12話 希望の灯
自分の気持ちを再確認し、ふたたび心に平静が訪れる。
なにがあろうとも決してブレずに、姉さんへの愛を貫き通すのだ。
俺はそう誓った。
「お風呂出たよー!あ、いい匂い!」
入浴を済ませたウルも食卓にあがり、待ちに待った夕食といこうじゃないか。
テーブルに並べられた数々の手料理。
中には俺の好物の豚の生姜焼きのような料理もある。
「似たような材料で作っただけだからレイくんのお口に合うかわからないけど⋯⋯」
いいや、例えこれが何物であっても、美味しいと思えるよ。姉さんの手作りだからね。
ウルもすごいすごいとはしゃいでいる。
「いただきます⋯⋯。さっそく生姜焼きのようなものから食べようか」
「レイ!はい、あーん」
思わず吹き出してしまった。
あんな事があった後に、まさか人目も憚らず攻めてくるとは油断していた。
「あらあら、2人とももう仲良くなったのね」
⋯⋯。
まさかキスまでいってるとは姉さんも思うまい。
流石にそこまでいったなどと報告しようものなら姉さんも心配になるだろう。
ウルはどうやら俺と同じ年齢だし、そんな男女が一つ屋根の下で暮らすのは倫理的によろしくない。
「ウルね、レイのことだいすき!」
「⋯⋯」
「そー、よかったね!お姉ちゃんと一緒だ!」
違うんだ姉さん、彼女の「すき」はそういう意味じゃないんだ。
しかし⋯⋯、隠す気は一切なしか。
このまま放置しておくとすぐにでもバラされるんじゃないか?
ならば先手必勝。温かい家族愛の方面へ持っていく!
「俺も姉さんとウルのことは好きだよ。家族って素晴らしいよね」
「え! レイもウルのことすきなの? じゃあ後でまたちゅーしよ?」
こいつ⋯⋯!平然と爆弾を投下してきやがる!
冷や汗が出てきた。
姉さんのほうを見るのが恐い。
「また、って⋯⋯なに?レイくん。まさかもう⋯⋯」
笑顔が引きつってるよ姉さん。
「話すと長くなりそうだからこれはひとまず置いといてご飯を食べようか。」
「ちょっとレイくん、ソースかけすぎだよ!」
注意散漫になった俺は、ソースで皿の中に湖を作ってしまった。
♢
「姉さん、ちょっと相談が」
夕食の片付けを終え、リビングでくつろいでいた姉さんに話しかける。
もちろん相談というのは例の件だ。
何も言わぬままズルズルと尾を引くよりは、解決の糸口を探したほうがマシだろう。
そして俺は、事の顛末を説明した。
「そっか⋯⋯、ウルちゃんはそんなにレイくんのことを⋯⋯」
「どうしたらいいかな。かといって帰る家がないんじゃ追い出すわけにもいかないし」
「レイくんは⋯⋯、ウルちゃんじゃダメなの?ほら、今は恋愛感情はなくてもお付き合いしていくうちに、とか」
な、何てことを言いだすんだ姉さん。
現実はこうも辛いものか。
「えっと、俺は⋯⋯、好きな相手がいるんだ。だから半端な気持ちでウルの好意を受けることはできない」
姉さんは少し考えている様子だ。
「ウルちゃんはずっと奴隷の生活してて、親にも見放されて、愛情をあまり受けたことがないと思うの。だからうちにきて優しいレイくんに対して感情が溢れたんだろうね⋯⋯。」
そうだ、俺にはわかる。
なぜなら俺も、転生前に女神として抱擁してくれた姉さんに触れたのがきっかけで、今に至っているわけだ。
この気持ちはもはや誰にも止められない。ウルは俺と同じなんだ。
「俺は女の人と付き合ったこともなければ今回みたいに想いを伝えられたのも初めてで、どうしたらいいかわからなくて⋯⋯」
「うーん⋯⋯、恥ずかしい話、お姉ちゃんもそういう関係になった人がいたことないからなぁ、ごめんねアドバイスできなくて」
マ、ママ、マジですか?
俺が初めての男になれる可能性があるってことか?
思いがけない戦果を手に入れた。
明日からがんばろう⋯⋯。
「ウルちゃんにもその、好きな相手がいるってことを伝えるのはもう少し先にしてもらってもいいかな?せっかく解放されて嬉しい気持ちになれてるのにここで水差すのもかわいそうかな⋯⋯って」
確かにそれもそうだ。
しかし、同時にウルの好意を踏みにじるような感じがして気持ちが悪いんだよな⋯⋯。
頃合いをみて早めに伝えるようにするか。
「わかったよ姉さん。はっきりと拒絶はしないようにする」
「うん、ごめんね⋯⋯。あ、でもキ、キスとかその後の⋯⋯、と、とにかくいきすぎちゃダメよ!」
「え?なんですか?キスの後の?」
「絶対わかってるでしょ!レイくんのバカ!」
そばにあったクッションをぶつけられた。
姉さんはけっこう初心なんだな。人のこと言えた限りじゃないか、俺も。
それにしてもまさかこの俺が恋愛沙汰で悩むようになるとは。
人生何があるかわからんもんだ。
自分の部屋へ戻った俺は、ベッドに腰をかけ、指先からライターのように火の魔法を出し、ゆらゆら揺れるそれを眺めた。
みんな思い通りにいく人生なんてないだろう。
この火のように心を揺らしながら、悩んで考えて、それで灯りを灯していくんだ。
俺は面倒ごとを避けてばかりだったけど、少しは変われてきてるのかな⋯⋯。
バタンと勢いよく扉が開いた。
「レイー!一緒に寝よ!」
やれやれ、予想通りの展開だ。あいにくだが今の俺は真剣に人生について考えているんでな、悪いが拒否させてもらうぜ。
「ダメだ、姉さんのところへ行け」
「やだぁ、レイと一緒がいい〜」
少なくともこいつの灯りにはなれてるのだろうか⋯⋯。
ん? 四つん這いになっているウルの、シャツの首元からは、人生で一度も見たことのない二つの膨らみが丸見えになっている。
「⋯⋯ちょ、おま!下着はどうした!」
「え〜、いつも着けてなかったからめんどくさくて。レイのえっち」
これから先が不安でしょうがない。と、スカしてる余裕もなく、慌てて布団に潜り込んだ。
ウル編、終わり⋯⋯!




