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29話 箱庭の中の悪意

胡散臭い笑顔、小柄な体格、白を基調とした服装。俺がイメージする『魔王』とはまるでかけ離れた風貌のこの男。

 しかし、姉さんからもらった能力で二回も殴ったにも関わらず、平然とした態度、さらに二回は避けられていて、普通ではないのはあからさまだ。



「魔王って……死んだんじゃないのか」

「ん?世間じゃそうなってんの?」

「俺はよく知らないが……この島を拠点とした魔王がいたって噂話を聞いた程度だな」

「ふーん……、噂、ね」



 なにかひっかかりを感じたのか、含んだ表情をする自称魔王。とにかくこいつが魔王だろうが誘拐犯だろうがどっちでも、俺にとっては同じだ。

 二人の魔力を探ってテレポートで救出し、その後ぶっ飛ばして終わり。これでいこう。



「あいにくだけど、俺にはお前と遊ぶ必要なんかないんだ。じゃあな」

「え~、せっかく友達になれたのにちょっとぐらい遊ぼうよ」

「誰も友達になんかなってねぇよ」



 こいつのことはほっといて、二人を探そう。そう遠くない場所にいれば探知など朝飯前だ。

 ……


 ……


 ……


 彼女らの魔力が見当たらない。リリアさんはともかく、スゥさんの魔力なら一度身体に入れたことがあるから波長はわかりやすいのに。

 自称魔王の得たいの知れない能力で、感知できないようになっているのか?それとも……考えたくはながいが、もし、この世にもうすでにいないものとされていたら。俺は絶対に許さない。



「眉間にしわ寄せちゃってどうしたの?ひょっとして~、彼女らが見つからないとかぁ?」



 わかってる癖にとぼけるこいつの態度、人を怒らせる天才か。安っぽい挑発する魔王がどこの世界にいるんだよ。それにまんまとひっかかる俺も単純だが。



「『魔王の箱庭ブラックエデン』。君たちはすでに俺の世界にいるってこと、言ってなかったっけ」

「お前の、世界?」

「そうさ、俺が魔王として張り切ってた頃に使っていた能力の一つでね。寝起きだからか、この島一つ分までしか支配できないけど、つまり!今この島は俺の支配下にあって、そこでは俺こそが神なのさ。魔王だけどね」



 リリアさんが突然消えたのも、スゥさんが死んだように見せかけたのも、全部こいつの思うがままの通りにやれるってことか。

 悪質な能力だな、こんな奴相手に昔の人々はどうやって勝ったんだろうか。今があるということは、なんらかの方法で打ち破ったんだろうけど。



「君たちを生かすも殺すも俺次第。機嫌を損ねたらどうなっちゃうか、コミュニケーション能力はなくてもわかるよね」

「……」

「沈黙はイエスってことかな?よし、じゃあ俺と遊ぶってことでよろしく~!」

「さっきから遊ぶ遊ぶって、何して遊ぶんだよ」

「それを説明させなかったのは君じゃん。あ、名前なんてーの?」

「レイ・アサギリ……」

「レイくんね!俺のことは……魔王でいいよ魔王で。名前なんて忘れちった」



 飄々としていて目的も不明。こいつは何がしたいんだ?人質を取ってまで遊びたがる理由もわからない。まぁ魔王なんてそんなものなのかもしれないが。

 ただの悪だから、単純に俺たちを弄びたいとか、その程度の理由しかないのだろう。



「彼女らはこの島のどこかに囚われているはずだ。それを探し出して救出する遊び。簡単だろ?君、強いしね」

「はずだ、なんて白々しい。自分がやった癖に」

「たはー!細かいねレイくんは!揚げ足取りばっかりしてちゃモテないぞ!」

「じゃあ少なくともまだ生きてはいるってことか」

「おそらくね。まぁ時間の問題だろうけど」

「……二人に何かあったら俺がお前を殺すからな」

「おーこわ。俺も手伝うからがんばって助けようぜ!レイくんに殺されたくないし」



 は?こいつもついて来るってことか?ますます何がしたいのかわからない。自分で人質を取って隠して、救出の手助けをする。

 自分で作ったネタのわかってるゲームを、自分でクリアするのと同じだぞ。そんなの楽しいのか。



「なんでもいいけど、残った仲間に手出すなよ。特に姉さんに手出したらその場で殴り殺すからな」

「いちいち物騒だなー。ちなみにそれは約束できない。なんせ俺は気まぐれだからね。おっと、俺を殴ってる暇なんかないぜ。手遅れになる前に助けなきゃ」

「お前……」

「いいからいいから。まずはどっちを助ける?レイくんの好きなほうでいいよ。あ、好きっていってもラブかライクかなんて俺は気にしないから」



 口の減らない奴だ。しかし、助けると言っても手掛かりが全くない。こいつを問い詰めるっていう手もあるが、絶対に割るようなタイプではないのは明白だ。

 魔力を辿ればいいかと思ったが、ジャミングを受けたような波長の乱れを感じる。これだと対象に向かってテレポートする事もできなそうだ。

 ビーチに残してきた姉さんたちの安否も気になるし、ここはひとまず皆と合流しよう。



「とりあえず船のほうに戻って仲間と合流する。お前のことも説明しなきゃならんし」

「おっけー、みんな消えてなければいいけどね」

「イライラするからその白々しい態度やめろよ」

「ごめんごめん、ほら、これでも魔王だから」



 そんな小さい魔王がいてたまるか。ついてくるのは引っ掻き回すのが目的だろうか、こうやって人をイラつかせて楽しんでいるんだろう。

 不本意ではあるが、逆らえる状況でもないし、事態が好転するのを待つしかない。


 俺たちは、元いた場所へ引き返した。歩いている途中で、姉さんたちの姿が見えたのでホっと一安心する。

 誰一人欠けることなく、全員が無事なようだった。


「ただいま」

「あ!レイくん、よかった……無事だったのね」

「スゥちゃんは……」

「ごめんユバシリさん、スゥさんも姿が見当たらなかったよ……」

「そ、そんなぁ……」



 涙を浮かべて膝を落とすユバシリさん。無理もない、友人が二人も一気に消えればショックも大きい。

 クソっ、俺が連れてきてさえいれば、スゥさんだけでも助かったかもしれないのに。



「おいアサギリ、そいつは?」

「こいつは……」



 俺は簡潔に要約して、今回の事件のあらましを説明した。もちろんソウタも俺と同じ反応をし、魔王に殴りかかるも、最小限の動きで難なくかわされ、逆にソウタが息を切らすハメになってしまっていた。

 敵の親玉を引き連れて、敵が作った舞台で踊るというあまりにもバカバカしい現状だ、ソウタの気持ちもわかる。



「というわけでバラバラに探すのは危険だ。こいつが何をするかわからない以上、皆で行動したほうがいい」

「ウルが見張っとく!」

「お、こんな可愛い子に見つめられるだなんて僕は幸せだなぁ」

「おい、闇雲に探してもこの広い島だ、見つかる可能性は低い。何かヒントぐらいないのか?お前にとっては遊びなんだろ」

「ちゃっかりしてんなぁ。まぁいいけどね。じゃあ二人が消えた時の状況を教えてくれよ」



 状況って……、お前が消したんじゃないか。あくまでシラを切って遊びに徹底するつもりか。



「スゥさんは……酔っ払ったみたいな雰囲気で錯乱してたな。リリアさんは本当に一瞬で消えた。物音一つなく」

「酔っ払いのほうはアテはないけど、突然消えた子のほう、その子はどんな子?」

「ん?いつも明るくてムードメーカー的な存在のエルフ族の子だよ」

「……なるほどね、それなら心当たりがある。あいつならそういうのを選びそうだ」

「あいつって?」

「よーし大ヒントだ!この浜辺を真っ直ぐいくと廃墟となった建物がある。そこを調べてみるといい」



 それってヒントというより答えなのでは……。こいつの言動の意味を考え出したらキリがないからやめよう。

 無視されてしまったが、『あいつ』というのは一体なにを指してるのか。このまますんなりと救出させてくれるとも思えないし、何か罠をしかけている可能性もあるな。



「一人目のボスは~、“大賢人”『シャイアーヴル』!さぁ果たしてお前らは彼女を倒し、女の子を救うことができるかな……?」


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