24話 罰ゲーム、サユキ・ユバシリの場合
俺は、このゲームにおける、本来ではありえないはずの、ゲームマスターによる不正があったことを説明し、謝罪した。
言い訳じみてはくるが、もし、こちら側が勝って終わっていたとしても脱衣をさせる気はなかったことも含めて。
「ゲームを盛り上げるためと考えてやったことだったけど、みんなの信用を失った事に違いは無い。ごめんなさい」
精一杯の謝罪をし、その場に土下座する。許す許さないは俺が決められることではないので、後はみんな次第だ。
「んーそっかぁ、でも私はけっこう楽しかったし許すよ!」
「あ、あの、私は特に怒っているわけではないので……」
あぁ、俺の周りには女神しかいないのか。どうしてこうも皆、心が広いのか。自分の存在が小さくなっていく。
「ふん、私が負けたのも不正があったからってわけね。なら納得だわ。あの勝負はチャラよ」
「いや、スゥさんのときにイカサマはなかったんだ……」
「…………」
これは黙ってていたほうがよかっただろうか。余計な一言を添えてしまった。
「許しはしたけど罰ゲームは別だからね!7日間じゃなくてもいいけど私たちの言う事聞いてもらおっかなー」
どさくさにまぎれて罰ゲームの存在は無かった事になるかと思ったが、流石にそこまでの甘えは許されず。
ただ、罰ゲームを受けることで、少しでもお互いに気持ちが軽くなるのであれば、甘んじて受けよう。
「レイくん、ごめんね。ちょっと懲らしめなきゃと思ったんだけど……」
「いいんだよ姉さん。追い詰められてるときちょっと興ふ……、じゃなくて、これに関しては悪いのは俺だから。姉さんも俺を奴隷としてこき使ってください」
言っておくが、願望ではない。あくまで俺に対しての罰である。こう言っておかないと姉さんは優しいから罰ゲームをしない可能性があるからな。罰ゲームを受けたがってるように見えるのは気のせいだ。願望ではない。
船に揺られること数時間、部屋の窓から見える甲板を、月明かりがまばゆく照らしている。海は非常に穏やかで、静かな波の音が耳に心地よい。
そんな中、俺の元へ最初の罰ゲームの命令が届いた。ノリノリなのはリリアさんだろうな、と予想していたが、まさかのユバシリさんからのお願いである。
内容は「部屋にきてほしい」とのこと。
大人しい彼女が部屋に呼び出すって……、想像もつかない。少しいけない妄想もしなくはないが。
ユバシリさんの部屋の前に到着し、扉をノックして彼女を呼び出す。
「きたよ、ユバシリさん」
「はーい」
返事が聞こえてくると同時に、小走りでかけよってくる足音がする。扉が開くと、部屋着に着替えた彼女が出迎えてくれた。
薄手の布の服になった彼女を見て目に留まったのは、その大きな胸だ。確かに学校の制服のときはあまり気にしたことがなかったが、やはり着やせするタイプだったのか。小柄な彼女には似つかわしくない二つの果実~なんて表現はおっさんっぽいだろうか。
「ユバシリさんが一番最初だよ、さぁ煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
「そ、そんな、別に食べたりしないよ……」
男女が二人きりで食べるだのなんだのと……、は、さておき、果たして彼女の『奴隷にさせたいこと』とは?
「アサギリくん、何も言わずに私の服を着て欲しいんです」
……は?ちょっとよく意味がわからない。
「え、っと?なんで?」
「し、質問は禁止です。何も言わずに着てください」
いつもより押しが強い彼女の命令は、全く理解ができなかった。俺が彼女の服を着る、そうすることによって彼女になんのメリットが?考えれば考えるほどわけがわからない。
何も言うな、ということなので用意された服を手に取ってみると、ヒラヒラしたスカートのワンピースだった。
こ、これを着ろというのか……。羞恥プレイで俺を辱める罰ゲームということか。サイズが合うのか心配だ。
「じゃあ着替えてくるね」
脱衣場へ移動し、彼女の服に着替えなおす。ゆったりとしたワンピースは、ちょうどいいとは言えずとも、そこまでの無理はなく着られた。
鏡に映った自分の姿を見るとげんなりする。俺はなにをやっているんだろう……。
「あ、あの、着替えたけど……これでいいの?」
恥ずかしさをこらえてユバシリさんの前に顔を出す。
「…………!」
ユバシリさんは、口を抑え、絶句しているのか?よっぽど女装した俺の姿が滑稽なのか、堪えているようにも見える。
彼女も中々やるじゃないか、これはかなり俺に効いているぞ。仕返しとしては十分だ。
「お、お化粧もしていいですか……」
「!? い、いいけど」
完全に女装させる気だ。まさか写真を撮って後々までゆするとか……。一発目の罰ゲームから大変なことになってしまった。せいぜい荷物持って~とか肩揉んで~ぐらいのレベルだと思っていたが、羞恥プレイをするハメになろうとは。
「あ、あぁ……、か、かわいい!」
化粧を終えたユバシリさんが、普段聞かないような大声を出した。なにがなんだかわからない俺は驚きと緊張でその場から動けなくなってしまった。
彼女は、その化粧した俺の姿を見てみろと言わんばかりに、鏡を目の前に置く。
「! こ、これが……俺!?」
そこには、どうみても女にしか見えない顔をした男が映し出されていた。確かに元から中性的な顔つきだとは言われたことはあったが。
「ちょ、ちょちょちょっと女の子座りしてください女の子座り!」
興奮しているユバシリさんが恐い。あの大人しく控えめな彼女を、何がこうさせてしまったのか。人間は理解が追いつかないとフリーズするって本当だったんだな。
ご注文の女の子座りとやらをしてみるが、あ、パンツ見えそう、危ない危ない。はっ、別にパンツぐらい見えても問題ないだろう男の俺は。
「こうで、いいのかな」
「あ~~~!もうなんでそんなに可愛いの……!」
恐い、恐いよ姉さん!今すぐ助けてほしい。この現状を誰か説明してくれ。俺は一体何をされているんだ。
「初めて会ったときからアサギリくんのこと、すっごい可愛いなって思ってて、女の子の格好させたらきっと似合うんだろうなって……、でもそんなこと言えないし、そこに罰ゲームっていう名目が飛び込んできたからもう我慢できなくなっちゃって……」
え、俺って今までそんな目で見られてたの?何か見てはいけない世界を見てしまったような気がする。
「ねぇアサギリくん……、いえ、レイちゃん……」
レイちゃん!?いかん、ユバシリさんの暴走が留まる事を知らない。ぐいぐいと詰め寄ってくる彼女に対し、俺は反抗を忘れていた。女の子が男に無理矢理言い寄られるときってこんな感じなのかな。
ユバシリさんの顔が迫ってくる。ドキドキしつつも後ずさりしていると、背後の壁にぶつかり、逃げ場を失ってしまった。
「ユ、ユバシリさん!ダメだよ!私たちそんな関係じゃ!」
一人称が女の子チックになってしまうほどの空気、ということを察していただきたい。俺は変態ではないし、ノリノリでもない。断じて。
さらにじりじりと、滲むかのように距離を詰める、ユバシリさん。
「レイちゃん、私たち女の子同士なんだからいいんだよ?気にしなくても大丈夫だよ」
違う違う違う違う。ゴリ押ししようとしているが、俺は間違いなく男だ。
ユバシリさんのの目はとろけそうなぐらい虚ろで、荒い息使いに紅潮した頬をしていて、もうこのままめくるめく、あらあらうふふな世界に飛び込んでしまいそうだ。
俺の初めての壁ドンは、女の子からでした。
「わ、私は男だからっ!ユバシリさん!ダメだって!」
「こんなに可愛いのに男の子なわけないじゃないですか。暴れないでじっとして……」
彼女の顔は、すでに俺の顔の横にある。すごく甘い、いい香りが漂ってくる。
「あっ……ユバシリさん、い、息が、耳にっ」
「うふふ、かけてるのよ」
拝啓、姉さん。俺は今夜、正常なルートとは程遠い、獣道もびっくりの道から段をすっ飛ばして、大人への階段を上ろうとしています。もう、女の子になっても、いいよね!
ゆっくりと、白い花園への扉が開き始めた……。
「おーいサユ~、一緒にお風呂行こうよー。みんなで大浴場行かない?って話してたんだけど」
突如、部屋に響くノックと、リリアさんの声。光の速さで飛びのくユバシリさんと、顔が火照って受け入れ準備万端といった俺の目線は、入り口の扉に集中する。
そこで我に返ったのか、ユバシリさんの表情が見る見る冷めていった。
「あ、あの、あ、す、すいませんアサギリくん!私ったらわけわかんないことして、その、あああああああ~!」
彼女は猛ダッシュで入り口の扉を開け、リリアさんを置き去りにしてどこかへと消え去っていった。
残されたリリアさんは、ぽかーんとした表情でその後ろを姿を眺めていた後、部屋の中の俺に気づく。
「え……、なに、これは。もしかしてお邪魔した、かな~?」
「ナ、ナイスタイミングリリアさん。グッジョブ」
俺は親指をグッと示し、燃え尽きたかのように真っ白になった。
その後、ユバシリさんの名誉を守りつつも、誤解を招かないような説明をするのに、かなりの時間を要した。
そして、明日からユバシリさんとどんな顔して接すればいいか悩む。夏休み最初のビッグバンイベントだった。




