16話 疑問は確信へ
今日は学校が休みだ。なぜかと言うと、能力試験の模擬で起きた、魔力暴走事故が原因で、異常な数値の魔力を観測したとして、センティネルの調査班が学校に事情徴収しにきた為である。
それほどの規模の魔力を持ってるスゥさんにも驚きだ。魔法の成績はトップだとは聞いていたが、あの石像の破壊具合を見るに、俺の魔法と同等のレベルはあったということだ。
俺はチートで得た能力だというのに、そこまでのレベルに達するまでは並大抵の努力ではなかっただろう。
ん?俺と同等ってことはもしかして、俺の魔法も異常に含まれてる可能性がある?
⋯⋯、センティネルか。以前のウルの件もあるしあまりいい印象じゃないんだよな。バレないようにしたほうがいい気がする。
確か、先生もあの時後ろで見ていたらしいな。
念のため口止めしておいたほうがいいか。
「レイー!今日学校お休みなの?」
「うん、ちょっと色々あってね」
「じゃあウルと遊ぼ!いっつも1人で暇!」
ウルは本来なら俺と同学年なはずだが、10歳のときから一切学校に行けておらず、学力が同年代と比べて低い。
今から同じ学校に転入してもついていけるかどうか、というのもあるが、行かせないわけにもいかないよな。
「ごめん、今日は友達のお見舞いに行くんだ」
「えー、ウルも一緒がいい」
そうだな、せめて友達だけでも作らせてやったらいいのでは?ちょうどありがたいことに女子の友達は多い。社会復帰の助けになるだろう。
「じゃあ一緒に行くか、あんまり騒ぐなよ」
「ウルのこと子供だと思ってるでしょ、大丈夫だよ!」
ある意味俺よりは大人なとこあるが。
「姉さん、行ってくる」
「はーい行ってらっしゃい、私も出かけてくるからまた夜ね」
俺たちは、病院へ行く前に、待ち合わせ場所へと向かった。
♢
俺たちが着くと、リリアさんとユバシリさんは先に待っていた。
「おはよう2人とも」
「あ!アサギリくんおはよー!」
「おはようございます」
2人に挨拶をするが、1人足りないな。ウルは⋯⋯俺の背中に隠れていた。
「あれ? その子だれ?妹さんとか?」
「おいウル、挨拶しろよ」
「は、はじめまして⋯⋯」
借りてきた猫かよ。騒ぐなとは言ったがどうやらその心配はなさそうだ。
服の裾を掴んで離さない彼女を、無理矢理俺の隣に引っ張り出して自己紹介と事情の説明をする。
奴隷だったことは本人もあまり周知にしたくないだろうと思い、ぼかして話すことにした。
「というわけで、うちと同じで両親がいないから一緒に住むことにしたんだ」
「うぅぅぅ〜、ずっと監禁されてたなんて辛かったねぇ、私らも協力するから強く生きようね〜」
「よろしくね、ウルちゃん」
この2人ならまかせても大丈夫だろう。転入して間もない、ぼっち気質の俺にも積極的に動いてくれたからな。
気になったが、ユバシリさんはなぜか俺に対しては敬語なんだよな。もしかして俺は壁を作ってる?
「あー、ユバシリさん、俺にも敬語じゃなくていいよ。なんか接しにくいオーラ出してたらごめん」
「あ、いえ、そういうつもりじゃないんですけ⋯⋯だけど。男の子の友達って初めてだったから」
わかる。わかるよ、俺も前世はクラスのギャルに話しかけらると思わず敬語になってたからな。日陰の者として非常に理解できる。
勝手に日陰者グループにユバシリさんを含めてしまったが、彼女には同性の友人がいる時点で、俺とはステージが違った。ごめんよユバシリさん。
「俺も女子の友達って初めてだからね、お互い慣れていこう。改めてよろしく」
「その割になーんか手馴れてる感じするよねぇアサギリくんは。天然で女を騙しそう」
「いやいや、そんなことないよ」
騙すなんて人聞き悪いが、俺にはそんなテクニックはないし、そもそも姉さんにしか興味がないからやる理由もないんだよなぁ。
「レイは優しいから騙すなんてしないよ!」
「えっ?あぁ、ごめんねウルちゃん、冗談だよ冗談」
「レイはウルのなんだから」
こいつは核弾頭か?悪気はないんだろうがここで爆発させるのは勘弁して欲しかった。
「聞きました!?ユバシリさん!今問題発言が飛び出たよ!」
まずい、リリアさんの恋愛スイッチが入ってしまった。
「え、あ、あのどういう意味⋯⋯で言ったのかな?」
「ウルとレイはちゅー「やめろ!!」
それ以上はいけない。慌てて口を塞ぐが、2名の視線が突き刺さる。
「アサギリくんってやっぱり大人しい顔してケダモノだったんだね。男の子だもんなー」
「⋯⋯しょうがないよね、ウルちゃんみたいな可愛い子と一緒に住んでたら⋯⋯ね」
深淵よりも深い事情があるのだ、許してくれ。
しかし、こうも毎度毎度誤解⋯⋯ではないが誤解を生むようだと取り繕うのも一苦労だ。ウルには釘を刺しておかないとな。
「ウル、ちょっとこっちへきなさい」
手招きをして、少し離れたところへ誘導した。
「いいかウル、あんまりキスした事を言いふらすと恥ずかしいからやめなさい。言う事聞かないと嫌いになっちゃうよ」
「え!やだ!嫌いにならないでー!」
ちょっと可哀想な言い方だが、これでなんとかなるだろう。こういう部分がリリアさんの言ってた「女を騙す」ってことだろうか。複雑ではある。
♢
スゥさんが入院している病院はモードプールの街中にある。ホクシンにも病院はあるのだが、いかんせん小さい病院で、設備に乏しいため、こっちに搬送されたのだ。
面会の受付を済ませ、彼女がいる部屋へと向かった。
コンコンとノックをし、扉を開く。
「失礼しまーす。スゥさん起きてる?」
中へ入り、仕切りの向こうにあるベッドを確認すると、静かに眠っている彼女の姿があった。
しかし、物音で気づいたのか、ゆっくりと瞼を開けた。
「え⋯⋯!? ちょっと、なんでアサギリくんがいるのよ!」
「あ、ごめん起こしちゃったね」
「そこじゃないわよ!⋯⋯寝顔、見たの?」
寝顔なんて救助したときにも見たが、そんなに嫌がるものなのか。
「やっほー、スゥ、元気ー?」
続けて3人が入ってくる。
「あなたたち⋯⋯、いるならなんで先に入ってこないの!?」
「喉渇いちゃってさー、あっちで飲み物買ってた」
リリアさんはストローでジュースを吸いながら、部屋のイスに腰をかける。
珍しくあたふたしているスゥさんを見ているのも面白いが、可哀想だからフォローを入れてあげよう。
「大丈夫、変な寝顔してなかったよ。可愛い可愛い」
「はぁ!?」
また熱があるのか、スゥさんの顔は瞬時に茹で上がったかのようだ。
なぜかユバシリさんもほんのり赤くなっていて、リリアさんはニヤニヤしている。
「お二人さん、模擬試験で仲が深まったのかしら?」
「別にいつも通りだよね、スゥさん」
「な、名前で呼ばないで!」
おっと、事故の後、ずっと名前呼びしてたからこの感じ、久々だな。やっぱりスゥさんはこうでないと張り合いないよな。やはりいつも通りだ。
俺たちは、学校の現状の説明と、ウルの紹介を済ませ、他愛もない会話をして過ごした。
「そいじゃ私たちはそろそろ帰ろっかなー、スゥもまだまだ休まないとだしね」
「⋯⋯ありがとう。この礼はいつかするわ」
「礼だなんていいんだよスゥちゃん。元気になったら学校で会おうね」
「じゃあス、レイナードさん、お大事に」
別れの挨拶をし、扉のほうへ振り返ると、「待って」とレイナードさんに声を掛けられた。
「アサギリくんに話があるの。ちょっと残ってくれないかしら」
俺に用事?思い当たる節はないが、そう言うなら⋯⋯、とみんなの顔を見渡すと、リリアさんがまたもやニヤニヤしながら口元を手で抑えていた。
流石の俺でもこれはわかる。おそらくレイナードさんに告白されるんじゃないか、という意味を含んだニヤケ顔だろう。
はっきり言ってそれはない。彼女は俺の、魔法コントロールの教師であり友人であり、そこに恋愛感情など一切なかった。断言しよう、あれだけ俺にイライラしていたのだからそれはない。
「わかった、じゃあウル、先に帰られるか?」
「やだ!レイと一緒がいい」
やれやれ、やっぱそうなるよな。
「ウルさん、ごめんなさい2人きりで話がしたいの」
「きゃー!! ⋯⋯こほん、ウルちゃん、これは男と女の問題なの。街で私たちと遊びましょ」
不満気な顔したウルを連行していくリリアさんたち。ここは彼女の恋愛脳に救われたな。
3人が部屋を出て行き、俺とレイナードさんの2人だけがこの密室に残った。
もしかしてあれか?「抱えて連れて行くから嫌だったら後で殴れ」って言ったやつ。
彼女はセクハラに厳しいからな。いや、それは当たり前か。人命救助はしょうがないと思うがな。
俺は、殴られてもノーダメージだし、と腹を括った。
「さぁ煮るなり焼くなり好きにしろ」
「はぁ?何言ってるの?私はあなたに聞きたいことがあるの」
見当がつかんな。
「異常な魔力が感知されてセンティネルが調べにきてるのよね。私は、それはあなたの魔力のことだと思ったのよ」
なるほど、確かにそれは俺も考えたことだが、実際に近くで体験したレイナードさんもそう思った、ってことか。
異常だ、と言われたら否定はできない身分だからなんとも言えない。
「正直に答えて欲しいのだけど、あなた、何か隠していないかしら」
さて、正直に話すか、はぐらかすか。




