第43話 女難の相かな?
俺は空中を浮遊する戦艦から、遥かな地平線を眺めていた。
本当に空を飛んでいるのだが。
何だこの謎の技術は? ドワーフ族の錬金術すげえ! というか、モグミが凄いのか!
鬱蒼と続く森の向こうには、南の港町ミレーニアが見える。そして弧を描くようにカーブした陸地が、青い海に溶け込んでいるかのようだ。
「海が見えてきたぞ」
俺の声で、娘たちが一斉に集まってきた。
「綺麗ですわね!」
「初めて見るのじゃ」
「わふぅ、すっごく大きいの」
「わぁ、青くて広くて凄いです」
「も、もう少しで到着でしゅ」
一斉に飛び掛かられ、俺の体は娘たちが引っ付いたクリスマスツリー状態だ。
「おい、全員同時に飛びつくな。危ないぞ」
どうも娘たちが嫉妬している気がする。一人を甘やかすと、他の子が張り合うように俺に絡むのだ。
全員を平等に接しないとならない。
だが、そんな苦労も愛おしく感じる。
前世の俺は誰にも愛されていなかったから。
疎まれ邪魔者扱いされ騙され、まるで存在しない者のように扱われてきたのだ。
それと比べたら、今の俺は幸せだ。たとえ王都を追放されたとしても。
「「「わーわーわー!」」」
相変わらず娘たちのスキンシップが激しい。
特にシャルは体が大きくなったので強烈だ。
むにゅ! むにゅ! むにゅ!
背中に柔らかな双丘が当たっている。シャルのムチムチパツパツなそれだ。
いくら親子とはいえ、あまり密着するのはどうなのか?
「おーいシャル、少しは恥じらいを持とうな」
俺の肩に顔を乗せているシャルに声を掛けると、彼女はキョトンとした表情になった。
「ん? パパ、それ美味しいの?」
「食べ物じゃないぞ。女の子はな、大きくなったら男にくっついちゃダメなんだぞ」
「どうしてなの? 他の子はくっついてるの」
「他の子は小さいから……」
むにゅ! むにゅ! むにゅ!
「くっ、どう説明したものか……」
シャルは全く悪気なく密着している。まあ、他の男にはしないし、俺にだけなら安全かな。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ!」
「むぅううううっ!」
そこで後から不満そうな女の声が聞こえてきた。
やっぱり安全じゃなかった。
そう、嫉妬しているのは娘たちだけではない。一緒についてきたヴィクトリアとサーシャさんもだ。
「おい、ヴィクトリア。さっきから変な声を上げてどうした?」
俺は首だけ後ろに向けて声を発した。
「もうっ、旦那様! 私は正妻なのに、抱くどころか頭も撫でてくれないとか何なのよ!」
「そう言われても……そもそも結婚してねえのに」
勝手に新妻を名乗られてもな。
「レインさん! ヴィクトリアさんばかり妻扱いして、私には何もしてくれないですよね!」
今度はサーシャさんが不満顔だ。
「べつにヴィクトリアを妻扱いしてないのに」
「いいえ、してます。レインさんって、彼女にだけアタリがキツいです」
ええっ! 雑に扱った方が嬉しいのか?
ちょっとよく分からない。
「私にもガンガン強く来てください」
「えっと、俺は女性に優しくしようとしてましてね」
「やっぱりヴィクトリアさんだけ特別じゃないですか!」
頬を膨らませたサーシャさんが、泣きそうな顔で迫ってくる。
一方、ヴィクトリアは何故か満足気だ。
「うんうん、やっぱり私は正妻なのね♡ 旦那様♡ もっとキツくしても良いのよ♡」
「おいヴィクトリア、それ以上サーシャさんを挑発しないでくれ」
「嫌よ! うんとマウントとってやるんだから♡」
最悪だ。俺には女難の相でも出てるのか?
これも種馬スキルのせいなのだろうか?
「お父様……いえ、ダーリン♡ 浮気は許しませんことよ!」
そしてリゼットが問題発言するのもオヤクソクだ。
シャルは無邪気なだけなのに、リゼットはガチな気がする。もう親子で禁忌的事態だ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
飛行戦艦ブルクグラーフレインは、無事にミレーニア近くの森に着陸した。
こんな巨大な空飛ぶゴーレムで街に降りたら、大事件になりそうだからな。
「レイン様、お出かけの準備が整いました」
リズさんが手荷物をまとめてくれていたようだ。娘たち一人一人に、荷物の入ったバッグを手渡している。
本当によく働いてくれるメイドさんだ。俺は彼女に頭が上がらない。
「れ、レイン様……あ、あの……」
「どうかしましたか、リズさん?」
心なしかリズさんの表情が艶めいている気がする。
「あの、いつ調教してくれるのでしょうか?」
「ブフォッ!」
ずっとそれを期待していたのか。
家事も娘たちの世話もこなしてくれるメイドさんだけど、これさえなければ完璧なのに。
「レイン様が小さい時にされたお仕置きが忘れられないのです。はぁ♡ この淫らメイドに罰をお与えください」
「ちょ、娘たちがいますので。また今度で」
「絶対ですよ」
「考えときます」
リズさんは縋るような瞳で俺を見つめている。
どうしてこうなった。
ガキだった頃の俺を殴りたい。まあ、前世の記憶が戻る前の俺だが。
あまりリズさんと親密にしていると、ヴィクトリアやサーシャさんが機嫌悪くなるし。
王都追放より女性関係の方が地雷な気がする。
◆ ◇ ◆
娘たちの水着を買おうとして、大通りを歩き商店街まできた時だった。
「ゴラァ! 俺たちを誰だと思ってやがる! 上納金が払えねえなら、娘を連れてくって言ったはずだぜ!」
ガラの悪そうな男たちが、店主の男性を脅していた。
男たちは、堅気には見えない。日焼けした体に鍛え上げられた筋肉。髭を生やし眼光が鋭い。
パッと見は海賊のようだ。
「レイン様、前方に敵発見。殲滅しますか?」
アハツェーンが物騒なことを言い出した。
飛行船で留守番するように言ったのだが、マスターであるモグミを守るためについて行くと譲らない。仕方なく同行を許可したのだが。
「アハツェーンは大人しくしてろ。街中で獄炎波動をぶっ放されたら大惨事だ」
ここは穏便に済ませよう。これからバカンスなのに、トラブルを起こすのはマズい。
「どうかしましたか?」
俺は可能な限り冷静に声を掛けた。争いは何も生み出さない。
しかしガラの悪い男たちは、端から喧嘩腰のようで。
「ああぁん! テメェ、俺たちを誰だと思ってやがる! 泣く子も黙る大海賊、赤き陰謀だぞゴラァ!」
「赤き陰毛?」
「誰が陰毛だゴラァ!」
しまった、余計に怒らせてしまった。
どうしたものか。
「ぼ、冒険者様、お助けください」
小さな少女を抱いた店主が、俺に縋り付いてきた。
「この者たちは、最近この港町に住み着いた海賊でございます。上納金を払えぬ店からは、若い娘を連れ去っているのです」
「な……んだと」
若い娘って、まさか?
俺の視線の先には、年端も行かない少女がいた。俺の娘たちと同じくらいの歳に見える。
「ガハハハハッ! 俺たち赤き陰謀に逆らったらどうなるか分かってるのか!?」
海賊の一人が俺の襟首を掴んできた。
「テメェはよそ者か? だったら俺らに通行料を払うんだな。この街に入るには金が要るんだよ」
「は?」
「払えねえなら女を置いていけ。グヘッ! 良い女を連れてるじゃねえか。たまらねえな」
海賊の視線が、ヴィクトリアとサーシャさんを舐めるように動いた。
「俺は、あそこの人妻っぽい女だな。薄幸なメイドって感じでそそるぜ」
子分の一人がリズさんに狙いを付けた。
薄幸メイド萌えだろうか?
「じゃあ俺はそこの子供を頂くぜ! どいつもこいつも美少女だなぁ!」
もう一人の子分が、娘たちに視線を向けたところで、俺の我慢が限界になった。
「つまりお前らは、この街で少女をさらっているのか?」
「そうよ! 俺らは人身売買のプロだからな! なぁに、小さな子供でも問題ねえ。男を喜ばせる技を仕込んでやるだけよ」
ブチッ!
まだ汚い言葉を吐き続ける海賊に、俺は握りしめた拳を繰り出した。
「このゲスがぁああああ! 俺は子供を虐待する奴が一番許せねえんだ!」
ズガァアアアアアアァーン!
「グボゲェ!」
奴の顔面に俺のパンチが命中した。ひたすらレベルを上げ練り込んだ拳だ。
「ゴボボボッ! あへぇ、い、痛てぇ!」
「アニキぃいいっ!」
「しっかししてくだせえ!」
俺の一撃で海賊たちの戦意がくじかれた。
這いつくばって逃げようとしている。
「お前ら、俺の娘に手を出すとか言いやがったよな?」
「ひぃいいいいっ! お助けぇ!」
海賊たちは一斉に逃げ出した。
「二度と俺に顔を見せるんじゃねえ! 暴力は全てを解決するんだ、こんちくしょう!」
何とか穏便に解決できたぜ。やはり暴力は平和への近道だ。
「おじさん、素敵♡」
ふと後ろに視線を向けると、店主に抱かれた少女が俺を見つめていた。恋する乙女みたいな瞳で。
「「「むぅううううううっ!」」」
そして皆の嫉妬が激しくなった。




