第55話 決着の時
城壁から地表を眺めたところ、戦況は俺たちの優勢なようだ。ゴーレム機甲部隊が、魔王軍の前線を押し返している。
「うーん、一見有利に見えるけど、魔王軍は魔獣部隊の後ろに本隊を温存しているからな」
前線に出ているのはオークやゴブリンなどの魔獣ばかりだ。その後ろには、魔族の本体を残している。
ただ、俺は魔族本体を攻撃するのには躊躇していた。
戦争したいヤツは勝手にやらせとけばとも思うが、俺の娘には魔族のメテオラがいるのだ。人族と魔族の争いに娘を巻き込みたくない。
「やはりボスの七魔大公をボコすしかねえか」
俺のつぶやきに、メテオラが反応する。
「父上、奴らを率いておるのは七魔大公サレオスであろうな」
「そうなのか?」
「うむ、強硬派魔族の筆頭じゃ。攻撃力も防御力もやたら強い脳筋じゃぞ」
七魔大公サレオス。
ゲームでも最強クラスのボスキャラだった。半端な攻撃では、やつの防御力を突破できない。しかも攻撃力がカンストレベルだ。
だが、そのサレオスがゲームのボスと同じ特性なら、この俺にも勝機はあるはず。
ヤツは、ある条件下でツノを攻撃すると、ノックバックがおき数秒間の行動不能になる。それでも圧倒的な超防御を突破せねばならないけど。
「よし、直接やつらの陣地に強襲をかけよう。モグミ、高速で飛べる小型のゴーレムはあるか?」
俺がモグミを見ると、彼女は「にししっ」と笑った。
「お父しゃん、強襲飛行型ゴーレムのヤークトイェーガーがありましゅ」
「よし、それで行こう」
「私も行くわよ!」
ヴィクトリアまで行こうとしているので、俺は手で制し押しとどめる。
サーシャさんは街に残してきたが、ヴィクトリアはついてきたのだ。
「危険だからヴィクトリアはここに残れ」
「何でよ! 私も一緒に戦うわ」
「お前を危険な目に遭わせたくないんだよ」
俺の言葉で、ヴィクトリアの表情が一変する。
「そ、そうね。私の体は自分だけのものじゃないわよね。レインのもの、義娘たちのもの、しいて言えば、これから生まれてくる私たちの子供のものなのね♡」
何だろう。まだ指一本触れていないのに、どんどん外堀を埋められている気がする。
俺とヴィクトリアが結婚し子づくりするのは、彼女の中で確定事項なのだろうか。
否定すると面倒なことになるので、俺はスルーして飛行型ゴーレムに乗り込んだ。
◆ ◇ ◆
適当に言ってはみたものの、ヤークト何とかいう飛行型ゴーレムが予想以上だった。
羽の生えた船みたいなのが、高速で空を飛んでいるのだが。
この状況に、娘たちは大興奮だ。
「いつ見ても爽快ですわね」
「どういう原理なのじゃ」
「天啓レッド参上なの!」
シャルの発言で、リゼットとメテオラが慌て始めた。
「ちょっと! それは機密情報ですわよ!」
「父上にバレるのじゃ!」
俺も何となく気になった。
「天啓レッドって、どこかで聞いたことがあるような?」
隣にいるエステルに声をかけると、彼女はオロオロと動揺し始めた。
「お、おお、お父さん。そ、それは……」
「今流行りの戦隊ごっこですわ!」
リゼットが割り込んできた。
「そうなのか、リゼット?」
「はい、巷のちびっ子に、天啓戦隊ごっこは大人気ですのよ」
「そうなんだ」
「ほっ、お父様が単純で助かりましたわ」
「何か言ったか?」
「いえ、何も」
リゼットは目を泳がせた。
ちょっと気になるが、今は目の前の争いを収めるのが先だ。
「よし、まずは目の前のモンスターを殲滅させてから、魔王軍本体に殴り込みをかけるぞ!」
「「「おー!」」」
俺の掛け声で、娘たちが腕を突き上げた。
「シャルも頑張るの!」
そう叫んだシャルが、飛行型ゴーレムから飛び降りた。
まだ飛行中であり、高度もある。俺は咄嗟に手を伸ばしたが、余計な心配だったようだ。
「スキル無敵の英雄と狂戦士モード発動なの!」
落下中にスキルを発動させたシャルは、体を超強化させたまま敵陣に突っ込んだ。
「時間加速Ⅱと超重力打撃の連撃なのぉおおおお!」
ズガガガガガガガガガ! ズガァアアアアアアーン!
その勢いのまま、流星式超硬竜槌鉾を振り回し、周囲のモンスターをミンチにしていく。
その様は、まるで獣王が破壊の竜巻を起こしているかのようだ。
「えぇええええ……シャル、強すぎだろ」
初めて会った時は、細い棒きれのようだった手足が、今では逞しい筋肉と女性らしい曲線で彩られ、美しく躍動している。
もはや戦の女神のようだ。
「わたくしたちも負けていられませんわ!」
リゼットが地母神の創生杖を掲げると、エステルとメテオラもそれに続く。
それぞれ、天地を統べる者と致死浸食剣を構えた。
「神の代行者たるリゼットが命じますわ! お父様に逆らう愚か者たちに神罰の光を、神聖光線!」
ペカァァァァー! チュドーン!
レーザービームが地表を一閃し、眩い光と爆発が起きた。
「これで争いを終わらせます、神罰の雷!
「魔王の千撃を受けるがよい! 千の氷槍!」
エステルの極大魔法が夜空を照らし、迅雷で一瞬視界を奪われた。
目を開けた時には、灰燼に帰したモンスターがいくつも横たわっているだけだ。
メテオラに至っては意味が分からない。魔王軍が魔王の極大魔法を受けているのだから。
雨のようなアイススピアを受けたモンスターが、粉微塵になってしまった。
「えっと、娘たちの攻撃で、敵の魔獣部隊が壊滅しちゃったんだけど……」
もう俺は呆然と見守るしかできない。娘たちの成長速度が速すぎるのだ。
飛行型ゴーレムが敵本隊の正面に着陸すると、地表で戦っていたシャルが駆け寄ってきた。
「パパァ! 敵、やっつけたよ!」
シャルは褒めて欲しそうに頭を向ける。
体は大きくなったのに、甘えん坊なところは変わっていない。
「お、おう、偉い偉い」
「わふっ、えへへぇ」
頭を撫でられたシャルが嬉しそうに笑う。
それを見た他の娘が、俺に頭を寄せてくるのもオヤクソクだ。
「お父様、わたくしも!」
「父上!」
「お父さん」
「じゃあ私も」
「分かった! 分かったから! まだ戦いの最中だぞ」
目の前で魔王軍本体が見ているのに、俺たちに緊張感はない。困ったものだ。
「うがぁああああ! な、なな、なんだと! 我が魔獣部隊が壊滅だと!」
そんな中、敵軍で一際大きな男が頭を抱えて叫んだ。
こいつを俺は知っている。ゲームで何度も見たからな。
七魔大公サレオスだ。
「おい、サレオス! てめえが親玉だな、ボコしてやるから出てこい!」
俺が指を突きつけると、サレオスは大袈裟に溜め息をついた。
「はぁああ、貴様がレインか!? 人族最強と聞いていたが、戦闘中に子供と戯れるとは、とんでもない愚か者なのか、それとも強者の余裕なのか……」
そう言いながらも、サレオスは筋肉で盛り上がった腕を回しながら、悠然と前に出る。
「どれ、人族最強がどんなものか、我が確かめてやるわい」
俺の前まできたサレオスが、ポキポキと拳を鳴らす。
まるで岩のような体。身長は俺の二倍はありそうだ。
「こら、サレオス! わざわざ王都まで攻めてきやがって! そんなに俺にボコボコにされてえのか!」
「グハハッ! 知れたことよ、人族を倒し魔王軍再興こそ我が悲願!」
「そうよ! レイン殿の子種を貰いに来たのよ!」
ん? 聞き違いか?
今、サレオスのセリフに被せるように、アドラメレクが問題発言した気がするけど。
てか、あの女は何しに来やがったんだ。戦闘に参加するでもなく、怪し気な目で俺を見つめているのだが。
「まあいい、俺がキッチリ決着をつけてやる! 魔王軍だか七魔大公だか知らねえが、暴力が全てを解決するって分からせてやるからな!」
俺とサレオスが一騎打ちの展開となった。
これは負けられない。娘の前でカッコ悪いところは見せられねえからな。
俺たちの快適ライフのためにも、ここで因縁に終止符を打ってやる。




