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21話 いざいざリゾートへ

 夏、それは人々を開放的にさせる、心も身体も暑くて熱い季節。

 それは例にもれなく、人から「クールぶっている」、と評される俺にも適用される。

 そんな季節に沿った行事など、生まれてこの方一度も参加したことがない。

 もちろん海なんてテレビで見たことがあるな、とかそのぐらいのレベルだ。

 

 それがまさか死んでから行くことになるとは誰が予想したか。

 はっきり言ってめちゃくちゃワクワクしている。ガラでもないが。

 友人たちと騒ぐのも未知の世界ではあるが、なによりも、大好きな姉と旅行に行く、というシチュエーションが楽しみなのである。



 そんなわけで、夏のリゾートinマキシマ家プライベートアイランドツアーの出発日がやってきたのだ。


「いやちょっと待て、ビーチだけじゃなくて島ごと持ってるのか」


「んー?なんか知らんけど余った金の使い道がなかったらしくてさ」


 恐るべし大富豪。この世界に税金対策があるのかは知らんが、「せっかくだし買うか」みたいなノリで島を買うとは。それに、金が余るってことが俺には理解できない。うちは常にカツカツの生活をしていた。


「結局誰がくるんだ?」


「それがな〜、女子全員に声はかけたんだが、いつもの連中だけなんだわ」


 なんとなく察するが、ソウタが下心丸出しで警戒されたんじゃないだろうか。

 

「いつもの連中ってなに?失礼なやつ!」


「おはようございます」


 いつものメンバーの二人、リリアさんとユバシリさん。

 それともう一人。


「やぁ、スゥさんも参加するんだね。こういうことには興味ないタイプかと思ってた」


「はぁ?私だって人並みに遊ぶわよ」


 毎日学校で顔を合わせ、馴染みのあるメンバーだけだとかえって気兼ねせず、のんびりと楽しめる。元人見知り全開の俺には好都合。

 このメンバーに加え、アサギリ家から俺、姉さん、ウル、の三人を迎えてもらい、いざゆかんリゾートへ、という具合だ。



 ホクシンの街から北へ向かった先にある港町、「テールズシフト」に到着した我々を待っていたのは豪華客船。

 なんと、島へ向かう船までもが、自家所有らしい。なんて言われても、島を持っていることのスケールに比べたら、今更驚くようなことではない。


 7人で行く旅行にしては少し大きすぎるのではないか、と思うような船に圧倒されながらも、続々と乗り込んだ。


「いらっしゃいませ。どうぞごゆるりとお過ごしください」


 入って早々に、メイドさんたちのお出迎えである。流石金持ちはお約束を守っているな。

 俺は、家にあるメイド服を思い出し、ちらりと姉さんを見た。


「レイくん、家の中だけって言ったでしょ」


 言葉を発さずとも叱られる、高度なプレイ。これぞ以心伝心というやつだ。世界を探してもここまで深い姉弟愛を持っているやつはいないだろう。いたらまずいか。



「うわ、すごい!レストランもプールもあるよ!」


「こっちにはカジノがある⋯⋯」


 皆、思い思いに船内を見渡し、驚愕している。これを貸し切るだけでもかなりの額になりそうだ。本来なら何百人と乗る豪華客船なのだろう。


「おい、アサギリ!ちょっとこい」


「ん?どうした?」


「お前はこのメンバーに狙ってる女いるか?」


 こいつは唐突に何を言い出すのか。もちろん姉さん、と言いたいとこだが、言うわけがない。


「もしいるんだったらお互い被ってたら気まずいだろ?今の内に暴露しようぜ。この夏は彼女をゲットするんだよ!」


 なるほど、確かに非日常的な場面では何かが起こりやすく、それが恋愛へと繋がるケースはありそうだ。互いに意中の相手を教え合うことで、揉めないようにしようという魂胆か。

 仮に被っていたとしても、知ってるいることでフェアになる。


「ソウタはこの中にいるのか?」


「あぁ、はっきり言ってこのメンバー、ハイレベルだぜ⋯⋯!リリアは明るくて人気もあり、スタイルも良しな美人。サユキは大人しく、色白幸薄なのが可愛い。スゥは正直おっかねぇが、ドSっぽそうな目が新しい世界を開いてくれそうだ。」


 思った以上に曝け出してきた。ソウタの頭の中にはクラスの女子全員分の評価表がありそうだな。


「それに加えて、ウルちゃんは無邪気で隙だらけなところがいけそうな感じするし、シーラさんはまるで女神のような超絶美人ときたもんだ」


 それはもちろん元女神だからな、姉さんの魅力をわかっているところは評価しよう。ただし。


「おい姉さんに手出すなよ」


「アサギリ、それは友人に向けてはいけない目だぞ。で、お前はどうなんだ?ウルちゃんと一緒に住んでていいことしてるとかねーだろうな」


 間違ってもそれはない。同い年ではあるが、彼女は妹のような存在として認識している。⋯⋯ファーストキスの相手となってしまったのは申し訳ないが事故だ。

 ソウタに触発されたわけではないが、確かにここにいる女子勢は、上から目線というわけではないが、綺麗どころが揃っていると、今になって気づいた。

 姉さんの前では全てが霞む、俺の耄碌もうろくした目を持ってしてもそう感じるということだ。


「俺の見立てによると案外スゥとかオススメするぜ。お前、女に引っ張ってってもらいたそうな性格してそうだよな」


「どこをどう見てそういう結論になったんだよ⋯⋯」


 スゥさんか。言われてみれば、彼女は同級生の中では姉味を感じる。こういう考え方に至ってしまうあたり、ソウタの俺に対する偏見はあながち間違いではないどころか正解なのではないだろうか。


「⋯⋯なに見てんのよ」


 目が合ってしまった。勘が鋭い彼女への視線には注意したほうがいいな⋯⋯。特に悪い事をしてるわけでもないのだが、人への評価というゲスいトークと言われれば近いようなものをしてるわけだからな。


「そうだな、好みで言えば、包容力があって、優しくて、俺のことを理解してくれる人がいいな」


「なるほど、じゃあサユキとかいいんじゃないか?おっとりしてて、ああ見えても巨乳だぞ」


 ユバシリさんは着痩せするタイプなのかな⋯⋯。というかなんで知ってるんだろう。それと、巨乳と今の俺が言った好みの関連性は?俺が巨乳好きに見えるという新たな偏見か?偏見だろう。

 

 あーだこーだと内緒話をしていると、船が出港する、汽笛による合図が聞こえてきた。

 船旅は1日とちょっとかかるらしい。けっこう遠くまで行くことは聞いていなかったが、そもそも旅行の日程が7日間あるので、移動時間も含まれた日程だったということだ。


「ん?お前のねーちゃんに旅行の日程は伝えておいたはずだけど」


「あ、ごめんねレイくん、お姉ちゃんが準備すればいいかなと思って言うの忘れてたよ」


 もはや姉というより母親になってきている気がしてならない。転生時に、両親不在だから今まで母親代わりとしてがんばってきた、という設定にでもなっているのだろうか。そうでなくても甘えん坊の弟と、諸事情で世間を知らない妹がいればこうなってしまうのは当然か。

 姉さんの面倒見のいいところが相まって、必然に収束した結果がこれだ。



 さて、出向したはいいが、一日の間、船でなにをして過ごすかが問題になる。

 この船には娯楽が多数存在するようだが、馴染みのないようなモノが目立つ。カジノなんて、転生しなかったら一生関わることはなかっただろう。


「みんな注目!これから船は一日かけて島まで移動します!その間にプールで泳ぐ練習などいかがでしょうか!」


 ソウタの提案はプール。泳ぐ練習とは言っているが、今から練習する意味はあるのか疑問である。付け焼刃程度なら、特に泳がなくても浜辺で遊ぶぐらいなら大丈夫だとは思うが。


「それっぽいこといって私らの水着見たいだけでしょ!ソウタの考えてることなんてすぐわかるからね」


 ⋯⋯なるほど、リリアさんの言うとおり、彼ならその発想をしていてもおかしくはない。これから海へ行くというのだから、少しぐらい待ってもいいだろうに⋯⋯。


「いいだろ!遅かれ早かれ水着になるんだからそれが早まっただけだ!」


 見事な開き直りだ。


「みっともないわね、そんな下心のために私たちを連れてきたってことかしら」


「マキシマくんのエッチ⋯⋯」


「いや、そういうわけじゃなくてだな!」


 ソウタには悪いがここでお前の味方をするわけにはいかない。フライングスタートを切ったためにペナルティを受けたということだ。


「アサギリ、なんとかしてくれ⋯⋯」


 予想はしていたが、案の定泣きついてきた。7人中5人いる女子を敵に回してから俺を巻き込むのは自爆と同義なんだが、せめて発言する前に相談して欲しかった。

 それなら俺はもちろん声高々に「やめとけ」と笑顔で中止させたことだろう。数少ない男友達の一人だ、助け舟を出してやらなくもないが⋯⋯。


「じゃ、じゃあカジノでポーカーで勝負して、ソウタが勝ったらプールで遊ぶとか⋯⋯どう?」


 こんな提案したところで、女子側としては飲む必要が全くない。飲ませるメリットを作らなくては。


「条件は、ソウタは5人抜きで勝利、女子チームは一人でも勝てば勝利でいいよ。そっちのチームは勝ったらこの7日間、ソウタを奴隷のようにこき使ってOK。ポーカーのルールは後で説明するね」


「お、おいアサギリ!お前なに勝手なこと」


「それ面白そう!どうせうちらが負けてもプールで遊ぶだけだしデメリットないよね、5人抜きなんて多分無理だしやろうよ!」


 リリアさんは乗った。彼女が乗りさえすれば後も続くだろう。女子側のデメリットはなく勝率も高い。

この条件であれば一人でも乗ってくれればじゃあしょうがないな、と乗ってしまうのが人間。


「まぁいいわ、暇つぶしにはちょうどよさそうだし」


「ウル、よくわかんないからプールでいいのに」


「だ、大丈夫かなぁ」


 誘いは成功。さて、俺はどっちにつくかという事だが、これだけ不利な条件だ、ソウタに手を差し伸べてやるか。

 そう、このゲームはすでに俺の手のひらの上にあるのだ。先手を打ってゲームマスターを気取ることによって、どっちが勝っても負けても俺は一切の不利益を被らない、いわば神のポジション。ソウタが勝てば姉さんの水着姿をいち早く見られるというだけのことよ。

 心の中で高笑いをする俺。


「レイくん、なんか悪い顔してるよね」


 おっといけない、姉さんにはすぐバレてしまうからな、ポーカーフェイスを心がけないと。


「アサギリお前⋯⋯無理だろこれは⋯⋯」


「まかせろ。得意なんだ、『カードゲーム』は」


「お前が得意でもやるのは俺だろ⋯⋯」


 ソウタの顔面は真っ青だが自業自得なんだよなぁ。大人しくしていれば自然な成り行きで水着姿を拝めたものを。こういうの諺でなんと言ったかな。

 まぁいい、ゲームスタートだ。

 

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