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17話 二人の

 特に、隠さなければいけない、などというルールは、転生時にはなかった。

 それに、俺自身もそこまで徹底的に隠しているわけでもなく、転入時やそれ以外でも惜しげなく魔法を見せている。


 ただ⋯⋯、真実を伝えたら、何かが崩れそうな気がするんだ。この世のモノじゃない力を持っている人間が、普通の日常を送れるのか。皆はいつもと同じように接してくれるのか。

 今ならまだ「魔法の才能が尋常ではない人間」として暮らしていけるかもしれない。


 圧倒的、おそらくこの世界で俺に通じる力はないだろう。

 そんな能力を考えもせず使っていたことを今更になって後悔した。


「レイナードさん、俺は⋯⋯実は魔法の天才なんだ。ある極秘部隊のエージェントで秘密裏に潜入していて⋯⋯誰にも言わないでくれるかな」


 安易な嘘をついた。俺の本心が、この道を選んだ。

生まれて初めて人生を楽しいと思ってるんだ。

それを失いたくはない。


「そう、そんなに言いたくないようね」


「いや、これは本当のことで⋯⋯」


「もういいわ。別に、だからといってアサギリくんのことをどうしようとか思ってもいないし。せっかくだから教えてあげましょうか?あなた、嘘をつくと、左の頬の血管が浮き出るのよ」


「えっ?」


 俺は思わず頬を触って確かめた。姉さんにも表情で心の中を読まれるし、そんな癖のようなものがあったのか。


「嘘よ。あなたもけっこう素直なのね」


 ⋯⋯。ぐぬぬぬぬ。


「さっき私をからかったお返しだから、悪く思わないでね」


 からかった記憶がないんですが⋯⋯。

食えない子だなレイナードさんも。気をつけよう。


「⋯⋯今は言えない。いつか言うかもしれないけど、今は黙っていて欲しい。もちろんみんなにも」


「だから言ってるでしょ、なにをするつもりもないって。私とあなただけの秘密にしとくわ」


 二人だけの秘密。妙な背徳感を覚える言葉に、心臓が軽く跳ねたかのよう。

 「それ」を意図して言ったのか否かはわからないが。


「レイナードさん⋯⋯」


「⋯⋯。な、名前で呼んでもいいわよ別に」


 どういう風の吹き回しなのか、あれ程嫌がっていたのにこれである。

 女性の気持ちを理解する、特にレ、スゥさんの気持ちを理解できる日はこないんじゃないかという気がする。

 彼女は俺がこの世界で接してきた誰よりも複雑で、人間臭い。



「それと、秘密を隠したいならセンティネルには気をつけたほうがいいわ。特にモードプールに駐屯している連中はあまりいい噂を聞かないから。魔法も無闇やたらに使わないで抑えたほうがいいわね」


 そう、俺もセンティネルにはいいイメージを持っていない。それは共通の認識なのか?

奴隷の存在をわかっていながらなかったことにする。とてもじゃないが、警備会社のやることではない。


「スゥさんはセンティネルに詳しいの?」


「⋯⋯私の父はセンティネルに所属しているの。本部のほうにね」


  なるほど、エリートの血を引いているのか。あの規模の魔力にも納得がいくな。


「センティネルは学校の調査で、すぐにでも私のところへくるでしょう。だけど、その異常は私ではなかった、とすれば、一緒にいたあなたにも辿り着くはずよ」


 現場を見ていた教師はいた。もうすでに俺の名前はあがっていると考えてもいいだろう。なんとかしなければ⋯⋯。

 今の環境、姉さんとの甘い生活を邪魔されるわけにはいかない。


「ありがとうスゥさん、お礼に頭撫でてあげよっか?」


「はぁ!?」


「はは、さっきのお返し」


「なんであんたがまた返すのよ!バカ⋯⋯」


 借りたもんは返すのが俺の主義だ。というのは良いように言っただけで、やられっぱなしは癪だ、というのが本音。スゥさんとはなぜか張り合いたくなる。

 怒って不貞寝に突入したスゥさんに挨拶をし、俺は帰路についた。






 ここ数日、悩めることが多くて精神的に疲れたな。この能力は身体能力は向上してるが、精神はいつもの俺、なのが弱点だ。

 そうだ、姉さん成分が圧倒的に不足しているんだ。

俺にとっては水分のようなもの。カラカラに乾いた俺の心を癒して欲しい⋯⋯。


「レイくん?家に入りたいんだけどなにブツブツ言ってるの?」


 うお、マイ女神がご帰宅なされた。というか声に出ていたのか。不足すると鬱のような症状が出る成分だな。


「あ、ごめん姉さん、おかえり」


「ウルちゃんは一緒じゃないの?」


 どうやらまだ帰っていないみたいだ。この世界の連絡手段を持ってないからこういうときに不便だな。まぁ、あの2人が一緒なら大丈夫だろう。


「友達2人と遊びにいったよ」


「そっか!よかったねーお友達できて。あの子も寂しかったでしょう」


 ウルはもちろんだが俺も寂しいよ姉さん。

あ、この感じ⋯⋯、発作だ。俺に発作が起きている。

 ウルが出かけていて、家には2人きり、これはもういつ甘えるんだ、と言わんばかりのシチュエーションじゃないか。


「姉さん⋯⋯、今日はちょっと、甘えたい⋯⋯かもしんない」


 つい、口から出てしまう。理性で抑えてはいるが、姉さんに触れると、心の壁が融解していく。

 俺ばかりが甘えるわけにもいかないというのは理解しているつもりだが、言い訳が先行してしまう。


「んー?今日は素直なのね、なにか嫌なことでもあった?」


 とにかく疲れた。姉さんの隣に座ると、心が安らいでいく。ついつい愚痴をこぼしてしまう、魔性の効能がある。


「俺たちってこの世界のなんなんだろう」


 世界の異物なのか。


「⋯⋯。恐いの?自分が何者なのかって」


 姉さんに甘えて正解だった。俺のことをなんでも理解してくれる。


「例え転生でも私たちはもうこの世界の一部よ。私言ったよね?能力は第二の人生を楽しく歩むために授けるって。楽しくなかったら無理して使う必要もないし、普通の人間として生きてもいいんだよ」


 能力をオフにするってそういえば考えたことなかったな。

 あ、センティネルが俺のとこへきたら能力を切ればいいのか。

 あの規模の魔法を使って初めて感知されたわけだし、身体能力の向上だけならバレるはずもない。


「どうしても、レイくんが嫌になったらお姉ちゃんが二人だけの新しい世界を創造してあげる。だからあんまり悩まないでね」


 創造の能力の規模が恐ろしい。が、逃げ道のあるなしじゃ、精神面の余裕も違ってくる。姉さんの気遣いが心に染み渡る。

 でも⋯⋯、二人きりの世界は理想的だけど、今の、友人がいる世界も悪くないからな。


「ありがとう姉さん、楽になったよ」


「そっか、よかった」


⋯⋯今まで甘えてばかりで気づかなかったけど、


(お姉ちゃんが二人だけの新しい世界を創造してあげる)


もしかして姉さんも俺に依存してないかな。

それは自分に都合よく考えすぎだろうか⋯⋯。



「⋯⋯、俺、姉さんのこと、好きだよ」


「私もレイくんのこと、好きよ」


 その言葉が何を意味しているかはわからない。

 二人の心は、無色透明で混ざり合い、お互いの間に溶けて消えた。


 

 そして、俺と姉さんは、寄り添ったまま、静かに眠った――

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