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第5章 遺跡の罠

第5章 遺跡の罠




 宇宙に浮かぶ赤錆色の惑星。機械惑星デロイトである。古代遺物が多く見つかる一方で、廃棄物の不法投棄が後を絶たず、今では古代遺物よりも廃棄ツールの方が多くなり、学者たちにとっては悩みの種に身もなっていた。


 そして、そんなゴミ山にも近い星の一角に一席の船が降り立った。


黄色く丸っこい機体がヒートアップしたのか煙をあげて赤茶けた地面にハッチを開いた。砂と岩と石、それからガラクタ達が埋もれた地面がところどころに見えており、少し歩けばゴミに当たるといった光景であった。


ザッザッザッ


と、そんな荒れた大地に宇宙船からは、一番最初にスロログがハッチを降りてくるのだった。しかもその両手にはそれぞれにケントとミカを抱えており、そのまま数歩大地を歩くと二人を地面へと放り投げた。


ポイッ ドサ、ドサッ――ケントとミカが砂地を転がっては、口に入った砂を吐き出そうと苦い顔をしていた。


「・・・うぇ、油っぽい味の砂だな」


「それより、まだふらふらする気がするわ」


二人ともに軽くグロッキー状態で今の現状の感想を告げた。


 高速化により宇宙船が揺れに揺れ、ケントとミカは軽く船酔いしていしまったのだった。それを、酔いなどまるで無かったストログが引きずり下ろした形になったわけだが――。


 ケントは、口に入った砂が取れないのか、指をつっこんでは四苦八苦している。ミカは、気持ちの悪い体調をなんとかしようと胸を摩ったり、深呼吸してみたりしていた。


そこへ。


「これぐらいでダウンしてちゃレーサーにはなれないぞ」と語尾に笑いを付けて、ジョットがハッチの中側から声を掛けたのだった。




「別にレーサーになる気はないわよ・・・」


深くい溜息をついてミカが返した。なんとか体調が持ち替えてきたかなと思いながらにあたりを見渡した。広がる砂と岩の世界。前の賭博星を彷彿とさせるが、やはりゴミ溜めの様にちらほらと見えるガラクタツールの群れが違いを伺わせていた。


 そして、ミカがあれこれと見渡す横で、ケントもまた周りを見渡していた。


「・・・それで、何とかサワーってのはどこにいるんだ?」ケントがアルコールの名前のようなものを呟いた。


「ザワークロウよ――あんた、本当に話聞いてたの?」ミカが呆れ声で突っついた。


すると、そんな二人の疑問に答えるためにジョットが口を開いた。


「おそらく、あのテントだろう」言って、とある方向を指さした。


 その方角をケント、ミカ、ストログと追いかけた。荒れた大地の先に、小さなテントが三つほど建っている。幕を張った形で中は見えないが、表には『チュチュッピ研究チーム』と書かれているのがわかった。


「――さて、それじゃ俺は行くからな。仕事頑張れよ」


「え?!」


と、突然のジョットの発言にケントはテントを見ていた体を振り返らせて疑問符を打った。


「ジョット!帰るのか?!」


「次の仕事があるんだ」


「わ、私たちはどうやって帰るのよ!?」


ケントの聞きたいことであったのを先にミカが尋ねた。


「心配するな。ラージャックからは学者先生が手配してくれると聞いている。仕事が終わったら学者先生に確認してみればいいさ」簡潔に告げて、ジョットは踵を返した。


「じゃぁな、次にはリバリー号も戻ってきてるはずだから、その時はまた乗せてやるさ」


そう言ってジョットは船の中に戻っていき、ハッチも順番に閉まってしまうのだった。




  ※




「・・・なんか嫌な予感するわ」ミカが呟いていた。


 上を見れば、ジョットとバルンの乗った黄色い宇宙船はもう豆粒ぐらいになっていた。空の彼方から聞こえるエンジン音はどこか寂しく感じられ、この荒涼とした星に置いてけぼりをくらったようにも思えた。


「おい」と、そこへ便利屋の退去を見送ったストログがミカに話しかけた。


「俺は、懇切丁寧にお前に付き合うつもりはないんだ。とっととその仕事とやらを終わらせて、報酬を払ってもらおうか」


見事、不安げなミカの心情を無視して、ストログが仕事優先の発言をするのだった。


「わーかってるわよ!ほら、行くわよケント!」


「あのな、仕事は俺のなんだ。お前はただの付き添いなんだぞ?」


ストログの言葉にいら立つミカは、ケントからも否定的な言葉が飛んで来たことに更に苛立って、思わず彼の頭を叩いてみるのだった。


バシンッ!


「いいから行くわよ!」


痛みに涙目になっているケントに檄を飛ばして、ミカは力強くテントへと歩み寄っていくのだった。


「・・・ひとりで来るべきだったかもな」


「―・・・俺も、そう思うよ」


憐みの目で見るストログに、ケントは溜息交じりに応えるのだった。







 荒れた大地にポツンと建てられたテントたち。そのどれにも研究チームの名が刻まれており、いかにも遺跡発掘のための組織であるのだろうとケントらは勝手ながらに思考をしてみていた。


「すみません」テントの間近までやってきてケントが尋ねた。


勇み足だったミカはなんとか宥めることに成功して、今は、ケントの後ろで散らばっている産廃ツールの欠片を覗き込んでいる。


「・・・・あの――」と、返事が返ってこないことにケントはテントをくぐろうとした。


その時。


「はーい!はいはいはいはい!」元気な声が返ってきたかと思うと、くぐろうとしていたテントの中から女の子が飛び出してきた。


 丁度ミカと同じか少し若いくらいだろうか、日焼けした小麦色の肌に、ナチュラルブラウンなスポーティな髪形をした少女が、可愛らしい目をクリクリさせてケントを覗き込んでいた。


「・・・あ、あんたが、ザワークロウ・・・さん、か?」見つめられて驚いたのと照れくさいのが混じって言葉がたどたどしくなるケント。


「――そうだけど、あなたは?」肯定の返事をして少女が首を傾げた。


「ラージにぃ・・――ラージャックの使いで」


「あーー!!」


ケントが説明をしようと話を始めた、その冒頭部分で少女ザワークロウが大声をあげた。それに廃ツールに夢中だったミカも意識がそちらに向いて、少女の存在を確認した。


「そっか!あなたがラージャックね!聞いてる聞いてる!!」少女は嬉々とした表情で言葉を続ける。が、「……でも」と、急に勢いが切り替わるのだった。


「――思ってたのと違うなぁ・・・」


「いや、俺は」


「もっとこう、『ザ・男前』が来るって聞いてたんだけど・・・」ケントの何か言いたそうにしている声をさえぎって少女がケントの周りをぐるぐる回って独り言を吐き捨てる。


「まぁ、そこまでじゃないけど―――合格ラインね。私の好みのジャンルに入るわ」


「あ、・・・あ、そう・・・」


好みだと言われて少しどきりとしたケントが、顔を赤らめて思わず頷いた。


しかし、それも一時の幻ごとく、次の瞬間には彼の頭上からは小銃の柄が振り下ろされていた。


ガッッツッン!!!!


まるで頭部が抉られたような音を響かせて、ケントは頭を抱えて地に膝をついた。そんなしゃがみこんでしまったケントの背後からはミカが怒りの形相で少女を睨んでいた。


「ごめんなさいね、真っ黒サワーさん?こいつじゃ話にならないって思ったんで」


「ザワークロウよ。あなたも、そちらのカブトムシ族の方もラージャックさんの付き添い?」


少女がミカとストログに目線を向けると、そっと問いかけた。


だが、そんな相手にもしていないような態度に、またしてもミカは怒りを覚え、ケントに早く要件に入れと蹴とばした。


「いちいち殴るな!」と痛む個所を抑えながらにケントがミカに返した。


「あ、え・・・と、オホン!・・・俺はラージャックじゃなくて・・・代理のケントっていうんだ。それでこいつらは・・・・--あぁ、まぁ、そうだな助手みたいなもんかな」


「誰が助手よ」ミカとストログから鋭い視線を感じて、ケントは一度咳払いをする。


そんなやりとりに少女ザワークロウは「ふーん」と頷く。するとそこへミカが不満げな顔で彼女を見つめて口を開いた。


「・・・ねぇ、あなた?本当に考古学者?いくらなんでも若すぎない?」


「あぁ、それは父のことね。私は娘のドゥエタ。ザワークロウ・ドゥエタよ。よろしくね、ケントさん」


と、改めて名乗った少女はニッコリ笑って握手を求めた。これまた煌めく笑顔にどきりとしたケントが、


握手を受けようと手を伸ばしたが――少し手が触れあったところでミカが間に入って破断させてしまった。


「と、いうことは、ラージさんはあなたのお父さんに会えって言ったってことよね?じゃ、早くお父さんを出しなさいよ」


「・・・・・・父ならすぐに来ると思うけど―・・・さっきから何故イライラしてるの?」


その問いに少しだけ口ごもってしまったミカ。うるさい。関係ないと、言い返してやろうと一歩を踏み込んだ、ちょうどその時。


「よぉ!」


と、気さくな男の声が飛んで来た。




 ドゥエタの背後のテントから一人の男が姿を現した。肌が小麦に焼けた中年の男。ぼさぼさ頭で顎には無精ひげを生やし、使い古されたメガネをかけている。そして何より、その脇には巨大なバナナのようなものを抱えているのが特徴的だった。


「ドゥエタ、見ろ!かなり初期型のフライボーダーだ!複数人用だぞ、きっと!」


抱えていたバナナを見せて男は嬉々として言った。ドゥエタと同じ色をした髪を揺らしてニカと笑って見せた。


 だが、ひとつとして返答はなく男の声の余韻だけが荒れた大地に残り。彼に、現状を確認させるに至るのだった。


「・・・あら?」


「お父さん、お客さんだって。ラージャックさんの代理で来たって」


ぼさぼさ頭の男を父と呼んでドゥエタがケントらを紹介した。ケント達も、今の男の言動に少々驚きを覚えながらも軽く会釈してから視線を合わせた。


「お、おぉ!そうか!」と、男は持っていたバナナをそこらに放り投げると、そのまま急ぎケントに駆け寄ってきた。


「なんじゃ、親衛隊長さんはこれんのか?!それでお前さんらが?」ラージの過去の職のこと知っている口ぶりの男がケントにずいっと迫った。


「だ、代理のケントです・・・」「ミカ、です―ーあ、あとこっちがストログです、はい」「・・・・・・・・・」


男の陽気さと豪快さが織り交じった雰囲気に押され気味のケントとミカが緊張しながらに簡潔に説明した。


「そうかいそうかい!まぁ、これねぇのなら仕方ない!俺はザワークロウ・ラキアだ!よろしくなぁ!!」ガッハハハ!と豪快に笑ってケントの背中をバシバシ叩く。


完全に戸惑いの中で「ははは」と乾いた笑いだけで返すケントは、一度落ち着いたところを見計らって、請け負った頼みの中身についての質問を始めた。




 「・・・・・・そ、それでザワークロウさん。ザヴィエラ・・・――元副大統領が狙っていたかもしれないツールってのは?」


「あぁ、それな」


ケントの質問に、それまでの陽気さをぴしゃりと打ち消してザワークロウが応えた。すると、彼は抱えていた大きなフライボーダー(?)をテントの中の適当な場所に立て掛けると、「付いて来い」と踵を返してテントの奥へと消えていった。


 それにドゥエタが、くいっと首だけを動かして「どうぞ」と合図を送り、彼女もまた父の後について奥へと消えていった。ケントらは、とりあえず誘われるがままに彼らに続きテント中へと足を踏み入れた。


 テントの中には、簡易的なテーブルの上に見た目でわかるほどに壊れたツールが山積みれされていた。ミカは、それをちょっと覗いてみたいとチラチラと視線を送っていたが、ザワークロウ親子がずんずんと奥へと進んでいくのに結局はあきらめるだけであった。


しかし、ケントはこんな決して大きくもないテントのどこに、歩き続けられるほどの奥行きがあるのだろうと不思議に思っていた。


 が、前を歩いていたドゥエタが急に立ち止まったことで、先の様子が見えたので理解できた。


「これよ」ドゥエタが身を少し引いてケントらによく見えるようしてから言った。


そこにあったのは、地に掘られた階段であった。それも結構深く掘られおり、階段の一番下ではザワークロウ父が手を振っていた。


「こっちだ!こっち!」地下の方から気さくな声が飛ぶ。


ケントらはお互いに顔を見合わせあってから、自分たちを呼んでいるザワークロウのもとへと行くために階段を降り出した。


 コツンコツンと、階段は何故だか思っていた以上に高めの音を響かせる。そうして巾狭い階段を一列になっており付いたケントら。ミカは窮屈なことに不満な顔を見せ、ストログは黙ったままであった。


「あの、これは?」ケントが聞いた。


「これが――・・・いや、ここが元副大統領の目撃があった場所さ」


と、言い直したザワークロウはにやりと笑うと、階段の先の行き止まりのはずの壁に手を置いた。


同時に、パッパッと壁を払う、埃の下から土壁とは違う色をした何かが顔を見せた。


「え?嘘、もしかしてそれって、ツールが埋まってるの?!」それにミカが食いついて、ケントを押しのけて壁を見やった。


「残念、確かに埋まってがいるがツールではないんだな、これが」


そんなミカに不正解だと告げたザワークロウは更に埃を払った。すると、覗いていた下地の色が全体にのびてきて、そこにあるはずの土壁を完全に違うものにしてしまった。


「扉・・・古代の遺跡か」誰によりも先にストログが言った。


「その通り!マッチョ虫君に10点、加点しよう!」


笑い飛ばしてストログを指さすザワークロウ。そんなやりとりを横目にケントとミカは、現れた鋼色の扉に興味津々の目を見せていた。


 どちらも『子供』のようなワクワクした瞳の色をしていたが、ケントは『仕事仕事、兄ちゃんの代理だ』と頭を横に振ると、欲に負けはしないと今一度ザワークロウに視線を向けた。


「こ、この中にザヴィエラの探してたものがあるんですね?!」


「さぁ、そこまではなんとも・・・。目撃情報からここを探しあてたのもつい先日だしね――今も、チームの人が潜ってるけど・・・」そう言うザワークロウはチラリと腕時計を確認した。奇妙な毛皮製の腕時計が半立体映像で時刻を記している。


「・・・――ちょうどいい、もうすぐ休憩で引き揚げてくるはずだ。それと交代の形で君たちが中に入ると良い」


「いいんですか!?」ミカが嬉しそうに聞いた。


「あぁ、なんなら今から入って、中の奴らに休憩だと伝てきてくれるか?」


「やります!任せて!ほら行くわよ、ケント、ストログ!」


ミカが二人の意見など聞かずに流れるように承諾した。


「・・・お、おい、ちょっと待て、もっと慎重にだな」


もはやケントの声など聞く耳持たずか、ミカはケントを押しのけては、まるで大好きなアトラクションに『待ってました』と乗り込む少女のように扉へと進んでいった。


 そんなミカにケントとストログは一度、大きな溜息を漏らすと。仕方ないと、肩をすくめて二人はミカを追いかけた。


「あまり危険そうなもには触るなよー」


そうしてザワークロウの見送りを受けて、三人は荒れた大地の地下に繋がる扉を潜り抜けるのだった。




                               ※




 扉を抜けた先は、今までいた日が照り砂埃舞う大地とは、うってかわって薄暗くひんやりとした空間が広がっていた。機械的な壁や天井と、廊下さえも鋼鉄色に染められている。


「・・・住居ってわけじゃなさそうね」


そんな遺跡の中をスマートツールを懐中電灯代わりに照らしてミカが、「うーん」と唸りながらにつぶやいた。


 確かに、暮らしがあった様子を伺えるものでは無く。長らく放置されたままの倉庫か何か、または輸送船なり施設なりなのか、伸びる廊下の先にはところどころに小部屋が連なっている。部屋ごとには何かが備えられていたのか、朽ち果てた大型のツールのようなものが転がっていた。


「古代や神話・・・と、まではいかないまでも、相当旧いな」


「えぇ、今じゃ殆ど見られないタイプの物が多いみたい」


「・・・・・・お前ら、よくわかるな」


ミカとストログが意味ありげにあたりを見渡してい言っているのに対して、ケントはちんぷんかんぷんな顔で感心の声を上げていた。


と、そこへ。


「そっちなんかあったかぁ?」「いんや、あってもよくわからん模型みたいなもんかな」


奥の方から男の声が二つ聞こえた。声は会話を続けながらに、ケント達の方へと近づいてくる。そして、薄暗い中でようやく声の主を確認でき時には、二人はケントの目と鼻の先にいた。


「うぉ!?なんだ?!他所の研究チームか?!」


「教授はなにやってんだ?」


ケントらの存在に驚いて男二人は声を荒げた。二人はどちらも人族ではなく、キツネ族とタヌキ族の二人組でお互いに揃いの作業着を着ており、その胸部にはテントにあった研究チームのロゴが刺繍されていた。


 それを見てケントが気がついた。


「あ、あんたたち!ザワークロウのチームの人だろ?」


「そうだけど・・・なんで知ってるんだ?」キツネ男が聞いた。


「あ!そうだ!教授が言ってた銀河調査団の人だ!そうだろ?」タヌキ男がフフンと笑みをこぼして問いかけてきた。


「ま、まぁそんなとこかな。代理だけど」ケントがまごまごと答えていると、横からミカがずいっと


前に出てキツネとタヌキに視線を合わせた。


「あの、ザワークロウさんから伝言で、私たちが交代で調べるんで休憩に入ってくれって」


「お、なんだ、そういうことか」


「よぉーし、それならとっとと休憩休憩!」


キツネとタヌキの研究員は嬉しそうな顔を見せて、ヘヘヘと笑って見せた。


「おい、噂じゃこの星に『ドゥーンベイ』が来てるらしいぜ?」と、キツネ男が細い目を吊り上げてタヌキに囁いた。


「マジかよ!?あのカレーヌードルパンで有名な屋台だろ!?」


それにタヌキは飛び上がって驚くと、じゅるりと口元をぬぐった。


 しかしその情報に反応したのはタヌキ男だけではなかった。


「か、カレー・・・ヌードル・・・パン・・・ど、どんなんだろ――」ミカは気になってしょうがないという顔を見せていた。


 すると、それに気が付いたキツネとタヌキの二人はミカに少し詰め寄った。


「なんだ?お嬢ちゃん知らないのか?!」


「いいか?カレーヌードルパン、略してカヌパンはだな、パンの中にカレーに浸したヌードルが入ってる画期的なパンなんだよ!」


二人してここ踊るようなしぐさで言って、静かだった遺跡内に反響を起こして見せる。


「き、気になる・・・それに絶対に美味しそう!」


「旨いに決まってるだろ?!・・・・っと、こうしちゃいられない!」


「急いで探さないとな!」


ミカに忠告しながらの二人は顔を見合わせると、互いに腕時計の時刻を確認してはそのまま遺跡の入口側へと向きを変えた。


「じゃぁな、お嬢ちゃんたち!」


「調査がんばれよ!」


そうして、キツネとタヌキの二人は名乗ることもなく足早に去っていくのだった。カレーヌードルパンなるものを求めて。


 そんな二人を見送ってミカがさみしそうな顔をしていた。


「ううう・・・食べてみたい・・・」


「カレーパンとカレーうどん一緒に食べればいいだろ?」


ケントの心無い回答に、ミカの手刀が彼の頭上を襲った。


「全ッ然、違うわ!あんたには何もわかっていないようね、カヌパンがどういうものか」


「お前だって、今知ったばかりだろうが」頭をなでながらにケントが言葉を返した。


「それにパンの中にうどん入ってるのって変じゃないか?」


「だったら焼きそばパンはどうなるのよ?」


「・・・な、なるほど確かに言われてみればそうだな」妙な納得をさせられるケント。


「でしょう?・・・と、いうわけで私食べたいんだけど?カヌパン」ミカが上から目線でケントに言った。


「・・・――あぁ、いや、うん。食べればいいだろ?」


そう答えたケントに対して、ミカの深いため息が暗い空間に響いた。


「・・・はぁ・・・――あのね?屋台なんかで可愛い女子がひとり買い物なんて、似合わないでしょ?」


「――・・・なんだ?俺に買いに行ってこいって言ってるか?!」


「そうよ、やっと気づいたわけ?あきれた」


最早、パシリな扱いのケントに向けて鼻で笑うミカ。


「アホか!だいたい、まだなんにも調べてもないのにここを出られるか!」


「じゃ、終わったら買ってくるわけね?」


「え?あ、あぁ!それぐらい買ってやらぁ!」


「決まりね」


ミカはにやりと笑ってケントに意地悪な目線を送った。その笑みを見てケントは「のせられた」と悟ったが後の祭り、ミカはすでに2,30個は注文する予定をスマートツールにメモしていた。


 それをどうにか阻止しようとミカにすり寄るケントだったが、聞く耳持たず「決定事項」と突っぱねられるだけで、とても取り決めを打破できるものではなかった。


「・・・く、くそ!金持ちのくせに人にたかるやつめ!」


「くだんらことで争うんだな」


 そんなミカとケントのやりとりにストログが溜息を交えて感想を漏らした。はっきり言って、彼にとっては古代遺跡の調査などは興味ないもので、早々にミカから未払いの報酬を受け取りたいだけであらる。何の因果か、こんな機械惑星までやってきたが・・・そろそろ、終いにしてほしいと思い始めていた。


その時。


「・・・ん?」


ストログが、何か足元に置いているのに気が付いた。薄暗い空間内で見えにくいが、手の中に収まるサイズのゴツゴツした何かであった。ストログはそれを手に取り、ミカが持ったままにしていたスマートツールの明かりで照らしてみた。


「・・・――こ・・・これは―ッ!!!」


瞬間、ストログがそれまで聞いたことのないような大声を上げた。


当然ミカもケントも彼からそんな吃驚仰天な声が飛ぶなど思っても見ていなかったので、遺跡内に木霊する大声を聞きながらに、それまでやんややんやと言い争いをしていたのを止めると目を何度もパチクリとさせた。


「・・・な、なんだよ?なんかあったのか?」ごくりと息をのんでケントが聞いた。


「あんたが驚くなんて珍しいじゃない・・・どうし」と、そこまで言ったミカの声が詰まった。


ストログの拾い上げた何かを確認しようと、改めて明かりを照らしたことによってミカもまたそれを目にして驚いてしまったからだ。


「う、噓でしょ?!」ミカもまたストログと同じリアクションを見せた。


「おい、なんだよ?!なんかヤバいものなのか?!それなら兄ちゃんに報告しないと」


遂には気になったケントがそれを覗き込んでみた。


「・・・・・・・――なんだこれ?」ケントの反応は二人とは違っていた。


 そこにあったのは小さなロケットの模型のようだった。掌サイズのそれは鮮やかなブルーの船体をしており、丁度先端部分に『38』と番号が振られていた。


 ケントから見て、どう見てもただの模型である。しいて言えばさっきの二人組のうちのタヌキの方が手で遊ばせていたのを覚えている。どうやら休憩の伝言の最中に落としていったのを忘れてしまったのだろう。と、それぐらいの発想しか出てこなかった。


「玩具だろこれ?なにをそんなに驚い」「はぁぁぁ!?玩具ぁ?!」


ケントの声を遮ってミカがドスの効いた声を張り上げた。


 何事かとケントがまたしても驚きに目をパチクリさせる。


「あんた何言ってんのよ?!どう見ても伝説のサンボルバード38号じゃない!」


「それも幻と言われる劇場版カラーのインパルスブルータイプだ」


ミカとストログの息の合った怒涛の解説についていけないケントが、とりあえずは聞こえた単語を拾っては質問を考えた。


「・・・サンボルなんとかって、あれだろ?教育番組でやってた人形劇のやつだろ?」


「『やっている』だ。今も放映中でシーズン365に突入している」


「・・・本当にあんたの無知には情けなくなるわ」


額に手を当て溜息をこぼして、首を横に振るミカ。それを見てケントは「別にサンボルバードを知らんでも問題はないだろう」と言い返そうとしたのを、面倒になりそうなので心の中で押しとどめた。


 すると、そんなケントに向けてミカは『やれやれ』と肩をすくめ、説明してやるかと腕を組んでは自慢げな顔を見せた。


「いい?サンボルバードは全銀河を股にかけるスペシャルマシンチームの事よ。現在まででマシンは104869号まで出てるけど、その中でもこの38号は伝説と言われているのよ!なぜ伝説かってのは口で説明するより実際見るべきであって、決して前情報を鵜呑みにして見ない方がいいわ!あ、でも、私が推したいのは913号でね」


「わ、わかった、わかったからストップだ、ミカ」


ケントが言うがミカの口は止まらず堰を切ったように言葉が流れしていた。そんな彼女にあきらめのめを向けたケントは次にストログに視線を変えてみた。


「いいか?この38号は生産時期がかなり限られていたものなんだ。たしか出されたのは200年ほど前のはずだ」


えらく喋るようになったストログに未だ慣れないままにケントは少し固まった。そして「・・・ちょ、長寿番組なんだな」と、とくに良い返し思いつかず素直な感想を告げた。




「まさか、こんなところで伝説にお目にかかれるなんて」


と、たくさん喋ったミカはケントが理解したかどうかなど後にして、恍惚とした目でストログの手にある模型を見つめていた。


「しっかし、よくできてるわよねぇ」


そうして、満を持してミカがストログの手から模型をつかみ取ると、じっくりと嘗め回すように見回した。関心の声をこれでもかとあげまくるミカに、ケントは呆れた表情を作るだけであった。


「これが、初めからこの遺跡にあったとするなら――ここは、それだけ古いということになるな」


「お、やっと無駄にならないことを言ったな」


ストログが改めて言ったところで、ケントもようやく活気を取り戻した顔を見せて大きく頷いた。


「サンボルオタクが2人も見つかったことより、この遺跡がどれだけ古くて、そこからザヴィエラが探っていた何かに繋がればラッキーなんだけどな」


オタクと言われたことにミカとストログがピクリと反応したが、まんざらでもない顔をしながらにケントを睨むだけだった。


と、そんなケントの言葉をよそにミカは模型を触り続けていた。


その時。


カチリ


「へ?」奇妙な音が鳴ったのにミカが疑問符を打った。


「こんなギミックあったっけ?」


鳴ったのは触っていた38号からであった。ちょうどロケットの先端部分がノック式のペンの様に凹んでいる。


瞬間。


ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!


「ひ!」「ッ?!」「なんだ?!」


模型38号がけたたまし警報を遺跡全体を染め上げるぐらいに届かせたのだった。


思わず、模型を手放したミカだったが床に転がった模型は警報を止めるどころから次には何故だか光り始めたのだった。


「ど、ど、どどうなって・・・――!?」ミカが突然の事態に混乱気味につぶやく。


もちろんケントもストログも何が起こったのか、そして何が起こるのかと身構えてしまっている。


 するとそんな彼らの期待に応えるように38号が、今度はロケットよろしく後部のブースターを全力に灯して一気に飛び出しのだった。狭い空間内を小さなロケットがあちこちにぶつかりながらも縦横無尽に飛びかっている。


 顔面ギリギリを飛び去った38号に驚いたミカは尻もちをついてしまう。ケントは、なんとか捕まえようと赤いオーラを漂わせ、ストログは壊れないように捕獲できないかと対策を練っている。


が。


ガン!ガン!ガン!・・・――ドカンッ!!


何度も壁に衝突しまくった38号は遂には、宙に舞いがったかと思うと勢いもそのままに爆破四散してしまうのだった。


「さ、38号ーーー!!」ミカの痛烈な叫びが轟いた。


小さな爆風を受けながらも手を伸ばし、散り往く伝説の最期を目に焼き付ける。ストログも遠い目をしては、視線をずらさずにいた。


 しかし、やはりケントだけは、そのやりとりがどこか茶番に見えて荒んだ目をしていた。


「な、なぁお前がなんかしたのか?」ケントが床に座ったままのミカに問いかけた。


「し、してないわよ・・・・――それより38号が・・・」涙目になりながらも答えたミカは悲しみをこらえながらに、壁に手をついて立ち上がった。


 そうして、壊れてしまったとはいえ38号の破片だけでも確認しようとしたミカだったが、ちょうどのその時手元に異変があるのに気が付いた。


「?」


起き上がるために手をついた壁の部分がなにやら光っている。青や緑のランプが手をついた先から徐々に広がっていっている。


「お、おい!おまえまた何したんだ?!」


「だから何もしてないわよ!」


ケントが、またしても起こった異常事態にミカを責めるが、無論覚えのないミカは強く反論する。


「・・・おい」と、そこへいつもの冷徹な態度に戻ったストログが割って入った。


彼の低くも重い声に二人は口を噤んだ。そして彼が指さす方角に目を向けた。


 壁伝いに広がっていたランプが遺跡の隅々までに行きわたり、それまでの薄暗かった空間内に僅かだが明りを与えていた。


 だが、次の瞬間、青と緑のランプは一斉に真っ赤に変わり、同時に再び警告音が鳴りだした。


「今度はなんだ?!」


「私なにもしてないからね!」


どんどん事態が急変していくのに叫ぶケントとミカ。そこへ。


ドォン!!と、ひと際大きな音が轟いた。


音の方向は3人の背後であり、あのキツネとタヌキの研究員が去っていった方・・・つまり入口に続く道であった。その道がものの見事に鋼鉄の扉によって『閉ざされて』いた。


「んな?!」「はぁ!?どういうことよ!?」ケントとミカが目を点にしながら叫んだ。


「・・・・・・・・・・」しかしストログだけはその事態よりも、赤いランプが照らす遺跡の奥を睨んでいた。


ガシャ・・・ガシャ・・・・ガシャ・・・


ストログの警戒は正解だった。遺跡の奥からは機械的な『足音』が聞こえてきた。その不気味な音にケントとミカも騒ぎを止めて意識を向けた。




「侵入者・・・ハイ、排―徐・・・」


「ハイジョスル――スルスルスル・・・排除」


不気味で気味の悪い機械の足音を響かせ現れたのは、フレームが剝きだしたの人型ロボットの軍勢であった。さび色のボディに橙色した機械の目が3人を捉えている。そして、大群のロボのその腕には殺傷能力抜群のマシンガンが装備されていた。


「おそらく、侵入者へのトラップだろう・・・スイッチを触ったな」


じろりとストログがミカを睨んだ。


「お約束みたいなことしてくれるな、ミカ?」


「し、知らないわよ!だいたいここのツール壊れてるはずでしょ?!」


ケントとストログに食ってかかるミカだったが、次にはロボたちがマシンガンを構える音が何重にも聞こえて、血の気が引いた。


「ハイジョ・・・ハイイジョ・・・」


ロボ軍団の橙色した機械の瞳が狙いを定めて気味悪く動くのだった。




                             ※




 暗い遺跡内は今や銃撃戦のメッカとなってしまっていた。


ケントはオーラによって体を硬質化して弾丸の直撃さえ耐えて見せている。ストログも同じくオーラを出すほどでもなく強靭な皮膚と鍛え抜かれた鋼の体のおかげ銃撃自体はたいしたことないといった無表情な顔を見せていた。


そして、ミカはというと。


「あんたら絶対に動くんじゃないわよ!」


ストログの陰に隠れて騒いでいた。自らも魔力タンクを備えた小銃を構えて、ストログを盾替わりに銃弾の雨をしのぐと敵のロボ軍団にビームを撃ち出していた。


バン!バン!と1体、2体と細身のロボがビームの威力で吹き飛ばされては遺跡内をゴミくずの様に転がっていく。


 しかし、1体倒せば3体増えるといった具合に敵の勢力は増すばかりであった。


「まだ、増えてるぞ!」ケントが赤のオーラを全開に腕をクロスさせ頭部を守りながらに言った。


「・・・持久戦になるとまずいな――やつらにも体力というものがあればいいが」ストログもぼそりと言って苦言をこぼした。


「ど、どうにかしなさいよ!」ミカがストログの背中から叫んだ。


ズダダダダダ!とマシンガンによる弾丸の雨の降水量はこれでもかと増していく。ケントとストログもオーラによって負傷こそないが、このまま留まり続けるのは難しいことはわかっていた。


「ね、ねぇ!この扉を私の銃でぶっ飛ばせばいいんじゃない?!」


そこへミカが銃を背後の扉に向けながらに言った。既に引き金に指をかけて発射準備万端の姿勢をとっていた。


「――やめておけ、その扉を消し飛ばすほどの出力で撃てば遺跡ごと崩れるぞ」ストログが言った。


「じゃ、どうしろってのよ?!」


「・・・ひとつしかないな」


ミカが焦り気味の声で騒ぐ中、ケントが真面目な声で呟いた。その声にミカがケントに視線を合わせ、ストログもチラリと目を向けて無言で頷いた。


「正面突破だ!」「それしかなさそうだな」


そうしてケントとストログが息を合わせてロボ軍団へと睨みを聞かせた。


頭部を守っていた腕を脇に添わせるとケントが「はぁ!」と声を張り上げ気合を入れる。それによって濃さの増した赤のオーラがケントを体の芯から染め上げる。


同時にストログも「ふん!」と気合を込めるとともに薄っすらと青のオーラを浮かべた。


「ミカ!離されずついて来いよ!」


「え、・・・!ちょ、ちょっと・・・--待っ」


瞬間、ミカの声をさえぎるように赤と青のオーラがロボ軍目がけて飛び出した。




                         ※




「おおおりゃああ!!」


ケントの唸り声が遺跡内に響くと、何体ものロボット兵士が赤のオーラの拳を受けて鉄塊と化していく。同じくストログが無言で拳や蹴りを振るってはケントよりも多くのロボットを屠っては道を作っていく。二人のオーラ術者の働きにによって狭い遺跡内に蠢いていたロボット軍団たちはガラクタとなっては進みゆく道の飾りに果てていく。


「この!この!」


そしてミカはというと、怒涛の進軍をみせるケントとストログの跡について銃撃戦を行っていた。二人が前方の敵を倒していくは心配ないのだが、それでも追っ手が次々とわいてきて3人の後方からも挟み撃ちの形で迫ってきていた。


 ミカの出力を抑えたビームによって、全壊とは言えないが後方から迫る敵を半壊状態にしながらになんとか追撃の手を緩めることに成功はしていた。


「ちょっと!これって、どんどん奥に進んでいってない?!」


「仕方ないだろ!別の出口が見つからないんだ!」


後ろから響くミカの問いかけにケントが、また一体ロボットを吹き飛ばしながらに応えた。


 通路という通路からロボット兵士がやってくる。鳴りやまないマシンガンの銃撃音が、3人をまだまだ安堵へとは誘ってくれないでいる。


「見ろ」


と、そこへストログの低い声が聞こえた。


 彼は肘打ちでロボットを砕きながらに、視線で何かを2人に伝えた。


ストログの視線の先、そこにはどう見ても壊れているが、いかにも厳重なロックが施された重苦しい鋼鉄の扉が見えた。


「・・・おそらく、重要な区画だろう――こいつらを止める方法があるかもしれん」ストログが言った。


なるほど、と、ケントとミカが走りながらに頷いた。


たしかに見た目には施設の中枢部分に見えなくもない。彼の言う通り打開策の一つでも見つかるかもしれない。


「よし・・・!けど、えらく頑丈そうだぞ?鍵でも開いてりゃいいんだけど」


「開いてたらロボ共も出入りするはずでしょ?」


鋼鉄の扉の開錠方法を考えるケントだったがミカの正論に負けて口を噤んでしまう。そこへ。


「ぶち破るしかないだろうな」ストログが提案した。


無論、初めからそのつもりもあったケントが首を縦に振る。


「それでもいいけど、オーラ術でも破れるか怪しくないか?」


「あぁ。個々で挑んでは無理かもしれん。――そこでだ、せっかくオーラ術者が二人いるんだ・・・協力すべきだ」


ストログのその言葉にケントとミカが少しだけキョトンとした。


「協力・・・て、つまり」


「合体技だな!」


ミカが結論を言うより早くケントが割って入って嬉々とした目を見せた。


 協力、合体、タッグ、コンビネーション、呼び方はいろいろあれど誰かと力を合わせてオーラ術を使えるというのは、ケントにとってはとても喜ばしいことであった。


「まさかお前から合体技を持ちかけてくるとはな・・・、俺も兄ちゃんや姉ちゃんにお願いしたことあるけど、どっちにもフラれちゃったからな――こんなところで実現できるとは」


「ねぇ、なんでもいいけど早くやってよね。また集まってきてるわよ」


しみじみするケントへミカが再び銃を構え直して告げた。彼女の言う通りは前方からも後方からも再びロボット軍団がわらわらと迫ってきていた。


「そ、そうだな!よし!やるか!」それを見てケントが慌てて頷くと、ストログを見やった。


「で、どうする?ダブルキックとかダブルパンチなんかがベタだけど――・・・」


「俺に考えがある」


すると提案しかけたケントを遮ってストログが鋭く告げた。


「ケント、まずお前が全身をありったけのヒィアートで硬質化しろ」


「え?あ、あぁ・・・こうか?」


と、ストログの言われるがままに頷いたケントは全身を真っ赤に染めあげた。


「よし、それでいい・・・あとは」


「え?」


瞬間、ケントは目を疑った。


なんと、これから協力し合うはずだったストログの腕が己の方に伸びたかと思うと、そのまま胸倉を掴まれてしまったから。


「いくぞ合体技だ」「お・・・おい!ちょ・・・-!!」


刹那、ストログの腕から発した青いオーラが掴んだ胸倉からケントの全身に伝わり、更に硬質化を充実させると、そのままストログは鋼鉄の扉目がけて『ケントを』ぶん投げてしまったのだった。


ブンッ!!!


まさに全力投球の様相でストログはピッチングフォームで止まっている。ミカもそれを見て、驚きの表情のまま固まってしまった。


そして、肝心のケントは赤と青のオーラを纏った巨大な剛速球と化して、そのまま凄まじい勢いで鋼鉄の扉に激突するのだった。


ドゴンッ!!


鈍くも重々しく響いた激突音。鋼鉄の扉は無理やり開くというよりは、大きな弾丸が扉を突き破り人1人大の穴が空いていた。扉上部に空いた穴の先には、中の部屋の一部である機械敵な壁が見えている。


「・・・ふん、まぁ上出来だ。いくぞミカ・フェリア」


「へ?」


と、納得のストログはミカの手を引くと集まってくるロボ軍団達を、壁を蹴っては回避しながら進むと扉に空いた穴へとすかさず飛び込んだ。




 ※




「・・・アタリみたいね」


ストログの手を払って扉内の部屋を見渡すとミカが言った。


部屋内にはロボ軍団の姿は無く、それまでの遺跡内にあった朽ち果てた機械及びツールらしきものが転がっていた。中でも、大きなドーナツの破片のようなリング状の塊が目を引いた。これもツールだうろかと目を凝らしたミカだったが、すぐ傍ではゴミくずのように転がったケントが目に入った。


「・・・良かったじゃない?念願の合体技だったんでしょ?」


「あのカブトムシ・・・いつかぶっ飛ばす・・・!」


死に体のようなケントが、腫れた頭部をさすりながらに起き上がると、ミカを差し置いてストログを睨みつけた。彼はというと、扉に空いた穴からロボ兵が入って来た時の様に見張りに立っていた。


「これでしばらくは大群を相手にしなくてもいいだろう・・・今のうちに制御装置を探せ」


言って、ストログが飛行能力のあるロボが一体入ってきたのは飛び蹴りで仕留める。


ガシャンとガラクタとなって床に散らばるロボット兵。それを見てケントとミカは『了解』と頷くと、急いで部屋内を探索に入った。




 他に見てきた部屋などよりは大きめな空間に、それらしい装置を多々あってケントとミカは手当たり次第に触ってみていた。電源が行ったり入らなかったり、ランプが付いたかと思えば点滅、消灯するなど、動作のハッキリしないものばかりで二人にいら立ちが見え始めていた。


「あー!もう!どれなのよ!」


「なんか書いてあればいいんだけどな・・・」


奇妙な駆動音を鳴らす計器のついたジュークボックスぐらいの大きな機械や、蛇腹のパイプがついて水蒸気を噴き上げる謎の金魚鉢くらいの球体などなど。いつもならミカが面白がって飛びつきそうなものばかりだが今はそれどころではないと、二人の急がしい手が動き続ける。


「・・・・・・・なぁ、なんかお前の触ったものばかり動いてないか?」


「へ?そ、そう?」


と、当然、ケントが気になって問いかけた。どうにもミカが触れたツールばかりが起動しているのように思えたからだ。現にケントが今触っている、大きな亀甲羅のような赤いドーム状の物体はうんともすんとも言っていなかった。


そこへ。


「おい、まだか」ストログがまた一体ロボを撃墜させて声を張った。


それに少しだけ手の止まってしまったケントとミカが顔を見合わせ合う。


「気のせいでしょ?だったら、それ見せてみてよ」


「あ、あぁ」


すると軽く言うミカはケントが手にしていた赤いドームな物体を手に取った。


「よいしょっと、結構重いのね・・・」不満気味にミカがじっくりと物体を眺めて、スイッチなんかが無いかと調べてみる。


「ほらね、別に変わらな」キュイーン!!!


瞬間、ミカの声を遮って物体より甲高い音が轟いた。それに衝撃のミカとケントは目を大きく見開いて固まってしまう。そして更には物体の表面には7つの黒い輪が光って浮かび上がり、そのまま凄まじく震えだした。


「わ!」「げっ!?」


次の瞬間、物体はミカの手を『飛び出して』、すぐ横のケントの顔面にぶつかった。


ガツン!とまたしても激突の痛みに苦しむケントだったが、飛び出した物体はまるで打ち出されたピンボールの玉の様に跳ね回るのだった。部屋内を縦横無尽に弾け回り、ストログの脇を掠めたり、他の廃ツールとぶつかって削ったり、壁や天井にも罅を走らせたりと突然の大騒ぎとなってミカたちの目を見張らせた。


「な、ななな、なんなの!?」身を屈めて様子を見るミカ。


すると物体は、侵入してきたロボ兵の一体と衝突し破壊すると同時に、その身を床に転がらせてようやく動きを止めるのだった。


ガガガ、ギギギ。など、妙な機械音と駆動音を唸らせる赤い物体。ストログを神妙な目でそれを見つめるが、ミカが先にそれに駆け寄った。


「な、なにこれ・・・?」ミカが目をパチクリさせながらに言った。


「やっぱ、お前のせいだろこれ」と、ケントも鼻の頭を押さえながらに痛みを堪えて言やった。


ミカがケントに言い返そうと視線を移した、その瞬間。


シューッ!!


と、物体から等間隔に煙が噴き出し――そして、なんと、手足が生えたのだった。


「「!!??」」ケントとミカが目を丸くした。


そこに起こっていたのはまさしく『変形』であった。赤い半球体の鉄塊は鋼の手足を伸ばし、更には頭部のような小さな丸っこい部分まで生やしている。そうして頭部らしきところには瞳のようなものも供えられており、それがとんでもない速さで点滅していた。


「ききき起動・・・!シャットダウン・・・?!再起動…?!スリープ・・・!?エラー!動力ヒィアート混在!解消中・・・!」


まるでテントウムシのような目ためになった物体は、ロボットのごとく喋り始めて震えている。


「・・・こ、これロボットだったの?」「こいつも外の奴らと同じか?」ミカとケントが呟く。


「・・・・・・・」ストログは無言で見守りながらも敵の侵入を警戒している。


そうして一人騒ぎ続けていたテントウムシロボは、ようやく静かになって、瞳のランプも緑色で定まっては落ち着きを見せるのだった。


「エラー解消・・・起動完了・・・スタンバイOK」


すると、そうつぶやいたテントウムシロボはくるりと向きを変えるとミカとケントへ視線を合わせた。ケントは身構えると同時にミカの前に立って守るような仕草を見せた。が。


「わぁ!?誰ッすかアンタたち?!」


ロボットにしては、感情たっぷりな声で驚いたテントウムシが飛び上がったのにケントとミカは唖然とした。


「イエンスじゃないっすね!そうか!さてはあいつの手先っすね!もう捕まらないっス!!」


怒涛の喋りを見せるテントウムシロボは、ケントらを指さし怒鳴り散らすと、背中にあたる赤い半球体部分をパカッと割って羽にして見せたのだった。


「ちょ!ちょっと待って!」ミカが叫んだ。それにテントウムシも喋りを止めると、人間の子供大の身体で身構えた。


「おまえ、外のロボット兵士たちと同型なのか」ケントがミカより先に問いかけた。


「・・・外?」しかし、その問いにテントウムシは首をかしげるだけであった。


そこへ。


ガシャン!!


また一体、侵入してきたロボット兵がストログに屠られてガラクタと化したところだった。


しかしその光景がテントウムシには恐怖の印象ばっちりだったのか、ピョインと飛び上がると近くにあったリング状の廃れた巨大装置に身を隠したのだった。


「あ、あれは侵入者用のガードロボっス!アンタら侵入者っスね!!」体半分だけを乗り出して叫ぶテントウムシ。


「あんたはガードロボじゃないの?」ミカが聞いた。


「オイラは改造人間ッス!テントウムシ族の!あんな心まで機械なやつらとは違うッス!」


「・・・改造・・・」「・・・人間?」ケントとミカ、二人して気になった言葉を繰り返した。


そこへ。


「おい、お前」と、ストログの低く強い口調の声がテントウムシに向けて飛んだ。


「なんでもいい、こいつらの止め方を教えろ。――そこのガラクタと同じになりたくなかったらな」


「ひぃ・・・!」


緑のランプを点滅させて焦りを表現するテントウムシ。そこらに散らばるガードロボの破片を見て、隠れている身をより一層隠してしまう。


「と、止め方ったって・・・!ここは制御室なんだから、そこにコントロールツールがあるはずッス!」


言いながらに恐る恐る、部屋内の一部を指さしたテントウムシ。だが、その装置を見た瞬間、またさいても彼は驚いて飛び上がった。


「な、なんでぶっ壊れてるんスか?!と、いうか暴走してるっス!」彼が見て言っているのは、先ほどケントとミカが手当たりしだいに触りまくったツールの一つであった。大きな直方体の鋼鉄の物体が煙を噴き上げランプが出鱈目に点滅しまくっている。




「・・・そ、そうか――さっきの混在ヒィアート・・・」するとテントウムシが何かを呟いた。


「アンタらの中に魔法族がいるッスね?!」


今度は隠れていた廃ツールの陰から飛び出すと、羽を羽ばたかせて宙を舞いながらに言い放った。


 無論の、その言葉と共にミカへとケントとストログの視線が集まった。


「・・・わ、わたし魔法族だけど・・・」


「やっぱりッス!あんたが触ったせいでツールが暴走してるッス!オイラもそれで起動したわけッス!」


もたらされた解答にミカはポカンと口を開け、傍ではケントが「やっぱりな」と頷いていた。


「ま、待ってよ!そりゃ私、魔法族だけど・・・その・・・血が薄いのよ!いくらなんでもここまで影響出るほど反発力はないはずよ?!」


弁明のミカに、ケントは「それもそうか」と今度は首を傾げて頷いた。


 魔法族は一般人や自然界の持つヒィアートとは違ったヒィアートを持った種族である。生まれながらにヒィアートを自在に操れる半面、普通のヒィアートとは反発しあってしまうのだった。それは血の濃さに比例しており、血が濃ければ濃いほど反発力も増していく。よって血の濃い魔法族は大量のヒィアートを扱う戦艦や巨大装置なんかのツールは、ほぼ直接は触れないのである。その分は魔法でカバーできるので問題はないのであるが。


 そして血の薄い・・・ミカは一般人とさほど変わらないほどであり、反発力も小さいことでツールなんかも使いこなしているのだが。




「おい、原因がなんだろうとどうでもいい。こいつらを止められるのか?」


そこへ、差すようなストログの鋭い声が響いた。更に視線はテントウムシに突き刺さるぐらいであった。


「そ、それは、その・・・コントロールツールが使えないんじゃどうにも・・・ッス」パタパタと羽を羽ばたかせながらにテントウムシの声が小さくなる。と、そこへ。


「なぁ、それじゃ、別の出口なんかないか?勝手口とかさ?」ケントが聞いた。横ではミカが「可笑しい、そんなはずない」とぶつぶつと呟いているが、とりあえず放っておくことにした。


「出口っスか?うーん・・・オイラもここのすべてを知ってるわけじゃないッスからね」


ケントの問いに考え込むテントムシだったが、そこへまたしてもロボット兵の破片が転がってきた。またストログが一体屠ったのだろう、ころころと転がってきた破片はちょうど浮遊するテントウムシの真下に止まった。


「ひぇ」


その破片はロボットの頭部分であり、まるで生首が転がってきたようで気味悪さにテントウムシが怯みあがった。


 同時にストログから「早くしろ」と催促されているような視線を受けてまた一段と緑の瞳ランプを点滅させた。


「わわわわかったッス!要はここから出れればいいんスよね?!」


慌てた口調のテントウムシが、何故かミカの方へと近寄った。


「魔法族のお姉さん!ちょっとこれに触ってみて欲しいっス!」「へ?」と、テントウムシは傍にあった大きなリング状のツールに触れるようにミカに促した。


「だって、私が触ったら、また誤作動が・・・」


「それでもいいッス!とりあえずオイラみたいに起動できれば!さぁ急いで!」


渋るミカを巨大ツールに誘っては煩く言うテントウムシ。ミカは、ケントとストログが視線が集まる中、ゆっくりとツールに近づくとリング状の装置に手を伸ばした。


 朽ち果てたそれは、ここにある他の装置と同じように見た目は壊れており、とてもまともに動きそうでなかった。だが、ミカが手を触れた、その瞬間。


「!」


ゴゴゴゴゴゴ!と唸りと震えを放っては備えられた様々なランプが点滅しだした。


すると全員の視線が集まる中、リング状の内側に水の膜の様に薄緑の光が張られたのだった。


まるで巨大なビニールプールを縦にしてみたような代物のそれは、異音と駆動音と煙を噴き上げては、起動を果たしていた。


「よし!これでここを出られるッス!さぁ早く、くぐるっス!!」


そう言ったテントウムシはいの一番に光の膜を潜り抜けて、その実を膜の向こうに消してしまうのだった。


「・・・これは、ワープゲートか」ストログが呟いた。


「嘘!だって個人での使用は違法のはずよ?!」


「だから、その法ができる前のものなんだろ・・・もしかしたらこれがザヴィエラの狙いだったのかもな」


ミカが声を荒げる横でケントが、簡単な推測を立てて応えた。


「何してるっスか!ツールがまともに動いてるうちにこっち来るっスよ!!」


そこへ、ニョキっと光の膜の向こうから体半分だけだしてテントウムシが叫んだ。もはや暴発寸前のようにも思えるリング状ツールから、彼のいうとこももっともだとケントら3人は顔を見合わせて頷いた。


 「行くぞ、ミカ」「う、うん」と先にケントとミカがゲートを潜り抜けた。


そうして最後にストログが侵入してきたロボット兵を掌底で粉砕しながらに、地を蹴ると、そのまま薄緑色のワープゲートへと飛び込むのだった。

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