第8章 対決ライヤード
第8章 対決ライヤード
ヴェンビック山の頂で竜の咆哮が木霊する。怒りか嘆きか、激しく大気を揺さぶる鳴き声は対峙するケントらに圧倒的な威圧感を与えていた。
「マジか・・・!」「ドラゴンだ!こんなに近くで見たの初めてだ!」
たじろくケントと、背後でははしゃいで言葉を飛ばすリューがいた。もちろんリュー以外の他の皆はケントと同じく、驚愕や恐怖に身を構えて固まっていた。
「たぁ!!」と、次の瞬間、リモコンらしきものを持ったままのヴィレッテが颯爽とライヤードの背にまたがってしまうのだった。
巨大なドラゴンの背に乗った人型ドラゴン族の図ができあがると同時に、ライヤードは一度吠えると、大きな翼を広げて軽く舞い上がった。
それだけでも激しい強風を巻き起こしてケントらに防御の姿勢をとらせてしまう。
「やっちまえ!」そうして、背に乗ったヴィレッテが攻撃の声を上げて指示。同時にライヤードが一度瞬くと口の中に真っ赤に燃える炎を宿して睨みを強める。
「・・・!?まずい!よけろ!!」刹那、攻撃を察したケントが叫んだ。
ゴォオオオオオオオ!!
次にはライヤードが大きな口から高速の火球を吐き出してケントら目がけて撃ち出したのだった。
ドゴーン!!
破壊音が轟き、山頂の地面が紅蓮に色づく。
「あっぶねぇ・・・」「あ、ありがと・・・ケント」ケントはミカを抱えて炎が直撃するよりも早く、オーラ術で強化した脚力を活かして回避に成功していた。同じく、ストログもリューを抱えて回避しており火球のダメージはなかったようだ。シャシャリだけは飛べる分、空中に逃げたが、一瞬遅れたのか臀部が激しく熱されたらしく「アツイアツイ!」と騒いでは空中を飛び回っている。
「なぁミカ、あれとまともにやりあうのは無理がある気がするぞ」
「だけどあのトカゲ男をとッ捕まえないと!絶対に何か知ってるはずなのよ!」
ミカの言い分もわかるが、一番の問題は巨大なドラゴンである。真正面から殴り合いの喧嘩をしかけたところで、あの大きな口にパクリと一飲みされてしまうではと嫌な想像しか浮かんでこないケント。
と、そこへ。
「おい!!構う必要はない!さっさとこの山を越えるぞ!!」ストログがリューを抱えた腕から解放しながらに叫んだのだった。
「いやよ!手がかりがそこにいるのよ!」反射的にミカも叫んだ。
こんな時に言い争っている場合ではないと思いながらもケントは、宙を舞うライヤードを確認した。そこには背中に乗ったヴィレッテがまた何か指示を送っているように見えた。
「・・・ええい!ミカ!俺とストログであいつを引き付ける!その間にあのトカゲをなんとかする作戦を考えるんだぞ!いいな!」ケントが叫び、そのままストログの方に駆けた。
「え、あ・・・う、うん」ミカは珍しく反抗的ではない形でケントに強く言われたのに、ちょっとだけ驚きつつも首を縦に振ったのだった。
「ストログ!手伝え!!」
「断る。無理にでもミカフェリアを連れて、すぐにターミナルに向かうべきだ」
「ミカが聞くわけないだろ!それにあのドラゴンがターミナルにまで追ってきたらどうする!航行船にも被害が出るかもしれないぞ!」
その意見に、少しだけ険しい表情を見せたストログは「むう」と小さく唸った。
「できるならドラゴンを倒して!トカゲ野郎も捕まえる!それで隠していることを吐かせて、ターミナルに向かう!これが最短だ!!」
「・・・・・・・・倒せると思うのか?あれを?」
「できればだ!倒せなくてもトカゲ男が操ってるはずだから!奴を叩けばいい!」
「・・・なるほど」
小さく頷いたストログは、ケントから視線を外すとそのままライヤードを睨んだ。
既に先ほどと同じく口の中に火球を産み出したようで、紅蓮色が口元から溢れていた。
「やるなら最速でいくぞ」と、ストログは構えをとると同時に全身から青いオーラを生じさせた。
「よ、よぉーし!やるか!!」同じくケントも赤いオーラを生じさせると、ストログと並んで今にも火球を吐き出さんとするライヤードを睨むのだった。
※
「やれ!ライヤード!!」意気揚々、ヴィレッテが意地悪い笑顔と共にリモコンを操作して指示を飛ばす。それに応じて巨大なドラゴンは大きな口を開けて火球を吐きださんと力を込めた。
その瞬間。
「「おおおおぉおおお!!」」
赤と青の閃光が駆け抜けたかと思うと、ライヤードの巨大な顎を痛烈な衝撃が襲った。
ギィアアアアア!!「なんだ!?」
ケントらに吐き出すはずだった火球は狙いがそれて明後日の方向へと飛んでいき空の彼方に消えてしまった。驚いたヴィレッテが襲った衝撃の正体を睨みつけると、そこには二人の男が山頂の地に着地してこちらを睨んでいた。
ケントとストログである。息を合わせたようにライヤードにダブルアッパーをお見舞いさせたのだ。どうにか火球攻撃をしのいだと安堵の顔を見せるケント。隣のストログは顔色ひとつ変えずに空を舞ったままのドラゴンを睨み続けていた。
「ちょっとは効いたと思うか?」
「・・・・――怒らせただけかもな」
ケントの質問に簡素に応えてストログは握り拳を強くする。すると。
ガァアアアアアア!!
ストログの言葉通り、ライヤードは怒り心頭か山全体に届かんばかりの咆哮を上げて血走った眼をケントらに向けるのだった。
「ラ、ライヤード!怒るのはわかるけど、僕が乗って・・・――」
ガオオオオオオオオ!!
新たに咆哮を荒げるとともに背に乗ったヴィレッテなどお構いなしにライヤードは大きな羽を羽ばたかせて巨躯には似合わない超高速で空よりケントらに向けて突撃を計るのだった。
ズガガガガガ!と山頂の岩肌をえぐるようにライヤードの爪や胴体、尻尾がぶつかって山頂の景色を変えていく。ケントとストログは寸前のところで、オーラで脚力を増幅させて高く跳躍することで回避に成功していた。
と、そこでケントは視線をミカの方へと向けた。
「ミカ!今の内だ!早く何とかしろ!」
「わ・・・わかってるわよ!」
空から飛んでくるケントの声に、ミカは岩陰に隠れながらに返答していた。
今にも逃げ出しそうなシャシャリをリューに掴まえさせて、更にそのリューを掴まえながらにミカは頭を捻った。
「・・・要はあのドラゴン男が持っているリモコンらしきものを破壊できればいいと思うんだけど・・・」
中空を舞い踊るドラゴンと、背に乗ったドラゴン男を睨んでミカは呟く。
「理屈はわかんないけど、あれで操ってるのは間違いないわね・・・私のヒィアートガンで狙えるからしら・・・――それに壊しちゃって暴走とかしないかな」
案を思いついても後の影響を考えて眉間に皺寄せるミカ。
「なぁミカ、あたしもあっちに混ざっていいか?」と、そこへリューのあっけらかんとした声が届いた。
大きなブーメランでシャシャリを地面に押さえつけながらの彼女は、ケントとストログが戦い続けている方向を見て羨ましそうな顔をしていた。
「えぇ!?何言ってるのよリューちゃん!」と、そこまで応えたミカだが、ふとリューのブーメランに目が言って声を少しだけ止めた。
そして。
「そうだ!ねぇリューちゃん!狩人なんでしょ!?それならあのドラゴンの背中に乗ってるやつの手元を狙える?」
「んー?」言われて首を傾げるリューは、今一度ドラゴンの方を眺めて、それらを確認した。
「さすがにあんなちっこいのは無理かなー。持ってるやつだけならいけそうだけど」
「ま、まぁそれでもいいわ!・・・よぉーし!」
策は決まったと、腕まくりをしたミカは口に手を添えて息を大きく吸い込んだ。
「ケント!ストログ!作戦ができたわ!ライヤードをこっちに引き付けて!」
精一杯の大声を張り上げて二人のオーラ術者へと指示を飛ばすミカ。すると、その声に即座に応じて、赤と青のオーラがライヤードの目の前を煽る様に踊って、怒りを増幅させた。
ギアアアアアアアアアアア!!「おお!おい!ライヤード!ま、待て!罠・・・!」主であろうヴィレッテの声が聞こえていないのか憤怒の巨竜は大きな口を広げてケントとストログ、そしてミカ達のいる方角へと襲い掛かってきた。
「ひっぃいい!!りゅ・・リューちゃん!お願い!」岩陰に隠れて叫ぶミカ。同時にリューがブーメランを振りかぶる。
「せぇーの!ほいッ!!」
ビュン!!バキィ!!「んげぇ!?」
瞬間、加速中のライヤードに向けて投げられた大きなブーメランは見事に竜の背に乗ったトカゲ男を仕留めた。凄まじい衝撃によって背から落ちたヴィレッテが山頂の地を転がり、持っていたリモコンも放り出されて同じく地に叩きつけられたのだった。
そうすると、まるで糸の切れた操り人形の様にライヤードから威勢が消え去ってしまった。しかし襲撃の勢いはやむはずもなく、赤錆色の巨体はミカたちへと迫っていた。
「「うぉおおおおおおおおお!!」」
その時。ケントとストログが間に入って吠えたのだった。両手を前に突き出し、オーラを全開にドラゴンの巨体を受け止めて見せた。
ズザザザザザザ!
と、二人が凄まじい勢いを殺しながらも後ずさった跡が地に残されていく。
そうして、ケントが息を切らし汗だくになったところでなんとかライヤードは動きを止めて、完全に沈黙するのだった。
「と、止まったか・・・はぁ・・・」胸を撫でおろすケント。
「死んだんかこれ?」と、興味深そうに動かないライヤードをツンツンとつつくリュー。
隣ではさすがに呼吸を整えていたストログが背から落ちたヴィレッテを確認しようと、落下地点を睨んだ。するとそこには、既に逃げ出そうとしているヴィレッテの背中が見えたのだった。
「チッ・・・」舌打ちしたストログは拿捕しようと動こうとした、その時。
バキュン!
銃声が鳴って、ヴィレッテの足元の地面を撃ち抜いたのだった。
「ひぇ!」
「そこまでよ!えせドラゴンライダー!」
銃撃に腰を抜かしたヴィレッテに向かって、ミカはヒィアートガンの銃口を突き付けていた。
「・・・ぐっ・・・!コントローラーさえあれば・・・」すると焦ってつぶやくヴィレッテが、急いでキョロキョロとあたりを見渡した。手元から落ちた機械を探しているのだ。
「シャシャリ!」「ハーイ」
と、慌てふためくヴィレッテに追い打ちをかけるようにミカが半機械のテントウ虫を呼びつけた。
「げ!」
なんとシャシャリの手には、ヴィレッテの持っていたリモコンが握られていたのだった。
「回収完了ッス!」ビシッと小さいながらに敬礼をしてシャシャリはブーンと飛び回ってみせた。
「さーて万策尽きたみたいね?それとも、もう一個リモコンがあるのかしら?」
勝ち誇った笑みを見せるミカに、ヴィレッテは悔しさと悲しげな表情を織り交ぜた顔を見せて、ガックリと肩を落とすのだった。




