第44話 ポンコツなのに剣姫
店主の話を聞き、状況を理解した。二か月ほど前からこの街に海賊が居座り、街の女たちをさらっているという。
年端も行かぬ少女を連れ去るなど、許せないクズどもだ。
「そういう訳でして、この街には強い冒険者様もおらず、海賊たちがやりたい放題なのです」
店主の男が言うには、領主も腐敗しておりこの状況を放置しているとか。官憲も動かず冒険者頼りだそうだ。
きっと賄賂でも受け取っているのだろう。
しかも地方の冒険者ギルドには、強い冒険者がいなくて対処もできないと。
「あなた方は強い冒険者とお見受けしました。お願いします! どうか我々をお救いくださいませ!」
店主の男が深々と頭を下げた。
「そうですね。まず海賊の規模が分からないと……」
「謝礼なら用意があります。ギルドの報酬の他に、我々商店街から報奨金も出ますので」
謝礼が入るなら考えてみようか。ダンジョンを離れ、クエスト報酬が入らなくなったからな。
その時、リゼットが前に出た。
「幼い少女をかどわかす海賊など許せませんわ! 非道なる輩には断罪を! 殲滅させましょう!」
「ちょい待て、リゼットは聖女なのに少し過激じゃないか?」
これにメテオラも乗ってしまう。
「うむ、わらわも同意見じゃ。滅ぼそう」
「メテオラも落ち着けって」
聖女と魔王が似た者同士かよ。我が娘ながら末恐ろしい。
「とりあえずこの街のギルドで海賊討伐クエストを受けよう。幼い少女が狙われているなら止めないとな」
俺は勇み足の娘を落ち着かせ、クエストを受けることに決めた。
ただ、一つだけ問題が……。
「うわぁ♡ 正義の味方です♡ オジサン素敵♡」
さっきから店主の娘さんが、俺を熱い瞳で見つめているのだが。
どうしてこうなった。
「オジサン、いえ、冒険者様♡ 私の名前はアンです。ぜひ、お名前をお聞かせください」
「えっと、レインだけど」
「レイン様♡ 強くて勇ましくて素敵です♡」
くっ、アンの視線が眩し過ぎる。完全に恋する目になってるじゃねえか。
暴力は全てを解決するって言ったけど、もしかして恋愛関係にも有効なのか?
「レイン!」
「お父様!」
ヴィクトリアとリゼットが、凄い形相で睨んできた。
「お、おい、落ち着けよ。相手は小さな子供だろ」
「レインって小さな子が好きなの? どうりで私になびかないはずだわ! もうっ、ロリコンレイン!」
「お父様、ロリコンだったのですの?」
おい、俺をロリコン認定するんじゃねえ。俺はどっちかというと、大人っぽい女性が好みなんだよ。
「ふふーんですわ♡」
何故かリゼットが勝ち誇ったような顔をしている。おいリゼット、親子は結婚できないぞ。
そしてヴィクトリアが、ガックリと膝をついた。
「ああぁん、レインがロリコンじゃ私の勝ち目がないじゃない!」
「だから俺はロリコンじゃねえ!」
これ以上は危険だ。あまり小さい子供に関わらないようにしよう。事案発生になりそうだ。
本来の目的も忘れないようにしないと。俺たちは南の海でバカンスするために来たんだ。
「それはそうと店主、娘たちの服と水着を買いたいのだが」
俺は店内に並ぶ衣装へと視線を移した。どれも可愛らしくて、娘たちにきっと似合うだろう。
「それはそれは、好きな物を選んでくださいませ。お代は頂きません」
「そんな訳には……」
「冒険者様には娘を助けてもらったのです。恩人からお金を頂くわけにはいきませんから」
どうしてもと言って譲らない店主の好意に甘え、娘たちの衣装を一式揃えることにした。
「お、お父さん。どうですか?」
エステルが白いワンピースを着て、恥ずかしそうにポーズを決める。
「とても似合ってるぞ。エステルは本当に可愛いな」
「えへへ♡」
エステルは嬉しそうに顔をほころばせる。本当に可愛い俺の娘だ。
「シャルもシャルも! パパ、シャルも可愛い?」
シャルが決めた衣装は、タイトなシャツとショートパンツだ。ボーイッシュなイメージでよく似合っている。
ただ、露出が多かったり体のラインが出ていて、親としては心配だけど。
「もちろん似合ってるぞ。可愛いよ」
「わふぅ♡ パパ、大好きなの」
まあ、シャルは俺以外の男には懐いていないから大丈夫だろう。
「お、お父しゃん。これ、どうですか……」
続いて試着室から出てきたモグミは、何故か作業服を着ている。
「ええっと、個性的な服で良いな」
「にしし、ポケットも多くて機能的です」
本人が好きならそれで良い。個性は大事だ。
「わたくしの方が可愛いですわ」
「わらわが一番じゃ」
お次は喧嘩しているリゼットとメテオラだ。何をそんなに張り合っているのやら。
まあ、喧嘩するほど仲が良いのかもしれんが。
「えっと、リゼットが黒のゴスロリっぽい女王ドレスで、メテオラが清楚な白のロングドレスか。似合ってるじゃないか」
何だか逆な気もするけど。これじゃリゼットが魔王でメテオラが聖女みたいだ。
でも似合ってるからOKだ。
俺は娘たちの服と水着をありがたく受け取り、サーシャさんとリズさんの分は支払ってから店を出た。
店主は断ったが、大人の分まで無料では申し訳ない。
「ちょ、ちょっと待ってよレイン!」
ヴィクトリアが慌てて駆け寄ってきた。
「何で私には服をプレゼントしてくれないのよ!?」
「ヴィクトリアは金持ってるだろ。自分で払ってくれ」
「ぐはぁ! わ、私にだけ雑な扱いなんて酷いわ!」
またヴィクトリアが膝をついた。
「ああぁ♡ この私をゴミのように扱うだなんて。これまで家族にも大切に育てられ、男は誰もが傅いてきたのに」
「お、おう」
「こんな仕打ちをするのはレインだけよ! ゾクゾクしちゃう♡ もう旦那様に全てを捧げるしかないのね♡」
ヴィクトリアのドMが進行している気がする。見なかったことにしよう。
◆ ◇ ◆
俺たちは、この街の冒険者ギルドにやってきた。といっても、見るからに建物もボロく、お世辞にも繁盛しているとは思えない。
「ここがメレーニアの冒険者ギルドか。何か寂れてるな」
中に入ると、顔色が悪く目の下にクマができた受付嬢が対応に出た。
「あんたら見かけない顔だね。こんな街に何の用だい?」
「王都イストファンから来たんだ。海賊討伐のクエストを受けたい」
俺が海賊の名を口にしたとたん、受付嬢の顔色が変わった。
「ちょ、ちょっと待って! シー! シー!」
「どうしたんだ?」
「だから、シー!」
受付嬢は口に人差し指を当て、必死に『シーシー』やっている。どうしたんだよ、オシッコでもしたいのか?
「あんたはよそ者だから知らないだろうけどさ。ここじゃ奴らに歯向かう言葉は禁句なんだよ」
「そうか、オシッコじゃなかったのか」
「あんたバカなの? それとも凄い大物かい?」
元NTR系悪役キャラで、転生者で、王覧試合優勝者で、しかも変な疑惑で王都追放されたから、大物といえば大物かもしれない。バカの称号付きで。
「バカでも何でもいいから、クエストは受けられるのか?」
受付嬢は、俺の耳に顔を寄せ、小声で話し始めた。
「そりゃ受けられるけどさ。本当にあんたら『赤き陰謀』を敵に回すのかい?」
「ああ、そのつもりだ。報奨金が出るんだろ?」
「何だよ金目当てかよ。やめときな、命を粗末にするもんじゃないよ」
受付嬢の視線が、俺の娘たちに向いた。
「小さな子供までパーティーにいるのかい。尚更やめときな。娘さんのためにも」
「大丈夫だ。このパーティーは強い。俺はB級だけどな」
俺が説明しようとした矢先、後ろにいたヴィクトリアがしびれを切らした。
「レインは最強なのよ! 凄いんだから! それに私はS級冒険者なのよ!」
ヴィクトリアの顔を見た受付嬢が、ガタガタと震え始めた。
「も、もしかして貴女様は、剣姫ヴィクトリア・パイル! 閃光と呼ばれる最強の冒険者!」
「あら、南方にも私の名が知れ渡っているのね」
ヴィクトリアが勝ち誇ったような顔をしている。
そういやこいつは剣姫だったな。最近はドMでポンコツっぽい印象だったから忘れてたぜ。
「剣姫ヴィクトリアの所属するパーティーなら、あの海賊を倒せるのかも。やっと私たちにも希望が見えてきたのね……」
受付嬢が涙を流し始めた。
よく分からんが、これで海賊討伐クエストを受けられそうだ。あのポンコツヒロインのヴィクトリアが、こんなに持ち上げられているのは納得いかんが。




