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種馬スキルの悪役貴族に転生した俺、断罪を回避し娘たちと自由に生きることにした。  作者: みなもと十華@書籍&コミック発売中


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第42話 レインが去った王都では1

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!


 王都イストファン近くの湖畔から、巨大な飛行船が発進しようとしていた。誰も見たことのない威容を誇りながら。

 それはレインの住居や周囲の店、ギルド出張所までを格納し、悠々と空に飛び立ってゆく。


『高機能起動型飛行戦艦ブルクグラーフレイン発進。進路は南、リゾート地メレーニア』


 そんなシステム音を響かせながら、モグミが造った異形の飛行型ゴーレムは、レインたちを乗せ飛び立ったのだった。

 空を見上げている冒険者たちは、この摩訶不思議な光景に唖然としている。


「ありゃ何だ? デカいのが空を飛んでいっちまったぞ」

「またレインが何かやらかしたのか。相変わらず訳が分からん奴だぜ」

「もう何でもアリかよ」

「さすが天啓スキルの男」


 中には便利な出張所を惜しむ声も。


「ダンジョン近くに店やギルドがあって便利だったのによ」

「ああ、質の良い武具も揃ってたのにな」

「すぐ戻ってくるだろ。ここのダンジョンは金を稼ぐのに好都合だからよ」

「違いねえ」


 こうして、レインとその娘たちは、惜しまれつつも王都を離れたのだった。



 ◆ ◇ ◆



 その頃、王都イストファンの王城では、国王オズワルドが高笑いしていた。


「がははははっ! そうかそうか、やっとレイン・スタッドが王都から去ったか。これで一安心だ」


 呑気に笑うオズワルドに、息子のエドガー王子は複雑な表情を向ける。


「父上、いえ陛下! このままレイン殿を追放してしまってよろしいのですか?」

「エドガーよ、何を気に病む必要があるのだ」


 オズワルドは尊大な態度で椅子の背もたれに寄り掛かった。


「天啓スキルといっても、大した成果も出せぬではないか。しかも魔族の子をかくまう背信行為まで」

「それでもレイン殿は魔族の要求を断ったではありませんか。しかも王覧試合優勝という輝かしい実績も」

「信用できぬ。あのような冒険者風情など」


 オズワルドの表情が歪む。苦虫を噛み潰したかのように。


「そもそもあの男は気に食わぬのだ。聖教会の悪事を暴いたものの、そのせいで王国の威信までガタ落ちではないか。まさか正教会や聖騎士まで児童虐待に関わっていたなど、はなはだしい国辱であるぞ。ワシの顔に泥を塗りおって……」


 泥を塗ったのは大司教ギムネムなのだが、オズワルドの怒りはレインへと向けられる。


「確かに聖騎士を倒すほどの力を持っておるようだが、肝心の天帝の種が使い物にならぬのなら役立たずだ。大人しくしておれば追放されずに済んだものを。しかし余計なことをして国を混乱させるとは。しかも国王であるワシの力が、聖教会に及んでおらぬと印象付けてしまいおった。これは許せぬ」


 本来なら国のトップは国王のはずである。しかし、近年では絶大な勢力を誇る聖教会が、国王を凌ぐほどの権力が集まっていた。

 国王も、聖教会の顔色をうかがわなくては国政もままならないのだ。


 オズワルドとしては、国王である自分を蔑ろにしているようで許せない。

 実際、レインのお陰で聖教会の力を削ぐ結果となったはずだ。感謝しても良いくらいだろう。


 しかしオズワルドとしては、聖教会の弱体化よりもプライドを傷つけられたことの方が許せないようである。


「まあ良い。レイン一人居なくなったところで、我が国の戦力は問題なかろう。魔族の侵入に備えるだけだ」


 このオズワルドの言葉に、エドガーは瞳に不安の色を浮かべる。


「レイン殿の力を侮ってはなりませぬ。あの天啓スキル……いつか我が国の救世主となるはずだった可能性も……。そしてあの娘たちも、強大な力が開花するかもしれません」

「がははっ! そなたは心配性であるな!」


 息子の心配を、オズワルドは一笑に付した。


「レイン一人に何ができるのだ。しかも幼い娘などなおさらだ。冒険者風情一人欠けたところで何も心配はいらぬ。我が国の戦力は盤石である。がははははっ!」


 広間にオズワルドの高笑いが響き渡る。

 心配で顔を曇らせるエドガーを他所に、オズワルドの表情は自信に溢れていた。


「この追放が、我が国の命運を分けることにならねば良いが…………」


 エドガーは視線を落とし、天啓スキルの男を思い浮かべる。

 役立たずだと罵られた男が、本当はとんでもない力を秘めていたのではいかと。失った戦力は、国家を揺るがすレベルではないのかと。



 ◆ ◇ ◆



 ほどなくして、魔族領域でも動きがあった。


「フハハハッ! そうか、レインが王都イストファンを離れたか」


 毒々しい調度品が並ぶ執務室で声を上げたのは、見るからに強者のオーラを放つ魔族サレオスだ。

 獰猛な顔と全身筋肉の鎧に身を包んだ男。アドラメレクと考えを同じくする、七魔大公の主流派である。


「この時を待っておったのだ。レインと娘が追放されれば、王国の戦力など恐るるに足らず」

「そうね、レイン殿の居なくなった今こそ好機!」


 サレオスの言葉に、アドラメレクも声を上げた。


「レイン殿は素晴らしい男であった。この私が惚れるほどに。比類なき暴力性。圧倒的な知略。魔族を凌ぐ精力。この私を手玉に取るくらい……」


 アドラメレクの瞳が、恋する乙女のように煌めいた。


「ああぁ、レイン殿♡ あんな雄々しき殿方に無理やりされたら……もう拒めないわ♡ 何としても子種を手に入れなければ♡」


 これにはサレオスも肩をすくめる。


「やれやれ、七魔大公ともあろう魔族女が、人族の男にご執心とは。本来魔族の幹部たるもの――」

「レイン殿は別格なのよ!」


 夢心地から戻ってきたアドラメレクが、サレオスの言葉をさえぎった。


「私がレイン殿と行為をし、子を孕む。さすれば魔王の血を引く子が生まれるであろう。これが魔族再興の近道よ!」


 再びアドラメレクが夢見心地だ。完全に恋する乙女かもしれない。

 だいぶ勘違いしているようだが。どうしてこうなった。


「まあ良い。アドラメレクよ、我ら魔族の軍団を率いてイザリル王国に攻め込むのだ!」

「ええ、王都を攻め落とし、返す刀で南方に向かいレイン殿をゲットよ!」


 この好戦的な魔族幹部の会議に、もう一人の幹部が顔を出した。

 主戦派の二人とは打って変わって、物静かで怪しげなフードの男。七魔大公ラプラスである。


「果たしてそう上手くいくかな」


 調子づいたところに水を差され、サレオスとアドラメレクが苦々しい顔になる。


「何だラプラスではないか。臆病風に吹かれた反主流派の男は、穴に隠れて縮こまっていたのではないのか」

「止めても無駄よ。私は王都を落とし、そしてレイン殿を手に入れる」


 あくまで主戦論を唱える二人に、ラプラスは溜め息混じりの言葉を吐く。


「ふっ、まだレインの恐ろしさを理解しておらぬようだな。あの男を怒らせたら――」

「大丈夫よ! レイン殿がアモリス聖教会を瓦解させ、有力な聖騎士も潰したようなの。きっと運命ね」


 意味不明なアドラメレクに、ラプラスはうんざりした顔になった。顔は見えないが。


「もう我は知らぬ。我は違う道を行くとしよう。ではな」


 そう最後に一言残して、ラプラスは部屋を出て行った。


 こうして魔族のイザリル王国侵攻が決定した。

 一枚岩でない魔族だが、イザリル王国側も隠れた最大戦力であるレイン一行を失ったままだ。

 この戦いの行方ゆくえが、とんでもない結末を迎えるのは、まだ誰も知る由はなかった。



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