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28話 目覚める者

「ソウタ、ちょっといいか?」

「ん?どうした、スゥを連れてくるのに失敗してアドバイスでもいただきにきたか」



 見方によってはあながち間違いでもない。スゥさんにくだんの症状が出てなかったとしても、けっこう精神的に参っていたっぽいしなぁ。そして俺には彼女とのトーク力が足りていない。



「スゥさんの様子がおかしいんだ。今はなんとか眠らせてあるけど、なんというか……酔っ払い、みたいな?この島ってそういう症状が出る『何か』があったりするのかなって」



 自分でもわかるぐらい説明下手なのが泣けてくる。かといって事のあらましを逐一報告するのもスゥさんがかわいそうだ。

 そういえば俺には症状が出てこないな。身体能力強化してあるから効いてないのか、少なくとも精神に干渉するタイプではなさそうだ。



「この島には小さい頃からきてるが、危ない目にはあったことないぞ。スゥが一人で飲酒……なんて絶対ありえないしな」

「ねぇ、こっちにひとまず連れて来た方がいいんじゃないの?私とサユで連れてこよっか」

「う、うん」

「ちょっと待って!」



 今スゥさんが寝ている周辺になにかあるのだとすれば、二人を行かせるのは非常に危険だ。共倒れになる可能性もある。

 行くなら適任なのは俺だ。……状況が状況だし抱えるのが恥ずかしいとか思ってる場合じゃないな。



「念のためにみんなは船に入ってて欲しい。原因不明だからなにが起こるかわかんないんだ」

「レイくん、そんなに危なそうなの?」

「色んな意味で危なかった……というか、全員がなったら確実に危険だ。ほんとに」

「レイも危ないよ!」

「俺は大丈夫だから姉さんたちと一緒に避難しててくれ」



 内なる自分を解放する症状だとしたら、ここにいるメンバーは危ない人物ばかりだろう悪いけど。自分のことを棚にあげてどの口が言ってるんだ、とお叱りを受けそうである。



「それじゃみんな、一度船内へもどろっか!」

「ね、ねぇ、リリちゃんは……?」

「ん?そこにいたじゃねぇか……っていねぇな」


 !? おかしい、さっきスゥさんを連れてこようと提案したのは彼女だ、ついさっきの出来事だぞ。遠く離れる時間なんてなかったはずだ。

 消えた?一瞬で?今俺たちに何が起こっているんだ?スゥさんを置いてきたのは間違いだったか!



「ごめんスゥさん連れてくる!みんなは固まって周囲を警戒してて!」

「え、な、なに?なんなんですか!?」

「サユキちゃん、大丈夫。いざとなったら私がみんなを守るから」

「リリアのやつどこ行ったってんだよ!」

「ウル探そっか?けっこう耳と鼻いいんだよ」

「いや、俺が戻るまでその場から動かないでいてくれ」



 砂地の足元を思いっきり蹴り、スゥさんの元へ走る。走るというよりは跳躍に近い。

 リリアさんが忽然と姿を消した。これでスゥさんも消えていたら俺はどう責任を取ればいいんだ。

 事態は考えているより深刻だったのかもしれない。


 そばに駆け寄った俺は彼女の姿を確認する。


「スゥさん!……ス、ゥさん?」



 赤赤赤赤赤。目の前には真っ赤に染まった、白い砂。その上にはスゥさんがまだ眠っていた。

 胸に一本の槍を突き立てて。



「は?……」



 なんだこれは?俺も錯乱状態に陥ったのか?目の前の光景がよくわからない。スゥさんを眠らせたのは俺の魔法だ。寝ているのはおかしなことではない。ではこの槍はなんだ?俺はこんな物を彼女に突き刺してはいない。これはおかしい。記憶にはない。

 スゥさんから流れ出たと思われる液体は?これもおかしい。彼女はさっきまで俺にしつこく絡んでいた。その時には流れていなかった。



「ス、スゥさん。その冗談は、わ、笑えないんだけど。罰ゲームにしちゃ悪質だよ、はは……」



 おそるおそる手を伸ばし、彼女の肌に触れてみる。その瞬間、バシュッと音を立てて、彼女の身体は消滅した。

 !? ど、どういうことだ?



「あははー、びっくりした?した?」



 背後から聞きなれない声がした。あわてて振り返ると、見慣れない小柄な男が立っていた。この島の住人か?ここは完全な無人島だと聞いていたはずだが。

 


「だ、だれだ?」

「びっくりしたか、って最初に聞いてんのはこっちなんだけどぉ」

「スゥさんに何かしたのは……お前か?」

「話聞いてよー、さてはコミュニケーション能力が低いな?君……うわっ!と、いきなり殴りかかってこないでよ。やっぱコミュニケーション下手でしょ」

「!?」



 冷静でなかった俺は、この男が一連の事件に関わってると判断し、実力行使に移った。

 が、こいつには当たらなかった。まるで俺の攻撃を見切ったかのようにギリギリでかわされた。この強化した身体の攻撃を避けられることは想定していなかったため、驚きが勝る。



「お前……、なんなんだよ」

「君って会話苦手なの?順序よく話すのがコミュニケーションの基本だぜ?」

「……驚いた」

「あっはー!君って素直だね!バカ正直っつうか!っっとぉ、危ない危ない」



 カチンときたので突進と合わせて全力で拳を振りぬいた。が、またしてもギリギリのところで避けられる。

 この男には俺の動きが見えているのか……?



「……質問に答えたから次はこっちの番でいいだろ。スゥさんとリリアさんを消したのはお前か?」

「それってあの女の子二人?うーん、どうだろうなぁ~、俺だったらどうする?」

「質問に質問すんなって言ったのお前だろ」

「あっはは、一本取られたなこれは!」



 こいつ、まともに会話する気がないな。こっちをおちょくって自分のペースに持ち込む気持ちの悪いタイプ。

 落ち着いて冷静にならねばこいつの思う壺だ。だいたいとぼけてるが『あの女の子二人』と言ってる時点で黒もいいとこだろう。



「悪いけど俺はコミュニケーション能力ないからこれ以上会話するつもりはない。覚悟しろ」

「うわ、こえ~。でもまだ一発も当たってないぜ俺。」

「じゃあお前の肩についてる跡はなんだ?」

「んん?」



 すかさず懐に飛び込み、顔面をぶん殴る。ちらっと肩を見る奴の隙を突く騙まし討ち。

 確かな手ごたえを自身の握り拳に感じた。

 マキラさんの教えが早速役に立とうとは。といってもただの騙し討ちだが。

 宙に舞う奴の身体が、砂地に衝突する。殺しはしないよう、軽く殴ったつもりだ。二人の居場所を聞かないといけないからな。



「ってぇ~~~。卑怯だなー君は。」



 ……いくら加減したからといって、「いてぇ」で済む威力ではないと思うが、つくづくこいつは何者なんだ。まぁいい。



「二人をどこにやったか教えてもらおうか。言うまで帰れると思うなよ」

「君、かわいい顔して言う事おっかないねー。あれ?男の子だったのかな、ごめんごめん」

「お前の手口はもうわかってる。次また挑発したら腕をへし折る」

「ちぇーっ、つまんねぇの。引っ張ってもグダグダになるだけだし正解発表でもするか。答えは……」



「俺ー!犯人は俺でしたー!意外な犯人におどろぶっ!!」

「無駄口を叩くな。二人をどこへやった」

「いってぇ~、恐い怖い、目がこわいって!君けっこうサディスティックだねぇ。あ、ごめん無駄口禁止だったね」

「……」


 このリズムは崩さない。ペースは俺が握る。


「単刀直入に言おう。この島で俺と遊ぼうじゃないか」

「は?」

「題して!『姫の騎士ナイトは君だ!愛は世界を救う……』ってとこでどう?今適当に考えたんだけど」

「無駄口叩くなって言ったはずだが」

「おいおい、拳を下ろせよ。俺はマジで言ってんだぜ?マウント取って有利になったつもりだろうが、二人の女は俺の手中にあるのを忘れてもらっちゃ困る」



 ……適当なのはフリだってことか。人質を取られているようじゃ、確かにこっちが不利である。

 こいつが何を考えているのかわからんが、話を聞くしか選択肢がないようだな。

 俺は振り上げた拳を下ろした。



「話を聞くってことだね。なにも取って食おうってわけじゃないんだ。俺もついさっきまで眠っていた身でね。目覚めた瞬間、今までの出来事を一度に思い出したんだ」

「眠っていた……?」

「あぁ、自己紹介がまだだったね」



「俺のことは『魔王』と呼んでくれ。昔は人々から散々忌み嫌われて呼ばれたこの名前、嫌いじゃないんだよねー」



 こいつ、正気か?しかし、ふざけてるとは思えない。

 俺の動きを見切った人間離れした身のこなしには説得力がある。

 とんでもない奴が現れたな⋯⋯。

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