第50話 悪党どもの末路2
メレーニア領主の城。今ここに、闇の稼業を統べる者どもが集まっていた。
薄暗い部屋で密かに話し合っているのは三人。
「困りましたな。赤き陰謀のドルゾロイが逮捕されるとは。あ奴から芋づる式に、我らにまで国王の沙汰が及ぶかもしれませぬぞ」
そう言ったのは、大規模犯罪グループ『黒き統合』のボス、グズモフ。長い髭をたくわえた男だ。
「冗談じゃないわ! これじゃ奴隷の仕入れが滞るじゃない! どうしてくれるの!」
ヒステリックに声を上げたのは、奴隷商の元締めであるヴェノミア。いかにも修羅場をくぐってきた印象の、目つきの悪い女である。
「うむ、ドルゾロイは切り捨てるしかあるまい」
深く頷いたのは、ミレーニア領主カーディア・ブルゴネル。深い眉間のシワと、白髪交じりの髪が印象の男だ。
彼が、実質ミレーニア一体の犯罪組織を取り仕切っていた。
「奴の代わりはいくらでもおるのだ。幹部が一人欠けたくらいで、我らの組織が揺らぐはずがない。黒き統合も、それを裏から操る我もな。ガハハハハ!」
カーディアは高笑いした。己に酔いしれるように。
「しかしカーディア様、奴隷の仕入れが」
「くくく、ヴェノミア、落ち着け。なに奴隷の供給源が一つ断たれたくらい、どうということはない。まだまだ奴隷狩りはおるのだからな」
バタンッ!
「た、大変です、カーディア様!」
無作法にも、ノックもせずに入室した部下に、カーディアは咎めるような視線を向けた。
「この無礼者が! 今は大事な会議の途中であるぞ!」
「も、申し訳ありません!」
深々と頭を下げた部下は、すぐにカーディアに向き直る。
「緊急事態ゆえお許しください」
「一体何があったのだ!?」
「そ、それが……」
部下は一呼吸おいてから、大きく口を開いた。
「申し上げます! 黒き統合傘下の奴隷密売施設、及び組織の拠点、その全てが、謎の集団に襲撃されました!」
「な、何だと!」
ガタンッ!
あまりの衝撃を受け、カーディアは勢いよく立ち上がった。
「ば、バカな! 組織の拠点はいずれも武力に秀でた者どもに守らせているはずだ。拠点を潰すなど、一国の軍隊でもなければ不可能であるぞ」
カーディアの言葉を受け、部下は首をうなだれた。
「そ、それが……襲ったのは、ゴーレムを従えた仮面の少女数名です」
「は、少女数名だと!? どういうことだ!」
数名の少女が組織を壊滅させたと聞き、カーディアは身を乗り出す。
「はい、自らを『正義の味方、悪の天啓ファイブ』と名乗っておったそうで……」
「正義なのか悪なのかどっちだ!」
ツッコミを入れたカーディアだが、悠長にしている場合ではない。すぐに城の警備を厳重にするよう命じた。
◆ ◇ ◆
その頃、メレーニア城近くの空に、闇夜を切り裂き飛行する影があった。
飛竜のような姿だが飛竜ではない。錬金術により造り出された飛行型ゴーレムだ。
シュパァアアアアアアアアアアーン!
高速飛行しているゴーレムの上で、白い仮面を着けた少女が立ち上がった。
「城はまだか? 早くせねば父上にバレるのじゃ」
「大丈夫ですわよ。お父様にはエステ……天啓イエローと天啓グリーンを付けておりますわ」
黒い仮面を着けた少女が答えた。
これに赤い仮面を着けた少女が割り込む。
「エステルちゃんとモグミちゃんがいれば安心なの!」
「シャ……天啓レッドさん、本名が漏れていますわよ。個人情報ですわ」
緊張感のない会話が続く。
飛翔するゴーレムに奇怪な仮面。しかし会話は子供っぽくてほのぼのしていた。
「天啓ファイブの皆様、この飛行型ゴーレム『ヤークトイェーガー』ならば、あと3分20秒でメレーニア城に到着予定です」
少女たちの後ろに立つ自動人形が答えた。その額には18の文字がある。
「さすが天啓グリーンの作った飛行型ゴーレムですわね」
天啓ブラックは真っ直ぐ前を向き、得意げに胸を張る。
「海賊を倒したことで、お父様は闇の組織から狙われることになりました。お父様の命を狙う者は、わたくしたちが徹底排除ですわよ! 嫁の務めですわ!」
天啓ブラックが『嫁』と口にしたことで、天啓ホワイトは不服そうな顔になった。
「おい、リゼット。父上はわらわのものじゃ。誰が嫁じゃ」
「ちょっと、天啓ホワイトさん、本名が漏れてますわよ! 個人情報ですわ!」
「わーい、シャルも嫁になるの!」
天啓レッドまで自分を『嫁』と言い出し、ヤークトイェーガーの機上は騒がしくなる。
「もうっ! お父様……いえ、ダーリンは誰にも渡しませんわ!」
「誰がダーリンじゃ。このマセガキめ」
「シャルもダーリンになるの!」
これにはNo.18の自動人形も、やれやれといった表情だ。無表情の自動人形なので、そんな雰囲気がするだけだが。
「レイン様も大変でいらっしゃいますね」
こうして、飛竜のような飛行型ゴーレム『ヤークトイェーガー』は、城へと向け突き進んでいった。
◆ ◇ ◆
メレーニア城は騒然としていた。
慌ただしく兵士たちが走り、武器を運ぶ者たちが声を上げる。
港町メレーニア。この地域は、国境線からも王都からも遠く、古くから自由な暮らしを謳歌してきたのだ。
しかし、領主がカーディアになってからは、海賊や犯罪組織が暗躍し、治安は悪化の一途。こうして、自由な南の楽園は、暗黒の時代へと突入していた。
ドカァァァァーン!
轟音と衝撃が走り、城の城壁が崩れた。
そう、闇の時代が終わろうとしているのだ。
小さな少女たちによって。
「カーディア様! た、たた、大変です!」
転がるように部下の男が入室し、カーディアの怒りゲージがマックスへとなる。
組織の拠点が壊滅したり、城に謎の衝撃が走ったりと、不快なことばかりが起きているのだ。
「何事だ! 先ほどの音は何だ!」
「そ、それが……」
焦りの表情のまま、部下の男は姿勢を正した。
「奴らです! 拠点を潰した者どもが、この城に侵攻してきました!」
「なにぃいいいい!」
カーディアは、あんぐりと口を開けたまま動けない。
「ば、バカな……速すぎる。一日で全ての拠点を破壊し、この城に攻め込むなど、ありえない速度だ……」
ガラガラガラガラガラ――
城壁が崩れ、城を守備していた兵が右往左往する。
その上空で、飛行型ゴーレムに乗った少女が、高らかに言い放つ。
「神の代行者たる聖女リゼット……天啓ブラックが命じますわ! 神聖光線!」
ペカァァァァー! チュドーン!
「おーっほっほっほっほ! くらいなさいまし、神罰の光を! 悪党は滅殺ですわぁああ!」
天啓ブラックの放った神聖光線の威力は凄まじく、闇夜を聖なる光で照らし、容赦のない神罰のレーザーは城を破壊した。
これには兵士たちも一瞬で戦意を喪失だ。
「あああぁ……神がお怒りに……」
「終わりだ。この世の終わりだ」
「やはり領主さまが悪事に手を染めている噂は本当だったのか!」
「どうか命だけは! 我々は降伏いたします!」
「全てお話しします! お許しをぉおおおお!」
ドガァアアアアアアーン!
兵士が戦意喪失して終わったはずが、事態はいまだ収拾していなかった。
天啓レッドがモーニングスターで城を破壊し始めたのだ。
「ドカーンなの! シャルも活躍するの!」
これには兵士たちも震え上がる。竜巻のように回転した少女が、次々に城の壁を破壊しているのだから。
「ひぃいいいい! まだ神がお怒りだ!」
「今度は破壊神か!」
「もう許してくれぇええ!」
「マ゛マ゛ぁああああああ!」
この惨状に、当然ながらカーディアは絶叫する。
「何じゃこれはぁああああああ! 我の城が! 我の組織が! 我の金が! 全てが崩れてゆく! ああああああ!」
兵士たちが白旗を上げ、カーディアは失神し、メレーニア城は完全降伏した。
三人の少女により、一国の城が落とされたのだ。歴史に残る快挙であった。
「こらぁああああああああああ! やめるのじゃ! やり過ぎると父上に怒られるのじゃ!」
天啓ブラックと天啓レッドが大暴れする中、天啓ホワイトだけは頭を抱えて叫んでいた。
「ああああぁ! 何で魔王のわらわが皆を止めておるのじゃぁああああ! 逆ではないのかぁああああ!」
こうして、メレーニアの闇の組織は一夜にして壊滅し、構成員も全員逮捕された。
三つの奴隷施設と五つの拠点が完全破壊され、メレーニア城も半壊した。
カーディア、グズモフ、ヴェノミアの三人は、ドルゾロイと同じように、王都に連行されることとなる。
額に18の文字が刻まれた自動人形は、大活躍の少女たちを見つめながらつぶやく。
「お嬢様方……私どもの護衛が必要ないほどの強さでございます。念のため用意したアインスとツヴァイも必要ありませんでした」
その日、悪を滅ぼした謎の戦隊少女は、ひっそりと夜の闇に紛れていくのだった。
城落しの伝説とともに。




