第57話 天啓スキルの俺は静かに暮らしたい
魔王軍を撤退させてから、俺は一躍ヒーローになってしまった。
街を歩けば歓声が上がり、女性からはお誘いを受け……ているのだが、娘の視線があるのでお断りし続けている。
今日も今日とて、街ゆく俺に黄色い歓声が――
「ほら、あの人、勇者レイン様よ」
「きゃああぁ♡ 魔王軍を退けた英雄ね」
「貴族様になるんだって」
「素敵ぃ♡」
「でも鬼畜なんでしょ?」
「むしろ好都合じゃない。夜の生活が大満足とか?
「種馬スキルで七魔大公まで堕とすらしいわよ」
「「「きゃああああ!」」」
ちょっとイメージと違う。何でエロ方向に行っちゃうんだよ。
どうしてこうなった。
「お父様、今、他の女を見ましたわよね?」
俺の横にピッタリと張り付いているリゼットが、ジト目で俺を見つめてきた。
最近ますます『浮気を疑う妻』みたくなったのだが。
「ほらリゼット、大人みたいなこと言ってないで良い子にしてろよ」
リゼットの頭を撫でてやった。
「なでなでなんかで誤魔化されませんわ……ふあぁああん♡」
即落ち2コマみたいに誤魔化せた。
リゼットがご満悦でフニャフニャだ。
「パパぁ、シャルもシャルも」
シャルが背中に抱きついてきた。
もう大人のように大きくなったので、対応に困る。
「おい、くっつき過ぎだぞ」
「わふぅ~」
シャルの頭を撫でてやると、他の娘もせがんでくるのはオヤクソクだ。
「お父さん! わ、私も」
「最近スキンシップが足りないのじゃ」
「にしし」
結局、全員を撫でることに。
やっぱりうちの娘がファザコンっぽい気がして心配だ。親離れできるのだろうか。
◆ ◇ ◆
そんな日々を送り、ついに叙爵の時がやって来た。
王城に招かれた俺は、エドガー陛下から爵位を賜るのだ。
そう、言い忘れていたが、約束通り先王オズワルドは退位し、息子のエドガー殿下が新たな王に即位した。
「勇者レインよ、そなたに金貨500万枚と邸宅を下賜する。そしてスタッド男爵家を爵位復帰させ、公爵へと陞爵。なお、領地はメレーニア、及び南部三都とする」
謁見の間に陛下の声が響いた。
メレーニアまでくれるのか。大盤振る舞いだな。
まあ、娘たちも南国の海を気に入ったみたいだし、ちょうど良いか。
「それからメレーニア公レインよ」
「えっ、あ、はい」
いきなりでビックリした。メレーニア公って俺のことかよ。
「なんでしょうか、陛下」
「実は、メレーニア公に縁談がありましてな……」
「えっ、縁談!?」
エドガー陛下が手を上げると、煌びやかなドレスを纏った金髪の女性が入室した。
「これは我が娘のイザベラです」
エドガー陛下に促され、イザベラ王女が前に出た。
気品ある美貌の若い女性だ。少しキツそうな印象だけど。
「イザベラです。お見知りおきを」
「えっ、は、はい……」
俺が茫然としていると、エドガー陛下はにこやかに語り始めた。
「これで我が国は盤石というもの。王家とスタッド家の絆も強まりましょう」
何か釈然としない。
そこで、イザベラ王女は、俺の手を取った。
「レイン殿には娘がいるそうですわね。大丈夫ですわ。このイザベラにお任せください」
「えっ?」
「最高級の施設をご用意いたしますわ。娘さん方はそこで何不自由なく暮らし、わたくしたちは新たに子をなし、王家の縁戚として暮らしましょう。繁栄をお約束いたしますわ」
施設? 娘を預ける? 新たな子供?
ちょっと待ってくれよ。
俺の中で、過去の記憶がフラッシュバックした。
有馬零だった頃の記憶だ。
自分の息子だけ溺愛し俺に辛く当たる継母。温かい料理など食べられもせず、テーブルの上に置かれた安いカップ麺や菓子パン。
どれだけ頑張っても褒められず、愛してもらえない。
居場所もなく、ただ邪魔者の俺。
俺の中で答えは決まっていた。
「謹んで辞退申し上げます」
俺は恭しく陛下と王女に頭を下げると、背中を向け退室しようとする。
「お、お待ちくだされ、レイン殿!」
必死の形相で、エドガー陛下が追いすがってきた。
「な、何かご不満でもありましたか。金貨を倍の1000万枚にいたしましょう。そ、そうだ、領地も」
「陛下、そういうことではありません」
俺は丁重に断るも、陛下は掴んだ手を離そうとしない。
「お、お待ちくだされ! 今やレイン殿は一国の軍より強大な力をお持ちなのです! もしレイン殿が我が国を離れることがあれば、国力を減衰させ軍事バランスを崩す恐れがあるのですぞ!」
そりゃ、あのゴーレム機甲部隊を見たらそうなるか。
「何卒! 何卒、お考え直しを!」
「陛下……俺は……」
俺は思いの丈をぶつけることにした。
「俺にとって大事なのは、娘たちの幸せなんです。大貴族になって権力が欲しいわけでも、王女様を妻にし、偉くなりたいわけでもない」
「しょ、承知いたしました! レイン殿の望むようにいたしましょう!」
こうして、王女様との結婚も消え、俺が自由に暮らす許可をもらった。
金貨は1000万枚に上乗せされてしまったが。
◆ ◇ ◆
あれから、俺は王都に巨大な屋敷を下賜され、悠々自適な暮らしを約束された。
しかし、俺には自由な冒険者が似合っているのかもしれない。
結局、以前と同じダンジョン近くの湖畔に、高機能起動型移動要塞フェストゥンクを設置し、気ままな暮らしを満喫している。
周囲の街も以前より大きくなり、店の売り上げも上々だ。
「さて、今日もダンジョンに潜るとするか。先日は25階層まで到達したから、今日は……」
湖畔でまったりしていると、見知った冒険者たちがやってきた。
「レインの旦那! おっと、今は公爵閣下だったぜ」
「メレーニア公爵閣下のご尊顔を拝謁し、恐悦至極ですぜ」
胡散臭い顔で頭を下げてきたのは、お馴染みザークとガランだ。
俺は肩をすくめた。
「何が閣下だよ。白々しいな」
「そんなこと言わないでくだせえよ」
「そうですぜ。レインの旦那のお陰で、良質な武器やアイテムが手に入るんですから」
「ダンジョン近くにギルド出張所もあって、色々と助かってますぜ」
まあ、こいつらはいいとして、冒険者が助かっていて、街もモンスターから守られるのなら一石二鳥だろう。
「じゃあな、お前らもダンジョンクエスト頑張れよ」
「「へい」」
ヤツらと別れて家に向かう。
家といっても湖畔に設置した移動要塞だが。
「おーい」
家に入ると、娘たちがヴィクトリアとじゃれ合っているところだった。
「わふっ、ヴィクトリアのおっぱい、凄く大きいの」
「ちょっとシャルちゃん、揉んじゃダメよ」
おっぱいに興味津々のシャルが、ヴィクトリアの胸を触ろうとしている。ヴィクトリアがたじたじだ。
「ヴィクトリアさん、どうすれば大きくなりますか?」
エステルが自分の胸をペタペタし、愕然としている。
「だ、大丈夫よ。成長すればいずれ……」
「そうですよね」
エステル……小さくても良いんだぞ。あと、バインバインになったエステルが想像できないけど。
「しかしエロい体じゃのう。父上が悩殺されるのも分かるのじゃ」
「にしし、お父しゃん、たまにチラ見してましゅ」
おおぉい、メテオラ、モグミ! 勝手に俺の秘密をバラすんじゃねえ!
てか、俺がヴィクトリアをチラ見してたのバレてたのかよ! わざとじゃないんだ!
「ぐぬぬぅ! この巨乳とデカ尻が、お父様を惑わしているのですわね!」
そしてリゼットが嫉妬して、女の闘いになるのもオヤクソクだ。
「へへぇーん、聖女ちゃんには負けないわよぉ! おっぱいぷるんぷるーん!」
「な、なな、なんですってー!」
あいつらまたやってるよ。懲りないな。
てか、いつの間にか馴染んできたような。
娘たちがヴィクトリアとふざけ合うのを見て、王城でのやり取りを思い出した。
もし母親が必要なら、やっぱり娘を大切にしてくれる人なんだよな。
「あら、帰ってきたのねレイン」
ヴィクトリアが俺に気づき近寄ってきた。
「楽しそうだな」
「まあね、レインの娘は私の娘みたいなもんよ」
そう言ってヴィクトリアはガッツポーズをする。
「ねえ、レイン♡ そろそろ結婚してくれても良いんじゃない?」
「結婚か、それも良いかもしれないな」
あれっ? 今、心の声を喋っちゃったような?
「れ、れれれ、レイーン! い、言ったわね!? 今、言ったわよね!? 結婚してくれるって! 言質とったわよ!」
「えっ、俺、言ったのか?」
「言ったわよ! これで結婚ね! 旦那様っ♡」
しまった。つい口が滑った。
「レインさぁーん! うわぁああああぁん!」
何処から現れたのか、いつの間にかサーシャさんが背後に立っていた。
ボロボロと涙を流しながら。
「サーシャさん、ギルド出張所は?」
「レインさんとヴィクトリアさんがイチャイチャしてる反応がして、ギルドを飛び出してきたんですよぉ!」
えっ、それどんなセンサー?
「ヴィクトリアさんと結婚して、私を捨てるんですか?」
「捨てって、捨てませんよ。人聞きが悪い……」
「じゃあ結婚してくれますよね!?」
「それって重婚……」
しまった。俺の不注意で泥沼の恋愛模様に?
「チラッ、チラッ、レインお坊ちゃま、私はたまに調教していただけたら」
リズさんが扉の隙間からこっちを覗いている。
だから調教はしないって。ああ、ガキの頃の俺ぇ、何してくれてんだ!
「お父様ぁああああああ!」
しまった。リゼットが激おこに。
「わたくしも妻にしてもらいますわぁああ!」
「だから父娘は結婚できないんだって!」
この世界に悪役転生し、断罪ルートは回避したはずなのに。やっぱり女難の相だけは回避できないようだ。
これも種馬スキルのせいだろうか。
「お父様ぁああ!」
「父上も懲りないのじゃ」
「ふふっ、お父さんったら」
「モテモテでし」
「パパぁ、シャルもパパと結婚するの」
「旦那様ぁ♡ ぐへへぇ♡」
「レインさん! もう逃がしませんよ!」
「ああぁ、レインお坊ちゃま」
全員が迫ってきた。
「もう勘弁してくれぇええ!」
こうして、俺の、俺たちのスローライフと呼ぶには少し騒がしい日々が始まったのだ。
皆様、最後までお読みいただき誠にありがとうございます。
可愛い娘たちに囲まれるスローライフものも良いかと思い、この種馬スキルを執筆しました。
スローライフというわりには、バトルが多かった気もしますが。そこはレインなので……。
次はラブコメを予定しています。
また次回作でお会いしましょう。




