクをスルーして、俺は娘たちのところに戻った。
「皆、良い子で待っていたか」
ハッピーエンド的な感じになりそうだが、何かを忘れている気がする。
「あっ、そうじゃ。思い出した」
メテオラがポンと手を叩いた。
「わらわが魔王なので、魔王軍の指揮権があるのじゃったわ」
ん?
「魔王メテオラが命ずる! 魔王軍は今すぐ兵を退け!」
メテオラの声で、魔族が一斉に平伏した。
んんんんん?
もしかして、俺が戦わなくてもメテオラが魔族に命ずれば良かったのか?
いや、考えないでおこう。
「お父様」
続いてリゼットがやってきた。
「さっきヴィクトリアさんがエッロいとか申していましたわよね?」
「ギクッ!」
リゼットの顔が怖い。
「お、おい、リゼット、大人には色々あってだな」
「お父様ぁああ!」
「待て待て、親子は結婚できないぞ」
やっぱりリゼットが本気っぽい。我が娘ながらヤバすぎだろ。
リゼットとの結婚はさておき、やはりそろそろ母親が必要なのだろうか。
「ど、どうするか。そうだエステル」
エステルに話を振ってみた。
「お父さん……やっぱりヴィクトリアさんと結婚するんですか?」
エステルのセリフで、他の娘たちまで盛り上がる。
「パパ、新しいママなの?」
「にしし、妹ができそうでしゅ」
「父上が取られるのは複雑なのじゃ」
ああああ! やっぱりヴィクトリアの策略にハマってる気がする!
まだ誰とも考えていないのに!
どうしてこうなった!




