第9章 イエンス博士
第9章 イエンス博士
「さぁて、どういうことか説明してもらうわよ」
元のヴィレッテの部屋へと戻ってきた一行は、部屋内にあった運動用の縄跳びロープで下手人を縛り上げた。そして尋問開始だとミカが銃を構えながらに自信満々の顔を見せていた。
「知ってること全部話しなさい?」
「言っタ方ガ楽になるぜ?」シャシャリもこういうことが好きなのか、一緒になって尋問役を行っていた。
しかし、当のヴィレッテはふくれっ面で顔を背けたままで応えようとは一切しない。いら立つ表情のミカだが、後ろではケントらの溜息が漏れていた。
「・・・もういい、時間の無駄だ。そいつも連れてこの星から出るぞ」とストログが呆れ声で言って出立を促した。
「それもそうだな。ミカ、こういうことは専門家に任せた方がいいだろ?軍か警察に引き渡せば、なにかわかるさ」
ケントもストログの案に賛成だとお手上げのポーズを見えてはミカに促して言う。
それに対してミカは「うーむ、それはそうだけど・・・」と渋った声を上げてはヴィレッテを睨みつけていた。
「・・・仕方ない。お父さんに頼んで拷・・・、尋問のスペシャリストを呼んであげるわ。ま、私をあんな危険な目に合わせたんだから、牢獄惑星行きは確実ね」
ビシッと指さして忠告のつもりで言うミカ。
するとそれまでとはうってかわってヴィレッテが頭を上げるとドラゴンの瞳を何度もパチクリさせた。
「ろ、牢獄惑星だって!バカな!なんで僕が!話が違うじゃないか!?」
大声で喚きだしたヴィレッテに皆の視線が集まり、彼の行動の背景に何かが『ある』と確信させていた。
「ここで指示通り動いていれば何も問題ないって・・・くそ!博士め!」
確実に重要なキーワードを漏らしていくヴィレッテ。彼自身の怒りからの呟きのせいで、その言葉がケントらにどう伝わっているかなど考えてはいなかったのだ。
「博士?」「いま確かにそう言ったわよね?」
ケントとミカが揚げ足取りのようにヴィレッテに詰め寄った。
「へ?あ、そ・・・そんなこと言ったかな?聞き違いじゃないのかい?」トカゲ顔でおどけてみせるヴィレッテだがミカたちの表情は強張ったままである。
「やっぱり!あのでっかいドラゴンを操ってた装置も、ここに置かれているガラクタも全部!その博士ってのが作ったんでしょ!?」
めちゃくちゃになったライヤードを操っていたコントローラーを指さしてミカが叫ぶ。
それに思い切りにドキリとした顔を見せたヴィレッテは、これでもかと首を横にふって否定の意思を示した。が、ダメで、ミカの構えた銃の先が額に押し付けられる形にまでなっていた。
と、その時――。
ガシャーン!!
尋問中のケントらの後方、部屋の奥の方で大きな音がして彼らを振り向かせた。
「あちゃー」シャシャリの溜息交じりの声が聞こえる。
「おぉー!なんだこれー!!」同時にリューの元気いっぱいの声も聞こえた。
それに気が付いてストログが何かを発見したらしいリューのもとへと足を進めた。
「・・・・・・これは、扉か」
ギターやドラムにゲーム機など等の趣味満載の雑貨が巻き散らかされた、その奥に隠すように鋼鉄製の扉が備えられていた。
「おおおお前ら!僕のコレクションを!ビビットルズとかロールストンなんかの超レアなやつとかもあるんだぞ!」
リューのせいで散乱してしまった私物をみて驚愕のヴィレッテが叫ぶが、ミカが「うっさい」と銃の柄で小突いて黙らせる。
「隠し扉ってやつッスね」
「・・・らしいな」
「あけろあけろー!」
ストログがリューたちの煽りを受けて鋼鉄扉の取っ手に手をかける。
だが。
ガコン!!
扉は音を立てるだけで全く微動だにしないのであった。
「ふはは!無駄だ無駄!そいつのロックは並じゃない!どんなバカ力でも開けれやしないのさ!」
ストログの腕力でも開かなかった扉に自信満々の顔と声で言い放つヴィレッテ。再度ミカの「だからうっさい」との小突きを受けながらも、笑みは絶やさずにいた。
「うぇ、ログでも無理なのか?」
「そんなに厳重なロックなんスか?」
「・・・・ふむ」とストログはとってから手を離すと、すぐそばに取り付けてある小さな機械を見つけた。
どうやらこれがヴィレッテの言うロックであろうツールだと確信した。表面は薄っぺらな錆色の鉄板で中央部には丸いボタンが一つと、その脇で赤いランプが点灯している。
おそらく施錠中を表すランプだろうと推測できた。
「なんじゃこれ」と、中央のボタンに気が付いたリューがポチっと押し込むのだった。
瞬間、ブウン!と装置を中心に半透明で扇状の半立体映像が広がった。
それは部屋の床から天井まで目いっぱいに広り、綺麗な升目模様を描いたその中にはおびただしいほどの文字が升目ごとに埋められていた。
「・・・文字盤・・・パス入力のためのキーボードか」ストログが映像に半身を埋もれながらに呟いた。
「なんだこれ?銀河共通語以外の文字まであるぞ」
「古代語に・・・私でも見たことないような文字まで・・・」
ケントとミカが思わず感想を漏らす中、ヴィレッテは更に笑みを作っては気持ち悪い笑い声をあげていた。
「ははは!パスワードを解けるもんなら解いてみろ!何十・・・何億通りあるかな!?僕だって10回に一回ぐらいしか成功しないんだぞ!」
意気揚々と身動きの取れない状態で声をあげるヴィレッテだが、全員からは呆れた目で見られていた。
「・・・ま、でもこいつの言う通り全部は試してられないぞ。どうするあきらめるか?」
「嫌よ、ここまできて引き下がるなんて!絶対に何かあるんだから!」
ケントの意見にミカが反論するが、銃口はヴィレッテを向いたままで勢いで引き金を引きそうなのにヴィレッテは縮みあがってそれまでの勇んだ姿を消してしまうのだった。
「・・・ふぅむ」
と、半透明の文字盤とロック装置を睨んで唸るストログは、装置の隅に何かが刻んであるのが見えて更に目を凝らした。
「・・・・・・これは、どこかで・・・」
刻んである何かを見て少し考え込むと、次には傍に浮かんでいたシャシャリをガシリと掴んだのだった。
「ぎゃ!」思わず声をあげてしまうシャシャリ。機械の羽を羽ばたかせるがストログの腕力の前ではひ無力で飛び上がることはかなわなかった。
「・・・やはり」
そうするとシャシャリの体の一部を睨んでいたストログはひとり頷くとケントとミカの方へと視線を向けた。シャシャリはそのままジタバタしている。
「どうやら律義にロックを解除しなくて済みそうだ」
「へ?」「どういうことよ?」ケントとミカが聞き返す。
「魔法族の出番だということだ」
ストログはミカに視線を合わせて言うのだった。
※
「よし行け!ポンコツ魔法族!」
「あんたの体がツールで出来てればよかったのに」
ミカはストログに促されて、鋼鉄扉の前に立って中央のボタンへと差し伸べていた。そこへヴィレッテを抑えつけたままので叫ぶケントの声が届いたが彼女は冷たい言葉で返して、ケントを黙らせた。
「・・・わかっててやるのって、ちょっと怖いわね」少々腰が引き気味のミカは恐る恐るボタンへと手を近づけていく。
「無駄だ!そいつは最新式のツールだぞ!絶対に解除することは不可能だ!」
「よく喋るやつだな。だから解除する必要ないって言ってるだろ」
改めてヴィレッテを抑えて言うケント。それに顔をしかめるヴィレッテがトカゲ顔の眉間にしわを作る。
そうしてあーだこーだと喚くヴィレッテを他所にミカの手先は扉の中央ボタンへと到達するのであった。
瞬間。
「うひゃぁ!?」
バチィッ!!!!
ミカの手先から様々な色の火花とヒィアートの粒子が飛び散って、部屋全体をまばゆいフラッシュが何度も襲ったのだった。
全員があまりのまぶしさに目を覆って異常事態に警戒を強めた。
ビリビリ!ガガガガ!!ギュィーン!!
半立体映像のキーボードは凄まじい勢いで点滅して、パス入力画面にも無茶苦茶な文字が永続的に入力されていくさまが見える。おまけに扉の本体側からは壊れた機械のような煩い音が鳴り響き、更に異常事態を盛り上げている。
「・・・ななな!なにしやがった!?」部屋自体が吹き飛ぶのではと思わせるぐらいの、異音にヴィレッテが叫んだ。
しかし、その声が合図になったか扉からの激音はしだいに静まっていき、光の点滅も治まっていくのだった。
そして完全に静寂を取り戻したと思った。次の瞬間。
ドカン!!
これまで一番の衝撃音を鳴らして扉の中央部分が爆ぜたのだった。
「んな!?」あんぐりと口を開けて驚愕の顔を見せるヴィレッテ。
鋼鉄扉の中央、ロックを扱うはずのツールがあった場所は煙を上げて穴が空いていた。その真下には粉微塵になったツールの破片が散らばっているのだけであった。
「見たか!これが魔法族のくせに魔法が使えないやつのとっておきだ!」
「・・・あんたは他人の欠点を言いふらして何が楽しいわけ?」
得意げに言っていたケントだったが、すぐにミカからの冷ややかな視線と声、そして銃口の先が自分に向けられているのに気が付き口を噤んだ。
「よし・・・これで」
一方で、ストログは改めて鋼鉄扉の取っ手に手をかけていた。背後にはリューとシャシャリが興味津々に覗き込んでいる。
そして、再びストログが取っ手を力任せに押し込むと扉はいとも簡単に開かれて反対側の壁にぶちあたるのだった。
「おぉ!開いたー!」「やったッス!」リューとシャシャリがハイタッチをかわす。
ストログも「ふん」と鼻で笑うと、そのままミカとケントの方へと視線を移した。
「行くぞ、もちろんそいつも連れてな」
「え、えぇ・・・そうね」
頷くミカだが、少々戸惑ってしまった。
「なぁ、あいつさっきまで航行船のこと優先してたよな?」
ケントの疑問がミカの戸惑いの答えでもあった。彼の言う通り、何故だかストログが協力的にった気がするのである。
なにかこの奥に進むことでストログの満足する結果につながることになるのだろうか。
だが、あれこれ考え込む前にストログらは扉の先に進んでいってしまい、ミカとケントも慌ててヴィレッテを連れて後を追いかけるのだった。
※
鋼鉄扉の奥は更に奥へと進むための通路となっていた。
しかし、これまでの山中に感じるそれらとは違った雰囲気を漂わせていた。どこか冷たく機械的で、岩肌から伝わる感触は通常のそれとは差がある様に思えた。
「お前ら!こんなことしてただで済むと思うなよ!ライヤードが目覚めれば・・・!」
「それを操る装置は壊れてしまったのだろ?それともこの奥にいるだろう『博士』に泣きつくのか?」
と、騒ぐヴィレッテだったが先頭を行くストログから見透かされたような返答によって「ぐぐ・・・」と押し黙ってしまうのだった。
そうしてストログの手引きの元ずんずんと進んでいく一行。
やがて、通路の先が一段明るくなっているのに気が付いた。おまけに機械の駆動音のようなものが聞こえて明らかに『何か』があるのが察することができた。
そして。
「よぉーし、今度こそ上手くいくはずだ・・・!」
そこにいたのは白衣を着た中年の男であった。
拓けた場所に多くの機械ツールを並べて、ひとり呟いている。どうやら何かに集中しているようで、皆が背後にいることさえも気づかずにせっせと作業を続けている。
「・・・しかしザヴィエラの奴、姿を消しおって・・・援助はいったいどうなるんだ」
奇妙な工具を手に持ち、分厚いメガネをはめた男が更に呟く。同時にケント、ミカ、ストログは言葉中に出てきた『ザヴィエラ』という名前に反応した。
「ちょっ「イエンス見つけたッス!!」
ミカの声をさえぎってシャシャリが大声で叫ぶのだった。
瞬間、白衣の男は飛び上がって振り返ると突然の来訪者に表情を強張らせた。
「な!ななな!なんだ貴様らは!ヴィレッテ!これはどうなっている!?」
近くの大型機械の脇に隠れて博士なる男はカンカンに怒って言った。
「すまない!企画参加者だと思ったんだけど・・・違ったみたいで・・・」縛られたままで申し訳なさそうにヴィレッテが言うとシュンと顔を曇らせた。
「くそ!見張りもできないのか!!ライヤードはどうした!そのためにコントローラーまで作ったんだぞ!それにここへのパスだって・・・!」
口早に愚痴を叫んだ博士が機械の陰に隠れながらにごそごそと何かを取り出した。
ガチャ!ガチャ!
どうやらこういう事態の時のために備えて置いたのか、マシンガンタイプの銃を構えてケントらに照準を合わせた。
しかし、その銃は普通の鉛を撃ち出すタイプではない。装飾的に備えられた機械の群れがランプを灯して、その銃の性能を報せている。
「・・・ヒィアートガンね」ミカが言った。
「ほぉ、見ただけでわかるとは・・・なかなかの目利きだな」博士が悪い笑みを浮かべて返す。
するとそこへケントがずるずるとヴィレッテを引きづりながらに前に出た。
「おい!こっちにはこのトカゲ男がいるんだぞ!それにそういうやつは俺たちには効かないぞ!」
「そんな役立たず人質になるか!それになにがヒィアートガンが効かないだ!なめるなよ!!」
ズガガガガガッガ!!
次の瞬間、博士のマシンガンよりヒィアートの塊であるエネルギーの銃弾が連続で発射されるのだった。
「ひぃいいいいい!!」当然のごとくヴィレッテは迫る銃弾に怯んで思わず目を瞑ってしまう。
「――はッ!!」
一方でケントは即座にヴィレッテを掴んでいる手とは反対の手を銃弾に合わせて前に出すと、赤のオーラを纏わせて一気に銃弾群を撫で消してしまうのだった。
「・・・う・・・ぬぬ!オーラ術者か・・・なんだってそんなものがここに・・・!」
使い物にならないと、あきらめてマシンガンを放り捨てる博士。すこぼる青い顔を覗かせて後ずさると丁度真後ろにあった大きな装置に足を取られて、思わず体勢を崩してしまった。
「ぬわ!」ドテッとその場に膝をつく形になってしまった。
しかし、慌てて顔をあげたその時にはもうストログが目の前に立って冷たい眼差しで見下ろしており、横ではミカが自慢の銃を構えて睨んでいた。
「ここまでよ!あんたがイエンス博士ね!!」銃口を博士に向けてミカが吠える。
そらに対してお手上げポーズの中年男は冷や汗をだらだらと垂らしては目をパチパチしていた。
「応えなさい!あんたザヴィエラから援助を受けていたんでしょ!違う!?」
「・・・なななななんのことか・・・」凄まじい勢いで目が泳ぐイエンス博士。それには全員から『誤魔化すのが下手』だと哀れな視線を向けられてしまっていた。
「・・・答えは簡単だ」と、ストログ一言。そのまま博士の後ろに会った大きな装置に蹴りを入れてみた。
ガツン!!
「お!おい!!なにをする!それがなにかわかって」
「ワープゲートだろ?」
ストログの即答と睨みによって押し黙ってしまうイエンスと「あちゃー」と落胆のヴィレッテ。それによって皆に装置がなにかを理解させてしまうのだった。
「げ、ゲートだって!?あの遺跡にあったやつか!?」ケントが言った。
「なんだそれ?」「そういえば一部だけッスけど似てるッスね」リューは首を傾げシャシャリは思い出しながらに呟いた。
「・・・ゲートって・・・ストログ、あんたなんでそんなことわかるのよ?」
するとミカはゲートだと言っている装置に視線を向けながらもストログに問いかけた。
「これだ」
ストログはミカの質問に応じて、そっと装置の隅の方を指さした。ミカが不思議がって覗き込むそこには、小さくサインのようなものが彫られていた。
「おおかたこの男の印なのだろう・・・先ほどの施錠ツールにも彫られていた。それに――シャシャリにも同じもが彫られていた」
その言葉にケントは先ほどストログがシャシャリの身体を調べていたように裏側を確認して、確かに装置の方にも同じ印があるのを確かめた。
「メガット博士が自作のツールに古代語を用いるのに対しての対抗意識なようなものか?浅はかな男だな」
「き・・・貴様らに何がわかる!」ストログからの嘲笑ったかのように声に言い返すイエンス。
「おい!イエンスっての!やっとこさ俺は兄ちゃんの仕事を代行できるんだから全部吐いてもらうぞ!」と、ケントがズイっと前に出てイエンスと正面で向き合った。
「ザヴィエラは時間への介入を企んでいた。お前もその類の研究を手伝っていたんだろ?」
「・・・時間?・・・あぁ、そういえば言っていたな。しかし私の専門分野ではなかったのでね・・・お断りしたよ」引き攣った笑顔を見せるイエンス。
「・・・・断った?それになによ専門分野って?」ミカが眉を潜める。
「・・・――兵器だろう・・・。それもヒィアート量を極限まで高めたものばかりのな」
またしてもストログが鋭い回答を告げた。同時にイエンスの顔が更に曇った。
「巨竜を操っての生物兵器化・・・シャシャリのような人体改造兵器・・・おそらくあの遺跡もお前が実験ついでに弄りまわしたのだろう」
「―――なかなか察しの言いカブト虫だな」イエンスの囁きにストログの睨みが一段と強くなる。
そこへ。
「へ!兵器だって!聞いてないぞ博士!俺は山に近づく不審者を追い払えっていうから・・・!そりゃちょっと私物化してたのは悪かったと思うけどさ・・・」
「・・・お前にコントローラーを預けたのは、お前がライヤードと同じドラゴン族であり得手不得手も心得ていると思ったからだ!それなのに・・・この底辺ドラゴンめが!」
その言葉にあきらかに悲し気な表情を作ったヴィレッテは、それまでの威勢を消え失せて一気に項垂れてしまうのだった。
「ちょっと!あんたね!協力させておいてそんな言い方!」
ゴスッ!!
今にもミカの張り手がイエンスを襲うとしていた。その時。彼女の手より先にケントの拳骨がイエンスの頭部に振り下ろされたのだった。
「ぐっ!!」目から火花を散らすイエンス。
「・・・ケント」
「俺は警官だからこういうのは良くないんだけどな・・・。でも・・・」
少し照れくさそうにしながらも真剣な眼差しをみせるケント。それにミカが少しだけ笑みを作った。
「・・・でも、謹慎中でしょ?だったらこいつ手土産に復帰すればいいじゃない」
その僅かにあたたかなやりとりを横目に、ストログは少しだけ黙ったままで、頭を抑え涙目のイエンスに迫った。
「・・・――さてと、俺はお前の逮捕にも兵器にも興味はない。即座に帰って報酬を受け取りたいんだ。どうせあるんだろ?航行船や遺跡のゲート以外の移動方法が?」
ガシッとゲート装置に足蹴にして問い詰めるストログ。その行動にイエンスの表情はどんどんと険しくなっていく。
ケントもミカも、ストログがこれを狙って山中探索を率先したのかと理解すると共に「なるほど」と頷いてイエンスを見やった。
「遺跡のゲート以外だと・・・まさかお前らあのゲートを破壊したのか!?歴史的価値のある貴重なツールだったのに・・・」
「聞こえなかったか?あれが常に正常に起動する保証がない以上ここからの移動方法を確立しているはずだ。お前もザヴィエラだって魔の宙域を渡る航行船に乗るリスクを冒したくないはずだろうからな」
「た、確かに・・・副大統領が航行船に乗ってたらさすがに疑われるわな」
ケントが妙なイメージを思い浮かべながらに呟いた。
「おそらく、この装置がその移動方法のゲートなのだろう。ザヴィエラの都合の良いところに繋がっているっといったところか?」
そのストログの事と共に全員の視線が一度装置に集まってからイエンスに集中していく。
おそらく的を射ているのだろうと、装置を起動させろと無言の圧力がイエンスにかかっていく。
すると。
「・・・・・・・――。くく・・・。いや、わかった降参だ。確かにこれはワープゲートだ。その先にあるのはミータッツ太陽系の首都星トキエイドだ」
「トキエイドだって!?」
突然のイエンスの言葉に代表してケントが驚きの声を上げた。
※
「航行船よりずっと早く帰れそうだな」
ストログが珍しく笑みを作っていた。
もちろんケントらも、ゲートを使って自分達の太陽系に帰れるなら思ってもない幸運だが、イエンスが急に態度を変えたことに少々引っかかって表情が強張ってしまっていた。
「なーんか怪しいっスね・・・・・」シャシャリが機械の目を点滅させで疑わしさを表している。
「実は失敗作で俺たちに使わせて実験させる気じゃないか?」ケントが思いついて言った。
「わなってやつかー?」リューもよくわかっていないながらに声を上げた。
と、あれこれと意見が出る中でミカが中心に歩んで足を止めると人差し指を立てて口を開いた。
「こうしましょう。イエンス博士、あんたとこのトカゲ男を先にゲートに放り込むわ。それで無事が確認できたなら私たちも通る。それに行先がトキエイドってんなら、お父さんもいるだろうし都合がいいわ」
言い終わってミカがイエンスとヴィレッテに悪い視線を送っては否応なしに頷いて見せた。
「お!おい!やめろ!それは人体実験だぞ!」ヴィレッテが縛られたままで声を張り上げた。
だが「そっすね」とシャシャリのシレっとした応えだけであっさり会話を終わらせられてしまう。
「決まりだ。さてイエンス・・・ゲートを起動してもらおうか」
そうしてストログがまた一歩イエンスに踏みよって冷徹な睨みを与えた。
「い・・・いいだろう・・・」
それに対して怯みながらも了承したイエンスは首を縦に振った。するとそれと同時に嵌めていた腕時計を一度チラリと確認して口角を吊り上げるのだった。
※
まるで脅迫の最中のような構図になった一同。
イエンスはケントら全員からの厳しい視線の中、背後になった大きな機械の塊に手を伸ばしていた。
殆どを黒に染められたそれは冷蔵庫のほどの大きさで一部内部が見えるようになっており、夥しい数のランプが赤や緑、に点灯している。
「・・・これで最後だ・・・時間もちょうどいい・・・」
ぶつぶつ呟きながらに作業を行うイエンス。
そんな彼を、妙なことをしないようにとケントとストログがしっかりと見張っている。
「・・・―――よぉし・・・他パーツ反応確認・・・誘導装置も動作確認完了・・・準備万端だ」
「うごくのかー?」
黙々と作業を続けるイエンスに影響されるように緊迫感に包まれていた洞窟内に、リューのあっけらかんな声が響いて皆は少しだけ和んだ雰囲気になった。
「・・・あぁ。今動かすぞ」
と、そんなリューに応えるようにイエンスが機械から手を離して振り返ると胸ポケットから小さなリモコンを取り出した。
ピッ!
皆がそのリモコンがどういうものかと確認する隙も与えずにイエンスがボタンを押した。
ガガガ!!
「え!?」「天井が開いた?!」ミカとケントが洞窟の上部から音が聞こえたのに気が付いて見上げると、備え付けられたシャッターが開閉するとこであった。
「ゲートを起動させるリモコンじゃないんすか?」シャシャリも驚いて声をあげる。
ストログは黙って睨みを強めて「どういうことか」と無言で問いただした。
「・・・・・・起動させるにはここでは狭くてね・・・・外で使うのだよ」
と、更にイエンスは先ほど押したボタンとは違うボタンをピッと押し込んだ。
瞬間。
ブゥゥウウーン。ゴゴゴゴ・・・・バシューン!!
ゲートであろう装置がうなりを上げて浮かびあがったかと思うと、そのまま勢いよく開いたシャッターから外へと高速飛行していってしまうのだった。
「飛んだー!」リューが面白そうな声をあげた。
「お!おい!本当に外にゲートが起動しているんだろうな!?」ケントが聞いた。
「本当はやっぱり失敗作だったんじゃないの?あの遺跡のゲートはもっと大きかったし」ミカは眉間にしわを寄せ呆れた目で見て言った。
「・・・くくく、あれをもとに作った小型改良版だよ。まぁ多少私流のアレンジは加えさえてもらったがね」
「アレンジ?」シャシャリが呟いた。
「・・・あれはゲートのパーツの一つなのだよ。それが今、全てそろって外で完成形が浮かんでいるはずだ」イエンスは語るが、どこか余裕さを見せているのにストログは違和感を覚え詰め寄った。
「貴様、何か隠しているな?」
「・・・言ったはずだ私はザヴィエラから『兵器の開発』のために援助を受けていたと・・・――すなわちあれも兵器なのだよ!」イエンスはここぞとばかりに声を張り上げて笑みを浮かべた。
「「!!??」」「兵器ですって!?」全員が驚く中、ミカが一段大きく声を荒げた。
「どういうつもりだ貴様!」ストログ勢いのままイエンスの胸倉を掴んだ。
「おおっと!私を丁重に扱った方がいいぞ?兵器を止められなくなるぞ?それに言っておくが魔法族のヒィアート反発力での破壊は不可能だ。誰にでも使えるようにハイブリット対応にしてあるからな。おかげで随分と開発が遅れたよ」
不敵な笑みを浮かべるイエンスに対してストログの睨みが鋭さを増していく。
「おい!兵器ってどういう兵器なんだよ!」そこへケントの声が飛んだ。
「・・・ふん、いいだろう教えてやる。あれこそ私の最高傑作『隕石転送』だ」
ストログの腕を振り払って自慢げな顔を見せるイエンスはケントらに勝ち誇ったような笑みまで見せた。
「隕石・・・まさかゲートを使って・・・!」「その通り、ゲートそのものに隕石誘導装置も取り付けてある」
ミカの声をさえぎって答えを告げるイエンス。
「お・・・おい、それじゃ隕石がゲートの先に・・・!それって!」
ケントがイエンスから持たされる情報をつなげて、ゲートが起動したことによる危険を推測した。
と、同時に今度はミカがイエンスに詰め寄るとヒィアートガンを突き付けた。
「今すぐゲートを止めなさい!!」
「ゲートを直接操作しなければ不可能だ。ゲートは隕石を通すために遥か上空に浮かんでいる。どうやってそこまで行く?まぁ、それに協力するつもりはないがな・・・!」
刹那、イエンスはまた別のポケットからリモコンを取り出すとボタンを押した。
するとそれに合わせて室内にあった様々なツールや機械群たちが爆発しだしたのだった。
「うううううっわわわ!!」突然のことに全員が驚愕し身を屈めるが、身動きのとれないヴィレッテはミミズの様にはいつくばっては恐怖に大声を出してもがいていた。
「ミカ!!」ケントがミカに覆いかぶさるように庇いに入る。
同じくストログも瞬時にリューに駆け寄って、その強靭な肉体で爆散していく機械の破片から彼女を守る盾となった。
「はわわわわ!自分だけ誰もいないッス!!」飛び散る機械の破片をなんとか避けながらにシャリシャリが叫ぶ。
やがて、そこにあった機械たちがすべて爆破四散したころには部屋内は土埃と煙の幕によってほとんど何も見えない状態になっていた。
「ごほごほ・・・!」ミカがそんな中から煙を払って顔を見せた。
同じくケントも煙が目に染みた涙目になって顔を出すと、すぐさまにイエンスを確認した。
――が。
「・・・くそ!」
「逃げたか」
ケントとストログが立て続けに言った。
やはりというべきか。イエンスの姿はとうにはなく。後にはゴミばかりになった破片が散らばる部屋だけが残されてしまっていた。
「うひゃー、きったない部屋になったな」ストログの脇からひょっこり顔を出してリューが呟く。
「博士のやつ・・・騙してたな!これで全部パーじゃないか!」そんな横では地べたに這ったままでヴィレッテが愚痴をこぼしていた。
「俺の収入はどうなるんだ!?というより、俺はどうなるんだ?」へこへこと、どさくさ紛れにて逃げおおせようと、感づかれないように毛虫のごとく床をは這いずるヴィレッテ。
しかし。
「お前の居場所は牢屋だっての」ケントが回り込んで、再び身柄を抑えるのだった。
「ケント!ストログ!急いで追いかけるわよ!」
と、そこへミカの勇ましい声が飛んだのに全員の注目が集まった。
「とッ捕まえてゲートを止めさせなきゃ!」銃を構えて今にも追跡しようとイエンスの逃げたであろう位置へと体を向けるミカ。
「待て、ミカフェリア!追っても無駄だ!」
だがそこへストログからの制止の声がとんで、ミカは動きを止めた。
「なんでよ!」
「おそらく既に脱出してしまっているはずだ。この山もとい、星そのものの滞在時間が俺たちより何倍も奴の方が上だ。逃げ果せる算段などいくらでも考えてあったのだろう」
ストログの言葉に皆、静かに頷くだけであった。
「だ、だからって!ゲートを放っておくの!?このままじゃ!」
「わかっている。俺としてもお前からの報酬の元手が消えるのは不本意だからな」
そう言ってミカに応えながらのストログはそのまま視線を天井へと移して、とある一点を睨んだ。
先ほどイエンスがゲートの一片を飛ばすために開けたシャッター窓である。
「奴なしでゲートを止めればいいだけだ。とりあえずここを出るぞ」
そう言ってリューを肩に抱えたストログは、足に青いオーラを集めると一気に高く跳躍して天井の窓にまで張り付くき、そのまま壁を蹴りながらに窓内を外へと向けて蹴りあがっていく。
その後をシャシャリも機械の虫羽を羽ばたかせて必死についてゆく。
「いくぞミカ!ストログの言う通りだ!」ケントがそれらに続くためにミカへと告げた。脇にはヴィレッテを抱えたままである。
「・・・で、でも」確かにその通りなのだが、どこかあきらめきれず振り返るミカ。
「イエンスの顔も名前もわかったんだ!あとは兄ちゃんに任せればすぐに捕まえられるさ!なんならこいつを案内人してもう一度ここに来ればいい!」
「お、おい!勝手に決めるな!」ケントの突然の案に反対の声をあげるヴィレッテ。
「・・・・・・う・・・うう・・・。わ、わかったわよ。ラージさんが信用できるから折れてあげるわ」
何とも言えない表情をそのままにお手上げの仕草のミカが、溜息交じりに了承した。
「よし!ほら行くぞ!ストログに置いて行かれる!」
と、右手にヴィレッテを抱えるケントは左手を差し出して、ミカに手を取れと促した。
「う・・・うん」なんとなくしっかりと手を繋ぐことになって、意識してしまったミカは声を小さく頷いてしまう。
そうして、いじらしい動きのミカの手を力強く握ったケントは、そのまま足に赤のオーラを纏わせてストログの同じように天井の窓にまで飛び上がった。
タッ!タッ!タッ!
ヴィレットとミカを連れたままに起用に窓内の壁を蹴って外へ進んでいくケント。
やがてゲートの一片が通ったルートとをなぞることによって、そのままヴェンビック山の外へと勢いよく飛び出すのだった。
「・・・おっと!」
オーラの跳躍で上昇しすぎたケントらは、そのまま落下を初めたのだった。
だがもちろんそのまま山肌に激突するわけにもいかないため、ケントは足のオーラを更に強くして無事に着地を果たすのだった。
「よっ・・・と!」「わ!」「うげ!」
無事着地したケントがよろめいたミカを支える。その脇ではうまく着地できなかったヴィレッテが背中を痛めていた。
「ここは・・・山頂か?」
そしてケントが着地したその場所が見覚えあるのに気が付いた。どうやらあのライヤードと戦ったヴェンビック山の頂である。戦闘の跡がまだ確かに残っており、巨竜ライヤードも山頂の隅で気をうしなったままである。
「なー、あれが、そうか?」
するとそこへリューの声が飛んで来た。
どうやら先に脱したストログもここに着地したのだろう、彼に連れられていたリューがケントらを見つけると上空の方を指さしていた。
ケントとミカは気になってリューに近寄ると、彼女の差す空を眺めた。
「・・・リュー、良く見つけたな」
ケントは同じく空を見上げて、そこになにか黒っぽいものが浮かんでいるのがわかった。
「うん!あたし目いいからな!」
「おそらくあれが完成形のゲートね・・・そんで、あの光ってるのが・・・」
ミカは空に浮く黒い点を睨みながらに傍に、ひと際輝く星があるのに気が付いた。そう、それこそがイエンスの言っていた隕石だろうと確信できてしまった。
奴の言っていたことは真実なのだと、険しい表情を作るミカ。そこへ。
「・・・ち、簡易的な船も隠していないとは」ストログがシャシャリを連れ現れると、ミカらと同じく空を睨んだ。
「シャシャリ、あそこまで飛べるか?向こうに行って船を一隻よこすだけでいい」
「むむむむ無理っす!!あんなのほとんど宇宙じゃないっすか!」
シャシャリがストログの無茶な要求に、逃げ回る様に飛び回ってケントの頭の後ろに隠れた。
「シャシャリでも無理か・・・俺たちのオーラでもあそこまでジャンプはできないしな・・・シャシャリ、ストログがオーラでお前をぶん投げるってのはどうだ?」
「絶対いやっす!」今度はケントから無茶を言われてシャシャリは拒否すると、今度はリューの方へと飛んで彼女の背後に隠れるのだった。
「・・・まいったわね。うまく向こうが気づいてくれるのを待つしかないわけ?でも、それじゃ隕石が到達してしまう・・・うぬぬ」
悩み、頭を抱えるミカ。他の皆も打開策を考えてはそれぞれに唸り声をあげた。
すると、そこへ――。
「ライヤードだ!ライヤードならあそこまで飛べるぞ!!」
ヴィレッテが叫んだ。
※
「・・・あんたね、やけくそでテキトーなこと言ってるでしょ」
ミカの冷たい言葉が飛んで、場の切迫した状況に一矢報いていた。
しかしヴィレッテ以外の全員の思いがそうであった。彼が言い出した案は到底成功しえないであろうことであったからである。
「おい、ライヤードなら行けるって・・・本気で言ってるのか?」ケントが問いかけた。
「あ・・・あぁ・・・たぶん・・・――いや!必ず!絶対!」少し語尾が弱まってしまったことに自分で気づいたヴィレッテはトカゲ顔を横に振って、自身に満ちた瞳で訴えた。
「・・・・・・・あの巨竜はイエンスの作った装置で操っていたのだろう?そのコントローラーはもう破壊されたはずだ?どうするというんだ?」続けて問いかけたストログに、他全員からの「その通りだ」という視線が集まった。
だが、その言葉を待っていたとも言うような顔を見せたヴィレッテは、一度大きく瞬いて再び口を開いた。
「・・・・その通りだ!コントローラーは壊れた!だからライヤードはもう操られていない!自由の身のはずだ!」
「じ、自由・・・って!それじゃ目を覚ましたら、ボコボコにした私らに仕返しするんじゃ・・・!」
と、ミカが洗脳を解かれた巨竜の行動を予測して顔を青ざめた。同時にチラッとライヤードの方を見やると、僅かに体が動いたのに気付いてしまい余計に予測が現実化しそうで顔を引き攣らせた。
「ヤバいッス!絶対に起きる前に立ち去るべきっす!」
「こらシャリ!逃げるな!」
ひとり逃げようとするシャシャリをリューがブーメランで撃ち落とす。
「おいヴィレッテ、とても現実的だと思えないぞ」
全員を代表した意見をケントが述べて伝える。しかし、それでも意見を曲げないヴィレッテは縛られたままでも険しい表情を作って睨み返した。
「お前らは知らないだけだ!ドラゴン族は賢族なんだぞ!!他のどの種族よりも賢い存在なんだ!俺自信は・・・その・・・あれだけど・・・ライヤードが復讐なんかするわけないだろ!」
食って掛かったように言い返すヴィレッテ。
「あんた、利用してたわりには妙にあのドラゴンのこと買ってるわね?・・・まぁ、でもドラゴン族が賢族だというのはよく聞くけど・・・・」
「今のところは襲われた事実しかないけどな」
ミカの呟きにストログが続く。
「いいか!?僕が説得してやる!早くしないと隕石が落ちるんだろ!?」
その言葉に全員が空を見上げた。遥か上空に浮かぶ機械の輪、そこ目がけて光の尾を引く隕石がグングン迫っているのが確認できた。先ほどよりも更に近づいている。
「・・・どうする!?ヴィレッテに賭けるか?!」ケントが皆に聞いた。
「もう一度竜退治をしている暇はないぞ」ストログが即座に応えて、ケントを悩ませる。
そうやって決断を迫られる一行であった。
が、そこへ――。
グォォオオオオオオ!
咆哮が一閃。
「お・・・起きちゃった・・・」
ミカの囁きそのままに、巨竜ライヤードは唸りを上げて起き上がるのだった。
※
空には刻々と迫る隕石がワープゲートを目指している。
一方で目の前では赤錆色の巨竜が目覚めて、ケントらを鋭い目つきで睨みつけていた。
「ど・・・どうする・・・?」ケントが誰に聞くでもなく呟いた。
「こ・・・こうなったらヴィレッテに何が何でも説得してもらうしかないわね・・・」それへミカが動揺を隠せない表情で応えた。
するとミカは縛られたままのヴィレッテの背中をグンッ!と押して、ライヤードの目の前に突き出した。
「お、おい!交渉人なんだぞ!もっと丁寧に扱え!」ヴィレッテが振り向いて叫ぶ。
「うるさいわね!ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと説得しなさいよ!あんたが言ったんだからね!」ミカは空を指さして急げと指示を飛ばす。
そのやりとりに「くそ!」と不機嫌なヴィレッテは、改めて前方に視線を戻した。だが、それと同時に眼前に居座る巨大な竜から無言の圧力を感じて一気に、気負いしてしまうのだった。
「・・・ラ・・・ライヤード・・・?俺だ、ヴィレッテだ。わかるか?・・・――お前はその・・・操られてたんだ、その・・・イエンスっていうイカれた科学者にさ」
怯え切って腰が引けた状態で会話を始めるヴィレッテ。
「実行犯はお前じゃないッスか!」「そーだそーだ!」
「余計なことを言うんじゃない!」
横からシャシャリとリューがヤジを飛ばしてきたのにヴィレッテは激しく怒って言葉を返した。
と、次の瞬間。
「・・・わかっている」
巨竜の方から地鳴りような声が響き渡って全員が驚愕の顔を見せた。
「しゃ・・・喋った!」
ケントが皆の気持ちを代弁して口にすると、何度も目を瞬かせた。
「あ・・・ああぁぁ当たり前よ!ドラゴン族だもの!それにヴィレッテだって喋ってるじゃない!」
どこか都合合わせな言葉を吐くミカ。彼女の言葉に皆は「それもそうだ」と思いたかったが、ヴィレッテとライヤードでは同じドラゴン族と言われても余りにも違いがあり過ぎて同種族とは思えなかったからである。
ヴィレッテは顔つきこそドラゴンだが、体は完全に人間型でありストログのようなタイプである。一方でライヤードは完全なる竜の姿である。どちらかというとヴィレッテの方が人間寄りで喋っていても特に違和感なかったのである。
よって竜そのもの形をとっているライヤードが言葉を発したことにはやはり驚きを隠せないのは当然なのであった。
「わかっているって・・・?ライヤード!あんた!操られているときの記憶があるのか!?」
声が聞こえたせいかヴィレッテは会話の糸口を見つけたように問いかけを始めた。
「・・・・・・そうだ。そして理解もしている。はみ出し者のドラゴン族の怠慢も、あの科学者の企みも、そうして今がどういう状況なのかもな」
地鳴り声が全員に伝わって、事の展開が好転していることをわからせる。
と、ちょうどケントらが笑みを浮かべたと同時に、それまでヴィレッテに向いていたライヤードの視線がケント達の方へと向いたのだった。
「・・・操られていたとはいえ迷惑をかけたようだなオーラ術者の者たちよ」
「え?あ、あぁ・・謝られても困るけどさ・・・」
と少々拍子抜けのケントだったがすぐ横からストログがズイっと出てきて口を開いた。
「ライヤード。状況がわかっていると言ったな?なら、今すぐ俺たちをあのゲートまで運んでくれ」
空を指さし急いて言うストログ。
するとライヤードは彼の指先に合わせて空を見上げてから大きな首をコクリと縦に振った。
それによって全員が活気を取り戻してワッと声をあげる。
「私を解放してくれた礼だ、それぐらい容易いことだ」同時に巨大な翼を拡げると、首を動かして背中に乗れと合図を送る。
「・・・ど、どうだ!さすが僕!」
「あんた結局なにもしてないでしょうが」
勇んで声を大にしているヴィレッテに冷たい言葉を浴びせるミカは、そのまま彼を引っ張りつけると大きなライヤードの背に乗るのだった。
ケントを先頭に、その後ろにミカ、ストログと続きヴィレッテとリューはストログに荷物扱いで両腕に抱えられている。
「よぉーし!ライヤード発進ッス!!」
そうして一人浮遊できるシャシャリライヤードの頭部にある角を操縦桿のように掴んで叫んでいた。
瞬間、それに合わせたかのようにライヤードが咆哮。
グォオオオオオオオオオオオオ!!
真なる竜の叫びをベンビック山に木霊させて、その巨体は一気に遥かな上空にまで上昇した。
「ザヴィエラの戦艦並の揺れだな!」「うわわわ!」
激しい揺れにライヤードにしがみ付くケントにしがみつくミカ。
対照的にストログは特に騒ぐでもなく無表情であり、それを反射させたようにリューは絶叫マシンに乗ったがごとく満面の笑みを見せており、一方でヴィレッテは気持ちの悪そうな顔を見せていた。
そうして空を真上に駆ける巨竜は、遂には隕石が目標に到達するその前に巨体をゲートと隕石の間に現すことに成功するのだった。




