第53話 帰還
眼下に広がるのは、何処までも続く深い緑の森林。風を切り雲を抜けるように、俺たちは空を進む。
高機能起動型飛行戦艦ブルクグラーフレインは、一路王都に向け飛行していた。
「な、なな、なんだこれは! 空を飛ぶ戦艦だとぉおお!」
俺の隣で叫んでいるのは、イザリル王国の王位継承権第一位である、エドガー王子だ。
艦橋の窓から外を眺めて、腰を抜かしそうなくらい驚いている。
「レイン殿、これは一体どうなっておるのだ!? こんな巨大な物体が、空を飛ぶとは?」
「えっと……謎の技術としか……」
「なるほど! 英雄レイン殿は、人知を超えた技術をお持ちのようで」
しまった。何か殿下に誤解されている気がする。
これはモグミが作った飛行型ゴーレムであり、俺は何も関係ないのだが。
それにしても不思議だ。ドワーフの錬金術でも、こんな高度なものは見たことがないぞ。
やはりモグミのスキルが凄いのだろうか?
「凄いスピードなの」
「もう少しバカンスをしたかったですわ」
「また遊びに行きたいですね」
「わらわもじゃ」
「にしし」
娘たちは楽しそうにはしゃいでいる。
口数こそ少ないものの、モグミもその輪に入っていて、一緒に楽しんでいるようだ。馴染んでいるようでホッとした。
しかし、王都が魔族の侵攻を受けるとはな。
魔族襲来と聞いた俺は、すぐに王都への帰還を決定した。
追放した国王に義理立てする必要はないと思うかもしれないが、それでも俺は戻ることにした。
国王がどうなろうと知ったこっちゃないけど、冒険者仲間や知人が被害に遭ったら寝覚めが悪い。
まあ、俺を公爵にするという約束は、それほど気にしていないけどな。俺には自由な冒険者稼業が合っているし。
「皮肉なもんだな。貴族の称号も屋敷も捨て冒険者になったはずが、再び貴族に戻るなんてな。しかも公爵になんて」
誰にともなく俺はつぶやいた。
公爵といえば、貴族でも最上級レベルの大貴族だ。下級貴族だった俺のスタッド男爵家とは格が違う。
まあ、この戦いに勝って、エドガー王子が王位を継ぐ前提だがな。
「レイン、これで私も公爵夫人ね」
「は?」
ヴィクトリアから意味不明な話をされ、俺は言葉を詰まらせた。
ヤバい、本当に結婚させられそうなのだが。
「誰が公爵夫人だよ。このポンコツ剣姫め」
「あっはぁん♡ もうっ、相変わらずつれないわね」
ショックを受けたヴィクトリアだが、その顔は少し嬉しそうだ。ドMかな。
「レインさん! レインさんが貴族になっても、私を傍に置いてもらえますか?」
今度はサーシャさんが、訴えかけるような目で迫ってきた。
「あの、まだ貴族になると決まった訳じゃないですよ」
「レインさんなら成れますよ!」
「サーシャさん?」
「そ、その時、私は……」
何だろう。サーシャさんが思い詰めた顔をしている。
「サーシャさん、たとえ貴族になっても、俺とサーシャさんとの関係は変わらないですよ」
「えっ?」
「これまで通り友人として――」
「もうっ! レインさんなんか嫌い!」
あれっ? サーシャさんがご立腹に!
俺が貴族になっても、これまで通り仲良くしましょうって言いたかったのに。
また俺は間違えたのか?
そんなこんなで、前方に王都イストファンが見えてきた。
すでに魔族の侵攻を受けているのか、城壁の周りには土煙が巻き上がり、その中に激しい光や炎が見える。
「ヤバいな。もう戦闘が始まってるじゃないか」
「よく持ちこたえておると言っていいでしょう」
俺のつぶやきに、エドガー王子は答えた。
「北方の街ジェビーナは、あっという間に陥落したと聞きました。敵の侵攻速度からいって、戻った時には王都陥落でもおかしくなかったはず。これもレイン殿のおかげです」
つまり飛行戦艦ブルクグラーフレインにより、一気に時間を短縮できたという訳か。
馬車で戻っていたら間に合わなかったはず。
「しかし敵の猛攻が凄まじいな。どうするか?」
どうやら魔王軍の先鋒はゴブリンやオークなどのモンスターを使役しているようだ。
今も眼下では、たくさんのモンスターが王都の城壁に取り付いている。
「マズいな。今にも城門が破られそうだ」
「お父しゃん」
いつの間にか、モグミが横にきていた。
ちょっとワクテカ顔になったモグミが、俺に囁きかける。
「もしもの時に備えていたゴーレム部隊がありましゅ」
「そうなのか」
「はい、いつでも降下作戦可能でしゅ」
「じゃあ頼もうかな」
俺は軽い気持ちでOKを出した。
すぐにモグミが何かを操作し、戦艦の音声が流れだす。
『高機能起動型飛行戦艦ブルクグラーフレイン、主砲一斉射。空挺堡確保』
ん!?
主砲が発射され、地表のモンスターが吹き飛んだ。
『モグミ式高知能自立防衛型オートマタ、アインス、ツヴァイ、ドライ、フィア、フェンフ、ゼクス、ズィーベン、アハトゥ、ノイン、ツェーン、エルフ、ツヴォルフ、ドライツェーン、フィアツェーン、フェンフツェーン、ゼヒツェーン、ズィプツェーン、アハツェーンは、各部隊を指揮し降下準備』
んんん!?
『コースよし、コースよし、ヨーイ、ヨーイ、ヨーイ、降下! 降下! 降下!』
ええええええええっ!?
飛行戦艦の格納庫が開いて、中から大量のゴーレムが降下し始めたんだけど!
ズガガガガガガガガガガガガガガ!
地上に降りたゴーレムたちは、城壁に張り付いているモンスターを一掃し、返す刀で魔王軍を押し返し始めた。
アハツェーンなどが指揮官となって、ゴーレム部隊の統制をとっている。もはやゴーレム機甲部隊だ。
「えっ、何だコレ? 軍隊かな?」
茫然と眼下の光景を見つめる俺に、エドガー王子は驚愕の表情だ。
「おおっ! これは凄い! さすがレイン殿だ、この時のためにゴーレム部隊まで用意していたとは!」
「え、えっと……」
いやいやいやいやいや! 俺は何も知らないんだけど!
「レイン殿! ゴーレムが魔王軍を押し返しておりますぞ! 形勢逆転ですぞ!」
「そ、そっすね……」
待て待て待て待て! こんな戦力は聞いてないぞ!
もはやこれって、一国の軍隊より強いんじゃね!?
「やはりレイン殿は恐ろしい! 最強の戦士でありながら、最強の軍まで揃えておるとは!」
「ええぇ……」
「父上は愚かだった。レイン殿を追放するとは。必ず私が父上を退位させ、王位についてみせます!」
「は、はあ……」
どうしてこうなった?
俺が知らない内に、どんどん事態が進んでいるのだが!
「むふぅ」
当のモグミは、まっすぐ俺を見つめて、褒めて欲しそうな顔をしている。
「えっと、偉いぞモグミ」
「にししぃ」
モグミの頭を撫でてやると、くすぐったそうな顔で微笑んだ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
飛行戦艦は王都上空に入り、高度を下げ街の上空で停止した。
久しぶりの王都へ帰還だ。空からだけど。




