15話 借り
地面を蹴って、崖の下目掛けて急降下し、何も見えないまま、彼女の姿を探した。
能力によって視力も増加しているが、立ち込める霧が邪魔をする。
魔力を感じようとしたが、おそらく今の暴走で使い果たしたのだろう、空振りに終わる。
決死の思いで辺りを見渡すと、レイナードさんを乗せた瓦礫が落下していくのを見つけた。
しかし、直下には地面が見え始める。まずい、このまま激突すれば彼女はひとたまりもないだろう。
「間に合え⋯⋯!」
俺は、今までで一番速くテレポートをし、降ってくる瓦礫の真下へ位置取り、手を掲げ、受け止め準備をする。
「ふっ!!ぐっ!」
とてつもない衝撃により、能力を使用しているにも関わらず、息が漏れる。
身体にダメージは全くないが、足が地面にめり込むほどだった。
瓦礫を丁寧に隣に置くと、すぐさま安否の確認に入る。
「レイナードさん!レイナードさん!生きてる!?」
反応がない。血の気が引いていく音が聞こえるようだ。
「レイナードさん!⋯⋯スゥさん!」
「名前で⋯⋯、呼ばないでって⋯⋯」
「スゥさん!」
目は開けてないが、確かに返事をした!
口元に顔を近づけると、しっかり呼吸はしている。
外傷は⋯⋯、頭部に瓦礫の破片が当たったのか、重度ではないものの出血が見られる。
「スゥさん、今治療魔法かけるからね」
俺が手をかざすと、彼女はそれを覆うように手を伸ばしてきた。
「あなたに、借りを作りたく⋯⋯ないわ⋯⋯」
彼女のプライドの高さには参るな。なにがそこまでさせているんだろうか。
だが、今は緊急を要する。
「断る。維持張ってる場合じゃないだろ」
「⋯⋯」
俺は手を払いのけ、すぐさま治療魔法をかけた。外傷は見る見る内に消えていく。
「ん、んっ⋯⋯!」
そうだった。これをやると快感まで増幅する、いやらしい魔法だということを忘れていた。
しかし、気にしてはいられない。
見た目は完全に回復し、何事もなかったかのようだが、彼女は目を開かない。
「スゥさん、まだどこか痛いとこある?」
「魔力が⋯⋯空になって、力が⋯⋯入らないの」
そうか、俺の治療魔法じゃ魔力までは戻らないということだな。
俺の魔力を渡すのは?コントロールが不安なうちはまずい。元気な状態でも必死な顔していたからな。
ならば、テレポートで病院まで連れていけば⋯⋯。
いや、病院の位置がわからない。
俺のテレポートは誰かの魔力を察知するか、写真などで現場を見るか、頭でイメージできる場所へしか飛べない。だとすれば⋯⋯。
スゥさんの頭を動かさないように、そっと肩に触れ、テレポートを実行した。
「病院の位置がわからなかったからとりあえず山の入り口付近まで飛んだよ⋯⋯ってあれ?」
飛んだのは俺だけであった。まさか?
誰かとテレポートする際は、対象の魔力も消費させている、とか。
なんにせよ飛べないのであれば自力で行くしかない。
ふたたび彼女の元へ戻った俺は、隣に座り、提案をする。
「これからスゥさんを抱えて連れて帰るから、それが嫌なら後で俺を殴ってくれ」
「バカじゃないの⋯⋯?できるわけないでしょ⋯⋯」
「やるんだよ」
頭の後ろと、膝の裏に手を入れ、お姫様抱っこの要領で、スゥさんを抱え込む。
あまり揺れないようしっかり抱くが、これ後で怒るんだろうなぁ。
身体の熱が尋常じゃない。魔力って空にしたらまずいのかな。一刻を争うかもしれん。
「無理よ⋯⋯、魔力回復したら自力で⋯⋯、帰るから放っておいて⋯⋯」
「うるさい、舌噛むから寝てろ」
「⋯⋯」
このぐらい強く言ったって、今の状況なら構わんよな。意地でも言うこと聞かない困った子だから。
俺は、足に全力を込めて、思い切りジャンプした。霧を吹き飛ばし、空へと高く高く登っていく。
見えた、第一関門の石像!見えたのはいいが、どうやって行くのか考えてなかった。
ん、第一関門にいるのは⋯⋯、リリアさんとソウタだ。
「おーい!」
「ん?なんか呼んだか?」
「え?あたしじゃないよ⋯⋯、ってあそこ!なんで飛んでんの!?」
2人はこっちに気づいたがダメだ、もう落下が始まった。あの2人に救助を頼んでる暇はない。
⋯⋯斯くなる上は。
「ごめんスゥさん、ちょっと恐いかもしんないけど、俺を信じて」
「え⋯⋯」
了承を得る前に、俺はスゥさんを放り投げた。
その間に、リリアさんとソウタのとこまでテレポート!
勢いづいたまま、地面を滑り、落下予想地点へ到達。彼女はまだ空中にいる。
「え、え、え?」
「お、おい、なにしてんだよ!?」
「説明は後で!」
絶対に受け止めてみせる。落下の衝撃を抑えるために、勢いを殺しながらキャッチしなくては。
スゥさんの身体が、俺の腕に触れる。
その瞬間、重力に合わせるように、静かに腕を下げつつ、ふんわりと受け止めた。
「っふぅ〜」
「あ、あんたたちなにしてんの!?」
話すと長くなるから、一先ずスゥさんを病院へ連れて行こう。幸い、今は眠っているようだ。
気絶したのかもしれないが。
♢
病院
「先生には伝えておきました!どうやらその魔力の暴走を、後ろで見ていたらしくて、スゥちゃんが崖から落ちたときに先生も捜索に行ってたみたいです」
「ありがとうユバシリさん。そりゃまさかこんなにすぐ救助できるとは思ってないだろうしな」
あの後すぐに搬送されたスゥさんは、未だに眠り続けている。
駆けつけた救急部隊によると、下手に魔力供給をすると、すぐに自分の魔力で変換できない状態では拒絶反応が出るらしく、非常に危険らしい。
焦って供給していたらと思うとゾッとする。
俺としても反省しなきゃいけない面が多々あったかもしれない。原因はスゥさんにあるとはいえ、彼女の気持ちを考えない魔法の使い方をしてたかな、と思う。
だって俺の魔法は、本来あり得ないモノなのだから、それに張り合わせてしまったのは俺の落ち度だ。
俺は人の気持ちを理解するのが下手なんだなぁ。
「なに⋯⋯、しょぼくれてんの」
スゥさん!?目が覚めたのか。
「よかった。てっきりもうダメかと」
「勝手に殺さないでよ⋯⋯」
そりゃあ熱も冷めないまま眠り続けてれば恐くもなるさ。
「スゥさんがこうなったのは結局、俺が力の使い方をわかってなかったからさ、反省するべきだなって。それに俺、人の気持ちを察するのが苦手なんだ」
「⋯⋯あんたってホントに人間なの?意識が薄れててイマイチ覚えてないんだけど、私を抱えて崖を登ったのよね⋯⋯」
人間かどうか、言われてみて考えた。
俺ってなんなんだろう。能力のおかげで性能は化け物じみている。スゥさんも流石にそう思うのか。
「んー、もしかしたら神なのかもね」
「⋯⋯なによ、それ」
くすっと笑った。スゥさんと話すとき、こんな風に微笑んでくれたのは初めてのような気がする。
「身体はなんともない?まだ辛いかな」
「⋯⋯私はあんたにきつく当たっていたのだけど、なんでそこまで優しい言葉をかけられるの?」
「え、あぁ、それとこれは別っていうか」
返答と同時に、スゥさんは俺と反対方向に向いてしまった。
また機嫌損ねたかな。女心ってやつは難しい。
「⋯⋯全部私のせいよ。ごめんなさい。それと、ありがとう」
スゥさんは本当に、素直な子だな。
その素直さゆえの暴走だったのかもしれない。
「また暴走気味になったら俺が受け止めてやるよ」
あんな膨大な魔力、なんとかできる可能性があるのは俺ぐらいだろ。
スゥさんの魔法の才能は物凄いようだな。
「! ごめんなさい、もう出てってもらってもいいかしら。えと、治ったら、借りを返しに行くから」
そう言うとスゥさんは、反対側に寝返った。
あぁ、まだ疲れが出てるか。また今度お見舞いにこよう。
「借しだなんて思ってないから大丈夫。ゆっくり休んで治しなよ」
「⋯⋯本当に苦手なのね」
「ん?なにが?」
「なんでもないわ」
スゥさんとの会話って難易度高くないか。
それにしても、思ったよりも元気そうで安心した。
しばらくは学校にもこれないだろう。借りと言えば俺も魔力の扱い方教わったし、返す意味でも、授業のノートとかプリントを届けてやるとするかな。




