表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/31

30話 想いと記録

 魔王との会話の節々に何か違和感があるが、それがなんなのかはわからない。ただ、なんとなくそう感じるだけだ。

 なんの手掛かりもない今は、こいつの言うとおりにその廃墟とやらへ行ってみるしかない。



「急がなきゃいけないけど水着のまま行くのも危ないし、着替えてこよっか」

「え~、水着いいじゃん!目の保養目の保養。うわ、すげぇおっぱい」

「姉さんをふしだらな目で見たら殺すぞ」

「アサギリ、すまん許してくれ」

「なんでソウタが謝るんだよ……」



 なにがあるか不明な以上、軽装でいくのはまずい。ひとまず着替えにコテージへ戻ることにした。

 だが、コテージへと登る階段に足をかけたソウタは、思いっきりずっこけてしまった。まるでホログラムのように階段をすり抜けてしまったのである。



「ってぇ、なんだよこりゃ!?」

「おい、どういうことだ?」

「あっちゃ~、どうやらこの先へは行けなくなっちゃったみたいだね。船へも帰れないんじゃないかな」



 元より見捨てるつもりなどサラサラないが、解決するまで脱出することは不可能なようだな。

 それと、他人事のように話しているが、これは魔王の能力じゃないのか?まさかランダムで効果が発動してるとかじゃないよな。



「しょうがないか……、出し渋らないで使うね」


 そう言うと、姉さんは目の前を指さし、そこが光り出すと、即席の更衣室と、各々の着替えが創り出された。本当は隠したかったんだろうけど、状況が状況だしなぁ。



「は!?お姉様、これは!?」

「みんなお願い!私の能力は内緒にしててね」

「物を生み出す魔法なんて……初めて見た……」

「多分世の中にはない魔法だから、あんまり広めたくないの。ごめんね」

「アサギリといいお姉様といいなんかすげぇ姉弟なんだな……」


「へぇ~、おっぱいの大きいお姉ちゃん、すごい能力持ってんだね」

「その呼び方やめろ殺すぞ」

「やだなぁ~物騒だよレイくん、冗談だって!」



 姉さんの胸は宝だぞ。軽々しく見ていいものではない。俺が恥ずかしくて見られないだけだが。

 そんな悠長にもしていられないため、ささっと着替えを済ませて廃墟があるという方角へ歩みを進めた。

 しばらくすると、明るい島の雰囲気にはとても似つかわしくない、おどろおどろしい破損したレンガ造りの建物が見えてきた。

 その辺りだけ薄暗く、日光を遮っているようで、もやのようなフィールドが発生している。


「おっかしいなー、小さい頃ここにきたときはこんなのなかったが」

「見るからに怪しいな、姉さんとウルとユバシリさんは下がってて」

「お、おいアサギリ!俺はいいのかよ!」

「ソウタって運動神経よくなかったっけ?」

「いや運動神経関係ねーだろ!」

「俺も運動は苦手だからね~、レイくん一人でなんとかしてよ」

「お前はそれでも魔王かよ……」



 仮になんらかの攻撃を受けたとしても、無事でいられる可能性が高いのは俺だから、先陣を切っていくしかないか。自称魔王なんぞに元々期待してはいないし。

 淀んだ空気の中へ足を踏み入れると、見た目通りの不快感。生ぬるい風と、少しの耳鳴りがする。



「リリアさーん!聞こえるー!?」



 俺の声は反響しこだまする。が、返事はなく、虚しく響き終えた。

 中にはあちこちに蜘蛛の巣が張っており、埃まみれで人がいるような形跡はない。

 情報の出所があいつなだけに、イマイチ信用できないところではある。


 一つ部屋を見つけたので入ってみる。中には武器やら防具やらといった装備があった。もちろんすでに壊れていて使い物にはならなそうだが。

 こんな物騒な物が置いてあるなんて、どういう用途の建物だったのだろうか。ソウタは見覚えがないと言っていたな……。



 その部屋にあったテーブルの上には本が置いてあった。手にとって一ページ目を開く。



『ついに魔王との決戦に送り込まれてしまった。もう後戻りはできないだろうから、遺書代わりにここへ記しておく』



 これは……日記だよな。魔王との決戦ってことは、当時魔王と戦った者の日記か?なんでそんなものがここへ……。

 次のページをめくってみる。


『正直に言うと、私はここへきたくはなかった。でも、人々は私たちに期待を押し付けてくるし、仲間もみんなやる気に満ち溢れている。ここで反対意見なんて言えない。だってみんなは私の友達だから。友達を失いたくはない。この仲間を失ったらこんな私に一生できるわけがない』



 決戦前だろうか、なかなか憂鬱な気持ちにさせてくれる日記だな。読み進めていくと、どうやらこの建物を拠点にし、魔王のいる島を攻略していたらしい。

 道中にはびこる魔物を倒しつつ、魔王が居座る山頂の城を目指す。まるでRPGゲームのようだな。なんて言ったら当事者たちに失礼か。

 いざ魔王を倒しにいってこいなんて言われたらどうなるか、想像もつかない。

 パラパラと陰鬱とした日記をめくっていくと、魔王と接触した日にちを見つけた。



『魔王自ら姿を現した。もうここで死ぬんだなと思ったが、マリアーテが善戦してくれた。やっぱりマリアーテは強くてかっこいい、私の憧れのひと。幸いにも誰一人欠けることなく魔王を退けさせることに成功した。けど5人がかりでも倒せないなんて、もう無理だと思う』



 相変わらずネガティブな日記だが、そこで読み取れるのは、魔王の強さとそれに匹敵する仲間がいたっていうことだな。

 あのヘラヘラした魔王とは別人なんだろうか?とてもじゃないがそんな強いようには見えない。

 翌日も翌日も、そのまた翌日も魔王との死闘が続いていったようだ。

 ある日を境に内容が少し変化してきた。



『だんだんと魔王と会話する時間が増えてきた。油断してる隙に殺してしまえばいいのに、私の仲間はみんな良い人だから不意打ちなんてしない。でも、マリアーテが魔王と話してる姿を見るのはもやもやする。気に入らない』



 妙に共感してしまうのは気のせいだろうか、この人は魔王に嫉妬してしまったんだろうな。それにしても、魔王と対話するなんてありえるんだろうか。その辺はあいつっぽいような気がしないでもないが……。

 この後のページは焼ききれているようで読めたものではない。そして、日記の隅に小さく名前が書かれているのを発見した。



『シャイアーヴル』



 ん!?この名前、どこかで聞いたような……。



(第一のボスは“大賢人”『シャイアーヴル』!)



 あいつが言ってた名前と同じ……、つまりどういうことだ?リリアさんを攫ったのはこの日記の持ち主……?

 いやしかし、あいつの能力によって行われていることだろ?この人を代役にしたってことか、つくづく悪趣味な奴だ。

 日記をテーブルに置き、なんとなく手を合わせてお参りした。その時、肩に何者かの手が触れる。



「う、うおおおおおおあああっ!!!」

「うわっ!びっくりさせないでよ!」

「え、あ、リ、リリアさん!無事だったのか」

「うーん、何が起こったのか自分でもわかんないんだけど気づいたらここに寝てて……もう体中埃まみれだよー」



 背中やお尻に埃が付着し、薄汚れているようだ。水着で汚れた身体ってなんかグッとくるものがあると思いませんか?

 それはさておき、こんなところはさっさと脱出しよう。気が滅入ってくる。



「行こうか、リリアさん」

「他の皆は?大丈夫?」

「あぁ、ただスゥさんは……リリアさんと同じで行方不明なんだ」

「そんな……」

「大丈夫、俺が絶対助けるから」

「アサギリくん……」



 今は強がりでもこう言っておいた方がいいのはコミュニケーション能力がない俺でもわかる。女の子を不安にさせるわけにはいかない。

 みんな揃って無事に帰るまでが夏休みってもんだろ。


「待って……」



「ん?リリアさんどうしたの?」

「へ?なにが?」

「いや、今待ってって……」

「言ってないけど……」



 そんなはずはない、確かに声を聞いたぞ。リリアさんでないとしたら誰だ……?

 それになにか違和感がある。……部屋の雰囲気が違うな。さっきそこにあった武器と防具が……ない?


「置いていって……私の……依代よりしろ!」



「ね、ねぇアサギリくん、あれ……!」



 どこからともなく聞こえてくる声を合図にしたかのように、防具を纏った煙が武器を携えてガチャガチャと取り囲むように動き出した。

 な、なんだこいつら?魔物の類か?明らかに敵意を持ってこちらへ向かってきている感じがする。



 俺は手でリリアさんの前を遮るようにし、彼女を背後に回らせ、臨戦態勢を取った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ