第48話 組織壊滅
「くらえ悪党め!」
俺の拳が、空気を切り裂き唸る。ドルゾロイの顔面に目掛けて。
「ひぃいいっ! ゴボァアアッ!」
ズダァァーン!
俺のパンチが命中したドルゾロイが、派手に吹っ飛んだ。
転がる奴には目もくれず、俺は倒れそうになっていたアニヤをキャッチする。
「おっと、大丈夫か、アニヤ?」
「ああぁああぁ……」
アニヤは放心状態だ。よほど怖かったのだろう。
「安心しろ、アニヤ。もうお前を苦しめる奴は居ない。自由になったんだ」
「ああぁ、ああああぁ! レインさん! わぁああああぁ~ん!」
俺の胸に抱かれたアニヤから、大粒の涙が零れた。光の無かった瞳には、安堵や不安や歓喜など、ごちゃ混ぜになった感情が溢れている。
「よし、後は……」
俺はアニヤを下ろし、転がっているドルゾロイへと歩を進めた。
「おい、ドルゾロイ! もうお前の組織は終わりだ。潔くお縄に付け」
「ひっ、ひぃいいいいっ!」
俺が進むと、その分だけドルゾロイは後退する。
「ま、待て! 金が欲しいんだろ! 冒険者は金のために依頼を受けてるんだよな!?」
「は?」
ドルゾロイがオヤクソクっぽいセリフを吐き、俺の中で形容しがたい怒りが込み上げた。
「ど、どうだ、取引しないか? 金をやろう。いくら欲しい? 金貨1000枚でどうだ!?」
「ぐっ……」
俺が黙っているからなのか、ドルゾロイの顔に焦りの色が滲む。
「そ、そうか、1000枚じゃ足りないか? 欲張りな奴め。なら2000枚でどうだ?」
「っ…………」
「わ、わわ、分かった! 5000枚やるよ! 金貨5000枚あれば、当分は遊んで暮らせるぜ!」
俺は無言で歩を進める。
「ま、待てぇ、待ってくれ! 10000万枚でどうだ? 女もやろう! この施設に繋がれている奴隷を全てやるよ! それなら満足だろ!? 依頼報酬なんかより、よっぽど条件が良いだろ?」
「ぐっ、お前らはいつもそうだ……」
俺は歯ぎしりをしながら歩を進める。
「元世界も異世界でも同じだ。クズは皆同じだ。どうしてお前らは、人の心を踏みにじるんだ。優しい人を食い物にし、弱い者を虐待し、人の心を弄ぶ。自分の欲望を満たすために、他者を犠牲にすることを何とも思っちゃいねえ」
そうだ、俺の原動力は怒りだ。どうしようもない社会への怒りだ。理不尽な世の中への怒りだ。
元世界でもそうだった!
真面目に働こうとすれば搾取され、人に優しくしようとすれば騙され、目立たないように生きようとしただけなのに踏みにじられる!
悪い奴ほど得をして、真面目な人や優しい人は損するばかりだ!
俺はただ、大切な人と一緒に、静かに暮らしたいだけなのに。
「ドルゾロイ! 俺を買収しようとしても無駄だ! 俺は、俺はな……俺は子供が虐待されているのが一番許せねえんだ! 幼い娘を連れ去り、奴隷として虐待した罪、俺は絶対に許さねえ!」
ブンッ!
俺の拳が空を切り裂く。奴の顔面に向けて。
レジェンダリー武器の天啓の剣はどうしたって? こんなクズに使うには勿体ないだろ!
クズは拳でぶん殴るって相場は決まってるんだ!
ズダダダダダダダダダ! スダァーン!
「くたばれゲス野郎がぁああああ!」
「グバボゲェ!」
俺の連打をくらったドルゾロイは、ズタボロになって地べたに転がった。
「ゴバッ! お、お助けぇええ!」
ボロボロのドルゾロイは、媚びるような顔で俺に手を伸ばす。
「知るか! お前は助けを求めた少女たちに何をしたんだ? 助けてと言われて助けたのか? 違うだろ! 自業自得だ! だが、殺しはしないさ。お前は賞金首だからな」
ドルゾロイを縛り上げてから、リゼットに軽くヒールを掛けてもらった。役人に突き出す前に死んだら困るからな。
◆ ◇ ◆
「ここが海賊の隠し基地なのか」
洞窟を抜け道を進むと、そこは大きな船が何艘も泊めてある地下港だった。
大きな空洞になった場所が、海と直接つながっている。そこに港を作り、海賊船を停泊してあるのか。
「そして、あっちが海賊のアジトか」
港のすぐ近くには、大きな屋敷があった。あれがドルゾロイたち海賊が寝泊まりするアジトだろう。
「おい、ドルゾロイ! 財宝はアジトの中か?」
縛り上げたまま連れてきたドルゾロイに声をかけると、奴は不貞腐れたような顔になった。
「ふん、後で後悔するぞ冒険者め。我ら赤き陰謀は、領主や貴族にも顔が利くのだ。どうせ捕まっても、すぐに無罪放免よ。また海賊船を使ってボロ儲けしてやるぞ! がっはっは!」
やはり服屋の店主の話は本当だったか。領主も腐敗しており、海賊から賄賂や奴隷を受け取っていたのだろう。
「許せねえな。悪い奴は悪い奴とつるみたがる。根こそぎぶっ潰してやりたいぜ」
「そうですわ、お父様!」
俺の独り言に、リゼットが賛同する声を上げた。
「リゼット、どうしたんだ?」
「お父様、わたくしにお任せくださいませ! 悪は殲滅ですわ!」
ん? リゼットが、めちゃくちゃやる気になっているのだが。どうしたんだ?
俺が戸惑っていると、リゼットは専用装備の|地母神の創生杖《ジェネシス オブ リーファ》を掲げた。
「神の代行者たるリゼットが命じますわ! 悪はすべからず殲滅! 殲滅あるのみ! 神聖光線!」
ペカァァァァー! チュドーン!
あれっ? 俺は夢でも見ているのか?
リゼットがレーザービームを放って、海賊船が大破したのだが!?
「私も負けてられません!」
続いてエステルが天地を統べる者を掲げ無詠唱魔法の体勢に入った。
「神罰の雷!」
ピカッ! ズダダダダダダダダダダーン!
エステルの杖から閃光が走り、海賊船が大爆発した。
「わらわも負けておれぬ」
「シャルも頑張るの!」
メテオラとシャルもやる気満々だ。
「くらえ、千の氷槍!」
メテオラの致死浸食剣から、幾千もの氷槍が発射され、海賊船を粉々に砕いていく。
「時間加速Ⅱなの! 超重力打撃! 超重力打撃! 超重力打撃なのぉおお!」
シャルは流星式超硬竜槌鉾を振り回し、連続して超重力打撃を叩き込んでいる。
狂戦士モードかな?
「わ、私もやるでしゅ。アハツェーン、お願い」
「かしこまりました、マスター」
モグミに命令されたアハツェーンが前に出た。
「広範囲殲滅魔法、獄炎波動」
ゴバァアアアアアアアアアア!
かろうじて沈没を免れていた残りの一隻が、アハツェーンの火炎で沈んでゆく。
こうして、威容を誇るように並んでいた海賊船は、全てが轟沈してしまった。
「あああああぁ! 悪夢だぁああ! 俺の海賊船がぁああ! 終わりだ、この世の終わりだぁああ!」
ドルゾロイが絶叫したところで、娘たちは「えいえいおー!」と鬨の声を上げ始めたのだが。
「暴力は全てを解決しますのよ!」
「暴力は全てを解決します!」
「暴力が全てを解決するのじゃ!」
「暴力は全てを解決するの!」
「じゃ、私も……暴力は全てを解決しましゅ」
最後に娘たちが口を揃え、決めゼリフを叫ぶ。モグミだけ遠慮がちだけど。
「えええっ! 娘が悪い大人の影響を受けている気がする! いったい誰のせいだ!?」
「レイン様、それはレイン様の影響かと思われます」
俺の疑問に、アハツェーンが冷静なツッコミを入れた。




