第4章 向かえ!機械惑星へ!
第4章 向かえ!機械惑星へ!
翌朝。スタアの特製朝食を平らげたケントは、出発のためにと道場の玄関に立っていた。まだ気怠さの残る身体を背伸びして解消するケント。彼は後の二人がまだこないのかと道場の中を覗き込んだ。
「じゃ、行ってくるからね!」
「ミカちゃん!また来てね!」「次は人参食べろよ!」「魔法見せて―!」
ミカは子供らを中心に別れの挨拶をかわしており、何人かからは痛いことを言われて顔を曇らせていた。
「それじゃ行ってくる、ケント達を送ったらすぐ帰ってくるから」
「えぇ。気をつけて。星間列車の時刻忘れないでね?」
一方、ラージとスタアはもはや新婚夫婦の装いで言葉を交わしていた。
そんな春先の雰囲気の二人に向けて「オホン」と咳払いをしてケントは、出発するぞ合図を飛ばした。
それに気づいたのか、ミカとラージはケントの元へ集まった。
「悪い悪い・・・さぁ、行こうか」
と、不満顔のケントに笑顔で返したラージは「車をとってくる」と、道場の裏手の方へと駆けていくのだった。
そして残されたケントとミカ。
「・・・で、お前のお供はどこだよ?」
「近くにいるって言ってたんだけどなぁ・・えーと」
ケントはミカが提案していた『御伴』とやらの存在が姿を見せないのを指摘した。
すると辺りをキョロキョロとしだしたミカが口元に手を添え、息を大きく吸い込んだ。
「出てきなさい!ストログ!!私!今から出かけるわよ!!」
横のケントが煩くて耳をふさぐくらいの大声でミカが叫んだ。
しかし、その一声だけでは目的の御伴はやってこないのか、朝の日差しの中を転がる野良猫の鳴き声しか返ってこなかった。
「・・・来ないわね」
「まだ寝てるんじゃないか?それに近くにいるっていっても道場の側にいるって限らないだろ。どっかホテルにでもいるんだよ」
ケントの言葉に「それもそうか」と頷くミカだったが、それでも今すぐに呼び出したいのか知恵を絞った。
「甘い蜜とか塗ったら来るかな?」
と、思いつくと同時にワクワク顔でミカが言った。
「・・・――なるほど、悪くないな。たしか台所にメープルシロップがあったはず」
「それもいいけど、ほら、あれゼリーの奴ないの?茶色いやつ」
「あぁ、チビ達なら持ってるかもな・・・よし」
いざ、道場内へ戻ろうとしたケントだったは、それを誰かが呼び止めた。
「おい」
その低く落ち着き払った声に驚いて二人を振り返ると、そこには当の本人ストログがいた。
「出たわね!取り立てカブト虫!」
「お前が呼んだんだろう」
ミカが身構えるがストログは軽くいなして言葉を続けた。
「それで、出かけるとはどういう意味だ?魔法惑星にでも帰って親に泣きつくのか?」
「おい、あんまり煽るなよ・・・被害がなんやかんやで俺に来るんだぞ」
強気な台詞を吐くストログにケントがそっと小声で告げた。それにチラリとだけケントをみやったストログは小さな溜息を突いた。
「残念!私が出かけるのは別の星よ!だから、私を逃したくないんだったら一緒に来なさい」
「・・・お前は、こいつに借金があるって自覚した方がいいぞ」
ミカの提案に無言のままのストログをそのままにして、ケントは完全な上から目線の意見を放つミカに呆れた声で言うのだった。
しかし、ミカの上からモノを言う姿勢は変わりはしなかった。
「いい?別にあんたが直接、お父さん・・・――大統領に取り次いだって構わないのよ?けど、いきなり言われて払うわけないと思わない?無理やり払わせようとしたなら、それこそ傭兵1人対太陽系全軍ってことになるわよ?」
「・・・・・・賢しい奴め」ストログがボソリと悪態をついた。
「ま、まぁ待てストログ」とそんな怒れる傭兵にケントが宥めついでに声を掛けた。
「ミカも別に踏み倒そうってわけじゃないんだ。だから、な?ちょっと俺たち・・・と、いうかミカに付き合ってくれればそれでいいんだ。この用事が終わったらすぐに魔法惑星に帰らせるからさ」
口早にあれこれとストログに伝える。
たしかに介入機らしきものがあった時ミカの知識は役に立つ。しかし、取り立て状態のストログ追ってくるのは必然だろう。ならば、行動を同じくしておいたほうが一挙両得というもの。そのために互いの仲を険悪にするのは良くない。
ケントは出発前から喧嘩腰になってくれるなとなんとかストログを宥めて務めるのだった。
「・・・・・・・――いいだろう」
そうして引きずるような低い声でストログ言ったのが聞こえた。
それにホッと胸を撫で下ろすケント。ミカは、『当然』と勝ち誇った顔を見せて笑顔を作っていた。
と、ちょうどそこへ。
プ、プー!
空よりラージの運転するフライカーがやってきてクラクションを鳴らしたのだった。
ブーンと、駆動音響かせならがらにケントらの前で浮遊しながら停車するフライカー。屋根がなく、シルバーメタリックなオープンカーである。そんなイカした車の運転席では、ラージはケントとミカを見ると、そこにもう一人増えているのに気がついた。
「・・・あぁ、なるほど。ミカくんの御伴か――いいぞ、さあ乗ってくれ」
ラージが小さく微笑むとフライカーに乗り込むよう三人に促すのだった。
※
ラージの運転するフライカーはガガノートの上空を飛翔すると、とある目的地目指して空を走り出した。オープンカー故に屋根がないことで吹き抜ける風が乗車する全員に当たって、まるでドライブ気分を向上させる。主にミカだけだが。
「おぉー!高い高い!すっごい景色!」
助手席に乗って騒ぐミカは前後左右更には上下も眺めて、空の旅路を大満喫していた。
彼女自身、フライカー自体に乗ることは初めてではないが、こうやって観光気分での乗車は心が踊るものがあった。
「うわー!もう道場があんなに小さい!あ!あれってララックルルックの港?!」
まるで子供のように燥ぐミカ。その横では運転手のラージが微笑んでいた。
ここだけ切り取れば楽しい空のドライブなのだが、後部座席に乗る男二人がそれをぶち壊していた。ケントとストログである。
「・・・」
「・・・・・・・」
両者無言で、並んで座る光景は異様であった。
ミカが勇んで助手席に乗ったせいで必然的にこうなってしまったのだ。別に席にこだわるつもりもないので、ミカに「代われ」と要求することもなくケントは隣の圧迫感に耐えて押し黙っていた。
と、そこへ。
「ちょっと!あんたら何黙り込んでんのよ?」
ミカが助手席から振り向いて二人の話かけた。
もっと楽しめと言わんばかりの声色でいうミカに、代表してケントが頷くとようやく沈黙を割った。
「あのな、遊びにいくんじゃないんだぞ?あくまで調査の代行だ」
「わかってるわよ。だけど現場につくまでは楽しんだっていいじゃない?」
私は正論を言っているとフフンと笑うミカ。すると、今度はストログへと話し相手を帰るのだった。
「・・・ねぇ、あんた。気になってたんだけど・・・――オーラ術者よね?」
助手席のヘッドレスト部分にもたれ掛かってミカが問いかけた。
すると、その問に少しだけピクリと反応したストログが一度瞬いた。そして。
「そうだ」と、短く応えた。
「やっぱりね。それであの時も私のビームを消せたわけだ、納得」
ミカは、前にストログの出会った海岸での戦いを思い返して言った。
「そういえば、姉ちゃんもお前を見て『蓄積型』とかって言ってたもんな・・・それもそうなのか?」今度はケントが問いかけた。
「――・・・あぁ」それにもストログは短く応えた。
「そんなの公言しちゃっていいの?仕事に支障が出るんじゃないの?」ミカがまた聞いた。
「別に最初から隠しているつもりもない。聞かれたから応えただけだ。それに、蓄積型のオーラ術者なんて宇宙を探せばまだまだいる。そんなに珍しいものでもないからな」
「俺はお前しか見たこと無いぞ」
「それは世間知らずなだけだ」
ストログからの悪態にケントは眉間に皺を寄せて睨みつけた。
しかしそんな子犬の喧嘩のような状態など無視して、ミカがズイッと二人に寄ると不思議そうな目をして再び口を開いた。
「ねぇ?蓄積型ってどういう仕組なの?」
「――・・・お前の銃と似たような物だ」
問いかけたミカだったが、思ってもみない答えにキョトンとした顔を見せた。
「魔力タンクと同じという意味さ、ミカくん」
するとそこへラージの声が飛んでミカに答えを与えた。ラージは運転し前を見ながらに後部座席へと声を届けている。
「俺やケントのようなタイプの術者は自分の中にある一定のヒィアートを操って戦えるんだ。けどそれは自身のヒィアートが尽きたらそこまでだ。あとは体力と共に回復を待つしか無い」グビッと缶ホルダーにあるコーヒーを一口飲んでラージは話を続ける。
「そこで彼のような蓄積型は、日頃から本来のヒィアートとは別にプールしておいて、後でそのヒィアートを上乗せできるんだ。これも鍛えることによって変動するが――例えば自身のヒィアートの3倍分を溜めておいて、今日という日に使うために上乗せする。つまり一気に放てば通常の3倍の威力を出せるというわけだ」
振り返ること無く、軽く説明したラージに、後ろからミカとケントの感心の声があがる。
「なるほどねー、じゃ、めちゃくちゃ溜め込んでから凄い難しい任務とかに行けば、楽勝で達成できるわけだ。傭兵ナンバー1なわけね」
「それだけで傭兵が務まるわけがないだろう」ストログが簡単に言うミカに冷たい視線を浴びせた。
「じゃ、今もいくらか溜め込んでるのか?」
「・・・・・・ない」ストログがこれまでより一段低い声で応えた。
それにケントもミカも目をなんどかパチクリさせた。
「あの黒オーラの女相手にほぼ全てのヒィアートを使い果たした。蓄積していた分も全てだ。今、俺にあるのは通常のヒィアート量だ」
ストログの答えにケントとミカと少しだけ声を失って顔を見合わせた。
まさか、スタアとの戦いの余波がこんな形で出てくるとは。ミカはスタアをストログに焚き付けたのを少しだけ後悔して「あはは」と苦笑いして頬をポリポリ掻いていた。
「ま、まぁ、別に今は必要ないだろ?」
「・・・・・・だといいがな」
ケントのその場しのぎのフォローにも冷たく返してストログはムスッとした顔を見せていた。
そうしてミカとケントがお互いに、この雰囲気をなんとかしろとアイコンタクトを取り合っていた、その時。
「お、もう見えたぞ。着陸するから、座っててくれ」
ラージの声が聞こえて、3人ともにそちらの方に意識を移した。
フライカーはラージの操作により減速を始め、そして同時に効果を始めた。景色がどんどんと青い空から地上の色に変わっていく。
やがてフライカーがある程度地表に近づいたところでケントとミカが、その進行方向の先に誰かが立っているのが見えたのだった。
※
ガガノートを離れ、街を1つ2つ越えた先で4人の乗ったフライカーは綺麗に着地を果たした。
そこは、潮風吹き付ける切り立っだ崖で、崖下では波しぶきが力強く打付けるのが見えた。
「うわー・・・すっごい・・・!サスペンスさながらの崖ね!」
ミカは助手席を飛び降りて、好奇心をそのままに崖下を覗き込んでは嬉しそうに言っていた。
そんなミカの後に続いてラージとケント、そしてストログも車を降りた。すると、ケントが崖に近づき過ぎのミカに注意するのも含めて口を開いた。
「おい気をつけろ。ここはヤッセの断崖だ。一応、観光名所にもなってるんだ、マナーは守れ」
「うるさいなー、ちょっとぐらい大丈夫よ」
ケントの声をうざったらしく跳ね返したミカは、もう少し崖下を覗き込もうと身を乗り出した。
崖下から吹き上げる風がミカの帽子と髪を揺らして、上と下までの落差を教えさせるようであった。
さっきまで空高くを飛んでいたため、あまり落差に恐怖を感じはしないな、とミカは「ふむ」と頷いた。が、ちょうどその時、波間に何かが見え隠れてしているのが見えた気がした。
本当に気のせいだと思えるぐらい一瞬で、人型のようにも見えたし、ゴミかなにかにも見えた。
「なんだろう?」と首を傾げたミカ。
そこへ。
「自殺の名所でもあったな、ここは」ストログが余計な一言を告げた。
その瞬間、ミカがビクッ!と背筋に寒気を走らせると青い顔をして、腹這いのままバックしてくるとラージとケントの間にすっぽりと収まった。
「どうした?ミカくん?」ラージが問いかけた。
「みみみ見てない・・・。私はなんにも見てない。あれは、きっと・・・そうよ・・・いらなくなった映画会社のロゴとかよ・・・そうよ」
「あれって使い捨てなのか?」
何を見たか知らないが、震えてミカがぶつくさ言うのにラージとケントは首を傾げた。
と、そこで、ケントは何故ここに降りたのかとラージに聞こうとした。
「あのさ」
「オマチシテオリマシタ」
するとケントの声を割って機械音声が介入してきたのだった。
潮風を浴びて機械な声の主に皆が注目した。
そこにはガンメタリックなギラギラのシルバー色をした人間が立っていた。否、機械の声の通り、人ではなく機械そのものであった。濃いシルバーのボディをガチャガチャと動かす人型ロボットが、そこにはいたのであった。しかし、鋼鉄の身体はどこか傷だらけで、ところどころには塗装の禿が見えていた。
そんな、重苦しい見た目のロボットは頭部を動かすとケントとミカを見て動きを止めた。
「オヒサシ ブリデス ケントサン ミカサン」と、突然二人の名を呼んだのであった。
「え?」
「なんで私達の名前知ってるの?!」
無論、ケントとミカトが出会ったこともないロボットからの挨拶に疑問符を打った。だが、その答えにロボットは眼球部分にあたるセンサーをキュルキュルと動かすと、頭部に埋め込まれている多数のランプを光らせ『思考』した。そして。
「アァ ソウカ コノスガタデハ ハジメテデシタネ ワタシデス ベンリヤ ノ バルンデス」
思いがけない自己紹介であった。
「バルンだって!?」
「嘘!?バルンってあのフリスビーみたいやつでしょ?!」
二人が驚いて『バルン』と言う名を思い出した。前の冒険の折、共に行動することになった便利屋のパートナーである。しかし二人の知るバルンは、自動掃除機のような円盤型で、とても目の前にいるガンメタボディの人型ロボットではなかった。
驚き続けるケントとミカ。ラージとストログは、特別騒ぐこと無くバルンの『主』が出てくるのを待っていた。そこへ。
「そいつは代機だ。あまり良いのがなくて、そんなレトロタイプになったんだ。しかし・・・フリスビーはひどいな。バルンはあれが気に入ってるんだぞ?」
新たな声が飛んだ。それはミカとケントも知る声だった。
声のした方。バルンを名乗るロボットの背後から1人の男がやってきた。ゴーグルを付けた鳩族の渋い男。便利屋の主、その人である。
「ジョット!」ケントが叫んだ。
「よぉ、久しぶりだな・・・――しかし、ミカはわかるとして・・・傭兵までいるとはな」
と、便利屋ジョットはゴーグル越しにストログをチラリと見ると、小さく笑みを作った。
それに軽く睨み返すストログだが、ジョットはあしらうように視線を外すと今度はラージに歩み寄った。
「これで全員か?」
「あぁ。急に頼んで悪いな、便利屋。報酬は弾まさせてもらうさ」
「なに、こいつらには俺も世話になった。まともに商売するつもりはないさ」
短くやりとりを終えたジョットとラージ。なにやら、初めから商談でもあったようで、2人の間で会話が終わったことにケントとミカは首を傾げた。
「さて、それでは・・・――目的地の説明をしようか」
するとそんなケントたちへとラージが話は始めた。
「便利屋には既に話してあるが・・・向かってもらうのはデロイトという星だ。古代機械の発見が多い場所でな、ザヴィエラもそのことで目を付けていたのだろう・・・メモに残されていたモノでも比較的頻繁に記されていた星だ」
「機械ワクセイ トモ ヨバレテイマス」バルンが付け足した。
「・・・そう。つまり旧い機械に旧いツールだらけの星だと思って欲しい・・・規制や法もまだしっかりしていない頃のものまであるらしく、現在では違法となっている代物だってあるかもしれん。そういったものは、たとえ見つけても触るんじゃないぞ。特にケント」
「・・・わかってるって」
子供に言い聞かせるように言うラージに、ケントはちょっぴりと不満顔を見せた。
「よし。それとだ・・・」そんな空返事のケントを見ながらにラージは話を続ける。
「向こうには協力者がいる。ザワークロウという考古学者だ。デロイトに付いたら、まず彼に会うんだ」
「ザワークロウ・・・ね、了解、兄ちゃん」
「旧いツールがいっぱいかぁ」
ラージからの指示に大きく頷くケントと、横で妙な妄想にふけるミカ。
そんな光景に、まとまりのなさを感じながらもジョットは息を付くと、説明を終わらせようと手を叩いた。
パンパン!と、音を鳴らせて皆の注目を自分に集めるジョットは、そのままラージの説明を引き継ぐように口を開いた。
「さて、出るなら早くしてもらおうか。俺にも次の仕事があるんでな」
ケントらに言って、出発を促した。そんなジョットが後方を指差し愛機である宇宙船リバリー号に乗り込めと告げるが、そこに見えたのはケントとミカの知っているリバリー号ではなかった。
全体が黄色で彩られた丸っぽい形状の宇宙船で、ところどころで塗装が剥げて、書かれていただろう文字やロゴマークらしきものもギザギザに削れている状態だった。
「・・・悪いなリバリー号もメンテ中でな、こっちも代車だ。なに、運行するには問題はないさ」
言いながらにジョットは黄色い宇宙船のハッチをのけて、先行して乗り込んだ。続いて、バルンもガチャガチャと機械の足音を鳴らせて乗り込んでいく。
「・・・えらい派手になったな」
「――おそらく入ら下げられたタクシーというところだな」
ケントとストログが黄色い球体にあまり良い感想を持たずに呟いた。
「あら、可愛くていいじゃない?」
唯一女性らしい意見を飛ばして、ミカはウキウキ顔で宇宙船に乗り込んでいくのだった。
そんな彼女に一度、お互いに目を合わせたケントとストログ。なんとも言えない表情を浮かべながらにミカの後に続いて宇宙船に乗り込むのだった。
※
「ケント!ミカくん!くれぐれも気をつけてくれよ!」
断崖より浮遊を始めた黄色い宇宙船に声を大にしてラージが手を降っている。
それに対して宇宙船の窓から顔を覗かせてミカとケントは手を振りかえした。ラージの姿はどんどんと小さくなっていく。同時に断崖も、まわりの景色も小さくそして遠ざかっていく。もはやラージの姿は肉眼では捉えられず、惑星パングリオンの全景を見渡せるほどまで上昇を果たした。
「宇宙に出るぞ」「スコシ ユレマス」ジョット、バルンの声が聞こえてケントらは窓から目を離した。
少し広めのコックピットで、前と同じようにバルンが操縦桿を握りジョットが指示を飛ばしている。ケントらは2人のほんの後ろで備え付けられていた古めかしいシートに座っていた。
次の瞬間、バルンの忠告通り機体はガタガタと揺れだして、窓の外も空の青から宇宙の黒へと変わっていく。やがてガタガタと騒がしい振動はバルンの「ウチュウクウカン ニ トウタツ シマシタ」と言うアナウンスと共に静まるのだった。
「へぇ、あれがパングリオンか」ケントが再び窓を覗き込んで言った。
「あぁ、そっか、前の時はすぐに星間列車に乗ったから見てなかったのね」ミカは、ケントに告げて同じく窓を覗き込んだ。
青と緑が美しい宇宙に浮かぶ大きな球体。惑星パングリオンはただ静かに、そこに佇んでいた。遠く見える星から生えた糸のようなものは、きっと星間トンネルだろう。前はあれを使って星を出たのだと、少しだけ感慨深くなるケント。
しかし、そんな落ち着いた気持ちも束の間、ミカが船内をあれこれと探り始めたのだった。
「これもかなり旧いタイプね・・・まぁ、でも流石にリバリー号よりは新鮮さを感じるけど」
操縦席や周りの計器などを覗き込んでミカが言った。確かにジョットの愛機リバリー号は古代遺物を集めて作ったオリジナルカスタムの宇宙船であった。そんな古代のものと比べれば、殆どのものが新しいと言えて当然である。
「元はレース用だったらしいが、それが自家用になり、タクシーになり、ラーメン屋台になり、トレーラーハウス代わりになったそうだ」そこへ操縦をバルンに任せたジョットの声が飛んだ。
「・・・壮絶だな、こいつの人生」
ケントは自分たちを運ぶ宇宙船に同情の声を掛けた。
「――元はレース用か・・・それなら高速化の機能があるんじゃないか?」
そこへストログが一言告げた。
それにはミカも「なるほど」といった顔を見せた。
「ご明察。流石ナンバー1傭兵だな。――それがあるから死に体だったこの機体を選んだんだ。ま、装置自体は壊れていたが、バルンがいれば簡易的だが復元可能だからな」
「マカセテ クダサイ」
操縦桿を握るシルバーボディのバルンが、瞳代わりのランプを点滅させる。
「・・・よし。―――あぁ、しかし、これを使うと宇宙の旅路は短くなるが、構わないか?」
どこか自慢げに告げるジョット。ミカもケントも、高速化なるものがどんなものかに期待を膨らませて、不満な仕草など一切見せずに首を縦に振った。
「わかった。――バルン!高速化だ!」
「リョウカイ」
ジョットの指示を受けて、バルンは機械の腕をテキパキと動かすと操縦桿周りの装置をいくつか手早く操作した。様々なランプが点灯したり消灯したり、トグルスイッチが上に下にと切り替えられては何かが起こる前触れを報せている。
「高速化、起動!」
「コウソク モード ”コバシリ” キドウ シマス」
瞬間、バルンが可愛らしい名を言って、頭上のレバーを押し込んだ。同時に、機体内には唸るような駆動音がこだまして騒がしくなっていく。
「マタ ユレマス ゴチューイ クダサイ」
そしてバルンの再びの忠告の中、宇宙船はガタン!と一度大きく振動したかとおもうと、それまでの航空速度の何倍ものスピードで動き出したのだった。
先程よりも大きな揺れの中、全員がしっかりと支えをとるために固定されたものに掴まっている。しかしストログだけは、この程度の振動は意に介さないのか無言で仁王立ちのままだった。ミカは、これは好都合とストログに掴まっては難を凌いでいた。
やがて黄色の船は、宇宙を流れる一筋の流れ星如く突き進み――・・・パングリオンから遠く離れた別の惑星の付近まで一気にやってくることに成功するのだった。




