13話 能力試験
家に家族が増えて、一夜が明けた。
昨晩は頻に俺と寝たがる(文字通りの意味で)ウルを、なんとか姉さんの部屋で寝るよう説得し、事なきを得た。
同い年の女の子が一緒のベッドで寝ようが、俺は手を出す気などさらさらないが、落ち着かないのもまた事実である。
ましてや、無自覚に好意をぶつけてくる純粋極まりない子だからなおさらだ。
休みも明け、今日からまた学校が始まった。
デートの成果は、楽しさはともかくとして、姉さんへのアピールは大失敗に終わったことをリリアさんたちに伝えねばならない。
次回への反省と戒め、そしてまたアドバイスを頂戴し、活かすためである。
教室の扉を開くと、馴染みのメンツはすでに投稿していた。
「おはよう」
「あ、おはよ、アサギリくん! ねぇねぇ、ホントは休みの日デートだったんでしょ?」
やはりリリアさんは率先して聞いてくるな。
そして勘がいい。そりゃ、街のデートスポットの情報を聞けば察するか。
街について色々教えてくれたのは彼女だ。
事前情報なしで行ってもよかったんだが、デート素人がそんなことして微妙な空気を作ったら困るからな。念には念を。
「デートというか、姉と2人で出かけたんだ。リリアさんに聞いたのは、姉も一応女性だし、どういう場所が楽しめるかなと思ってね」
「な〜んだ、お姉さんか。仲いいんだね」
歪んでいるがな。一方的に。
「アサギリくんは、お姉さんを大切にしてるって言ってましたもんね」
「あぁ、なんせ2人しかいない家族だからね」
そういえばユバシリさんにはブラフとして言ってあったな。
そう、たった2人の肉親なんだ、決して不自然ではあるまい。
「お〜い、席につけ〜」
担任教諭の発言で、全員が各自の席に着席した。
「今日は期末の能力試験に向けて模擬訓練をする。運動着に着替えて『ミナシ山道』入り口に集合だ」
能力試験⋯⋯か。どういう内容かはわからんが、あまり心配しないな。なんせ無限の魔力に身体能力の強化で、学校のテストごとき楽々クリアできるだろう。
「えー、試験はペアだ。今から名前を呼ぶから呼ばれた者同士がペアとなる。まずはAペア⋯⋯」
ペアでやるのか?だとしたら相方次第では落とす可能性も出てくるということか。
ペアでやらねばならない理由でもあるのだろうか。
「次、Dペアは〜、アサギリとレイナード。アサギリは転入初日にとんでもない魔法を使ったが、まだ未知数だ。だから魔法の評価が高いレイナード、お前がペアになれ」
「はぁ!?よりによって私なわけ?」
「よろしくね、スゥさん」
「だから名前で呼ばないで」
なんでこんなに嫌われてるのか⋯⋯。
違法行為で魔力ブーストしてないことはス、レイナードさんも納得したはずなのに。
「この試験ってなにするの?」
「⋯⋯山道を歩いてゴールを目指すだけよ。道中には魔法を使って回避しなきゃいけない罠があるんだけどね。魔法の扱いと体力も必須よ、あなたヒョロいけど大丈夫なんでしょうね」
「あ〜俺は大丈夫だよ。それにレイナードさんも細身じゃないか」
「セクハラよ」
なんでだ⋯⋯。女の子って難しい。
♢
山道入り口に集まり、いよいよ試験の予習だ。
今まで適当にしか魔法を使ってなかったから地味にワクワクしている。
「アサギリ、ここに転入するまでにどこまで魔法を習ったかわからんが、基礎中の基礎しかやらんから安心してくれ。わからないことはレイナードに聞けばまぁ大丈夫だろう」
「わかりました」
その基礎中の基礎がどういうものかは記憶にない。
ここに引っ越す前は山奥で最低限の暮らしをしていた、という設定みたいだ。
レイナードさん頼みになるのかな。
前のペアがどんどん進み、いよいよ俺たちの番がきた。
山の入り口からは霧が立ち込めていて視界が悪い。気をつけないとな。
「いくわよ、ついてくるだけで遅れを取らないでね」
「りょーかい」
レイナードさんは俺を置いていかんとばかりに駆け足で山を登っていく。
なるほど、わざと振り切って俺にマウンティングする魂胆か。
負けず嫌いのレイナードさんらしい。
俺にとっては可愛いもんだけどな。
このまま言われるのも癪だし、軽くウォーミングアップといこうか。
スキップで登る、というのはエンターテイメント性もあるんじゃないか。
俺は、スキップでレイナードさんのとこまで距離を詰めた。
「っ!? 余裕そうね。そんなに余裕ぶってると後がきついわよ」
「ありがとう、ペース配分に気をつけるね」
「勘に触るやつね⋯⋯!」
おっと、少し意地が悪かったな。
俺もけっこう負けず嫌いなのかもしれない。
転生してからというもの、自分の新たな一面が垣間見えることが多いな。
転生前は無気力無欲、ただその日を生きているだけの生ける屍だったが、本当の俺は「負けず嫌いの甘えん坊」。
まるで小さい子供みたいだ。
「なにニヤニヤしてんのよ。気持ち悪い」
「いや、生きてるって実感がしてさ」
「⋯⋯頭大丈夫?」
軽口を叩きながら山奥へと進むと、第一関門が現れた。
説明書きがあるな。なになに。
石像へ火属性と水属性の魔力を注入せよ。ただし、お互いで魔力を交換し合い、水属性から火属性、火属性から水属性へと魔力を変換させてから注入すること。
「魔力の交換なんてできんの?」
「は?そんなの魔法を覚える一番最初の段階でやったでしょ。幼稚園レベルよ。この試験で難しいのはむしろ変換のほう。魔力には人それぞれ個性があって、変換するにはコツがいるの」
へ〜、この世界の子供ってすげぇことしてんだな。
俺は小さい頃なにやってたかなんて覚えてすらいないのに。
「あんたまさか本当に知らないの?家庭の事情なら私が悪かったわ。⋯⋯ごめんなさい」
憐れまれてしまった。確かに家庭の事情といえば正しいのだろうけど、世界に差し込まれるにあたって情報を削りきった結果だろうしな。
しかし、レイナードさんは素直だね。風当たり強いけど根は優しい子なんだろう。
「いい?魔力の交換はキャッチボールみたいなものよ。自分の無属性の魔力を放出して相手に渡すだけ。子供に教えるためにはこれが楽しめて簡単なのよ」
なるほどね、遊びの中に教育を混ぜているわけだ。
無属性と言われてもなんとなくでしかできないが⋯⋯。
「こう、かな?」
手のひらからフワフワした綿毛のような魔法が出る。無属性という単語のイメージを膨らませて出してるからこれでいいのかわからない。
「あんた、見かけによらず優しそうな魔力を持ってるのね。それを私に投げなさい」
見かけによらずって、俺はレイナードさんにはどう映ってるんだ。
軽く力を入れて、放ってみる。
それをレイナードさんがキャッチした。
「相手の魔力を受け取ったら自分に混ぜなさい。こうやって」
レイナードさんは、俺から受け取った魔力の塊を、自身の小さい胸の中へと押し込んだ。
俺ばかり言われてるので少し悪意を込めました。聞こえるはずもないが。
「うっ⋯⋯! くぁっ! な、なによこれ、あんた出しすぎよ!」
なにやら勘違いが起きそうな発言をするレイナードさん。出しすぎって魔力をか?
「ごめん、ちょっと込めすぎたかな」
「はぁ、はぁ⋯⋯。大丈夫よ、ちょっと驚いただけ。今のが魔力の受け渡し方。わかったかしら」
どう見ても無理をしている顔なんだが⋯⋯。
次は少し抑え気味にやるか。それに気づいて「手加減したでしょ!」とか言いそう。
「次は魔力の変換なんだけど、それは実際にやりながら教えるわ。そのほうがわかりやすいから」
レイナードさんって意外にも教育係に向いてるんじゃなかろうか。
そして、姉属性を感じる。俺ってそんなに愛情不足だったのかなぁ。




