14話 プライド
巨大な石像は、俺たちの目の前を塞ぎ、先へ進ませない。
どういうギミックになってるのかはわからんが、魔力を注入すれば通れるようになってる、ってことかな。
正直なところ、俺の魔法ならおそらく破壊して通れるんだろうが、そういう試験じゃないしな。
これは魔力のコントロールが上手くできてるかを見る試験だろう。
俺はイメージで魔法を使ってるから加減を知らない。またとない、いい機会だ、
「準備はいい?まず私があんたに水の魔力をパスするから、あんたは私に火の魔力を渡しなさい。火の方が得意なんでしょ」
そう言うと、レイナードさんの手の上に、ガラスの水晶のような玉が浮かび上がった。
俺の魔力はふわふわしたものだったが、対照的に、淀みのない、綺麗な球体をしている。
「うわ、すごく綺麗だね」
「⋯⋯褒めても許さないわよ」
なにか許されないことしたのか俺は。
全く身に覚えがないから困る。
それはとりあえず置いておくとして、魔力を受け取ったら身体に突っ込めばいいのかな。
ふわっと飛んできた、レイナードさんの魔力をキャッチした俺は、先ほどのお手本のように、胸に当てがってみた。
「おぉ⋯⋯、なんと言うか、レイナードさんを感じる⋯⋯」
妙な感覚だ。俺の中に異物⋯⋯、と言ったら失礼か。いい例えが思いつかないが、もやもやした俺の魔力の中に、力強く、澄んだ魔力が入り込んだ。
「ちょっと! 気持ち悪いこと言わないで!」
俺ってナチュラルにキモいこと言ってんのかな?
レイナードさんにはよく気持ち悪いと言われる気がする。自覚があまりないので許してほしい。
さっきは俺が魔力を込めすぎたようなのでちょっとセーブしないとな、また怒られる。
弱め弱め弱め⋯⋯、これでどうだ。
出来上がった魔力の塊をレイナードさんにパスしてみる。
塊はさっきより小さいし、今度こそ大丈夫だろ。
「じゃあいくわよ⋯⋯、んんっ!? ううぅ、くっ⋯⋯!」
え、またダメ?
「ちょっと! あんたわざと自分の力見せつけてんじゃないでしょうね!」
「ごめん、だけどそれは誤解だ。力の加減がよくわからなくって」
「⋯⋯こんなに大きいの初めてよ」
⋯⋯。
レイナードさんもわざと言ってない?違う?
「よく聞いて!魔力の塊の大小じゃなくて密度の問題なの!相方が私じゃなかったら大事故になるわよこんなの。普通はここまでになんかならないからあんたがおかしいんでしょうけどね」
そんなにやばいことだったのか⋯⋯。
そんなやばい代物を捌ききるレイナードさんも伊達に学年トップを走ってないな。
「ここからが本番よ。今取り込んだ魔力を属性変換させるの。他人の魔力を練り直すのは、魔力コントロールのいい練習になるのよ」
なるほどね。確かに俺の魔力の感じ方と全く違う物を、再変換するのは容易じゃなさそうだ。ただでさえコントロールは苦手なのに。
「簡単なやり方を教えるわ。自分の魔力を少しずつ混ぜながら掻き回すイメージよ。私ぐらいになれば一瞬で⋯⋯。ほらね、ご覧の通りよ」
ドヤ顔で、水属性に変換された、俺の綿毛のような魔力を見せつけてくる。
ふふん、と鼻で笑うレイナードさん。機嫌がよろしいようなので褒めておこう。
「すげぇ、流石レイナードさんだ。よっ、学年トップ」
「もっと心込める努力しなさいよ」
それでもまんざらではない可愛い素ぶりを見せる。
よーし、俺もチャレンジしてみるか。
少しずつ少しずつ自分の魔力を流す、といってもそれが中々難しいんだよな。
ここは試しに、力ずくで押さえ込む感じでやってみたらどうなるか。
「あ、できた」
「は?そんなに焦らないでいいからちゃんと作りなさい⋯⋯、できてる⋯⋯」
レイナードさん(の魔力)を包んで押さえ込む、強引なイメージをしたら、あっさり侵食して、火属性の魔力に変換されてしまった。
「⋯⋯あんた、私をおちょくってる?」
「いやいや、たまたまできたんだって」
「ほんっとにイライラさせるわね⋯⋯」
うーん、俺とレイナードさんは相性最悪だな。
彼女のプライドと負けず嫌いな性格が、俺の能力とミスマッチすぎる。
俺に非はないけど、怒らせてしまったのはしょうがない。波風立てぬよう大人しくしてるか⋯⋯。
♢
無事、石像に魔力を注入すると、石像は真っ二つに割れ、道が開けた。
これ、後で再生すんのかな。俺たちの前のグループがいるわけだし、なんらかの力で元通りになるのか。
そして、第二関門が見えてきた。
そこには、先ほどより遥かに大きい石像が二つ並んでいる。どうやらまたこれをどうにかしなきゃいけないらしいな。
姑息だが、迂回して回れないのかな?と思い、外周を見てみると、底の見えない崖、しかも、霧が深くなっていてまるで雲の海のようだ。
「⋯⋯ここは純粋な破壊の力の試験よ。石像の半分を破壊できれば合格。破壊する前に魔力が尽きれば不合格、そこで試験は終わり」
「へぇ〜わかりやすくていいね」
「⋯⋯」
うっわぁすごいピリピリした空気を肌で感じる。
なんとか機嫌戻さないとだな。意外と木に登るタイプだからおだてる作戦でいくか。
「レイナードさんほどなら全部壊せるんだろうね」
「当たり前じゃない、誰に言ってんのよ」
俺ってけっこう心広いよなぁ。悪態つかれても全然効いてこない。植物みたいな生活してたからだろうか。
「さっさと進むわよこんな所は」
レイナードさんの周辺が赤く発光する。
手元はそれよりも強い光に溢れ、直視するのは厳しい。
とんでもない大魔法を使うんだろうか。
俺も負けてらんないな。
俺は、自己紹介のときに放った火柱の魔法。あれを思い出し、あの時よりさらに強い魔法のイメージをした。
巨像を一撃で破壊するイメージ⋯⋯。
爆発、かな。
くいっと人差し指を上へ曲げる。石像の下に魔方陣が出現し、巨大な火柱が石像を包んだ瞬間、石像の中心から派手な爆発が発生した。
見事に石像は木っ端微塵になり、破片も残さず塵と化した。
「うお、こりゃすごい⋯⋯」
自画自賛である。と同時に使い方を誤らないようにしなければな、と心に刻んだ。
「なによ⋯⋯それ」
レイナードさんが俺を睨む。
それがなにか、と言われてもベストを尽くした結果がこれだったんだ。
「いや、たまたま⋯⋯」
ここで誤魔化していいのか?俺の力はもはやたまたまでは済むレベルではない。
そんな陳腐な言い訳でレイナードさんを宥めることなんてできない。むしろ失礼だろう。
「ぽっと出のあんたができて!私ができないはずがない! いい!? 見てなさい!」
レイナードさんの長い黒髪が、重力に逆らい、天を指す。
周辺の小石、いや、地面ごと浮き始め、亀裂が入った。
「レイナードさん!なんかやばいってそれ!」
「うるさい! さっきから自分が、ホントは優等生なのを隠して姑息なアピールして!私をバカにしないで!私だってそれぐらい⋯⋯うぅっ⋯⋯!できるんだから!!」
レイナードさんの魔力は、暴走したかのように辺りをぐちゃぐちゃに掻き乱す。
そして、石像は大爆発を起こし、その余波で、彼女の足元も破壊した。
「レイナードさん!」
彼女は意識を失ったのか、なんの抵抗もせずに、奈落の底へ落下していく。
俺は、考えるよりも先に、霧の中へと飛び込んだ。




