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23話 決着、勝者の行方は

「ソウタ!イカサマしてるでしょ!」


 のっけからとんでもない疑惑を吹っ掛けにくるリリアさん。三回戦目は事実、俺の手によるテコ入れがあったので、疑惑でもなんでもないが。

 ロイヤルストレートフラッシュがちょうどよく出るなんて確かにイカサマを疑われてもしょうがない。運でその役を呼び寄せていたとしても、疑惑は出ていただろう。

 ソウタ自身の運はかなりいいほうだとは思う。


「はっ、後がないからって見苦しいぜ!イカサマなんてしてねぇよ!なっ、アサギリ!」


 俺にフったらむしろ怪しいだろう。唯一の味方である男子の俺がディーラーをやっているのだから、イカサマがあるとしたらここだ。真っ先に疑うとしたら『俺が何かをしている』ということに行き着くのは、必然である。


「アサギリくんはカード配るの禁止!代わりは別の人がやってね」


 もちろんこうなることは明白であった。疑わしきは罰する、正攻法中の正攻法だ。こうなってくるとむしろ俺のほうが燃えてくる。イカサマ師としていかにソウタに勝たせるか。

 もはやこのゲームがなんのために行われているかすら忘れかけてきたが、今は勝負が全て。ここは全力で勝利を目指す。


「うん、いいよ。代わりはじゃあウルにやってもらおうか」


「え?ウル?いいよー」


「よーし勝つぞー!」


 ウルは、ぎこちない手さばきでカードをシャッフルし、ときたまポロポロとカードをこぼしながら一生懸命配っていた。なにやら微笑ましい光景だが、裏ではどす黒い執念が渦巻いているとは誰も思うまい。


「ん~、私は3枚交換で」


「俺は4枚交換だ」


 ソウタの意図は読めないが、どうやらあまりよろしくない手札のようだ。対するリリアさんはワンペアぐらいなら揃っている可能性がある。

 そこで俺は、目が血走るほどの力を込め、視力に全神経を注いだ。見える、リリアさんの眼球に写りこんだその手札が!

 まずい、ストレートが揃っているな、ここはいったんソウタを降ろして次の勝負に持ち越すのが良策か。


「ねぇアサギリくん、そんなに見つめられると照れるんだけど……」


「ごめんごめん、リリアさんのドレス姿、似合ってるなと思ってさ」


「え……」


 勘付かれる前に、適当な言葉でお茶を濁す。少し頬を染めて視線をそらすリリアさんを見るに、上手く濁せたようだ。


「お前、天然のたらしか?」


 なんの話だ?こっちはソウタの勝利のために真剣だというのに。とにかくこの勝負は降りる。彼に伝える為に、背後に手を隠し、『降りろ』と下に動かした。


「あー……、あんまりよくねぇな、俺はこの勝負降りる!!」


「えー!なにそれ!男らしく勝負しなさいよ!」


「やだね、俺は勝てる勝負しかしないのだ」


 その発言、聞き方によってはなんらかの情報を得てゲームをしているように聞こえるぞ。彼はあまり演技が得意じゃないらしい。

 結局この勝負、ソウタが一枚ベット、リリアさんが5枚ベットしていたのだが、ソウタが降りたことによって自らの賭け分、一枚脱衣で勝負は繰り越し二回戦目へ。



 次のターン、カードを配り終え、確認作業に入る二人だが、ここでまさかの痛恨のミス。ガン見していた理由を伝えた際に、リリアさんが照れてしまい、顔を逸らしているのだ。

 このままだと手札が見えず、ソウタの運勝負になってしまう。それだけはなんとしても避けたい。勝利を確実に掴むために。

 

「……私はここで勝負するわ、服を全部賭けて、さらに!ソウタ、あんたが降りずに勝負を受けたら、このゲームの後で私のおっぱい揉んでいいよ!ただし、この勝負に私が勝ったらその時点で敗北を認めてもらう、いいわね!」


「「なっ!?」」


 男子二人に雷のような衝撃が走る。

 この強気、間違いなくいい役が手元にきている!仮にブラフの可能性もあるが、女子にとってあまりにもリスクがでかい賭け。ここは避けるべきだ。まだ勝負にいかずとも、チャンスは巡ってくる!目をこらせどすでにカードはテーブルに伏せられてしまったし、これ以上俺には手段がない。今は引き時!


(ソウタ、降りろ)


 俺は再度、背後に手を隠し、ジェスチャーで『降りろ』の合図を送った。


「…………」


 な、なにをしているんだ早く降りろ……。こいつまさか……。


「この勝負、受けて立つ」


 こいつ……、欲に負けてやがる!冷静に考えれば明らかに罠!例えここで負けたとしても、数回こなすうちに再びツキが巡ってくるというのに!


「……へぇ~、負けても知らないよ?」


「あぁ、俺は受けて立ち、ここで死ぬ」


「………」


 ソウタの顔は、まさしく『漢』の顔だった。ここで死んでも悔いはない、おっぱいを揉める可能性が、わずかでも、ほんのわずかでもあるのならば、男子たるもの受けずにはいらいでか。

 そんな本能を顔で語っている。


「やめろソウタ!まだチャンスはある!」


「アサギリは黙ってろ!!!!」


 なんで俺がお前に怒られるんだ……。会場は騒然とし、当事者の彼以外は皆あっけに取られている。奴は、己の敗北と、おっぱいを揉むことを天秤にかけ、揉むほうに命を張ったのだ。こいつは本物のギャンブラーだ……。なんて言うとでも思ったか、単なる性欲に負けただけである。


「あのさ……、ごめんやっぱさっきのなしでいい?」


「ダメだ!!!さぁカードオープンを宣言しろォ!アサギリィ!」


「か、カードオープン……」


 謎の圧力によって強引に展開されるカードたち。ソウタの役は……、『ツーペア』だ。役としては弱々しいが、揉みたさがどうしても上回ったか、よくこれで勝負に出たな。

 そしてリリアさんの手札は……、ワ、ワンペア……だと……?


「リ、リリアさん……、これは一体!?」


「あれだけ強気に出れば降りると思ったのにぃ~……」


 リリアさんはこれで理解しただろう、16歳男子の煩悩というやつを。


「アサギリよ、男ってのは時として、勝負に出なきゃいけない場合ってのがあんだよ」


 もっともらしいことを言っているが、勝ったのは性欲だろう。ただ、実際に勝負に勝ってしまったあたり、反論ができないのが悔しい。野生が理性に勝った瞬間である。

 負けてしまったリリアさんは涙を流しながら、女子チームの元へ帰り、姉さんの胸に顔を埋めている。正直うらやましい。


「みんな、私が勝ってきてあげるから元気出して!」


 いよいよラスボスの登場、元女神の姉さんだ。言っては申し訳ないが、姉さんはあまり賭け事とか得意そうには見えない。まさか女神様が賭けなんてしてるわけないだろうし、純粋で優しい姉さんのことだ、ブラフもハッタリも辞書には載っていない言葉だろう。

 これに勝てば晴れて……、なんだっけ。


 泣いても笑ってもこれが最終ゲーム。二人が着席すると、今までとは違う、張り詰めた空気に変わったのがわかる。今までは遊びだったが、最終ゲームまでもつれ込んだとなると、冗談では済まされない緊張感。

 まさか適当に提案したゲームでここまでなるとは思いもしなかった。


「さっきのゲームで俺がイカサマしてないのはわかったよね、最後の最後だし、ゲームマスターの俺が全て取り仕切るよ」


 ここまできたら負けるわけにはいかない、なんとしてでも勝利に導くのが俺の役目。

 ふと、姉さんがじっとこちらを見ている。


「レイくん、『イカサマ』なんてしてないよね?」


「え、あぁうん、してないよ」


「お姉ちゃんの目を見て」


 なんて綺麗で澄んだ瞳なのだ。とてもこの世のモノとは思えない美しき瞳。なのになぜだろう、俺の目が泳ぐのは。


「し、してません」


「そう。お姉ちゃんは、信じるからね」


 姉さんの「信じる」という言葉だけ、妙に力が込められていたのは気のせいだろうか。やはり姉さんは俺が有利な役を作って配っていたことに気づいていた?

 姉さんは俺のことを信じると言ってくれた。それを裏切っていいものか?ここでイカサマをするのは簡単だ。俺の手さばきを見切れる人はいない。それゆえに、姉さんの心をいともたやすく裏切ったら、俺は後悔するんじゃないか。姉さんの目を、一生見れなくなるんじゃないか。

 後ろめたさを秘めながら、一緒に生活していくのは苦痛ではないのか。


 本来ゲームマスターである俺が、ソウタより悩む羽目になっているのはなぜかわからんが、引き受けてしまった以上、俺は全力を尽くす。バレなければイカサマなんてなかったのだ。


「アサギリ、頼んだぜ」


 まかせとけ。俺は今日一番の完璧なシャッフルをこなし、ソウタにはフルハウスを与えた。中途半端に罪悪感が湧いたことと、またしてもロイヤルを出すのはいくらなんでも露骨だと思ったからこそのフラッシュである。


 二人にカードを配り終えた。が、しかし、姉さんはカードを確認しようとしない。どういうことだ。


「姉さん、カード見ないの?」


「レイくん、この一連のゲームで、自分にやましいことはない?女神様に誓える?」


「え⋯⋯、ち、誓えるよ」


「本当に?」


 何が言いたいんだ姉さん。相手は俺じゃなくてソウタなのに、俺を問い詰めてどうしようと言うんだ。一筋の汗が、背骨をなぞっていく感覚。


「レイくん、お姉ちゃんね、知ってるんだよ全部」


「な、なんのこと」


「さぁ、なんのことかしら」


 不敵な笑みを浮かべて俺を惑わす姉さんは、いつものような天使かつ女神ではなく、妖艶な悪魔のようだ。それにカードを見てもいないのにこの余裕、なにかがある⋯⋯。まさか。


「ね、姉さんこそカードの確認しないってことはなにかイカサマしたんじゃない、かな?」


「ふーん、お姉ちゃんのこと疑うんだ。いいよ、イカサマしてないか確認してもらっても。自分に後ろめたさがないのなら、ね」


 ごくりと唾を飲む。その音が自分の中で大音響となって、頭を一瞬支配した。

 間違いない。姉さんはイカサマをしている。が、俺にそれを正すことはできるのか。仮に俺がやったイカサマがバレているとしよう。自分のことを棚に上げて、人の不正にだけ厳しく追及する、そんな姿勢を姉さんに見せたら嫌われてしまうのではないか?

 リスクの大きさを考えろ。たかがゲーム、罰ゲームはソウタの奴隷権。彼には悪いが事の重さは俺にとって比にならない。

 俺にとっての生きる理由でもある姉さんが離れていくことを思えば。


「いや、俺も姉さんのことは信じてるから。ゲームを開始しよう」


「俺は着ている服を全部賭けるぜ!これでこのゲームは終了!全裸水泳大会の開催だ!」


 強い役を見て自信満々のところすまないが、終了するのはこちらのチームだろう。俺が日和ってロイヤルストレートフラッシュを渡せなかったのが敗因だ。日和らされた、とも言えるが。

 相も変わらず姉さんはニコニコと笑顔を見せている。あぁなんだかゾクゾクしてきたぞ。


「⋯⋯カードオープン」


「俺の役はフルハウスだ!」


 女子チームの顔が青ざめる。それはそうだろう、姉さんは手札を見てすらなく、相手には上から4番目に強い役。負けを確信してもおかしくはない。


「私はなにかな~」


 白々しくカードをめくる姉さん。この余裕から見るに間違いなく⋯⋯。


「あ、ロイヤルストレートフラッシュです。ごちそうさまでした」


 ですよね。わかっていました。おそらくカードをめくる際に、一枚一枚カードを創りかえていたんだろう。ソウタのカードを見ながら数字とマークが被らないように。


「お姉様~~~~~~~!!!」


 女子が歓喜の声をあげる。急遽始まった「脱衣ポーカー」は、俺たち男子チームの敗北によって、ここで終了。

 姉さんを見ると、俺に向けて、ウインクしながら舌を少しぺろっと出した。可愛すぎると同時に恐怖を感じた。俺に対する最強の役は姉さんだったのだ。これには勝てるわけがない。




「さーて、うちらが勝ったことだし、罰ゲームといこうか!7日間奴隷だったよね」


「あわわわ⋯⋯、なにをする気だ、せめて優しくしてくれ⋯⋯」


 震え上がるソウタを見ながら俺は、ユバシリさんが言った言葉を思い出した。

「少しでも逃げようとした自分が恥ずかしい」。この勝負を天から操って、あまつさえソウタが不利益を被るからと、自分は安全圏にいようとしたことが恥ずかしくなってきた。



「ちょっと待った。罰ゲームは俺が受ける」


「! ア、アサギリ!」



 彼らと対等な友人でいるには、正直に事情を話して、罰を甘んじて受けよう。

 それが俺の、仁義の通し方だ。



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